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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
四年生
121/300

人魂少女とブラッドヴァンパイア



 彼女の話をしよう。

 極東からの留学生で、遺伝で常に周囲に三つの人魂が浮いていて、マイペース。

 これは、そんな彼女の物語。





 談話室のソファに座りながら、ペラリとページを捲る。

 今日読んでいるのは同人誌であり、とある小説のキャラクター達が全力で遊ぶという二次創作作品だ。

 こういうのは意外と現地の遊び方や話し方、テンションなどがわかるので素晴らしい。


 ……五十年後くらいになったら、当時を知る為にって色々調べられそうですわよねー。


 異世界である地球ではかつての現地人の日記を紐解いて日常を丸裸にするコトで当時の暮らしを知ったりしていたらしいので、あり得そうだ。

 まあアンノウンワールドの場合はそもそも何百年も前から生きている不老不死勢が居たりするので、どっちかというとそういうヒトに詳しい話を聞くコトが多いようだが。

 そう思いつつページを捲っていると、視界の端から凄い勢いで人魂が近付いてきた。



「ジョッゼーーー!」


「グエッ」



 こっちへ突撃してきているのがわかっていたので受け止めは出来たものの、ソファの上だったせいで衝撃を流しきれなかった。

 コレで自分が立っていればくるくる回るなりして衝撃を無くしていたのだが。



「マイヤ、アナタ……いきなり突撃してくるのは止めてって言ったじゃありませんの」


「にゃはー、ごめんにゃジョゼー」



 鮮やかな青緑色の髪を揺らしながら、マイヤはにへらとした笑みを浮かべてそう言った。

 ちなみににゃーにゃー言っているが彼女は別に猫系魔物との混血では無く、ただの口癖である。



「それよりねん?さっき王都に出て適当に歩いてたら、噂の占い師に声を掛けられて占ってもらっちゃったにゃー!」



 キャーキャーと、というよりはにゃーにゃーと言いながらマイヤはヒトの膝の上に座ってくねくね揺れた。

 動きに反応して混血故の遺伝で常にマイヤの周囲に浮いている三つの人魂が自分の顔ギリギリをかすめてくるので正直あまり動かないで欲しい。


 ……ああ、でもコレ、人魂ではないんでしたわね。


 本人曰く、コレは人魂では無く単純に魔力の塊らしい。

 極東のゴーストはコレを魔力で構築するコトで魔力をストックしておくらしく、演出にも良し、いざという時に使用するも良し、なんだとか。


 ……まあその分、コレ潰されるとかなりの魔力ストックが無くなるというコトでもあるからかなりの弱点でもあるそうですけれど。


 だがマイヤは極東ゴーストを親に持つものの、遺伝したのはこの人魂くらいである。

 肉体と魂のバランスが合っていなかったせいで死に掛けのような虚弱体質だったマドリーンを思い返すと、遺伝したのが人魂で良かったな、と思う。


 ……マドリーンは今でこそ寄生の魔眼のお陰で大分健康的になりましたけれど、当時は本当にいつ死んでもおかしくないレベルでしたものねー……。



「……ジョゼ、聞いてるかにゃ?」


「あーハイハイ聞いてますわよ。噂の占い師に占ってもらったんでしょう?ソレはわかったし話も聞きますから、一旦降りてくださいな」


「いやー、ジョゼの膝の上って凄くリラックスするんにゃよねん。コレは行列が出来るレベル」


「出来ませんわ」



 確かにやたら膝枕を頼まれるコトはあるが、別にそうでもないハズだ。

 どっちかというと天使特有の悩みを受け止めてくれる感目当てだと思われる。


 ……というか、わたくしの太ももにはナイフと鞭が隠してあるので膝枕とかはあまり向いてないと思うんですけれど。


 一応膝枕などの邪魔にならないよう、というか相手が怪我をしないよう隠す位置には気を付けているがソレはソレ。

 だからといって膝の大安売りをした覚えはない。


 ……アンノウンワールド的に考えると、膝の大安売りとか人肉バーゲンにしか聞こえませんわねー……。



「……ハァ、まあ仕方ないから膝の上に居座るのは受け入れましょう」


「やったにゃー!」


「で、占いがどうしたんですの?」


「そうそう、占い師にゃんにゃけどねん!」



 興奮しているのか「にゃ」が多い。



「運命の相手と出会う日がもうすぐだって言われたにゃん!」


「へー」


「反応がクール過ぎじゃにゃい?」


「周囲がやたらとパートナー成立する中独り身を維持してんですのよこっちは。したくもない維持を」


「ドンマイ」



 その凄まじく同情した表情はこちらのメンタルを一番抉るとわかっているのだろうか。



「ん、でも運命のヒトでは無く相手、というコトは魔物の可能性が高いですわね」


「あー、私もそう思ってたんにゃよねん」


「ちなみに運命の相手の特徴などは聞けましたの?」


「運命は血の香りと共にやってくるって言われたにゃん!」


「ワオ」



 物騒。

 いや、魔物によっては鉄の香りを纏っている魔物も居るし、血で構築されている魔物も居るし、人肉を主食とする魔物も居るのでワリとベターではあるが。


 ……改めて、料理として提供される人肉はセーフで、料理として提供されていない人肉を食ったらアウト、って相当ですわよね。


 人間的に考えるなら売り物と売り物じゃないモノ、という感じであり、売り物でないモノを強奪したとなればそりゃ罪人扱いにもなるだろうが。

 異世界である地球的な思考で考えると、人肉が豚肉などと同じレベルなのは不思議な感じだ。



「……ま、害魔で無いコトを祈るだけですわね」


「にゃねん」


「ちなみにマイヤ的には血の香りがしててもオッケーですの?」


「私?害魔でさえにゃければオッケーにゃん。極東ゴーストの娘だから霊体だろうがにゃんだろうが別に良いしねん」


「成る程」



 噂の占い師はパートナーに関する占いが殆どだそうだが、その殆どが当たっている。

 恐らく未来視系の魔眼、または能力を有しているのだろう。


 ……代金、不要らしいですしね。


 占い師なら代金を必要とするハズだが、その占い師は道行くヒトに声を掛けてパートナーに関してを占い、消えるらしい。

 ボランティアだから神出鬼没なのではと言われていたりもするが、わからないコトだらけな相手だ。



「占い師のお婆さんにはアナタからすれば思っているよりも早いだろうけど、あっちは長いコト待っているって言われたんにゃよねん」


「会うのが、ってコトでしょうか」


「かもしれにゃいにゃー」


「……というか、噂の占い師ってお婆さんだったんですの?」


「んにゃー……正直お婆さんだったり幼女だったりお姉さんだったりマダムだったり……どれが正解かわかんにゃかったにゃー。多分性別が女なのは確かにゃにゃん」


「ふぅん……」



 友人がマイヤを含めて何人かその占い師に占ってもらっているようなので、その内会ってみたいものだ。

 そして是非とも占ってもらって、パートナーをゲットしたい。





 すっかり日が暮れてしまったなと思いつつ中庭を歩く。

 今日は太陽の女神が早寝でもしたのか、日が暮れるのが早かった。



「……あら、マイヤ?」


「んにゃ?ジョゼ?どうかしたのん?こんな時間に中庭歩いてるにゃんて」


「アナタこそ、どうかしたんですの?」


「昼にペン落っことしちゃったから探してたトコだにゃん。私にゃらこの光源もあるしってにゃん」



 そう言ってマイヤは手に持ったペンを見せたので、どうやら既に探し物は見つかったらしい。



「ジョゼはどうしたのかにゃ?」


「図書室で本棚整理を手伝わされて……どうにか仕事は終わらせたんですけれど、ランヴァルド司書の声に腰がやられたせいで中々立てず……」


「ウワア」


「ようやく立って歩けるくらいに回復したので、こうして食堂で簡易夕食を貰って自室に戻る途中なんですの」


「だからおべんと持ってたんにゃねん……」



 そう、持たされた小さいバスケットの中には夕食の余りであるハンバーグやらパスタやらを片っ端からサンドしたという多種多様サンドイッチと、ガスパチョ入りの水筒が入っている。

 何故ガスパチョなのかというと、冷えても問題無い、というか最初から冷えているからだろう。


 ……あと多分丁度余ってたから、でしょうね。


 美味しいから良いが。



「夕食くいっぱぐれてまでお手伝いとは、ジョゼも大変にゃねんねー」


「好きでくいっぱぐれたワケじゃありませんのよー……」



 単純に断り切れず、図書室の本棚が多過ぎ、そしてランヴァルド司書の低音ボイスによってちょいちょい腰が砕けた結果だ。

 あのヒトは他人が自分の声に腰砕けになるのをちょいちょい楽しんでいるから困ってしまう。



「……ん?」



 そう思いつつマイヤと会話しながら中等部へと歩いていると、濃い血の香りがした。

 直後、目の前に血で構築されたコウモリの魔物の群れが出現したので、マイヤの首根っこをガッと掴んでソコに突っ込むのを阻止する。



「ぎにゃっ!?」


「前」


「うにゃにゃっ!?エ、コウモリ!?っていうか血の匂い凄っ!?」



 首根っこを掴まれたまま、自分がこうして止めなかったら血で構築されたコウモリの中に突っ込んでいたかもしれないと気付いたらしいマイヤは驚いたように自分の服の裾を掴んできた。



「にゃにアレ、にゃにアレ!?血液コウモリとかそういうアレ!?」


「んー、いえアレは多分コウモリではなく……」



 マイヤの首根っこから手を離して相手をじっと()ていると、血で構築されたコウモリは一か所に集まり、そのコウモリの姿を崩した血液はヒト型へと変化した。



「……ああ、ああ」



 血液で構築されている為真っ赤な肌、真っ赤な髪、そして真っ赤な睫毛を震わせながら、ソレは真っ赤な瞳を現した。



「…………彼は多分、血で出来ている吸血鬼、ブラッドヴァンパイアですわねー……」


「ブラヴァン?」


「略すと最悪別の魔物名になるコトがあるので長くても正式名称で呼ぶのをオススメしますわー」



 突然のブラッドヴァンパイア出現による緊張感がどっかへ行ってしまった。



「……周囲に三つの揺らぐ炎」


「?」


「やっと見つけるコトが出来ました」



 血液で構築されているからか、ブラッドヴァンパイアはしっとりと笑いながらマイヤを見た。

 どうやら自分のコトは視界にすら入れていないらしい。


 ……まあよくあるコトですし、面倒事が無いならソレで良いでしょう。


 この距離で悪っぽいなと感じないなら悪ではないだろうし、大丈夫だろう。



「ずっと、ずっと待っていました……遠く遠くの未来にしか生まれないと言われても、それでも。アナタという運命に出会う為、私は今日まで生存してみせた」


「……運命?」


「ええ」



 ブラッドヴァンパイアは真っ赤であってもわかるくらいの笑みを浮かべる。



「生前、占い師が教えてくれた運命の相手は、アナタに違いない」



 彼の言葉に、マイヤと顔を見合わせる。

 そして先日マイヤが占ってもらったと言っていた占い結果では運命の相手が血の香りと共にやってくるとか。

 うっすらとこの魔物を占ったらしい占い師って同一人物なんじゃという発想が出てきたが、まあそうであったとしても問題は無いので別に良い。


 ……重要なのは運命の相手、ってトコですわよね。


 例えば男に運命の相手である女が居たとして、そうなるとその運命の相手である女の運命の相手が誰かというと、やはりその男になるのだ。

 パズルのピースはピッタリとハマるモノ同士でないとハマらないように、ルービックキューブは色を一致させないとクリアしたとは言えないように。

 つまりはそういうコトだろうなとアイコンタクトでの意見が一致したのがわかった。



「よし、ブラッドヴァンパイアだったかにゃん?ちょっとこっち」


「ハイ?」



 自分の服の裾から手を離したマイヤは、さらっとブラッドヴァンパイアの手を取ってベンチに座らせ、直後その横に腰を下ろしていた。

 自分は二人の会話が聞こえるすぐ近くのベンチに座る。


 ……いえ、既に蚊帳の外みたいな状態なのに、わざわざ疎外感感じる位置に行きたくはありませんのよね。


 この行動はより疎外感を強めるかどうか不明だが、少なくとも三人組の中ぼっちよりは最初から二人組と一人に分かれていた方がメンタル的には安心感があると思う。



「で、占い師の占い結果について詳しく聞かせて欲しいにゃん」


「はあ、運命の相手であるアナタが言うのであれば幾らでも語りますが」



 ……ナンか、ぽやんとした個体っぽいですわねー彼。


 マイヤの言葉に、ブラッドヴァンパイアは首を傾げながらそう言った。

 ブラッドヴァンパイアはパターンが二種類あるのだが、生前と言っていたコトとこのぽやんとした雰囲気から察するに人間から吸血鬼化したのだろう。



「アナタじゃにゃくて、マイヤだにゃん」


「わかりました、マイヤ。私の方は……まず私は生前普通の人間だったのですが、少々昔過ぎるのと生き血は吸わないようにという意識が強くて名前を憶えていないので、普通に種族名で読んでください」


「了解にゃん」


「では占いに関してですが……生前、とある不思議な占い師に出会いまして。その占い師は「お前の運命は周囲に三つの揺らぐ炎を従えている」と」


「私っぽいにゃー」



 その言葉に反応するように、マイヤの周囲で光源状態になっている人魂がゆらりと揺れた。



「「ただし生き血を吸えばその運命は失われる為、自制心を強く持つように」とも言われました」


「んん、そういえばブラッドヴァンパイアってコトは、要するに吸血鬼にゃんにゃねんね?」


「にゃ、にゃんにゃ……?」



 ブラッドヴァンパイアはマイヤの語尾に困惑しているようだが、彼女はちょいちょい「にゃ」が渋滞を起こすので深く気にしてはいけない。



「ええと、そうですね。私は現在吸血鬼となっていますが……生前はただの人間でした。そして吸血鬼になってから、私はアナタという運命に出会いたい一心で生き血を吸わずに生きてきたのです」


「……ジョゼ、コレってどのくらい凄いコトかにゃん?」


「そうですわねー」



 二人とは別のベンチに座りながらパスタサンドを頬張りつつ、その問いに答える。



「基本的にヒトから吸血鬼になる際って吸血衝動が凄いんですのよね。なのでまあ……食用系魔物が「私を食べて!」って言わないよう我慢する並みですわ」


「めちゃくちゃ頑張ってた!?」


「???」



 自分の答えを聞いたマイヤは驚愕しながら思わずといった様子でブラッドヴァンパイアの頭をわしゃわしゃっと撫でていた。

 いや、液体だからかぱちゃぱちゃっという感じだが。


 ……まあ、自分に会う為にソコまでしてくれたんだと思うとそりゃそのくらいしたくなりますわよねー。


 頭を撫でられているブラッドヴァンパイア本魔は実に不思議そうだが。



「……でも、どうして吸血鬼化で血液の吸血鬼ににゃったのん?」


「そうですね……占いを受けた時はそもそも人間だったので、生き血は吸わないだろうなと思っていたのですが……まあその、吸血鬼に殺られまして」


「ワオ」


「ただ信心深い家でしたし、私も神を信じる身。吸血鬼に身を落とすなどしたくはないだろうと親族によって死体を処分されました」



 死体から吸血鬼化するコトがあるので、キッチリと死体を処分するのはベターな方法だ。



「ですが血が残っていたらしくて……そこから吸血鬼化したらしく、血液で構築されたブラッドヴァンパイアに」


「ちなみにヴラッドヴァンパイアは彼のように死体は無くとも血液が残っていたせいで吸血鬼化したパターンと、普通の吸血鬼が肉体を消滅させられたけど執念で血液だけになろうとも生きようとした結果、という二種類のパターンがありますの」


「前者タイプかー」


「ただし血液で構築されている分、ブラッドヴァンパイアは普通の吸血鬼よりも吸血衝動は強力だと聞きますわ。自分を構築している要素なワケですし」


「え、ソレで生き血も吸わずに生きれるもんにゃのん?」


「普通は無理のハズですけれど……」



 生きているだけで消耗はする。

 放置していた水が蒸発するようなものなので、定期的な補充は必要なハズだ。

 そもそも肉体を構築出来るだけの血液を補充しようとする本能もあるハズだし。


 ……吸血鬼化した際は残っていた血液から再生、ですからボディを構築するのに足りず、大半はある程度の血液を確保するまで知能が皆無のハズなんですけれど。



「私はその……占い師に言われたコトがずっと頭に残っていましたから」



 ブラッドヴァンパイアはへにゃりと微笑みながらそう語る。



「吸血鬼に襲われた時、生き血を吸えば運命が失われると言われたのはコレか、と思いました。恐らく吸血鬼化してしまい、ヒトを襲う害魔となり、運命と出会う前に始末されるのだろうな、と」



 確かに害魔認定されていなければスルーだが、害魔認定されればソッコで仕留められるだろう。



「ですからヒトを襲いそうになっても「運命と出会いたい」という一心で己を律し、戦争跡地や処刑場などを巡ってこっそり地面に染み込んでいる血などを吸収させてもらい、今まで生き延びてきたのです」


「私に会う為だけにめちゃくちゃ大変にゃコトしてるにゃあ……」


「あとコレならセーフだろうと思い、物理攻撃無効であるこの液体ボディを活かして害魔を討伐してその血をいただいたりしてました」


「ジョゼ、それってセーフ判定になるのかにゃん?」


「ヒトや魔物に進行形で害を及ぼしているような害魔であればセーフ判定ですわね。

まだ害を及ぼしてないのであれば悪の子は悪だろうというアホみたいな理論を振りかざしているだけなのでアウトの可能性がありますけれど、少なくともわたくしが真顔で凝視していないのでセーフ判定なのでしょう」


「信用度凄い判断基準だにゃー……」



 マイヤの言葉に、我ながらそう思うと内心同意しつつモヤシ炒めのサンドを食べる。

 コレは味が濃い目なのかパンがソレを和らげてくれていて実に美味。



「んでも、ソコまでして私に会おうとしてくれたんにゃねん」


「ハイ」



 ブラッドヴァンパイアは微笑みながら即答し、マイヤの手を恭しく取った。



「私はずっと、想っていましたから。運命の相手を……そして、その運命との出会いを」


「にゃっ……」


「ソレを頼りに、ソレだけを頼りに、長い時間を生き延びました。害魔にならないようにと己を律しながら、そう、アナタを……マイヤと出会うというコトだけを頼りにして、私はここまで、これまで、やってきたのです……」


「にゃにゃにゃにゃにゃ、照れるにゃんにゃねんねー……」


「にゃんね……?」



 キスをしそうな程の距離に、マイヤは顔を真っ赤にしていた。

 そしてマイヤのこんがらがった語尾に、ブラッドヴァンパイアは不思議そうに首を傾げた。


 ……いやー、本気でキスするかと思いましたわー。


 水筒からガスパチョを飲みながらそう思う。

 そして最後の一滴を飲み干し、サンドイッチが無くなったバスケットに水筒を入れて自分は立ち上がった。



「とりあえず、ブラッドヴァンパイアの方からの好感度は既に高いみたいですし、マイヤはマイヤでソコまで見ず知らずの自分を想ってくれていたのが嬉しいようですし」


「んにゃ!?ジョゼ、ヒトの内心を暴露するのは如何なモノかと思うよん!?というか武士の情けでソコは言わにゃいで欲しかったにゃん!」


「わたくし武士じゃありませんもの」



 天使の娘であり貴族の娘だ。

 少なくとも武士要素は皆無だし、強いてピックアップしても戦闘系という部分しかない。



「まあとにかくですね?お二人共問題は起きなさそうですし、消灯時間も近付いてますの。今日のトコロは一緒に自室に戻って、細かい話は今晩か明日にでもしなさいな」


「ありゃ、もうこんな時間だったのかにゃん……」



 中庭にある時計を見たマイヤは、思った以上に経過している時計の針に引き攣った笑みを浮かべていた。





 コレはその後の話になるが、ブラッドヴァンパイアは長年待っていた運命に出会えたからか、マイヤにべったりくっつくようになった。

 というか最早血液で構築されたコートかと思うレベルだ。



「……今日もまたくっついてるんですのねー」


「にゃはははー」



 ブラッドヴァンパイアの腹に腕を貫通させながらブラッドヴァンパイアの背中を撫でているマイヤはへらへらと笑った。



「まあ私からすると運命の相手との時代差が酷いせいであって私のせいじゃにゃいから、長年待たせたのを謝る気はにゃいんだけどねん?

長年待たせたっていう事実に変わりはにゃいから、まーブラッドヴァンパイアが望むコトは多少ならしてあげようかにゃーって」


「その結果が腹に腕を貫通させるという行為ですの?」


「いや、コレはにゃんかブラッドヴァンパイアが、内部でも熱を感じたいとかにゃんとか」



 性癖だろうか。



「ソレにしても、ブラッドヴァンパイアは日の下に出ても平気とは思わなかったにゃん」


「ああ、吸血鬼は基本的に太陽を苦手としていますものね」


「私も最初は太陽に当たれば消えると思っていたのですが……」



 マイヤに頭を撫でられながら日向ぼっこする猫のように懐いていたブラッドヴァンパイアが口を開いた。



「日の光を嫌悪するような感覚も無いので、試しに腕を太陽の光に当ててみればまったく問題が無く……。どうやらブラッドヴァンパイアは、吸血鬼というよりも血液としての特徴が強いようですね」


「だからこそ血液を必要な量確保出来てない時は血の詰まった袋であるヒトを襲って血液を確保しようとするハズなんですけれど……多分生来の性格とその本能が合わなくて、生来の性格の方が勝ったんだと思いますわ」


「どゆコトかにゃ?」


「平和主義が主導権バトルで勝ったって考えれば大体合ってますの」


「め、めちゃくちゃ雑な纏め方したねん……」



 自分の雑な結論に、マイヤは口角を引き攣らせながら苦笑した。




マイヤ

名前は漢字で書くと真依矢。

極東ゴーストらしく人魂(魔力の塊)が周囲に浮いているのだが、口調が口調なのでよく猫系混血と勘違いされる。


ブラッドヴァンパイア

血液で構築されている真っ赤な吸血鬼だが、吸血衝動を抑え込んでいるのでほぼ血液で構築されてるヒト型の魔物。

運命に出会う為にとても長い時間頑張って生き抜いたり、欲望に打ち勝ったりなど、作品によっては主人公になれるだろうメンタル。


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