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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
四年生
119/300

死手少女とキャンセルカンガルー



 彼女の話をしよう。

 遺伝で素手で触れると死なせてしまう、だから常に手袋をつけていて、けれど素手で誰かに触れるコトが出来たらと願っている。

 これは、そんな彼女の物語。





 談話室で、リアは手袋を外して花瓶に花を活けていた。



「リア、ケイト植物教師に頼まれたんですの?」


「あ、ジョゼ」



 こちらに気付いたリアは一瞬自分自身の手とテーブルの上に置いた手袋を見てから、控えめに微笑んだ。



「いえ、頼まれたというよりは自分からやらせてもらってるんです。……ホラ、花なら私が素手で触れても大丈夫ですから」



 そう言ってリアは悲しげに、けれどとても大事そうに花を見つめながら花瓶に飾る。



「……成る程。そういえば植物とかはセーフでしたわね」


「植物の魔物はアウトですから、素手で畑仕事は出来ませんけれど」



 ふふ、とリアは眉を下げながら微笑んだ。

 リアは混血であり、その手で触れた生き物の命を終わらせてしまうという遺伝がある。

 もっとも素手でさえ無ければ良いので常に手袋をしているのだが、時々こうして素手で可能な作業をして気分転換をしているらしい。


 ……まあ、確かにずっと手袋を着けっぱなしというのは気が滅入りますわよね。



「……既に死んでいる相手なら大丈夫なのでしょうけれど……私、ゴーストは見えませんから」


「残念そうに言ってますけれど、ゴーストが()えたとしてもゴーストに触れたいって思いますの?」



 リアは一瞬思案するように視線を動かし、へにょりと苦笑した。



「正直に言うと、思わないと思います。既に死んでいますし……私が触れたいのは、生き物ですから」


「その手の判定がある程度わかればセーフな魔物も居そうですけれどね」


「確かに魔物全てを死なせたり出来るワケでは無いので、不死身だったりすれば……」


「無機物系魔物とか機械系魔物とかはどうなんですの?」


「機械系魔物の場合は、機械という仕組みが命のようなモノであり、そして魔物では無い機械に触れてもその仕組みに影響はありませんでしたから……」



 要するに機械などは生命というよりは稼働する仕組みで動いている、というコトだ。

 ほぼ機械である機械系魔物も生態としてはほぼ機械であるコトが多く、つまり普通の機械に触れても問題が無いなら機械系魔物はセーフなのでは、となる。



「実際に機械系魔物に触ったコトは無いけれど、多分大丈夫そう、と」


「ハイ。確証も無しに触れませんけれどね」



 確かに死なせてしまう可能性があるのに触れる、というコトは出来ないだろう。



「じゃあ無機物系魔物は?」


「その、実はうっかり魔物と気付かずに素手で触れてしまったコトが何度かあるのですが……大丈夫でした」


「あ、そっちは実際に触れたんですのね」



 確かに無機物系魔物は見た目が完全にキャンドルスタンドだったりナイフだったりするので無理もない。

 自分だって、というか自分の目であっても眠っている無機物系魔物は魔道具に()えてしまうレベルなのだ。


 ……そりゃ魔物だと気付かなくても仕方ありませんわ。


 無機物系魔物の場合は元が無機物なので呼吸もしないし直立し続けるのも可能な為、無機物の振りをしているコトが多い。

 魔力の動きが()える自分のような目でもなければ、ソレが魔物かそうでないモノかを見分けるなど至難の業だろう。

 正直ヒヨコのオスとメスを見分ける方が容易いと思われる。



「でもやっぱり、生き物に触れたいと思うのは駄目なのでしょうか」


「いや普通のコトだと思いますけれど……触ると死にますものね」


「ハイ」



 しょんぼりしながら、リアは最後の花を活け終わる。



「両親になら触れるんです。だってこの手は母の遺伝ですし、そんな母をパートナーにして私を作ったのだから父だって余裕で平気ですし……」


「リアのお父様って混血ですの?」


「いえ、単純に寿命が来るまでどういうナニがあっても死なないという星の下に生まれてきたらしいです」


「混血よりもよっぽど意味がわかりませんわね、ソレ……」



 まだ混血の方が理屈が通っている気がする。

 しかし常に未知が蔓延るアンノウンワールドだと考えるとデフォルトのような気もして、つまり深く考えた方が負けですの。



「でも、そのお陰で父は母に触れられても、私に触れられても平気で……天使なジョゼなら大丈夫だったりしませんか?」


「残念ながら天使は肉体持ってないけど生きてはいるので死という概念はあるんですのよね」



 父曰く、天使は大量の水が入れられた器のようなモノだから活動すればする程中身が蒸発し、最後の一滴が無くなれば消滅する、らしい。

 まあ天使は神からすれば消耗品な使用人だからね、と父は言っていたが天使の白いイメージに反してその生態はブラック過ぎやしないだろうか。



「あとわたくしの場合は混血故に肉体持ってますから死んだら普通にお陀仏ですわ」


「うう……ジョゼなら素手で触れても大丈夫かと思いましたのに」


「どんな根拠があってんな思考になるんです、の……?」


「だってジョゼなら大丈夫感あるじゃありませんか」



 そんなモンは無いと言いたいトコロだが、天使の特性上ある程度はワリと大丈夫なのは事実である。

 だからこそ頼まれごとが多いのだし。



「……ハァ」



 溜め息を吐きながら、リアは布巾で手を拭いてから手袋を着ける。

 破れていたら一大事だからと、頑丈かつ破れていたらすぐにわかる分厚い手袋だ。



「私が素手で触れても大丈夫な魔物が居れば良いのですけれど……」


「……んー」



 そういう魔物は居ないでもない。

 モチロン無機物系や機械系魔物ではなく、生き物系の中に、だ。

 というか魔物は凄まじく種類が多いのでどんなタイプも結構居るのである。


 ……だからこそ、無機物系だの植物系だのとジャンル分けしないと大変なコトになるんですのよね。



「……リア、この後時間あります?」


「エ?ハイ、後はこの花瓶をソコの窓際に置くだけですし、ケイト先生にも報告は別に要らないと言われているので……時間はありますけど……?」



 どうかしたのだろうかと顔に出しながら首を傾げるリアに、ニッコリと微笑む。



「もし良かったら、一緒に森でアナタが素手で触れても大丈夫な魔物が居ないか、探しませんこと?」


「……!」



 リアは目を驚いたように見開き、何度か口をパクパクさせた。

 そして興奮したように頬を赤らめながら、控えめな声で言う。



「……そ、そんな魔物、居るでしょうか……!」


「わからないから行くんですのよ」



 ソレに森なら万が一そういう魔物が見つからなかったとしても、素手で触れる自然に満ちている。

 リアは嬉しそうにソワソワし始め、わかりやすくそのグレーの髪が揺れていた。

 思った以上にわくわくしているようなので、リアが素手で触れる生き物系魔物とホントに出会えたら良いのだが。





 森に入って一時間程歩いたが、ソレらしい魔物は見つからなかった。



「見つかりませんわねー」


「ふふ、でも楽しいですよ?」


「そうですの?」


「ハイ!」



 リアの表情は、ソレが嘘でないとわかる笑顔だった。

 筋肉の動きから嘘かどうかを見抜ける自分の目でもホントの笑顔に()えるので、本当に楽しんでいるらしい。



「森の中は自然が沢山ですし、ジョゼが色々と教えてくれますから!」


「わたくし、そうも教えましたっけ?」


「植物の種類や通りすがりの魔物、他にも森の歩き方とか木の実の味とか……ジョゼってば、凄く詳しいんですね」


「よく通ってたしランベルト管理人に色々聞いたり、あとまあ……うん、色々あったんですのよ」



 普通に授業を受けたり、森に入ったり、教わったり、友人と森に入って教えてもらったり、注意したりというのを繰り返した結果だ。

 お陰でこの森には大分詳しくなった。


 ……いえ、流石に上級生じゃないと危険とされている箇所とか、まだ身長とか足りなくて日帰りで往復出来そうにないトコまでは行けてませんけれど。


 この森は凄まじく広いので、奥に行けば行く程デンジャーとなる。

 なので自分が詳しいのは学園側から見て手前側、の森だけだ。


 ……正直、貴族の娘が手前側のみとはいえこうも森に詳しいものだろうかとは思いますけれどね。


 まあ実家自体貴族っぽいかと言われると微妙だし、そもそもやたらと手伝いを頼まれたりしている時点で今更だ。

 友人の殆どには「そういや貴族だったね」と言われるレベルだし。


 ……エメラルド家、結構な家柄なんですけれどねー……。



「んー……一時間程歩いてますし、休憩します?そこの川で軽く手を洗っておやつにでもしましょうか」


「おやつ、ですか?」


「ソコの木に生ってるフルーツ、甘くて美味しいんですのよ。そのまま食べれますし」


「ジョゼってサバイバルするコトになっても他のヒトを率いながら全員を生き残らせそうなくらい手慣れてますね」


「……我ながら、コレは貴族スキルでは無いと思うんですのよねー……」



 何故こうもサバイバルに長けてしまっているのだろうか。

 そう思いつつ、川で手を洗ってフルーツを齧る。

 瑞々しくて甘くて美味しい。



「ハイ、リアも」


「ありがとうございます」



 手袋を外したリアの手に触れないようにしながらフルーツを渡せば、リアは嬉しそうに微笑みながらフルーツを食べ始めた。



「わあ、確かに甘くて美味しいですね、コレ!」


「でしょう?」


「…………ふふふ」


「?」



 フルーツを食べながら、リアはこちらを見て思わずといったように笑う。



「どうかしたんですの?」


「いえ、ジョゼは素手になった私相手でも普通に接してくれるから嬉しいな、って思っただけです」


「触れなきゃセーフなんですからわざと触れようとさえしなけりゃそりゃ普通に接しますわよ?」


「わざと触れたりとかはしませんけど……やっぱり普通のヒトってそういう気が無いとわかっていても、怯えるじゃないですか」


「わたくしイージーレベルの狂人なのでそういう普通の感性がわかんないんですのよねー」


「アハハ、ナンですかソレ」



 笑われたが、残念なコトに事実である。

 というか学園の生徒も殆どが狂人なのでその手を怖がる生徒はあんまり居ない気がしてきた。



「……ふう、ソレじゃあもう少し歩いてから帰……」


「?」



 無言になった自分に首を傾げてから、リアは自分が見ている先を見た。



「あ!?」



 座っている大きめの石の上、置いたハズのリアの手袋が猿の魔物に盗まれていた。

 もう後ろ姿しか見えないが、じっと()ればその魔物が盗み癖のあるスティールモンキーだとわかる。


 ……ナイフと鞭なら太ももに隠し持ってますけれど、この位置では鞭が届きませんし、かといってナイフを投げたら悪の場合確実に脳天サックリ刺さるでしょうし、悪じゃなかったら取り逃しますわよね……。


 どうしようと思っていると、スティールモンキーの真横から見事なパンチが繰り出され、スティールモンキーの腹にヒットした。



「ったく、油断も隙も無えったら」



 逃げ去るスティールモンキーの落とした手袋を拾い上げながらそう言うのは、赤みの強いオレンジの毛色を持つカンガルーの魔物だ。



「アイツ、っつーかアイツらは盗んだらコレクションするだけだからなあ……おい、嬢ちゃん達」


「!」



 声を掛けられ、リアはビクンと身を跳ねさせた。



「盗られて困る大事なモンなら、ちゃんとポケットにねじ込むなりナンなりしときなよ。この森ん中は色んな魔物が居るから変なのも多いんだ。もうちっと気を付けて…………」



 無言になった後、カンガルーの魔物は首を傾げる。



「どうした?」


「いえ、ちょっと……」



 まあリアがその手で触れないようにと土下座のような体勢になっているので仕方がない反応だとは思う。

 本人的には触れないように手を上にあげてもソレはソレで触れる可能性があるから、先に触れても問題無いモノに触れておこう、となったのだろうが。


 ……そして負担の少ない体勢に、と思った結果土下座状態……。


 極東知識が無かったら不思議な体勢でしかないからか、カンガルーの魔物は不思議なモノを見る目でリアを見ている。

 その体勢になっているリア自身も極東出身ではないので土下座の体勢になっているとは思ってもいないだろうが。



「……もしかして、説教したからか?確かに俺はさっきパンチはしたけど、そんなに怖がらせちまったかね」


「いえ、怖いワケでは無く……いえ怖いんですけれど!」


「どっちだよ」


「自分が怖いんですよ!」


「エ、もしかしてアンタ、触れた瞬間相手を殴り殺すまで殴っちまう感じの体質だったりでもすんのか?」


「似たようなモンです!」


「こらこらこら」



 相手が本気にしそうなのでそんな大雑把に頷かないで欲しい。

 確かに結果的に死ぬという意味では広義的に一緒となるかもしれないが、経緯は大事だと思う。



「あのですね、えーと……あら?」



 説明をしようとカンガルーの魔物を見て、ふとその種族に気付く。



「……アナタ、もしかしてキャンセルカンガルーですの?」


「ああ、そうだけど、ソレが?」


「いえ、ならラッキーだと」


「ハ?」



 怪訝そうな表情でそう言うキャンセルカンガルーをスルーして一旦咳払いし、改めてリアのコトを説明する。



「彼女、リアは混血なんですけれど、遺伝によって素手で触れた生き物を死なせてしまうという体質なんですのよ」


「手が勝手に絞め殺すとか?」


「いえ、触れた瞬間に肉体と魂を分離させるような感じですわね、多分」



 武器屋兼情報屋な店主が言っていたので合っているハズだ。

 あのヒトは様々な未来をシミュレート出来るので、そういう情報は間違いが無い。



「素手で無ければ良いので普段は手袋をしてるんですけれど……おやつタイムでフルーツ食べてたら盗られたんですわ」


「ああ、成る程。この手袋がソレで、万が一俺がその手に触って死なせたらまずいからってコトでそんな体勢になったってコトか。知らねえと触るかもしんねえもんな」


「そういうコトですわね」


「そういうコトです……」


「で」



 相手がキャンセルカンガルーで無ければここで説明は終了だったが、相手がキャンセルカンガルーであるならばここに来た経緯も話すべきだろう。



「そんなリアですので素手で触れても死なない生き物系魔物に会えたらな、というコトで森へ来たんですの」


「……へえ」


「まあ会えなかったからここで休んでたワケですけれど」


「ああ、わかったわかった皆まで言わなくても良いって」



 キャンセルカンガルーはそう言って、手袋を持っていない方の手でリアの頭にぽすんと手を置いて軽く撫でる。



「ソレを説明したってコトは、アンタは俺の体質を知ってるってコトだ。友人思いだねえ」


「まあ、折角見つけたならチャンスは逃したくありませんもの」


「?」


「あー、つまりな?」



 頭を撫でられながら不思議そうに首を傾げるリアに、キャンセルカンガルーは自分自身を手で示す。



「俺はアンタが……リアだったか?が、素手で触れても大丈夫だろう魔物、ってコトだよ」


「エ?……エ?」


「あーっと、ですね」



 説明を求めるような目でこちらを見られたので、苦笑しながら説明する。



「彼はキャンセルカンガルーと言って、ナンらかの能力を無効化させるコトが出来るんですの。どうしてかというと胸から出る赤い液に無効化能力があり、その液を全身に付着させるコトで無効化してる、というコトですわ」


「まあ、だから魔眼みたいなタイプだと無効化は無理なんだがね」



 ちなみに毛色が赤っぽいオレンジなのはソレが理由である。



「そんなワケだから、リアの能力ってのは素手で触れたら、なんだろ?つまり無効化する液で全身をコーティングしてる俺なら、触れても問題無いってコトさ」


「……でも、もし効果があったら」


「そん時はそん時、ってコトで」


「ッ、ヒッ」



 キャンセルカンガルーに手を取られたリアは引き攣った声を上げ、怯えたように目を瞑った。



「…………ホラ、目ぇ開けな」


「……?……!?」



 その声に恐る恐る目を開けたリアは、リアの素手に触れながらも普通に生きたままなキャンセルカンガルーを見て、驚愕に目を見開いた。



「だ、大丈夫……なんですか?」


「まあ、普通にな。接触系の能力なら大体無効化出来るんだよ、俺は。魔眼とかは無理だけどある程度なら接触するコトで無効化させるコトも出来るしな」



 そう、なのでキャンセルカンガルーは兵士のパートナーになっているモノも多い。

 例えば体から炎を発せる悪人が居ても、キャンセルカンガルーが触れるコトで無効化が出来るから、という理由だ。


 ……まあキャンセルカンガルー自体、他の魔物とのタイマン勝負をフェアに行えるようにと進化した結果無効化能力に目覚めたそうですけれど。


 ソレが事実かは知らないが、こないだ食堂で会ったゲープハルトが雑談としてそんなコトを言っていた。

 伝説の魔法使いであり大昔から生きているゲープハルトは、自分が魔物関連の知識に興味があるからというコトでよく魔物の進化についてを教えてくれる。

 ドコまでがホントかはよくわからないが、軽いノリにしては結構真面目なトコもあるので多分本当のコトなのだろう。



「……というかあの、お一人さんに一匹さん?いつまで手を取り合って見つめ合ってんですの?」


「いや、ナンか思った以上の力で手ぇ掴まれて……」


「もうちょっと!もうちょっとだけ握らせてください!両親以外で素手のまま、生きたまま触れたのは初めてなんです!」



 まあ確かに学園に居る不死身勢も、魂と肉体を切り離す系はちょっと本気で死ぬかもしれないから、と素手で触れられるのを拒否していたのでそうなってしまうのもわからなくはない。



「あー、っと、そうだな……良かったら抱き着いても良いぞ?」


「良いんですか!?」


「そりゃ全身コーティングしてあるしな。手を握るだけでそんなに喜ばれるんだったら、まあそんくらいは」


「で、では失礼して……!」



 覚悟を決めたような表情でリアはキャンセルカンガルーに抱き着き、キャンセルカンガルーはそんなリアをあっさり抱き留めた。

 というかひょいっと抱き上げている。



「……えへ、温かいですね」


「そりゃ生き物だからな」



 んじゃ、とキャンセルカンガルーはこちらを見た。



「どうも相当素手で触れる温もりに飢えてたみたいだから、このままじゃすぐには学園に帰れないだろ。満足するまで時間掛かりそうだしな。だがとりあえずこの体勢なら移動出来るし、先に森から出るか?」


「……ですわね」



 確かにリアは心底嬉しそうにキャンセルカンガルーに抱き着きながら頬擦りしていて、しばらくは離れそうにない。

 満足するまで待って夜になるよりは良いだろうと判断し、リアのコトをキャンセルカンガルーに任せて一緒に森を出た。

 このまま学園に戻れば確実に翌朝までくっつかれるコースになると思うが、実際そうなるのはキャンセルカンガルーなので良いだろう。


 ……本魔自ら言い出したようなモンですしね。


 移動の為とはいえ抱き着くという選択肢を提示したのはキャンセルカンガルーなので、一晩抱き枕にされるだろうがそのくらいは受け入れてもらおう。

 他人事としてそう考えつつ、キャンセルカンガルーをリアの部屋まで案内した。





 コレはその後の話になるが、リアの部屋まで案内した後、キャンセルカンガルーはリアが満足するまでここに居るコトにする、と自分が部屋に帰れるように気遣ってくれた。

 まあその結果リアが満足するまで、という言質を取られて森へ帰れなくなったのだが、本魔は本魔で仕方がないなと笑ってリアのパートナーになっていたので良いのだろう、多分。



「ったく、まさかソコまで我慢してたなんてよ」


「……してません」


「そう言って大分無理してたんだろうが。診察結果は誤魔化せねえぞ」


「どうかしたんですの?」


「おう、ちょっとな」



 談話室の一角で、キャンセルカンガルーは手袋を嵌めて丸まっているリアを抱き締めていた。



「最初はあんなにも俺にべったりしてたってのに最近はあんまりだから体調でも悪いんじゃねえかって診察してもらったら、ベタベタし過ぎて嫌われたらイヤだからっつー精神的な問題だってよ」


「今更ですの?」


「ホラ、やっぱりこういう意見になるっての」


「うー……本気になったら私のスキンシップはあんな程度じゃありませんよ!?流石のキャンセルカンガルーだってイヤになるかもしれないくらい私は触りたいんですからね!?」


「どーぞ、俺にお構いなく好きに触んな。折角素手で触れる相手だから、って思ってんなら存分に甘えろ。俺ならリアの手も受け止めれるんだからよ」


「…………」



 キャンセルカンガルーの言葉に、リアは少しむくれた表情で手袋を外した。

 そしてその手でキャンセルカンガルーの顔へ触れ、頬の辺りをぐにぐにと揉む。



「全身、触りますからね。長年家族以外の生き物に素手で触るコトが出来なかったフラストレーションは自分で言うのもナンですが、凄いコトになってますから!」


「へいへい、俺で良ければ幾らでも付き合うぜ」



 ……お熱いコトで。


 室温が上がったかと思うくらいに熱々で良いコトだが、見ているこちらは独り身なので手を扇代わりにして自分を扇ぐしかできない。

 同じレベルでイチャイチャ出来る相手も居ないし、仕方がないから一人寂しく冷えた紅茶でも飲むとしよう。




リア

触れただけで生き物を死なせてしまうという遺伝がある為、常にグローブのように分厚い手袋を着けている。

触り甲斐のあるサイズの生き物系魔物であるキャンセルカンガルーに思う存分触れるコトが出来て幸せ。


キャンセルカンガルー

胸から分泌される特殊能力無効化の体液を全身に塗ってコーティングしている為、魔眼のような遠隔系で無い限りは無効化可能。

ちなみにステゴロのタイマンを望んだ結果の進化なので、やたら腕っぷしが強いのも種族的特徴。


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