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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
四年生
118/300

沼少女とケーキバトラー



 彼女の話をしよう。

 遺伝で手足が沼状で、自在に変形出来るからこそ演奏が凄まじく、しかし面倒臭がりな。

 これは、そんな彼女の物語。





 談話室でニーナにべっとりと抱き締められながら図書室で借りた本を読む。

 今日借りたのは怪盗モノだ。

 美少女怪盗が自分を追ってくる少年兵士と、捕まりそうになったら助けてくれる謎の紳士にドキドキしちゃう!という少女漫画テイストな作品。


 ……まあでもコレ、怪盗活動がメインだから恋愛に関してはフレーバー程度なんですのよね。


 ちなみに同じ作者によるスピンオフがあり、そちらは恋愛に極振りした感じの砂糖吐きそうな甘々内容となっている。



「……ジョゼってば、もう少し構ってくれても良いんじゃなーい?」


「ニーナ、わたくしがどうかしたんですのって聞いても面倒臭がって「んー」としか言わない時が多いじゃありませんの」


「そうだけどー」



 そう言いながら、ニーナはドロドロとしている手足を動かして自分を拘束した。

 彼女は親がスライムなので手足が変幻自在という混血なのだが、ニーナ自身が面倒臭がりなせいで大体こういう沼状のまま放置されているのだ。


 ……まあ、沼状でも移動は出来ますしねー……。


 大体はナメクジのようにずりずりと移動している。

 沼状なので水気が心配ではあるが、一応ソレは操作可能らしいので大丈夫なのだろう。



「……で、どうかしたんですの?」


「演奏イヤ」


「ああ、また演奏の依頼されたんですのね」


「そうなのよ」



 ハァ、とニーナは心底イヤそうに溜め息を吐いた。

 その感情に比例するかのように手足のドロドロ感は増加し、こちらの肩に乗せられているニーナの頭までドロリと溶けそうな雰囲気だ。

 まあ流石に頭が溶けたりはしないだろうが、溶けそうなくらいの雰囲気を醸し出している。


 ……というかぐりぐりと頭を擦り付けないで欲しいんですけれど……。


 群青のメッシュが入った金髪が首や顎に触れてくすぐったい。



「でもアナタ、別に演奏が嫌いってワケじゃないんでしょう?」


「確かに演奏は嫌いじゃないわ。……でも私、披露するのが好きじゃないのよ」



 むすくれた不機嫌そうな表情でニーナはそう言う。



「私は好きな時に好きな曲を気まぐれに弾くだけであって、決まった時間決まった場所で決まった曲を決まった客に聞かせる、っていうのはイヤなのよ」


「ちなみに理由は?」


「気分じゃないからって断れないから」


「よくソレで演奏依頼受けますわね」


「実家で何度か約束ブッチしちゃったから学費以外は自分で稼げって言われたんだもの……酷くない?」


「確かに酷いとは思いますけれど……」



 実家でブッチした約束がどういう約束なのかによる。

 親との軽い約束ならば相手が酷いとなるが、他の家のヒトにも披露する云々系の約束だった場合は実家に泥を塗るカタチになるのでニーナの方が酷い。



「……んん、まあ、学園の生徒には学費すらも自分で稼いでるヒトは居ますから、まだ比較的楽な方だと思いますわ」



 具体的には一時期滅びの危機に瀕した少数民族が故に学費がいまいち捻出出来ず、痛覚も無いし再生するしというコトで自分の血肉を食料として売るコトで学費や生活費を作っているロニーとか、だ。



「確かにそうかもしれないけれど、面倒なのよね」



 ハァ、とニーナは再び溜め息を吐いた。



「ソレは確かに、私のこの手での演奏は人間業じゃないけれど」



 そう言ってニーナは自分を取り込もうとしているのかと思う程にデロデロさせていた沼状の手足から、凄まじい数の指を生やした。

 腕や手では無く指単体を沢山、である。

 正直ビジュアルがかなりハードで、アンノウンワールド慣れした狂人じゃなかったら最悪気絶していたかもしれない。


 ……イージーレベルとはいえ狂人で良かったですわ!


 お陰で「うわー……」くらいで済んだ。



「こうすれば人間には不可能な演奏が出来るとはいえ……指を構築するの面倒」



 その言葉と共に、沼状になっているニーナの手足から生えた指はドロリと溶けて再び沼状の手足と一体化した。



「やる気が出ないのよー……ハァァァ……」


「ヒトの肩に重ったい溜め息吐かないでくださいな」



 ナンとなくイヤだ。



「……でも、その演奏しないと生活費キツいんじゃありませんの?」


「一応学費は出てるし、学費が出てさえいれば食堂が利用出来るから死にはしないのよね。制服もあるから服も大丈夫だし、寮で生活してるから部屋もあるし」


「そう考えるとホントに娯楽分を稼いでるって感じですわね……」



 というかこの学園の至れり尽くせり感が凄い。

 具合が悪ければ保健室で全部済ませて貰えるし、本だって図書室があり、そして障害者や混血用の設備も整っているので生活しやすい環境。

 いや本当に凄過ぎないかこの学園。



「ちなみにニーナ、どうしたらやる気が出る、とかはありますの?」


「甘いモノ食べたら多分……出るとは思うけど」


「でしょうねえ」



 自分からするとやっぱりか、という感じだ。

 ニーナはレンカと同じくかなりの甘党であり、甘いモノを食べるとテンションが上がる。

 ソレはもう今のダルダルテンションはナンだったんだと思うくらいに上がる。



「だからジョゼ、ちょっとお菓子作ってくれない?」


「ソレが本題でしたわね……?」



 通りでヒトを動けないように手足で拘束してきたワケだ。

 手足とはいえ沼状になっているのでこうやって下半身を押さえられては身動きも取れない。


 ……いえまあ、誰かに抱き着かれたりするのに慣れてるから特に逃げようともしてませんでしたけれど。


 寧ろ普通に本を読みながら話を聞いていた。

 いやページを捲る手を止めて会話をした方が良いだろうとは思っていたが、ソレはソレとして内容が面白くてつい手を止められなかったのだ。

 この小説は少年兵士と謎の紳士、そしてその巻のゲストキャラクターが主人公を取り合うシーンが最高の盛り上がりを見せるのだから。


 ……そしてラストで主人公が全部持ってって「アナタのハートごと、お宝は全部いただいたわよ!」の決めセリフなんですのよね。


 この作品の人気が高いので、今度劇団でこの劇をやるとかやらないとか噂されており、もしやるのであればとても楽しみだ。

 混血や魔物も普通に劇団員として働いていたりする上に魔法があるので、劇のクオリティがとても高いのである。

 ここは無理だから劇ではこういう風に、とかもほぼ皆無だし。



「というかお菓子作りは普通にお断りしますわ」


「えー、どうして?」


「いつやるかわかりませんし、ここでオッケー出したらこの先毎回わたくしが作るコトになるじゃありませんの」



 確かに自分はお菓子作りも出来る貴族だが、普通貴族はお菓子を作らない。

 まあ結局自分がお菓子作りを出来るコトに変化は無いのだが、だからといってソコまで積極的にお菓子作りをするワケではないのだ。


 ……頼まれごととか翻訳の仕事とかありますしね。



「普通に本職であるラザールパティシエに頼んだらどうですの?」


「ちぇー」


「ちぇーってナンですのよちぇーって。本職の方が美味しいお菓子作ってくれますわよ?」


「……やっぱりパートナー探しを積極的にした方が良いのかしら」



 無視された上にいつの間にかニーナの頭の中で思考が大分進んでいるらしい。

 ちぇーの後にどういう思考回路でそうなったのだろうか。



「私の理想のパートナーってね?」



 ナンか語り出したな、と思いつつページを捲る。

 天使の娘だからかよく色々話し相手にされるのでよくわからん起承転結からの語り始めには慣れているのだ。



「世話焼きで、私の世話を楽しんでしてくれて、やる気を出させてくれてお菓子が美味しいパートナーが良いなあってずっと思ってるの」


「はあ」



 世話焼き系の魔物はワリと多いので普通にその辺に居そうだ。



「そんなパートナー、見つけ出した方が良いかしら」


「パートナーというか魔物を、だと思いますけれど……まあ、探すかどうかはニーナ次第なので好きにすれば良いと思いますわ」


「じゃあ手伝って」


「ヤですわ」



 面倒臭い。



「私が森へ入ってから移動が面倒臭くなって帰ってこなくても良いの?」


「ニーナの場合はあり得るからアレですけれど、ちゃんと管理人が見回りしてるから大丈夫ですわ。時々親切な魔物が管理人の家近くまで送ってくれるコトもありますし」


「ソコからパートナーになった、っていう子も多いのよね……良いなあ」



 そう言いながらニーナのようなタイプは想像以上にあっさりとパートナーを見つけるのだろう。

 ニーナの性格からするとそういうタイプだ。





 フラグ回収が尋常じゃないスピードで行われた。

 あの後一人で森へ行ったニーナだったが、翌日には隣にパートナーになった魔物が居たのだ。



「……早過ぎませんこと?」


「だって好みだったらソッコで捕まえておきたいし、相手もケーキだから判断は早めが良いって」


「そうそう」



 ニーナを抱き締めながらニコニコ笑顔でそう言ったのは、カラフルかつパステルな色合いの男、の魔物だ。



「というか、ええと、そちらは……」


「インフィニティケーキっていう食用魔物らしいわ」


「今はニーナ専用だから種族名変えようかとも思ってるけどな」



 ヒトの目の前でイチャイチャしないで欲しい。

 ケーキと沼状の手足が絡み合っているせいで足元がかなり大変なコトになっているし。



「……にしても、インフィニティケーキですのね。まあニーナからすると大当たりでしょうし、良いと思いますわ」


「ああ、そうそう、ソレなんだけど」


「?」



 インフィニティケーキに抱き締められたまま、ニーナは首を傾げて言う。



「インフィニティケーキってどういう魔物なの?」


「知らんでパートナーになったんです、の……?」


「美味しかったしもっと食べてくれって言われたし、ナンでもするからって言われたからじゃあお世話とかしてって言ったらオッケーしてくれたしで、じゃあパートナーにって」


「オッケー、大体わかりましたわ」



 種族とか度外視でとにかく甘くて美味しくてお世話してくれるらしい、というのが大きかったのだろう。



「……というかインフィニティケーキの方は説明しませんでしたの?」


「いっくらでも食える無限のケーキとして生み出された魔物ってちゃんと説明したぜ?」


「あー、うん、まあ事実ですわね」



 というかそうとしか言えない。



「まずインフィニティケーキはその名の通り無限のケーキですわ。ビジュアルはヒト型ですけれど食べれるし、食用系魔物なので食べられないままで居る方が苦痛なタイプ」


「うんうん、売れ残りケーキの気分は切ないからなあ」


「ちなみに食べた分は月の光を浴びるコトで修復される仕様なのでガンガン食べて問題ありませんの」


「エ、やったー!」



 その辺りは知らなかったのか、食べても回復するというのに安心したらしいニーナはニッコニコの笑みを浮かべてインフィニティケーキの指をもぐもぐと食べ始めた。

 流石甘党と言うべきか、相変わらず甘いモノを食べている時のニーナはご機嫌だ。


 ……というか、絵面ヤベェですわね。


 片方はニッコニコで相手の指を甘噛みでは無くマジ食いしていて、食われている方は心底嬉しそうな笑みを浮かべながら不審に思われない程度に手を動かして多めに食べられようとしている。

 アンノウンワールド的には片方が食用魔物だと考えると日常のワンシーンでしかないが、食われる側のビジュアルがヒト型というのは異世界の自分からすると結構ヤベェ絵面らしい。

 自分としてはインフィニティケーキの目がパステルカラーなオッドアイの時点で人間とは認識出来ないので不思議な気分だ。


 ……というか、多分あの目も食用なんでしょうね。



「ところで……あ、ニーナはそのまんま食べてて構いませんわ。どうやって出会ったのかとかを聞きたいだけですのでインフィニティケーキに聞きますし」


「ん!」



 オッケー!と言わんばかりにニーナは親指を立てて見せた。

 せめてソレくらいはインフィニティケーキの手から口を離して言えよと思わんでもないが、食べるのを優先されたインフィニティケーキの表情がデロッデロに溶けているのでまあ良いだろう。

 食用系魔物からしたら自分を食べるのを優先される程嬉しいコトは無いだろうし。



「で、どうやって出会ってそうなったんですの?」


「まず俺は森で彷徨ってたんだ。元々俺という魔物は大昔に食用として、そして一般人が中々食えない甘味をしっかりと食べれるように、って作られてな」


「あー」



 確かに昔は甘いモノと言えば金持ち用だったし、食用魔物の殆どは大昔に生み出された魔物であるコトが多い。

 どういうコトかと言えば、食糧難だったから食べても問題無い魔物を生み出して飢え死にを回避しようとした、というコトなのだが。


 ……だから食用魔物って再生出来る、または繁殖率が高いっていうのがデフォルトなんですのよね。



「だが最近は飢えている人間はあまり居ないしで売れ残りのケーキの気分だ、と川を見ながら自殺を考える日々」



 ケーキの自殺は入水なのか。

 確かにケーキは水に溶けて原型を失ってバラバラになるのでわからなくはない。



「そんな日々を過ごしてたら、ニーナが来てくれたんだ」



 そう言いながら、インフィニティケーキは嬉しそうな表情をしながらニーナの頭を顎でぐりぐりした。

 まるで獣が行うマーキングのよう。



「開口一番に美味しそうねって言ってくれたし、じゃあ食うか?って手を差し出したら美味しい美味しいって上腕部までガッツリ食べてくれるもんだからめっっっっちゃくちゃ嬉しくてさあ!」



 めっちゃ食べたな。

 確かに甘党が甘いモノを食べる時はどうやったらそんな量が入るのかという量を食べる。

 自分の目でも理解不能なレベルで食べる。

 そして今も気づけばインフィニティケーキの手首まで到達しているので、さぞや好みの味だったのだろう。



「そんなにも美味しそうに食べてくれるし、こんなに美味しいケーキが居たら演奏も頑張るんだけどなんて言ってくれるからもう俺はこの子にパートナーになってもらうしかない!ってなった」


「ああ、まあ、なりそうですわね」


「そんで断られたら入水自殺するしかないとも思った」


「いやソレはちょっとわかりませんわ」



 ナンだそのデッドオアアライブな二者択一。



「だって他に食べてくれるヒトここ数年居なかったから、食べられるしかない俺からすると存在価値がなあ……」


「あー」


「だから食べてくれたニーナに断られたら死ぬっきゃねえなって」


「う、うん、んん、んー……」



 自分は食用系魔物でも無ければ食用系魔物との混血でも無いので微妙にその気持ちがわからない。



「でもパートナーになってくれって言ったら、ニーナはオッケーしてくれたんだ。幾らでも食われるし俺に出来るコトならナンでもするから!って言って良かったぜ」


「あ、そういやさっきそんなコト言ってましたわね」


「ああ。自分は面倒臭がりだから世話とか色々してくれるなら、ってな。そりゃモチロン頷くに決まってるだろ!」



 インフィニティケーキはニッコニコな笑みでそう言った。

 流石人間の為に生み出された食用系魔物なだけあって、奉仕タイプな性格らしい。



「ただ、そういうのって執事って言うんだよな?」


「まあ、そういう仕事をしてる男性は執事と呼ばれますわね」


「だから格好をソレっぽくしてみたんだ」


「あ、ああー……」



 確かにインフィニティケーキの格好は燕尾服だ。

 カラフルだし()える情報としてはボディと同じケーキ成分だったので見逃していたが、確かに普通のインフィニティケーキなら燕尾服ではないだろう。

 まあ服も体の一部なのでデコレーションを変更するようなものらしく、インフィニティケーキによって服装や顔つきなどのビジュアルは違うのだが。



「で、その上でケーキバトラーっていう種族名に変えたいんだが、どうすれば変更出来ると思う?」


「そんな簡単に変更して良いんですの、ねー……?」


「無限に食えるケーキってよりも、その方がニーナのそばでニーナの世話をするケーキ、っていう感じだろ?俺はそういうのになるつもりだし」


「ん、んんー……まあ、ワリと改名してる魔物多いですし……」



 歯車だったオンリーギアが指輪の中に入り込むコトでギヤリングと改名したりとちょっとしたイメチェンの結果改名、というのは結構ある。

 ソレに種族ごと改名というより彼のみ改名するという感じなので、まあ不可能ではないだろう。

 ニーナってばもう前腕部まで到達してるなと思いつつそう考えを纏め、とりあえず学園内に居るかはわからないがフランカ魔物教師を紹介しておいた。

 フィールドワークに出ている可能性が高いので、見つからなかったら研究室に書き置きを残すのをオススメする、とも伝えておく。





 コレはその後の話になるが、無事ケーキバトラーに改名出来た彼は今日もニーナに食べられている。



「……ニーナ、そうもケーキバトラーばかり食べていたら太りますわよ?」


「大丈夫よ、私太らない体質だから」



 さらっと凄いコト言ってきた。



「ホラ、私ってスライム系魔物との混血でしょう?」


「でしたわね」


「スライムって水を吸収するから結構膨らんだりはするんだけど、絞り出せば元のサイズに戻れるのよね」


「……つまり?」


「この手足から脂肪をギュッと絞れるから太らないの」


「うっらやまし!」


「でしょー」



 ニーナはご機嫌な笑みを浮かべているが、ソレは世の乙女達が血涙流しながら求めるモノだと思う。



「だから私好みの甘さや食感のケーキバトラーを、好きなだけ食べれるのよ」


「うっへへへぇ~……照れる」



 そうニヤけた笑みを浮かべたケーキバトラーの顔は、ちょっぴり溶けていた。

 恐らく嬉しさと恥ずかしさによる温度上昇、または感情の動きに影響してか微妙に生クリームが溶けた、みたいな状態なのだろう。

 髪とか濡れているのかと思うような感じでポタポタしてるし。


 ……異世界である地球的な視点から見たら、コレってホラーな光景なのでしょうね。


 自分からするとケーキの生クリームが柔らかくなっているのと同じにしか見えないが。



「ニーナは俺のコトをたぁっくさん食ってくれるからだぁい好きだぜ」


「あら、私だってケーキバトラーが大好きよ?アナタのお陰で演奏の依頼もイヤじゃなくなったし、アナタを食べてからだとテンションが上がってる分感情が乗った良い演奏だ、って報酬の値段も上がったもの!」


「そりゃあなにより。俺を食ってそんなに喜べるような結果が出せたってんなら、食用系魔物としても本望だ。死んでも良いってくらいにな」


「まだ私が食べるんだから死んじゃったら困るわよ?ところで昨日の演奏で貰ったお金でドコか行く?」


「ジョゼフィーヌのオススメでも聞いたらどうだ?俺達よりも詳しいだろ」


「ソレもそうね。ジョゼ、オススメはあるかしら?」


「エッ、ア、わたくしですの?」



 完全に二人きりの雰囲気になっていたのですっかり存在を忘れ去られたと思って油断していた。

 まだ本に集中するには早かったか。



「そうですわね……あ、わたくしの好きな恋愛要素ありの怪盗モノ小説なんですけれど、ソレが劇団で演じられてるんですの。かなりクオリティ高くて素敵に仕上がってるのでオススメですわ」


「もう見たの?」


「目が良いし原作知ってるからって理由で参考人として指導するコトになったんですのよ……」



 原作者にファンレターを送っていたのだが、ソコから翻訳家をやっているのと同一人物だとわかったらしく、そして相手も翻訳家である自分の名を知っていて、かつこの目のコトも知っているから是非協力してもらおう、となったらしい。

 確かに翻訳家として変な誤解をされたくないのでこの目については毎回前書きか後書きに載せているが、ソコからああなるとは思わなかった。


 ……まあ、役得だったので良いとしましょう。



「その後初日に二回と三日目一回と六日目に一回見ましたわ」


「ファンね」


「ファンだな」



 原作のファンだし、劇団はララの所属している劇団なので頻繁に通っている内に気付いたらそっちのファンにもなっていたのだ。

 つまり好きと好きのコラボという、ハンバーグカレーのような状態。

 チケットも何枚か貰ったのでそりゃ通う。



「……まあとにかく、貰ったチケットあるので差し上げますわ。良かったらどうぞ」



 ララ経由で自分の友人の多さを知ったらしく、是非宣伝してくれと劇団のヒトに沢山チケットを貰ったので惜しくはない。

 寧ろ異世界の自分が布教大事と叫んでいるのでチケットの殆どは友人にバラ撒いている。



「あら、良いの?チケット代が浮いちゃった」


「演奏の報酬をどう使おうかって話だったのにな」



 クスクスと笑う二人に、こちらも微笑む。



「ならそのままデートでもすれば良いんじゃありませんの?あと劇団ではちょっとした物販も行われていますから、ソコでお金を落としてくださいな」


「ジョゼ、翻訳以外にも仕事受け持ったら?」



 天使は余裕で三つ以上の仕事をこなせる上に仕事をする為に作られたものなので大概のコトは出来るのだ。

 つまり本気でやるコトになりそうだからフラグを立てるのは止めて欲しい。




ニーナ

スライム系の遺伝の為手足が沼のようにどろどろしており、スライムよりもちょっと水っぽい。

手足をキチンとしたカタチに構築するのが面倒なので基本的にはナメクジのように移動しているが、最近はケーキバトラーに抱き上げられて移動するコトが多い。


ケーキバトラー

カラフルでパステルなケーキの魔物であり、見た目はカラフルな執事。

腐らないとはいえ数年間売れ残りケーキの気分を味わっていた為、ニーナに喜んで食べてもらえるのであれば喜んで幾らでも尽くす!というような感じ。


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