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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
四年生
120/300

スケルトン少年とワイズマンローズ



 彼の話をしよう。

 遺伝で頭部以外の上半身が骨で、よく寝ていて、植物の世話が好きな。

 これは、そんな彼の物語。





 中庭のベンチに座り、本を読む。

 今日読んでいるのはゴーストによって発生した実録恐怖体験が百話載っているという本だ。

 読み終わった時、百話全部に恐怖を抱いたりしていれば心霊現象に出会うとかナンとかという本でもある。


 ……でも正直、無理そうですわねー。


 既に半分程読み終えたが、まったく怖がれない。

 周囲にゴーストをパートナーにしているヒトが結構居るし視界にもよく入ってくるせいでゴースト慣れしている分、恐怖度が減ってしまっている。

 一体どういう心霊現象があるのだろうかとちょっぴり楽しみにしていたが残念だ。

 というか怖がる以前に寧ろ少しだけ笑ってしまったくらいである。


 ……ゴーストがその辺に居るわたくしからすると、あーあるある、って感じなんですのよね。


 知識面で役立つかとも思ったが、こうして読むとそうでもないらしくて実に残念。



「なんじゃあ、おまん」


「?」



 そんなコトを考えながらページを捲っていたら、すぐ近くのベンチからそんな声が聞こえた。



「うー……誰が世話してやっちょる思うとるんじゃおまんら。雑草抜いて肥料やって水やって枯れた部分やら見栄えが悪くなる部分やら剪定したりっちゅう世話しとるんは儂やぞ」


「……わあ」



 見れば、セザールがベンチの上で横になって寝ていた。

 声がハッキリしているし寝言とは思えない声量なので起きているかと思ったが、萌葱色の髪がベンチの上でぐしゃぐしゃになっているトコロを見ると、本気で眠っているらしい。


 ……いえまあ、髪を見なくてもじっと()れば本気で寝てるかどうかくらいはわかりますけれどね。



「待て待て、じゃから儂は雑草やのうて……ぶ、ぶばっ!?水、水掛けるんはやめえ!ハァ!?土に埋めるぅ!?確かに儂は頭部以外の上半身が骨で出来とうが肥料とはちが、ちょ、やめ、やめ!」



 ベンチの上で仰向けになりながら、夢の中で溺れてでもいるのかセザールはバタバタ暴れていた。

 ソレだけ暴れてもベンチから落ちないのは意外かつ凄いなとは思うが、どうも魘されているようなので起こした方が良さそうだ。



「セザール、セザールー?」


「う、うう、水ぶっ掛けられたせいで土がぬかるんで逃げられんちや……!」



 骨の上半身なので胸元に手を置いて揺らすと、制服のすぐ下にある骨の感触がかなりダイレクトに伝わってくる。

 遺伝でこういったボディなのはわかるが、セザールは普通に食事も取るのにあの摂取した食事はドコに消えているのやら。


 ……セザール、内臓がありませんのに。


 しかし水を飲んでもごはんを食べても骨の内側からボロリするコトは無いので、空間が捻じれてでもいるんだろうか。

 前に肋骨の間に指を突っ込ませてもらった結果上半身の骨部分はそう見えるのではなくマジに骨だというコトがわかったのだが、本当にどうなっているのか不思議な体だ。


 ……まあ、アンノウンワールドだと考えるとデフォルトな気がしてきますけれどね。


 いつでも未知が隣人ポジション、ソレがアンノウンワールドである。



「セザール、起きなさいな」


「やめ、やめ、土掛けるんは止め、儂半分くらい骨やき普通より早い速度で肥料になってまいかねん!」


「半分くらい骨というか、肉がヒトの半分というのが正確な気がしますわ」


「ま、ま、ま……まーーーー!」


「ウワッ」



 セザールが叫びながら上半身を跳ねさせたので、頭突きにならないようサッと避ける。

 あのスピードで額トゥー額は勘弁だ。


 ……というか多分待てって叫びたかったんでしょうけど、悪夢が相当クライマックスだったのでしょうか。



「……あん?花壇は?儂は確か花達に雑草と思いこまれて葉っぱではたかれるわ水を掛けられるわ肥料として土に埋められかけたりしちょったハズ……ん?ジョゼフィーヌ?」


「ハァイ、セザール。アナタ魘されてましたわよ」


「あー……夢じゃったんか。はー怖かった、まっこと夢で良かった」



 ふぅ、とセザールは安堵したように息を吐きながら汗の浮いた額を袖で拭った。



「もー、ジョゼフィーヌ儂が見た夢の話聞いてくれんか?しょうまっこと怖かったき」


「大体聞きましたけれど……」


「そう言わんと!改めて色々整理した上で吐き出さんと花壇の世話出来んかもしれんじゃろうが!」


「えー」



 そんなに怖かったのかと思いつつ、起き上がったセザールの隣に座る。

 確かに夢の中だとそんなに怖く無さそうな内容でも恐怖感だけやたらリアルで、怖かったという部分だけがピックアップされておかしなトラウマになるというのはわからなくもないからだ。



「で、どんな夢でしたの?」


「儂が人差し指サイズにまで小っこくなって花に雑草と思われて疎外感しか感じん夢」


「……以上?」


「以上じゃな」


「ではわたくし本読みますので」


「なんじゃジョゼフィーヌ冷たくないがか!?」



 トラウマになるレベルの悪夢だったのかと心配したら一行で済むような内容だったのだからこういう反応にもなるだろう。



「じゃあ一緒に読みます?」


「その本、ペルハイネン語やないきに儂は読めん」


「音読しますわよ」


「……内容は?」


「ゴーストにより実際に発生した恐怖体験、百話。ちなみに読んで恐怖を抱くと心霊現象にハローするそうですわ」


「おまんなんちゅう恐ろしいモンを読んどるがか!?」


「親がスケルトンなアナタが言いますの?」



 スケルトンはアンデッド系であり、ゴーストでは無くとも広義的に見ればアンデッド系の仲間だろうに。



「儂の親はスケルトンであり白骨!つまり死体!死体から切り離されとるゴーストとは根本的にちゃうんじゃ!ゾンビとかの死体ならともかく、ボディ無しなゴーストと一緒にしいなや!」


「同じアンデッド系でしょうに」


「同じ神の使いっちゅーても天使とワルキューレと死神と獄卒じゃそれぞれ違うんやないんか!?」


「あ、あー……そういうアレ……」



 つまり哺乳類でも馬と豚と犬は違うみたいな。



「あと儂、というかスケルトンであるオトンもそうじゃけど、ゴースト見えんきの」


「そうなんですの?」


「そりゃ魔眼持ちでも無いきに当然じゃろ。儂ただ上半身が頭部除いて骨なだけであってオトン以上にアンデッドと関わり無いんじゃぞ」


「そう言われるとそうですわね……」



 スケルトンならまだ生き物の死後、残った骨が魔物化した結果だったりする。

 なので骨が意識を持ったパターンと生前の記憶がそのままINしたパターンとあったりするのだが、どっちにしろボディ依存な存在なのでゴーストが()えるようになる、とかは無い。

 ゴーストの場合は魂依存な存在なので同じゴーストが()えたり他人の魂が()えたりはするが、しかし物質的なモノに触れるコトが出来なかったりする。


 ……まあ要するに、肉体か魂かどっちにすーるーのーってアレですわよね。


 異世界の自分曰く、異世界である地球にはそんな感じの歌詞があるらしい。

 うろ覚えなのかこういう音程だったっぽいな程度しかわからないが。



「…………アッ」


「ア?」



 セザールが突然、ヤベェという引き攣った笑みを浮かべながら学園の裏手にある森を見る。



「忘れとった」


「ナニをですの?」


「ケイト先生に森で植物採取して欲しいっちゅうて頼まれとったんを」


「あらら」


「……ジョゼフィーヌ」


「わたくしは頼まれてないので行きませんわ。普段わたくしがそういうのやってんですからたまにはやりなさいな。あとわたくしだって基本一人でやってんですのよ」


「急に早口になりぃな。驚くじゃろ」



 早口になるくらい許されるであろう主張だと思うのだが。



「でも頼まれたんは見分けが難しい植物での」


「アナタ植物の成績良いんですからイケますわよ」


「……そう言われたらもう誘うネタがのうなるじゃろうが」


「はっや」



 もう少し粘れるだろうに。

 いや粘られても困るし断る気しかないが。



「あー、まあ、頼まれたのは儂じゃし仕方がないのう……」



 ハァ、と溜め息を吐きつつセザールは骨の指で頭を掻いた。



「んじゃ、ちっくと行ってくる。普段あんま行かんトコやき、儂が帰ってこんかったら慣れんトコ行って迷子になったんかもしれんっちゅうて管理人に捜索頼めるか?」


「ハイハイ、場合によっちゃわたくしも同行して迎えに行くと思いますけれど、まず大前提として迷子にならないのを祈っておきますわ」


「おう、そりゃあ助かる」



 セザールはニッとした笑みを浮かべる。



「天使の祈りっちゅうんは自分用じゃと効き目が無いらしいが、他人用じゃと効き目がこじゃんとあるらしいきのう」



 ……わたくしとしては、自分用の祈りでも効果があって欲しいんですけれど、ね……。





 あの後セザールは普通に帰ってきたようなので捜索を頼まずに済んだと安心していた翌日、自室でのんびり紅茶とクッキーを満喫していたらセザールが部屋にやってきた。

 しかも鉢植えに植えられたバラの魔物を抱えて、だ。


 ……ヨウコが丁度外出中で良かった、と言うべきでしょうか。


 ルームメイトであるヨウコはシルバーカトラリーがパートナーになってから、泰西の魔物への警戒が多少落ち着いたのかよく外出するようになった。

 今までは談話室や図書室、食堂や屋上で時間を潰すコトが多かったので良いコトだ。



「……で、ナンの用なんですの?」


「ああ、彼女ナンじゃが」



 そう言ってセザールはバラの魔物が植えられた鉢植えをテーブルに置いた。



「彼女、ワイズマンローズと言うらしゅうてな」


「初めまして」


「ああ、コレはどうもご丁寧に。初めまして、ジョゼフィーヌ・エメラルドですわ」



 ペコリと頭を下げて挨拶をしてから、で、と再びセザールへ視線を向ける。



「で、ナンの用なんですの?」


「儂昨日実は迷子になったんじゃ」



 ……あ、マジで迷子にはなってたんですのね……。



「ソコでどういたもんか、コレはもう夜中になるまで帰れんかもしれんな、とか考えながら適当なトコに座っとった。下手に動いてもっと迷子になるんはごめんじゃったし、いつ管理人が通るかわからんきのう」


「まあ、ですわね」


「そいたら彼女が声を掛けてくれてな」


「「あーこりゃ今日中に帰れるかどうかわからんのう」「害魔とかおらんじゃろな、儂骨煎餅と間違われて食われとうないきに」とか言ってたから、せめて話し相手くらいにはなろうと思って」


「ワイズマンローズ、儂ソレ暴露されるんはちっくと恥ずかしいき言わんといて欲しかったちや」



 そう言うセザールの顔は恥ずかしさからか赤く染まっていた。



「あー、まあ、そんでな?話し相手になってくれたワイズマンローズがそりゃあもう色んなコトに詳しゅうての。

もしかしたら帰り道も知っとるんやないがか思うて聞いたら、枯れた葉を取り除いてくれたら教えちくるるって言うたきそん通りにしたら」


「無事帰れた、と」


「おん。ただ道っちゅうか、行きたいトコへの道を示す魔法?ちゅうんを教えてくれてにゃあ。そんで道がわかったき帰ろう思っとったら、寂しそうな声で「折角色々と話せたのに残念だわ」なーんて言うたから」


「……アナタ、標準語も一応喋れたんですのね」


「おまん、ソレ今指摘するトコやなかろ」



 セザールはナンとも言えない表情でこちらをじっと見た。



「一応標準語も喋れるちや。ただちっくと標準語覚える時に違うんも吸収したんか時々違う方言混じるようになってしもうたがの」


「あー」



 通りで時々訛ってるは訛ってるけどうーん?みたいな感じの口調になるワケだ。

 まあ自分も時々異世界の自分の影響による不思議な言動や訛りが言動に現れる時があるので、よくあるよくある。



「ほんでこう、ワイズマンローズが寂しそうやったき周辺の土ごとこう、わさっと抉って一緒に学園まで帰ってきて鉢植えに植えたんじゃが」


「ソレ魔物相手でも普通に誘拐じゃありませんこと?」


「いいえ、ちゃんと私に了解を取ってくれたから誘拐ではないわ」


「あ、そうなんですの?」


「ええ」



 ワイズマンローズ本魔が言うならそうなんだろう。



「ただ儂はワイズマンローズについては詳しゅうない。やき本魔に色々聞こうとしても」


「タダで教えるのは性質的に不可能なのよね。私の世話をするという対価がないと」


「こう言うてくるんじゃ」


「なら世話して聞きゃ良いじゃありませんの」


「儂が連れてきたんじゃから儂が彼女の世話するんは当然じゃろ。そうやのうて、儂にとって花の世話っちゅうんは対価にならんと言うとるんじゃ」


「……あー、つまりワイズマンローズとしては世話してもらったらその対価として話すと言い、アナタは世話するのに対価は求めないと言って詳しい話を聞いていない、と」


「おん。ソレで対価求めるんは違う思うきのう」



 ワイズマンローズの性質は、受けた恩をキチンと返す、というモノだ。

 つまり相手が求めていないのであれば恩があっても返せないというコトでもある。



「…………じゃあ説明しますけれど、ワイズマンローズはソレでよろしくて?」


「ええ。彼、私が対価に話すって言っても聞いてくれないし。私は私で性質上、彼が断わる以上は説明が出来ないんだもの、そっちの方が早いわ」


「でしょうね」



 溜め息を吐いてから、セザールに向き直る。



「まずワイズマンローズという魔物は、賢者と呼ばれる程に知識を蓄えたモノ……の死体を栄養にして咲いたバラですわ。なのでその賢者が有している知識を引き継いでるんですの」


「極東の花みたいなバラやのう」



 恐らく桜のコトを言っているのだと思われる。

 確かにセザールは植物の授業を取っているので、極東名物である桜の存在、そしてホラーな感じの逸話についても知っていたのだろう。


 ……ホラーというか、木の下に新鮮な死体が埋まっているというのはスプラッタ枠かもしれませんわね。



「ちなみにその知識は相当なモノらしく、今はもう滅んだ魔法などにも詳しい個体……株?まあそういうのに詳しいのが多い、と」


「途中ブレとらんかったか?」


「ツッコミは無用ですわよ」



 魔物は単体を表現するのが難しいのだ。

 全員纏めて一人二人と数えられれば何人とかで表現出来るが、一人と一羽だのと括り方が難しくて困る。


 ……まあ、雑なトコが多いアンノウンワールドだからか小説などでの表記もワリと適当で、作者が書きやすいように、というのが暗黙のルール状態になってますけれどね。



「んでもってここからがワイズマンローズの特徴なんですけれど、ワイズマンローズは対価を重要とする魔物……わかりやすくいうなら恩返しタイプの魔物ですわ」


「恩返しタイプ?」


「極東の昔話である鶴の恩返しとかかさじぞうとかみたいなものですわ。受けた恩をキチンと相手が喜ぶカタチにして返す、という。

彼女もそういうタイプの魔物なので、世話をしてもらうという恩を返す代わりに自分の知識を提供する、という性質ですの」


「……つまり?」


「面倒なので雑に言いますと、長く一緒に居るつもりなら恩の重ね着させて心労重ねさせるよりは気になるコトを片っ端から質問してローン返済みたいに小出しで恩返しさせるのが吉ですわ」


「占いか」



 そういうツッコミを求めたワケではないのだが。



「あー、でも、成る程、性質、っちゅうコトは生態か……そんなら対価云々はどうのこうのっちゅうて断るんはようないな」


「ええ。同じ質問かつ同じ答えであっても一回の質問は一回、という括りなので、忘れる度に聞けば丁度良いと思いますわ」


「儂、ジョゼフィーヌにドコまで忘れっぽいち思われとるんじゃ」



 ソコまで忘れっぽいとは別に思っていない。

 ただ興味の無い分野に関しては聞き流し過ぎて覚える以前に聞いていないタイプだと知っているだけだ。



「んん、じゃが、まあ、そういう生態っちゅうんじゃ儂の行動はワイズマンローズに無理をさせるようなもんじゃったにゃあ。すまんかった、ワイズマンローズ」


「いいえ、セザールなりの気遣いなのはわかっていたし、コレからちゃんと聞いてくれるのであればソレで良いわ」


「ほうか、そりゃあ助かる」



 ナンだかヒトの部屋でほわほわと良い雰囲気になっているトコ悪いが、コレだけは言わせてもらおうと自分は手を上げる。



「あと一応言っておきたいんですけれど、もしセザールが対価として質問した結果現在は滅びている魔法についてが聞けたら報告をお願いいたしますわ。報告対象はわたくしか教師の誰かに、でお願いしますわね」



 現存していない魔法に関する情報は出来るだけ確保しておきたい。





 コレはその後の話になるが、賢者の知能を引き継いでいるだけあってワイズマンローズは理解が早く、最近はセザールに勉強を教えていたりする。



「あら、セザール。またワイズマンローズに勉強を教わってるんですの?」


「丁度良いトコに来たジョゼフィーヌ!ちっくと助けてくれんか!?」


「酷い言い草ね、セザール。アナタが教えてって言ったから教えているのに」


「教えてっちゅうた結果その分野についてを全部やれ言われるとは思うとらんかったきにゃあ!」


「あー……」



 広げられているセザールのノートを見れば、上級生がやるような内容が断片的に書かれていた。

 恐らく理解出来る部分だけをどうにかノートに書いたのだろうが、理解出来ていない部分がほぼ白紙になっている。


 ……まあ、理解してないのに書けませんわよね。


 黒板などがあるならばともかく、口で説明してくれているのをそのまま書き写す、というのはソレを理解していないとキッツイものだ。



「ワイズマンローズ、コレは普通のヒトには無理ですわ」


「あら、そうなの?」


「賢者並みの知能ならイケるとは思いますけれど、内容が上級生向けですもの。もう少し低レベルな内容を繰り返して頭に叩き込んで、理解出来るだけの地盤を整えてからじゃないと折角教えた内容も流れ出ていくだけですわ」


「ふぅん……ジョゼフィーヌが言うならそうなのね。セザールが勉強から逃げたいからそう言っているのだとばかり思っていたけれど」


「儂の言葉よりもジョゼフィーヌの言葉を優先して聞くとか儂の心が傷つくんじゃが……」


「だって勉強がイヤなのかと思って。でも第三者であるジョゼフィーヌが言うのなら、そうってコトでしょう?」


「せやにゃあ、儂も教える側じゃったらそう思うにゃあ……」



 セザールは骨の手で頭を抱え、苦笑しながらそう頷いた。



「まあとにかく、このレベルをやるなら得意分野じゃないと無理だと思いますわ。ギリ植物系に関するコトならついていけるかもしれない、というレベルですもの。

ただその分得意分野ならギリイケるというコトでもありますから、その辺を見極めつつギリギリを狙って突き詰めていくのが良いと思いますわ」


「あれ、今儂ジョゼフィーヌによって逃げ道潰された?」


「気のせいよ」


「気のせいですわ」



 まったくもって気のせいではないが、芸は身を助くし知識はヒトを生かす。

 なにより得意分野なら脳が拒絶反応を起こすコトも無いからセーフのハズだ、多分。



「それよりもセザール、新しい魔法に関する情報とかってありますの?」


「こじゃんと雑に話題逸らされたような気ぃがするけんど、まあ良えか」



 そう言ってセザールはノートに挟んでいたメモを何枚か取り出した。



「こういう魔法はあるんか、っちゅうて適当に聞いただけやき役立つかどうかは知らんけど、いつもの」


「ハイ、どうも」



 セザールからメモを受け取り、内容を確認する。

 コレらは全て、世話をした分の対価としてセザールがワイズマンローズから教えてもらった魔法の情報だ。



「ん、五枚中三枚が知らない魔法ですわね。残りの二枚も新しい視点なのでコレはコレで有用だと思われますわ。というコトでハイお代」


「どーも」



 ポケットから取り出した財布から、適正価格を取り出してセザールに渡した。

 ちなみにこの財布は自分のモノではなく、教師陣から預かったモノである。



「……しっかし、教師からの信頼がとんでもないのう、おまん。財布預けられるっちゅうんは流石に前代未聞なんと違うか?」


「いえ、普通に時々居るそうですわ。ソレにわたくしの場合、ゲープハルトの本の翻訳だの教師の手伝いだの、そして彼らとの会話が多い分やたらと知識が多いというコトでコレらの判別をして適正価格を払うのを任されるという……」


「要するに面倒事を押し付けられたってコトかしら?」


「そーいうコトですわ」



 ハァ、と顔を逸らして溜め息を吐く。

 口角が上がっているのがわかるので、今の自分はさぞ疲れ果てたやけっぱちの笑みを浮かべているコトだろう。



「じゃが、滅んだ魔法なんぞあるんか?儂はあんま魔法に詳しゅうないが、当時から生きとる勢が何人かおるじゃろ。学園長とか。その辺が知っとったら別に滅んどらんのやないがか?」


「当時から生きてる不老不死勢に同じコトを言った結果、全員に「昔履いた靴下の柄とか全部覚えてられるの?」と答えられましたわ」


「あ、あー……」



 そう、つまりは昔だし当時の自分にとっては意識する程でもないコトだったので記憶に残っていません、というコトだ。

 確かにソレは覚えていられないなと納得したのか、セザールは凄まじく腑に落ちた顔で何度も頷いていた。




セザール

遺伝により頭部以外の上半身が骨で出来ており、内臓が無いのに飲食が可能な理由は不明。

もっとも世界観的に未知があって当然という感じでもあるので、まあ問題が無いならオッケー、という扱い。


ワイズマンローズ

賢者の死体を栄養にした結果、知識を吸収したバラの魔物。

栄養にしたのが滅びた魔法についての研究をしていた賢者だったらしく、その系統にとても詳しい。


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