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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
一年生
11/300

執着少年とぺちゃくちゃフラワー



 彼の話をしよう。

 情熱的で、サッパリしていて、けれど愛が重い。

 これは、そんな彼の物語。





 ボックスダイスがランヴァルド司書のパートナーになってから、生徒達の図書室利用率が上がった。

 ソレ自体は良いコトなのだが、その結果本を探す為に生徒がボックスダイスに話し掛け、ランヴァルド司書が面白半分に口を挟んで低音テロが発生する、というコトが何度かあった。

 正直前よりも巻き添え被害が増えた気がするので、最近は談話室で本を読むコトにしている。


 ……まあ、初心者向けの図鑑は大体読めましたしね。


 子供向け、かつ大衆向けの図鑑の場合、種族と種類と名称、そして簡易的な説明と大きめのイラストがメインで読みやすい。

 が、最近はソレらも大体読み終わったので、少し時間が掛かる、説明が丁寧な図鑑にシフトチェンジしていたのだ。


 ……考えようによっては、良いタイミングですわね。


 自分の場合は他国語もこの目がオートでルビを振ってくれるので、どの国の本でも読める。

 その分他のヒトより読む量は多かったが、充実しているので問題は無い。


 ……ありがたいコトですわよね。


 この目の良さは診断してくれた医者や保険医によると後天的なモノらしいが、害は無いようなのでありがたく利用させてもらっている。

 何故自分の目にこういった機能が付与されているかはまったくもって不明だが、問題が無いなら普通に使う。ソレがアンノウンワールドクオリティだ。



「すまない、ジョゼフィーヌ!見る限り今は読書で忙しいようだが、少し君の時間を俺にくれないだろうか!」



 頭の端の方でそんなコトを考えつつ詳細な説明が載っている図鑑を読んでいると、同級生にそう声を掛けられた。



「……貸して、じゃないんですの?」


「流石に借りた時間は返せない!」


「ごもっともですわ」



 コレはまた読書タイムが無くなったなと判断し、パタンと図鑑を閉じる。



「向かいの席、失礼させてもらうぞ」



 そう言って向かいの席に座ったのは、朱色の髪のマウリッツだ。

 サバサバしているというか、イエスとノーがハッキリしているヒト、という印象。

 ソコまで会話した覚えは無いのだが、読書中だとわかった上で彼が話しかけて来たというコトは、それなりに早く済ませたい用事があるのだろう。



「……ソレで、マウリッツは一体わたくしにナンの用ですの?」


「ああ、ソレなんだが……」



 マウリッツは顔の前で手を組み、真面目な顔で言う。



「パートナーが欲しいんだ」


「ハイ解散」


「待ってくれ!」



 ソッコで席を立とうとしたら、全力で服を掴んで止められた。

 特殊な生地なので伸びたり破れても直るだろうが、進んでモノを粗末にする気は無い。



「……仕方ありませんわね」



 渋々と椅子に座り直す。



「で?パートナーが欲しいのはわたくしもそうですけれど、どうしてわたくしにソレを聞きますの?他のパートナー持ちに聞きなさいな」


「その「他のパートナー持ち」に聞いた結果、とりあえず魔物に関してはジョゼフィーヌが詳しい、と言われた」


「誰ですのそんなコト言ったの」



 心当たりがそれなりにある。



「面倒事を押し付けたと思われるのが嫌なので匿名扱いでと言われたから俺は言えない!」


「面倒事を押し付けた自覚があるんですのね、その方々……」



 というかマウリッツは思いっきり面倒事扱いをされているのだが良いのだろうか。

 特に気にしていないようなので良いのだろう。



「ソレで、パートナーが欲しいって……その内出会うだろうって思って、そのいつかを待とうとは思いませんでしたの?」


「そう、ソコに問題があるんだ」



 マウリッツは真面目な顔で言う。



「俺は自分で言うのもナンだが、愛が重い。自覚があるレベルで」


「……ほう」



 このアンノウンワールドでの愛が重いは、つまりヤンデレ級の重さという意味を持つ。

 しかも場合によってはヤンデレ方面では無く物理的に重い場合もあり得るので、コレは真面目に聞くべきかもしれない。巻き添え被害はごめんだ。



「まず聞きますけれど、ソレはメンタル的に?物理的に?」


「メンタル的にだな。好きなヒトが出来たら、と考えたら思考がやたら暴走するから自覚した」



 ……自覚するレベルの思考の暴走とか恐ろし過ぎますわー!


 いや、だが物理的で無いだけマシだと思おう。

 物理的に愛が重いと相手が圧死しかねない。



「……具体的には?」


「自分だけを見てて欲しいし他は見ないで欲しいし自分以外と会話して欲しく無い。……というのが延々と頭の中を巡って最終的に「コレはもうパートナーが出来たらソッコで心中するしかないのでは?」となるレベル」


「ウワッ」



 思ったよりも重傷だった。

 いや、アンノウンワールド基準で考えると愛が重いランクではまだ中級。簡単普通難しい鬼の四つに分類するなら普通枠。つまりセーフっちゃセーフですの。



「ハァ……そんな俺の愛を受け止めてくれるパートナーが欲しい」



 思わず素でドン引きしてしまったが、その反応をされるのは想定内だったのか、マウリッツは特にソレには反応せず、ただただ自分の愛の重さに落ち込んだように顔を覆った。



「だから魔物に詳しいジョゼフィーヌに聞きたいんだ。常に愛を囁いて束縛しても受け入れてくれるような魔物に心当たりはないか?」


「あると思いますの?」


「思う!」



 ……そうハッキリと断言されても困りますわー!



「出来れば粘着質な愛も平気な魔物が良いんだ!」


「いやもう自覚あるなら普通にソレをコントロールするとか」


「無理だ。考えるだけでこうなるのに、本当に好きな相手を前にしたらソッコでコントロール機能は消失する」


「もうちょっと頑張ってくださいまし」



 だが諦める時はソッコで諦めるのもアンノウンワールドだ。

 世の中根性ではどうにもならないコトもある。



「というか、そういう魔物が居るとして、その魔物を愛せますの?好みの見た目とかでは無いかもしれませんのよ?」


「俺の愛を全力で向けて良い相手であればナニが相手だろうと愛を向けるが」



 真顔怖い。



「寧ろこの愛を俺の中に抑え込むのが厳しくなってきたから、こうしてジョゼフィーヌに聞きに来たんだ」


「コッワ」



 真顔と淡々とした声本当に怖い。



「とは言っても……愛が重かったり執着が強い魔物もそれなりに居るは居ますが、だからといって近くに居るかどうかは別問題ですのよね」



 あとマウリッツの様子を()た感じだと、同じようなタイプとは相性が悪そうというのもある。

 恐らく愛したいのは事実であり、愛を受け入れた上で返して欲しいのも事実なのだとは思うが、しかし自分と同じだけの愛を返して欲しいとは思っていないのがわかる。

 自分の重い愛を受け入れて、そして受け止めてくれるか、が重要事項。

 なので恐らく、同じように愛が重いタイプの場合、お互いがお互いに過干渉過ぎて変な膠着状態になる可能性がある。

 綱引き状態になってはお互い疲れるだけで進まないし、やはり押した分だけ引いてくれる……コレだと少々マズイか。押した分だけ引くタイプは時間が経つと共に泥沼化しかねない。


 ……なら、受け流してくれるようなの……。



「…………もう、花とかどうですの?」


「花?」



 自分の頭に浮かんだのは竹だったが、つまりは風が吹こうが足に踏まれようがワリとタフに回復する植物などが良いのでは?という結論に至った。



「花は愛情が必要不可欠と聞いたコトがありますし、受け止めるコトは出来ると思いますわ。植物系魔物をパートナーにする、というのもアリですが……普通に花を育てる、というのも良いのでは?」



 ただの花が相手だとしても、少なくとも愛の吐き出し口にはなる。



「植物用魔物の中にはその辺の花屋で取り扱われている魔物も居るし、普通の花でも魔物でも、どちらでも良いと思いますわ」



 実際、喋る相手が欲しいヒト用の観葉植物魔物は存在する。

 基本的には魔物なので、花屋が育てて売っているというより、その魔物に成長する種を売りモノとして取り扱っている、というのが正しいが。

 だがまあ、花系の魔物は構われたがりも多いと図鑑に載っていたので、相性としては悪く無いと思われる。


 ……酒木みたいに自立歩行が可能な植物系魔物も居ますけれど、足が根っこだからと動けない植物系魔物も、一定数居ますしね。


 束縛が強いなら、移動しないタイプを選べば良いだけだ。



「……成る程、確かに良いかもしれない!逃げそうにも無いし!」



 ……逃げられる可能性、視野に入れるレベルの愛なんですのね。



「それじゃあ、後でペネロペのお家のお店に行って、愛を受け入れてくれるかもしれない花を聞くと良いと思いますわ」


「ペネロペの?」



 怪訝そうに眉を寄せたマウリッツに頷く。



「ええ。アナタはあまり彼女と話したコトは無いと思いますけれど、彼女の家、花屋なんですの」



 そう、ペネロペはこの王都で花屋をしている一家の娘だ。

 談話室にある時計を確認すれば、もう少しで彼女が帰って家の手伝いをする時間。



「後で花屋に行って、聞いてみれば答えてくれると……」



 そう言い切る前に、周囲をキョロキョロと見渡していたマウリッツが、ナニかに気付いたように顔を輝かせる。



「居た!」


「え?」



 マウリッツが見ている方向には、確かにペネロペが居た。

 空色の髪の彼女は、談話室の中でもヒト気が少ない端の方に座っている。



「そういう花か魔物の種がないか、聞いてくる!」


「あ、ちょっと!?」


「すまないペネロペ!少々聞きたいコトがあるのだが!」



 手を伸ばして捕まえようとしたものの、思ったより素早い動きをされたせいで手が掠っただけに終わった。

 そして止めるのも間に合わず、マウリッツはツカツカと真っ直ぐにペネロペに近付き、声を掛けてしまった。



「……え」



 声を掛けられたペネロペが、呆然とそう零す。



「もしや忙しかったか?ソレはすまなかった。だが俺は少々君に聞きたいコトが……」


「……ヒッ」



 マウリッツが言い切る前に、喉を引き攣らせたペネロペは、酷く怯えた表情でその見た目をただの箱へとグニャリと変形させた。

 ペネロペだった姿は箱になり、さっきまでペネロペが座っていたソファにポスンという音を立てて転がる。



「……マウリッツ、アナタ、行動が迅速過ぎるのをどうにかすべきですわね」


「す、すまない」



 先程の本気で怯えられた顔が流石にショックだったのか、マウリッツはうろたえたようにそう謝罪した。



「先程わたくしがソッコでペネロペに話し掛けるのではなく、後で花屋に行くようにと言ったのには理由がありましたのよ?」


「……そういえば、ジョゼフィーヌは目が良かったんだったな」


「ええ」



 そう、ペネロペがこの談話室に居るのは気付いていた。

 だというのに後で花屋に行けと言ったのには、理由がある。



「彼女、怖がりなんですのよね」



 言い方を変えると臆病、またはビビリなタイプ。



「花屋での接客時はまだ平気みたいなんですけれど、そうじゃない時は警戒心も強めですわ。初対面ならまずある程度距離を保った上で声を掛けないと、こうやって擬態してしまいますの」



 ペネロペは魔物との混血だ。

 親がシェイプシフターであり、わかりやすく言うならミミックのように擬態する魔物。

 ミミックの場合はトラップとして箱に擬態しているが、彼女の場合は、恐怖から身を守る為に擬態する。


 ……まあ、気配を消して背景になるようなモノですわね。



「彼女、声が大きいのとかも苦手ですから、マウリッツのようなタイプは特に苦手なんですのよ……」


「成る程、だからあまり会話したコトも……というか、接触するコト自体が少なかったのか」



 そう、マウリッツとはあまり話したコトは無いだろうというのも、そういうコトだ。

 基本的にペネロペは誰かと接触するのがあまり得意では無いので、気付いたら居なくて、気付いたら居るというコトが多い。



「まあ、声を掛けた以上は仕方ありませんものね。後で花屋に聞きに行って動揺させるのもペネロペのメンタルにダメージ入りそうですし」



 そう言って箱に擬態し無言を貫くペネロペに近付きつつ、自分はマウリッツに少し距離を取れとジェスチャーしてみせる。



「わたくしが聞いてみますから、アナタはソコの椅子にでも座っててくださいな。一回怯えられた以上は、五人から十人分くらいのスペースをあけないとずっとそちらを警戒しちゃいますもの」


「あ、ああ。本当にすまなかった。配慮が足りなかった」


「良いから」



 ソッコであっち行けと手でジェスチャーすると、マウリッツは大人しく距離があいている席へと座った。

 ソレを確認してから、自分は箱へと話し掛ける。



「ペネロペ、聞いていましたわよね?彼はもう距離を取りましたわ。……そして大変申し訳ないんですけれども、少々聞きたいコトがありますの。花関連の話なので、結局後で花屋に顔を見せる可能性を考えると、今の内に済ませた方が良いとも思いまして……」


「…………」



 そう言うと、まだ多少怯えた様子は残っているが、ペネロペは擬態を解いた。



「……そ、その、ジョゼフィーヌさん、が、話してくれる……ん、だよね……?」



 マウリッツの方をチラチラと見ながらそう言うペネロペに、自分の配慮が足りなかったなと反省する。


 ……まさかマウリッツがアソコまで行動力高いとは思っていませんでしたものね。



「ええ、わたくしが話しますわ。……と言っても単純で、彼はパートナーが欲しいけれど自分の愛が重いので、受け入れてくれるような花はあるだろうか、という質問ですわ」


「……あ、だから、私……?」


「そうですの」



 絡まれたのでは無く、本当にただ純粋に実家が花屋だから、その知識が目的で話し掛けられたのだと理解し、ペネロペが強張っていた体から少し力を抜いたのが()えた。



「えっと、でも……魔物の種って、ウチの店ではあんまり取り扱ってなくて……その」


「ゆっくりで構いませんわよ」



 焦りかけていたペネロペにそう言うと、ペネロペは安心したように呼吸を整えた。



「……だから、その、基本的に植物系の魔物……は、構ってもらうの好き、だから、ナンでも良いと思う、ケド、魔物の種だから……ちょっと、高いよ」


「あー……その問題もありましたわね」



 まあ高いとは言っても子供からすればなので、マウリッツなら力もあるしコミュ力も高いし、バイトしようと思って実行すればすぐ貯まるとは思うが。



「……あの、でも、ね?その、丁度、私、今、ケイト先生に聞こうとして持って来てた、魔物の種……が、あって、ね?その、良かったら、ソレ……どうかな、って」


「あら、でもソレ、良いんですの?」


「ん、うん」



 ぎこちなくだが、ペネロペは頷いた。



「種類、わからなかったから、ケイト先生に聞こう……として、持って来たんだけ、ど、どの魔物になるか、わからない、ランダムシードだって言われて……」


「ああ……確かにランダムシードの場合、ナニに育つか判断が出来ないと図鑑に書いてありましたわね」



 ランダムシードは、要するにランダム封入されたトレーディングカードゲームの植物系魔物バージョンと思うとわかりやすい。ガチャで考えても大体合ってる。

 要するに、ランダムシードという種のカタチでありながら、ソコから育つ植物系魔物の種類はランダムなのだ。

 それぞれの植物系魔物の種とはまったく違うというのに、何故かその魔物になったりするという不思議だらけの種である。


 ……ランダム性があるからか、透視や魔法などでもナニに育つか見抜けませんのよねー。


 調べたヒト曰く、埋めたタイミングや水の量、話しかけた声とか気温とかその他諸々でナニになるかが変化するらしい。

 つまり規則性が無いスロットのような、ナニが出るかまったくの不明という特殊な種だ。



「その、おっきな音が出るようなのだと、怖いし……元々、魔物の種かもわからなかったから、聞きにきただけ、だし……ウチの店、魔物の種、あんま取り扱わないから……」


「ああ……本当はわかった時点でケイト植物教師に渡そうとしたんですのね?」


「……うん。でも、魔物系は酒木、さん、しか取り扱ってない……って、言われて……持って帰るの、ヤだったから……その、怯えちゃった、し……良かったら」



 そう言って、ペネロペはランダムシードを渡してくれた。



「ありがとう」


「い、や……こっちも、その、ありがとう……。あと、ごめんね、って…………それ、じゃ」



 言うだけ言ってから、ペネロペはそそくさと談話室を出て行った。

 ヒトとの会話もあまり得意では無い子だし、談話室に居るのが珍しいくらいにはヒトの気配も得意では無い子だ。

 ヒトが多い談話室で、いきなり苦手なタイプに話しかけられ、その苦手なタイプに見られながらの会話は、相当メンタルを削ったコトだろう。


 ……お菓子でも差し入れるべきかもしれませんわね。


 ソレは後で考えるとして、とりあえず今は第一目標を突破だ。



「マウリッツ、聞こえてました?」


「いやまったく」



 ペネロペの声は小さかったから、距離を取っていたマウリッツでは聞こえないのも無理はない。



「では端的に説明しますと、こちらが魔物に育つ種ですの。ただランダムシードという種なので、ナニに育つかは不明ですわ。まあ鉢植えに植えて水をやれば育ちますので、難易度自体は低めだと思いますわよ」


「さっき受け取っていたのはソレか!いや、でもソレは受け取って良いのか?代金などは……」


「持っているのもアレな感じらしくて、ありがとう、とごめんね、と言ってましたわ。お礼は種を貰ってくれるコトに関して、謝罪は怯えてしまったコトに対してですの」



 そう説明しながら、マウリッツに種を持たせる。



「お詫びでもあるようなので、受け取って大事に育ててくださいな。愛、注ぐんでしょう?」


「……ああ!早速ケイト先生のトコロに行って鉢植えとかを貰ってくる!ありがとうな、ジョゼフィーヌ!」


「どういたしましてー」



 自分が言い切る前にマウリッツは既に談話室を出ていたが、まあ良いか。





 コレはその後の話になるが、あの後、マウリッツはランダムシードを育て始めた。

 鉢植えを抱きかかえながら中庭で愛を語り続ける姿は中々にヤバイ姿だったが、しかしアンノウンワールド基準ではそれなりにある光景だ。

 そんな光景がそれなりにあるとか世も末だなと思わなくも無いが、心が広いのだと思った方がメンタルへのダメージは少ない。

 ソレはともかくとして、マウリッツは愛を注いだ。

 朝から晩まで愛を注ぎ、同室の生徒が胸焼けを起こすレベルで愛を語った。

 その結果、無事にランダムシードは開花した。



「もう、酷いと思わない?マウリッツったら、私がアナタと話すのすらヤキモチを焼くんだもの!女の子には女の子同士の会話が必要不可欠だって何度も言ってるのに!」


「そうですわねー」



 あのランダムシードは、ぺちゃくちゃフラワーという魔物になった。

 黄緑色の花びらを持つこのぺちゃくちゃフラワーは、動いたりはするものの移動は出来ないタイプの魔物だ。

 中心にデフォルメされたような顔があり、その顔は悩みがあるヒトのように溜め息を吐く。



「そりゃ私だってマウリッツのコトは大好きよ?ええ、アレだけ愛を囁かれたんですもの、そりゃ私だってマウリッツが大好きになるわ。でもソレはソレ!プライベートで女友達と話すのは大事でしょ?!なのにマウリッツったら!」


「あ」



 机を手で叩くかのように葉っぱを動かしながらそう愚痴っていたぺちゃくちゃフラワーだったが、その背後から近付くヒトが居た。



「酷いコトを言うな、ぺちゃくちゃフラワー。俺はただ、君が怪我でもしないかが心配なだけだ!」



 いつも通りの表情でそう言うのは、少しトイレに行くから頼むと言って席を外していたマウリッツだ。



「だから私は怪我なんてしないって言ってるじゃない」


「いや、君はそう思うかもしれないが、もしナニかあったらと思うと俺は心配で心配で堪らないんだ。ソレに君が無事でも、君が入っている鉢植えにナニかあったら、ソレはもう君に一大事が起きたのと同義だろう?」


「違う鉢植えにアナタが移動させてくれれば問題は無いわ。そりゃアナタが私の為にって飾り付けてくれてるこの鉢植えが割れたら私だって嫌だけど、その時は新しい鉢植えをまた飾り付けてもらうだけだもの」


「モチロンそのくらいは当然やらせてもらうけれど!」



 そう言い、マウリッツはぺちゃくちゃフラワーの鉢植えを抱える。



「だが、君にナニかあるのが嫌なんだ。正直に言って、君が俺以外の誰かと話すのだって嫌だ。どうしてその笑顔を他のヤツにまで見せるんだと思うし、俺以外が君の声を聞くのも嫌だし、俺は君の中で唯一無二の特別で居たい」


「充分今でも特別じゃない」


「そうだが!確かにそうなんだが!でも出来ればジョゼフィーヌとも話して欲しくない!」


「ソレは却下よ!私だって誰かとお喋りしたいのに、アナタが男とは喋るなって言うから喋らないようにしてるのよ?なのに最近は女の子と喋るコトすら嫌そうにしてるから、出来るだけジョゼフィーヌとだけ話すようにしてるのに」


「そう!なん!だが!」



 ……あー、今わたくし、絶対目が死んでますわね……。


 色々と相談に乗ったからか、マウリッツの中で自分は安全牌らしい。

 なのでよくぺちゃくちゃフラワーを預けられたりもするのだが、その度にコレだ。

 マウリッツの独占欲は思ったより強い。


 ……まあ、種の頃から愛を囁かれていたお陰で、ぺちゃくちゃフラワーがソレに耐性あるのがなによりの救いですわね。



「でもねマウリッツ、会話は大事よ?私が話し好きっていうのもあるけど、話すコトで色々なコトを知れるんだから。女の子と話すっていうのは、その時の流行がわかるからとっても大事。そして出来れば男子とも話したいわ。だって男子の好みがわかれば、より一層アナタ好みになれるのよ?」


「もう充分に俺好みだ!確かにぺちゃくちゃフラワーが楽しそうだし、ソレが俺の為なら尚嬉しい!だが俺は俺以外知らず俺以外の存在を感じさせないままで居て欲しい!」


「無理ね」


「わかっている!だから女子との会話は嫉妬の余り血涙が出そうでも許可してるんだ!」



 ……実際に何度か血涙流してたので、シャレになりませんわー……。



「……ところで、わたくし席を外してもよろしくて?」


「ジョゼフィーヌはソコに居てくれ!」


「この話が纏ったらまたお話再開するから待ってて!」



 ……そう言って、この会話が纏ったコトありませんのよー……。


 だが何故かこちらにまで話をちゃんと聞くように言ってくるので、本を開くコトも出来ず、通算もう何度目かわからない痴話喧嘩を聞きつつ、現実逃避をするしかない。

 パートナーとしては相性良いし、ラブラブではあるのだが、こうして答えの出ないコトを話す時に毎回自分を巻き込むのだけは止めてくれないだろうか。




マウリッツ

情熱的で少年漫画のような性格だが愛が重い。

湿度が無いのに粘着的かつ執着強めという不思議なヤンデレ。


ぺちゃくちゃフラワー

その名の通りお喋り大好きな花の魔物。

種の頃から重い愛を与えられているので耐性が出来ている。


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