設計少女とトークポストカード
ルビを多用しているので多分かなり読みにくいです。
彼女の話をしよう。
幼い頃に高熱を出し、母音しか発音出来なくなったが、魔道具に対して凄まじい理解力を有する。
これは、そんな彼女の物語。
・
ふと、図書室の一角に積まれた本の山が視界に入った。
その本の山に囲まれながら、同級生であるボーナがガリガリとペンを紙に走らせていた。
「ボーナ、また設計図ですの?」
「おう」
「魔道具?」
「おいおう、ああいおえいあえいあいい」
「充分過ぎる程だと思いますけれど……」
ボーナは幼少期に高熱を出したらしく、その後遺症で発音があ行のみになっている。
まあ自分は字幕が視えるので会話に問題は無いが。
……発音以外にもう一つを除いて、ボーナに後遺症ありませんしね。
そんなボーナは魔道具関係の才能に長けており、その才能は生まれつきのモノらしい。
ボーナ曰く、まだ慣れていない頃にその才能を全力でフル回転させていたせいで高熱が出たんじゃないか、と思っているそうだが。
「今度のはナンですの?」
「ううう、おうおおあうおいあお?えうあうおうおあおううあうあああ!」
「連絡用?」
「いああえおあおううあおいあおおういうおうういあうおうああいっあいううああい?うういあうあっあいおあ……」
「なりますわね」
「おえいおあおあおううおあおうおおおっあいあっえおうえういあっあいううああ、おういうおああいあおううおえっえいおいえうお!あうあいいうおいあああえいえおうえういあいあおうあおあういういうう、うっういおあおうあおうあおいおいおええーっええ」
「成る程、まずは作り上げてから改良を重ねると」
「おう!」
ボーナはニコニコと笑いながら頷いた。
見せてもらうと、設計図は凄く細かい図形と文字がビッチリと書き込まれていた。
「……凄いですわねー」
「おおいえいあっえうえお、おえっえあおううおうおういあえあっえ?」
「んー、魔力の流れとかは視えるので感覚でガガガッとやって良いならイケるんですのよ。ただ機械の授業とかみたいな、立体的な組み立てとかは微妙ですわね。ヤバいかどうかはわかるから致命的な失敗はしませんけれど」
「ううううおういっえいっあっえいいうああいお?おえ。ああいあっえあうえいえあっえううあああ、あうえいえいえうああおええいいああい。おおおおああいおえっえいうえうおういあいあおおあうい」
「アレ、設計図だけでしたっけアナタ」
「おあおあいあいえいうえお、ああいあえっえいううあうっえいあおおいいおえうええうえおうえいおうあえおおおううああいえいいうああおうおおおえあえあうおおえ」
「あー」
確かにこの設計図を見ても、生徒が自作出来るかと言われると相当慣れている生徒じゃないと無理だろうという感じだ。
というか魔道具の授業は中の上レベルの成績である自分からしてもまったく理解できない。
……いえまあ、わたくしの場合は実技よりも知識でカバーしてる部分が多いですものね。
「ああ、えっあうああああうおういいあいえいあおおおあういううえいあおおおあおおうおうおおいいおおえ」
ボーナはチラチラとこちらを見ながらそう言う。
「……まあ確かに、魔道具は魔力を流すコトで魔法染みた性能を発揮する道具のコトですから、ワリと構造が似てたりもしますけれど」
「えおえお?あああおえあい!ああうおえうあっえ!」
「んなモン自分で探せば良いじゃありませんの」
「あっえおっううあいうおあえいいああおうおうおあいいあっあっえいいあっあっえ……おあいあういううういあっえいうおういあうっえああいおおおええあうえういおいうああええ、えうおあえいっえおっううあいうえおえっおういういいあえあっあお」
「うっわとんでもないやらかし」
「ああっえうあおー!」
この膨大な蔵書数の図書室に入荷された検索機能を自ら使えなくするとは。
流石に引いたが、ボーナもそのやらかした感はわかっているらしく拗ねたようにそう言った。
「あおいっえああおいうああえあうあいああいおいおいえあいえお?」
「いえまあボックスダイスに迷惑掛けないのであればうーん……」
ランヴァルド司書は愉快犯みたいなトコもあり、自分の低音でヒトの腰が砕けるのを面白がっているコトも多いので期待は出来ない。
というか普通に話していても腰砕けになるので、面白がられても面白がられてなくてもどっちにしろ聞くという選択肢は無さそうだ。
「おあ」
ランヴァルド司書に聞けばと言おうとして言い切れなかった部分を指摘された。
……ぐうの音も出ませんわー。
「えおおえああおおおおいういあうあおおあうえいおおう、あいあいおうえうえお?」
「まあ、一年の頃に……」
読んだは読んだが、一年の頃に詰め込んだせいで微妙に記述を忘れていたりもするという事実。
「って、ああ、成る程。だからわたくしに聞いたんですのね?」
「おう!あおううあうえいおおうああうあいいうあえお、あおおあうえいおああっえうあういあいあああおおおういうおうあおああうあいおおえ。あああおえあおえああういあう!っえあいおあうおおえうおうおいええ!」
「ボーナが知りたいのは生態とかが詳しい専門的な方ですし……そうですわね、一度読んだヒトに聞くのは正解だと思いますわ。
じゃあとりあえず、まずはここに積み上げられた本で読み終わってもう良いって本教えてくださいな。ついでに戻しましょう」
「ええ!」
「その前に」
突然の低音に、丁度立ち上がったトコロだった自分とボーナの腰が砕けた。
先ほどからこちらをじっと見ていたランヴァルド司書は、とても楽しそうな笑顔を浮かべながらあの低音を放つ口を開く。
「図書室ではもう少し声を控えてくれると嬉しいな」
「ハイ……!」
「おえうああい……!」
突然の低音に、流れ弾が当たって腰砕けになっていく周囲の先輩後輩同級生の姿に申し訳ないと内心頭を下げつつ謝罪する。
正直自分は図書室でのデフォ小声を貫いていたのだが、盛り上がっていたボーナの少し大きめな声にストップを掛けなかったのも事実なので仕方がない。
・
とりあえずオススメの本を借りてから、図書室を出てボーナの自室へと移動した。
注意されておいて長居をしたりは流石に出来ない。
「あら、結構整ってるんですのね」
「おういうえああおおおっえあおお」
「設計図で床の踏み場も無い部屋」
「……ああ、いっああえあおうあっあえお、あうあいうーうえいおいあういあっえおおっえ……えっえいういうううおーおああおういいおおっあううあういおういいああ」
「正気に戻ったのが早いのか遅いのかわかりませんけれど……ルームメイトって誰でしたっけ?」
「いあお。いあおあーおあーえあういっういあーあっおああああいおいっえうおおあおいいおえうああっえおおえうーうえいおいあっあいあい」
「成る程」
そして周囲を赤く染めてしまうリナの特性上、メンタルが強いヒトがルームメイトに選ばれたのだろう。
具体的にはほぼ毎日赤く染まる部屋とかに居ても平常心を保てるタイプ。
……普通のヒトなら真っ赤な部屋に住むとか、完全に心を病みますものね。
リナ本人は完全に病んだ状態だが、辛うじてビッグイヤーキャットセラピーがあるので今は結構大丈夫そうだ。
パートナーが出来る前に比べれば、初期の町付近に出るモンスターとラスボス前の町付近に出るモンスターの強さくらい違う。
「お、ああいあ~」
「お帰りなさい、ボーナ」
「……ん?」
ボーナが声を掛けた方を見ると、ソコにはポストカードがあった。
極東風のポストカードで、極東の侍が描かれている。
……魔物、ですわね。
ポストカードの中で、絵で出来ているハズの侍が動いていた。
「あの、ボーナ?そちらは?」
「ああおおおうおあーお?おおおあえ、ああいおいえううえいあいいっあうえおあおううえあい、あおお!おおあおおーうおうおあーおお!……ああ、えいえいあうあうあえうえいあえお」
「第一作目……」
トークポストカードに視線を向ければ、彼はポストカードの中からペコリとお辞儀をしてくれた。
「初めまして、ボーナの友人さん」
「ああ、どうも初めまして」
「う?」
こちらからもお辞儀を返すと、ボーナは不思議そうに首を傾げた。
「おいあいえ、おーうおうおあーおああいあいっあ?」
「ええ、挨拶をしてくれましたわ」
「えー、いいあえあいあう。ああいおおーうおうおあーおおああいあいうあえお、おおいいあおお」
ボーナは溜め息を吐きながら耳に触れた。
そう、ボーナは発音以外に、聴覚にも後遺症が残っている。
ソレは魔物の声が聞こえない、というものだ。
……人間や混血の声は聞こえるようですけれど。
しかし魔物の声はまったく聞こえないらしい。
ボックスダイスに検索を頼んだり質問をしたりという時も、近くに居たのだろうランヴァルド司書に通訳を頼んだのだろう。
そりゃボックスダイスへの接触を禁止されるレベルで腰も砕ける。
……トークポストカードの命名をしたのがフランカ魔物教師だっていうのも納得ですわ。
ボーナの耳ではトークポストカードの声は聞こえないから、動く絵の魔物という認識だった可能性が高い。
魔物の声が聞こえて、会話が出来るコトを理解したフランカ魔物教師だからそういう名称にしたのだろう。
「あ、あっおういあいえいあおおおあおえいあいあああおうういうあえおうあいいいおあうあえあいおおえ!ああうあいおおあっああおえいいうおうううああ、おえあえあういいううおいええおうあい」
「はーい」
自分が返事をするや否や、ボーナは図書室で借りた本に意識を集中させていた。
この調子だと、本気でわからない部分の質問以外で口を開いたりはしなさそうだ。
「すみません」
「エ?」
見ると、トークポストカードは申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。
「こういう時はパートナーである僕がお茶とかを用意するべきなのでしょうが……僕は見ての通りのポストカードですから、この中でしか動けないんです」
「ああいえ、お気になさらず。話し相手になってくださるだけで助かりますわ」
「そうですか?ソレなら良いんですが……」
どうやらこのトークポストカードはキリッとした侍の見た目とは違い、控えめな性格らしい。
「んーと、じゃあ聞きたいんですけれど……ボーナの第一作目というのは?」
「ああ、僕の背中……背中かな?裏面というか……に、魔道具用の術式が書き込まれてるんですよ。ソレで無機物系の魔物化した、というか」
「成る程」
確かによく視てみれば、裏面に複雑な幾何学模様が書き込まれていた。
魔道具も魔物も意思があるかどうかみたいな程度の違いなので、魔道具にしようとして魔物が出来上がるというのもわからなくはない。
機械系魔物の殆どは人工的に作られたモノだし。
「……というか、その術式ってボーナが何歳の時にやったヤツなんですの?めちゃくちゃ精密に視えるのですけれど……」
「え?その位置から見えますか?」
「ああ、わたくし目が良いんですのよ」
「成る程、そういうタイプの方も居るんですね」
トークポストカードはあっさりと納得してうんうんと頷いた。
この感じだとトークポストカードは基本的に自室待機がデフォルトっぽいが、しかし四年間ルームメイトなどを見ていれば普通じゃないヒトも結構居るというのはわかる。
……やっぱ四年目ともなると、早くに納得してもらえたりして良いですわねー。
一年の頃は色々と手探りで、最早懐かしい気分だ。
コレが高等部に進級すると今の思考もまた懐かしくなるのだろう。
「僕が魔物化したのは、ボーナが高熱を出した直後ですよ」
「あ、直後なんですの?」
「というか……僕にこの術式を施した結果、容量オーバーで高熱を出し、母音以外の発音と魔物の声に関する聴覚を失ったらしく……」
「うわあ……」
「目覚めた瞬間、持ち主だとわかる女の子が顔を真っ赤にして鼻血を出しながら気絶したのを目撃しました。産声代わりの僕の第一声は、誰かーーー!でしたね」
「ウッワア……」
ソレはもう意識覚醒直後にトラウマシーンではないか。
昼寝していたら流していた映画の丁度グロシーンで目が覚めてしまったコトがあるらしい異世界の自分もドン引きしているので、コレは相当にトラウマ事件。
「ソレで会話不可能って、大変じゃありませんの?」
「一応パントマイムで最低限の意思疎通は出来るんですけどね」
「パントマイム」
まあ確かに会話が出来ないならそうなるだろう。
トークポストカードはポストカードの中に描かれている侍だから手話を使おうにも見えにくいだろうし。
……わたくしなら余裕ですけれど、ボーナの視力は普通ですしね。
「ソレに僕は持ち主の夢に入り込むコトが出来るらしくて、その中でなら人間サイズになってボーナと話したりが出来るんですよ!」
「エッ、ソレは普通に凄いですわ」
「でしょう?」
トークポストカードは嬉しそうに、というか誇らしげに胸を張った。
「細かい意志疎通はソコで出来るし、夢の中だから一緒にキャッチボールをしたりも出来るんです!
ソレに夢の中というコトで聴覚じゃなく脳の動きみたいなアレだからか、会話も普通に出来るので……最近は目が覚めるまでしりとりをして遊んだりしてるんですよ」
「……楽しそうですわね」
「ハイ!ボーナに話し掛けるコトは出来ても聞こえてはいないってわかってるから、会話が出来るのがとっても嬉しくて楽しいです!」
その笑顔は百点満点の笑顔だったが、あっという間にしぼんでしまう。
「……でも、出来るコトなら現実のままでボーナと話せたらな、とは思いますね」
「あ、やっぱソレは思うんですのね?」
「ソレはモチロン」
でも、とトークポストカードは我慢するような苦笑を浮かべる。
「でも、ボーナに高熱を出させて色々失わせてしまったのは僕のようなものですから。奪っておきながら会話をしたいだなんて、本人には言えませんよ」
「……言わないんですの?」
「言わないです。寂しいのは事実ですけど、ボーナは僕との会話が出来なくても楽しそうに設計図を書いてますし、夢の中で話せるのも事実ですし。本人が魔物との会話が出来ないままでも困っていないのなら、ソレで良いかなって」
まったく良いと思っていないのが丸わかりな笑顔を浮かべながら、トークポストカードはそう言った。
・
コレはその後の話になるが、トークポストカードとの会話を後でボーナに全部チクった。
本魔が居る場だったのでめちゃくちゃ叫ばれたが、ボーナにトークポストカードの声が聞こえていないなら妨害に屈する必要は無いなと言い切った。
結果、ボーナはソッコで魔物の声を聞き取れるようにする補聴器の魔道具を設計した。
「あっえおおあえあいあいああっえうええうあうえいあああっあおう!あおおっえあいあいあえあおあーおあーああああーおあーえあうおおあえあいあういえおあえあおうあいあいあーっえおおっえあい、おーうおうおあーおおうえおああえあううういあいあいええあうおいああいい……おー!」
設計図をガリガリ書きながら、ボーナはそう言っていた。
「おおああおいおおあういあうあおううっえあうあええあああおおういおあおおういえいいあっえおおっえあえお、ううえううういあうあえ!えういうえあええあいおあいいいおあ、おういうおうえおああえあああいあえいううあああおういういいいああいおえおう!
いっえうえあおあおえあっあいいいえおっおえおいういあっあああおあっあえお、あうあいああおうあいおおあいあえいおういうおおいっえあおっえああいいいああおっうあおう!おー!おー!」
……うん、怒りながらソッコで完璧な設計図を作り上げたのは凄かったですわねー。
そして設計図が出来たらソッコで教師達に頼んで試作品を完成させたのも凄かった。
「あい、おーうおうおあーお、あいああえっえいえ」
「え、ええと……ボーナ、しばらく寝てませんけれど、大丈夫ですか?僕の為にって頑張ってくれるのは嬉しいですけれど、僕にはボーナの健康が第一ですから、ちゃんと休憩はしてくださいね」
「……おいおいええうあああいおううお。えおおおういあああいあうああえあっえいおうえ……「おうおあえいっえ」あああいあいいおえああっああ。えお「あうおいうえいいえうああいえ」あいおえあああ」
「あ、でも前よりは聞こえてますね!」
「いあおおいおえあ!ええ、おえああおうおうあうえいいいあうえうあお!」
一人と一枚で楽しそうに会話しているのを見届けながら、視える補聴器内部の状態をノートに書きこむ。
しかし自分がキッカケになったのは事実とはいえ、どうして自分が補聴器の作成メンバーに加えられているのだろうか。
ボーナ
容量オーバーによる高熱により機能が幾つか使用不能になり、あ行以外の発音と魔物関係の聴覚を失った。
でも設計は出来るしこの学園のヒトは大体筆談無しで喋っても理解してくれるコト多いし良いや、と気楽に考えてる。
トークポストカード
ボーナによって生み出された魔物だが、目覚めた瞬間はショッキングが過ぎる光景だったので実は今もトラウマ。
夢の中なら話せるし、と寂しいのや現実で喋りたいというのを我慢していたが、ジョゼフィーヌによってあけっぴろげに全てをバラされた。