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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
四年生
114/300

狐少女とシルバーカトラリー



 彼女の話をしよう。

 ルームメイトで、極東からの留学生で、狐系の混血な。

 これは、そんな彼女の物語。





 図書室から借りた本を持って自室に戻ると、部屋の中に極東風のドラゴンが居た。



「……ナニしてんですの?ヨウコ」


「あらら、やっぱりあっという間にバレちゃいましたね」



 ポンッという音と共に煙が現れ、部屋を埋め尽くしていたドラゴンが消えると同時にルームメイトのヨウコが立っていた。

 彼女は紅藤色の髪と同じ色の、遺伝故に生えている狐の耳と尻尾を揺らしながら楽しげに笑う。



「ふふ、ジョゼにはすぐに見抜かれちゃいます」


「いやまあ、わたくしの場合はこの目がありますもの」


「ソレにしたって、ですよ!私の家系、結構化かしが上手いから専門家にだって見抜かれるコトは滅多にありませんのに……」



 そう言われても、彼女が用いる化かしというのは化け狐流の化かしであり、要するに幻覚や錯覚タイプなのだ。

 実際にその姿に変化しているワケでは無く、相手の思考や視覚情報を惑わせるコトでまるで化けたかのように見せている、というモノである。

 要するに自分の目には幻覚も見えるが、その正体もレースカーテンの向こう側が透けて見えるような感じに()えてしまうのでヨウコだというコトがわかる、という感じだ。


 ……化けの技術は凄いんですけれどね。


 ナンの変哲もない葉っぱに魔力を込めるコトで、ソレをベースに化かすのが化け狐らしい。

 つまりは催眠術で使用される五円玉みたいなモノだろう。

 ちなみにヨウコの場合は自分を化かすコトで獣染みた動きを可能にさせたりも出来るので、かなりレベルの高い化かしが出来る、らしい。


 ……まあ、流石に極東の化かし云々についての詳細が掛かれた本はこの図書館にもありませんものね。


 というか化かされたという実録はあれど、化かし云々やそのレベルについての本が出版されていないという感じだが。

 毎度の如く自分に化かしを見抜かれたヨウコは、溜め息を吐きながら尻尾をゆらゆらと揺らした。



「……まあ、専門家と言ってもパチモン系が跋扈してたりするから要するに本物の専門家にはバレたりするんですが……」


「本物の専門家以外にバレないっていうのは普通に凄いコトじゃありませんの?」


「本物の専門家にバレた時点で一発アウトなんですよ!」



 そりゃ確かに。



「こないだなんて、狐系の混血の子連れてきた専門家が居て、本能的な縄張り争いみたいな感覚によって居場所バレたって弟から手紙来ましたし……」


「というか専門家と敵対するようなコトしてんですの?」


「いいえ?ただ化かしの訓練みたいなヤツですよ。探偵がゴミから相手を色々プロファイリングするみたいな感じで、化かすのを繰り返してどういうのが相手にバレにくい錯覚のさせ方か、みたいなのを探るんです」


「結構大変なんですのね」


「まあ、化かしが下手だと相手の脳に異常を発生させかねませんからね」


「コッワ!」



 確かに錯覚させたり幻覚を見せたりするのだから万が一があればそういう感じになるだろうが、超怖い。



「だからそういう化かしの試験があるんですよ」


「エッ、試験なんですの?」


「資格とか有段者とか、そういう感じの扱いですね。ただ時々専門家が周辺のヒトからの苦情で来たりするコトがありますが」


「アッそういう……」


「あとまあ、化かしたりしない系の狐には化かし試験の日程が知らされたりはしないので、まさかそういうタイプの狐の混血連れてきて本能的に所在を突き止めるとは……という感じでしたね、弟のは」



 弟さん、試験結果は結局どうなったのだろう。



「でも化かしって凄いですわよね、こう……煙がボフンって」


「ああ、ソレは化け狐流の化かしでの演出ですよ」


「演出」


「要するにそういう幻覚です。そういうのがあった方がヒトの脳を錯覚させやすいですし、華やかなんですよね。ホラ、あの煙が出ても煙たくは無いでしょう?」


「ああー……」



 通りで自分には薄く()えたワケだ。

 多分アレ、他のヒトには他にナニも見えないレベルの煙なのだろう。



「ん、あれ?化け狐流というコトは、他の化かし系は違う方法なんですの?」


「狸は嫌いです」


「エ?」


「あ、すみません……私の実家は昔に化け狸と大戦争起こした際に参加した家の一つなので、狸嫌いが細胞に刻まれていまして……つい」


「つい」



 ニッコリとしたトゲのある笑みで突然どうしたと思ったが、自分も悪に対しては戦闘系天使としての本能が剥き出しになるのでわからなくはない。

 多分ああいう感じのどうしてもコントロール出来ないアレなのだろう。



「……というか、大戦争?」


「あれ、極東の歴史本とか読みませんか?」


「読みますけれど、そんな記述ってありましたっけ……」


「あー、あー……もしかして人間の方の歴史ですか?」


「人間の方の?」


「ホラ、誕生の館が出来る前はヒトと魔物で公的な会話とかしなかったでしょう?近所付き合いならともかく、歴史についてを語ったりはしませんし……。

だから別物扱いになっているんです。ええと、こっちで言うと……同じ年代の戦争だけど戦ってる国が違うから名称とか別で、みたいな」


「あーあーあー」



 成る程、と頷く。

 西で起きた戦争と東で起きた戦争は別物、みたいなアレか。



「魔物に関してを取り扱ってる本棚はほぼ全部読んでるんですよね?」


「ええ」


「なら民族系の本棚にその辺があるかもしれません」


「成る程……今度探してみますわ」



 まさかそんな裏の戦いがあったとは、知らなかった。

 やはり現地のヒトに聞くと良い情報が聞けてありがたい。



「ところで、狐と狸の戦争ってどうして起こったんですの?」


「狐と狸というか、化け狐と化け狸の戦争なんですが……その、狸がですね?こっちは八化けで狐七化け、と馬鹿にしてきて……」



 ソレはバカにしている言葉なのか。

 異文化が凄くてよくわからない。



「で、狐側もその喧嘩を買ったんですの?」


「いや、その、事実ですよ?確かに狸の方が化けのバリエーション豊かなのは事実ですし、狐はありそうな化かしよりもビジュアルに全力出してる感ありますし……」



 ヨウコは目を逸らしながらそう言う。

 確かにさっきの極東風ドラゴンも中々に凝った見た目だった。


 ……要するに老けメイクも若返りメイクも出来る狸と、美しく魅せるメイクを得意とする狐、みたいなものなのでしょうけれど。


 ソレはもう化かしというジャンルは同じでも絶妙に土俵が違うのではないだろうか。

 ボクシングで例えるならバンタム級とミドル級でリングが違う、みたいな。

 まあボクシングに詳しくないので合っている説明かは知らんが。



「だから事実は事実ですけど、ソレを馬鹿にされるのは許せなかったんですよ!あの狸共なんて金玉袋で相手包んで幻覚見せるクセに!」


「エ゛ッ」



 今ナンかとんでもない言葉が。



「……金玉袋?」


「ハイ、狸はソレで化かすんです。ソレを広げて相手を包み込んで、春の陽気のような温かさで半分眠ったような状態にさせて化かすという……!美しさの欠片も無い!化かし方を!」


「どうどうどう」



 細胞に刻まれた狸への嫌悪感が溢れ出したらしいヨウコの喉を中心によしよしと撫でて落ち着かせる。

 自分も悪に対しては暴走しがちなので気持ちはわかる。

 そう思いつつ撫でていれば、ヨウコはすぐに落ち着いた。



「……まあ、そういう感じで戦争が勃発したんですよね。結構長く続いたらしいですよ」


「うわー……」


「終結は予想外かつ酷いオチだったそうですが」


「具体的には?」


「殺し合いというよりも化かし合いがメインみたいな感じで、他の妖怪……魔物に採点をさせた結果連日連夜酒臭いドンチャン騒ぎになったらしく」


「あらら」



 というか化かし合いコンテストみたいな感じだったのか。



「暇してた近所の神様とかも観客に参加したりして盛り上がって盛り上がって……そして周辺の方から百鬼夜行超怖いという通報で専門家が来て、詳細を説明した結果「無関係な周辺の方に迷惑掛けるな」と喧嘩両成敗で叱られたそうです」


「あ、ソコ退治とかはされませんのね?」


「最悪の場合は狐と狸の大将首取られる可能性があったそうなのですが、観客が多かったのとその中に神が複数居たので……」


「複数」


「ホラ、神って結構楽しいの大好きでお酒も大好きじゃないですか」


「大好きですわね……」



 父から聞いた話では確かにそういう話をよく聞いた。



「なのでコレ敵に回したら死ぬなと冷静に判断した専門家によるお説教が始まり、戦争はお開きになった、という感じらしいです」


「わかりやすかったですわ」


「えへへ」



 パチパチと拍手をすれば、ヨウコは照れ臭そうに笑った。

 ピルピルと動く耳と機嫌良さげに動く尻尾が可愛らしい。



「ただ、だからといって大団円になったワケじゃないので、一部こうして細胞に相手への嫌悪が刻まれてる家系は狸、または狐への嫌悪が凄まじいんですけどね」


「そうじゃない家系も居るんですのね」


「ハイ、そういう家系は普通に仲良くしてるみたいですよ。狐系は数が多いし神の使いをやってたりするのも多いくて情報通なので、自分で言うのもナンですが仲良くしてて損はありませんし」


「ヨウコの家系は?」


「細胞が嫌悪するのでどうにもならないんですよね……今は人間相手に客層広げてやっていて、狐は金銭的なアレコレが得意なので商売繁盛で結構お金持ちですが」


「ああ、狐の神は商売繁盛、でしたっけ」


「ソレと五穀豊穣も、ですね。細かく言うと病気治癒とか色々あるんですが、大まかに言うとその二つです。で、昔は食べ物沢山持ってるヒトがお金持ちって意味だったので」


「そりゃ富と縁がありますわよね」


「そういうコトです」



 ヨウコはクスクスと笑いながら頷く。

 異世界の自分曰く狐の神社にはよく名刺を置きに行ったそうなので、そりゃそんだけ富と縁があるなら恩恵を授かりたいと思うだろう、と自分も内心頷いた。





 執筆や勉強に用いている机に向かいながら兄から届いた手紙にうーんと唸っていると、背後からのしかかるようにヨウコが抱き着いてきた。



「どうかしたんですか?」


「ええ、ちょっと」



 最初は少し距離があったのに気付けばこんな距離になっていたなと思いつつ、兄の手紙に書かれていた内容を告げる。



「実はお兄様から、シルバーカトラリーという魔物を保護したと……」


「カトラリー……というコトは、スプーンやフォークの魔物ですか?」


「ああいえ食卓用の方では無く、刃物の総称としてのカトラリーですわね、この場合」


「?」


「ええと……要するに銀の魔物なんですのよ。で、刃物に変形可能っていう」


「成る程」



 納得したのか、うんうんとヨウコは頷いた。



「泥棒に盗難されて買い取られてはまた盗難され、みたいな感じであちこちを渡り歩いていたそうなんですが、今回アウトな売買をしていたというコトで現場が取り押さえられたコトで保護されたそうですわ。

ただ結構なゴーイングマイウェイ系の考えだし特にメンタルにダメージ入ってる様子も無いというコトで野に放すのが心配だ、と」


「メンタルにダメージが無いみたいならリリースしても良いんじゃないんですか?」


「や、お兄様がゴーイングマイウェイって書くってコトは多分相当我が強いんだと思いますわ……」


「ああ、そういう……」


「だからいっそ保護したりパートナーになってくれるような友人に心当たりはないか、っていう内容ですわね」



 ヒトの目があった方が安全だから、多種多様な生徒が通う学園に居る自分にこの手紙を送ったのだろう。

 姉はもう卒業しているし、弟は来年入学なのでまだ入学前だしで妥当だと思う。


 ……お姉さま、ダークストーンがパートナーになってから比較的手紙も読むようになったようですけれど、読まずに放置とか今でも結構やりますものねー……。


 世界中を旅して知り合いや友人を作りまくっているであろう姉だが、頼れるかというと微妙なので本当に妥当な判断だと思う。



「でもシルバーカトラリーを、というのは……どういうアピールすりゃ良いんですの?」


「困っちゃいますよね」



 ふふ、と苦笑するヨウコの顔を見て、ふと思いつく。



「ヨウコは?」


「エ?」


「ヨウコ、シルバーカトラリーを引き取る気ってありませんこと?」


「え、え、確かにパートナー居ませんしそろそろパートナーが欲しいなとは思ってましたけど……」



 うーん、とヨウコは悩んだ様子で耳を伏せる。



「泰西の魔物って、苦手なんですよね……」



 そう、ヨウコは極東の生まれであり商家タイプだ。

 人間の客層も増えたと言っていたが、ソレは要するにメインの客層は魔物だったというコト。

 なので極東の魔物については詳しいのだが、こちら側である泰西の魔物には不慣れで、どうしても見慣れないせいで苦手意識が出てしまうらしい。


 ……極東人の場合、見慣れないのに警戒しがちな国民性ありますしね。


 一部の図太さを思い出してあの辺は狂人なんだろうなと思いつつ、だからこそ、とヨウコに説明する。



「だからこそ、オススメですわ」


「オススメ?」


「銀は魔除けに用いられるコトが多いんですのよ。悪霊や害魔からの攻撃を防ぐとされていたり、不死系の害魔への決定打としてよく用いられたりしていましたから。

あとこの魔物の場合は刃物ならナニにでも変形可能なので化けるのが得意なアナタとは相性良いと思いますし、いざという時の武器にも」


「是非紹介してください」


「アッ反応早い」



 思った以上の反応の良さで、一瞬にして背後から横に移動したヨウコはこちらの手を取ってキラキラした目でそう言ってきた。

 そんなにも魔除け兼自衛手段となる存在が魅力的だったのか。





 コレはその後の話になるが、シルバーカトラリーは無事ヨウコに引き取られてパートナーになった。



「ふははは!ああモチロン、この僕に掛かれば貴様の守りくらいは容易いとも!

解放されたは良いがやたら距離を感じるのでコレはまさか自由になる間も無く封印コースかと思われた僕を助けてくれたも同然なのだ、貴様は安心して僕に身を任せると良い!」



 自分で浮いての移動が可能なシルバーカトラリーは、ナイフの姿で胸を張るようにそう言っていた。



「いやあ、シルバーカトラリーが来てくれてからは安心感が違いますね。

この学園の生徒って私の化かしを見抜くヒトが多くて地味に自信を無くしてたから、森で害魔に出会ったり王都で変態に出会ったらどうしようと思ってあまり出歩けませんでしたが……安心して出歩けるというのは良いコトです」


「変態なんてそうそう出会いませんわよ」


「ジョゼがこの四年間で仕留めた悪人の数は?」


「えーと、あー、あはは……」



 ニッコリとした笑顔で言われた言葉に両手で数えてみるものの、バーサーカー状態で数をまともに覚えていないし、覚えている悪人の数が両手を超えたので数えるのを止めて笑って誤魔化す。

 こういう時は諦めが肝心だ。



「ナンだ、ジョゼフィーヌ。貴様そんなにも変態と縁があるのか?」


「変態と縁があるって言い方はイヤですわね……悪人と接触するとうっかりわたくしがバーサクするってだけですわ。治安向上に一役買ってるんですから良いんですのよ、多分」


「多分」


「多分なのか」


「放っといてくださいまし!」



 性格的な相性は実際合ってみないコトにはわからないなと最初は思っていたが、ヨウコとシルバーカトラリーの性格は意外にもかみ合っているようで、こういう時にやたらコンビネーションを発揮してくるのは止めて欲しい。



「まあ僕は魔除けも兼ねている、というか元々退治人……今で言う狩人か?の、武器として作られているからな」


「そうなんですか?」


「うむ。変形も出来るし隠し持ちやすいから重宝されたのだが、退治人の死後に盗難されてな。色々と見て回った結果目撃した血生臭いやり取りを今度声真似しながら伝えようか?」


「ちょっと面白そうですね、ソレ」


「わたくしもソレちょっと気になりますわ」



 血生臭すぎるのはちょっと勘弁だが、声真似しながらの辺りでギャグ調にしてくれるっぽいのが察せたのでちょっぴり興味が湧いた。

 恐らくヨウコも同じだろう。



「……む?僕はナンの話をしていたのだったか」


「魔除け云々でしたよ」


「ああそうそう、助かったぞヨウコ。そういうワケで僕は魔除けとして作られているが、まあ基本的に昔の魔の扱いというのは悪であり、要するに僕は悪除けという側面もある、というコトだ」


「つまり私は悪も寄ってこないようになり安全だ、というコトですね?」


「そうなるな」


「エッうらやましい」


「だからジョゼフィーヌもそういうパートナーが出来れば良いな、と言おうとしたのだ。うむ、思い出せてスッキリしたぞ」



 シルバーカトラリーはスッキリした様子でご機嫌だが、無理を言う。



「……わたくしだって、そういうパートナーが出来て欲しいものですわ……」



 そもそも今のトコロ一切のフラグが無いのだが。

 本当、早くパートナーが欲しいモノだ。




ヨウコ

名前は漢字で書くと葉子という漢字。

魔力を込めた葉っぱを見せるコトで対象に幻覚を見せ、化かすコトが出来る混血。


シルバーカトラリー

様々な刃物に姿を変えられる銀の魔物。

比較的ゴーイングマイウェイだが、狂人の中に放り込むとかなりまともなのがわかるくらいには常識もある。


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