巨人少女とイモータルダイヤ
オリジナル歌詞が作中で出ます。
彼女の話をしよう。
巨人系との混血で、成長が早くて、大きくなるのを嫌がっている。
これは、そんな彼女の物語。
・
四年生になり、中等部へと上がった。
制服も中等部のモノとなり、白いブラウスにリボンとコルセットスカートという制服になった。
初等部とは違い完全にスカートだが、キチンと膝丈になっている。
……まあ、ヒトによっては改造して短くしてたりもしますけれどね。
改造は学園側がオッケーを出しているし、混血によっては改造必須なのでまあ良いだろう。
ちなみに一年は赤、二年は橙、三年は黄というカラーリングだったが、四年は緑というカラーリングである。
リボンとコルセットスカートが緑色なのでわかりやすい。
……初等部中等部高等部で制服が違う分、見分けつきやすくて助かりますわ。
そう思いながら、中等部を歩いて回る。
何度か視たコトはあるし、教師の手伝いや保健室へのショートカットとして来たコトもあるのだが、コレから生活するとなると改めて色々確認したいモノなのだ。
……あー、でも中等部って教員用の建物から反対の位置にあるから、図書室がちょっと遠いのが難点ですわね。
まあ普通に中庭を通れば良いかと思いつつ、校舎の外側をぐるりと回る。
すると、中等部の校舎裏から歌声が聞こえてきた。
「二人の男がおりました
二人は友でありました
同じコトをしておりました
二人で別々 同じコト」
トン、トトンッという軽い音も聞こえる。
「男は自信家 すぐに出来るさ
締め切り余裕と笑み浮かべ
好きなようにと時間を使う
コイツは楽勝 気楽にいこう」
……コレ、足音ですわね……というコトはステップでしょうか。
「男は真面目 きちんとやろう
締め切り考え予定を作り
毎日こつこつ進めてる
よしよし順調 頑張ろう」
というかこの歌、最近流行りの「宿題とかちゃんとやらんとこうなるぞ」というテーマの曲だ。
「二人の男がおりました
二人は友でありました
同じコトをしておりました
二人で別々 同じコト」
この学園の生徒は勉強に積極的な子が多いので、あまりそういったコトにもならないが。
「男は自信家 すぐに出来るさ
しかしナンにもやっていない
気付いてやるも手遅れで
めそめそ泣いて 連絡だ」
……めそめそ泣きながら勉強教えてって言いに来るの、本気で授業が理解出来なかった子くらいなんですのよねー。
「男は真面目 きちんとやろう
締め切り守って作り上げ
余裕をもって完成させた
休もうとしたら 連絡だ」
そう考えつつ歌声が聞こえる校舎裏を覗けば、歌いながらステップを踏んで踊っている同級生が居た。
「ごめんたすけて
またかおまえは
すまんたすけて
しかたがないな」
歌いながら踊っているパヴラは巨人系の混血の為、まだ十三歳でありながら既に成人女性と同じくらいの見た目になっている。
「アレとコレ ソレとあとあと
まてまておちつけ ちゃんとやる」
巨人系混血だからなのか、パヴラは元々体躯が大きい巨人系とは少し違い、成長が他より早いタイプの育ち方だ。
「二人の男がおりました
二人は友でありました
同じコトをしておりました
二人で一緒 同じコト」
そういう巨人系魔物も居なくはないので、恐らく親がそういうタイプなのだろう。
ちなみにそういうタイプは見た目成人にまで一旦成長すると、ソコからぐんぐん巨大化していく。
そっちの方が負担が少ないとかそういうアレ、なのかもしれない。
……いえ、あんま詳しく無いので知りませんけれど。
「…………ふぅ」
歌と踊りを終えたパヴラは少し憂いたような表情で自分の手足を眺めた後、溜め息を吐いた。
「どうかしたんですの?」
「キャアッ!?」
声を掛けると、向こうからしたら突然だったのか垂直に跳ねた。
中々の飛距離が確認出来て、相当驚かせてしまったらしい。
「え、あ、ジョゼ!?やだビックリさせないでよもう!」
「うん、失礼しましたわ」
やらかしてしまった自覚はあるので謝ると、パヴラは緊張状態だった体からゆっくりと力を抜いた。
パヴラは苦笑を浮かべながら口を開く。
「……うん、アタシもごめん。過剰に反応し過ぎちゃった」
「いえいえ、歌い終わったトコだったから気を抜いていたでしょうし、当然の反応だと思いますわ」
「エッちょっと待って見て、見てたの!?ジョゼ!?」
「グェッ」
失言してしまったのか、顔を真っ赤にしたパヴラに肩を掴まれガックンガックンと前後に揺さぶられる。
思わずカエルが潰れたような声を出してしまったが、しかし中学一年生が成人女性に全力で揺さぶられると同義なのでコレはそんな声が出ても仕方がない。
……同い年なんですけれどねー。
「あ、の、パヴラ、もうちょっと緩め……ちょ、体格の違いもうちょっと自覚なさいな!?」
「アッごめん!」
慌てたようにパヴラの手が離れた為その反動で数歩分たたらを踏みつつ、深呼吸をしてどうにか平衡感覚を正常に戻す。
「ふぅー……パヴラ、わたくしだったから良かったものの、他の子相手では気を付けなさいな。わたくしのように頑丈ならともかく、そうではない子も沢山居ますもの」
「う、うん……というかジョゼって見た目お嬢様なのに頑丈タイプなんだ」
「見た目も中身もお嬢様ですわよー?」
「いひゃいいひゃいほへんひゃはい!」
「よろしい」
聞き捨てならない言葉に笑みを浮かべながら頬をつねればソッコで謝罪したので、こちらもソッコでパッと手を離した。
「というかまあ、わたくしって貴族ですけれど天使の娘でもあるから頑丈なんですのよね。神の言葉を通訳してヒトに伝えるという天の使いが天使ですから、まあ言っちゃえばあちこち走る郵便屋さんみたいなモンですわ」
「夢が微妙に無くなるわね、ソレ……」
「天使に夢見ても良いコトありませんわよ」
「わー目が死んでる」
戦闘系天使の場合は特に軍人染みた血生臭さがあるので死んだ目にもなる。
寧ろ自分の目はそういうのがわかりにくいと思うのだが、よくわかったものだ。
……そんだけ目が死んでたのかもしれませんわね。
「……でも、やっぱり天使との混血って良いなあって思っちゃうよ」
パヴラは校舎に背を預けるようにして地面に座り、空を見上げながらそう言った。
「…………ナニか事情があるんですのねって言って話を聞いてあげたいのは山々なんですけれど、その前にその座り方だと下着が見えてはしたないですわよ」
「わわわっ」
体育座りしていたパヴラは慌てて女座りに体勢を変えた。
「こ、コレなら大丈夫よね?」
「ええ、問題ありませんわ。というかまあ、わたくし目が良いので隠れていようと中身視えちゃうんですけれどね」
細胞の動きまで視えてしまう視界はワリとグロが強めだ。
「やっぱりそういう視界って大変?」
「まあ大変っちゃ大変ですけれど慣れてますもの。あ、あと一応言っておくとコレ天使の特徴じゃなくて後天的なナニかですわ」
「ナニかって?」
「さあ?」
ソレに関しては本気で不明なのでどうにもこうにも。
そう肩をすくめつつ体育座りをすると、あ、とパヴラが指差した。
「ジョゼってば、さっきアタシに注意してたのに」
「このスカートはそれなりに長さあるからこうして押さえれば見えませんのよ」
「あ、成る程」
体がすぐに成長するからというコトで制服を着ているコトが多かったパヴラは、納得したように頷いた。
恐らく今までは初等部の制服であるキュロットスカートがメインだったから、スカートを押さえるという選択肢が無かったのだろう。
「で、天使の混血に憧れているようですけれど、事情があるんですの?」
「……うん」
自分を真似するように今度はスカートをちゃんと押さえた体育座りに座り直し、膝に顔を埋めるようにしてパヴラは頷いた。
「……家族と折り合い悪いとか?」
「んーん、仲良いよ。家族大好きだし」
「天使という種族に憧れが?」
「天使、というか……巨人じゃない混血だったらな、っていうか」
「巨人じゃない混血なら?」
……成る程。
「つまり、巨人系の混血故に引き継いでいる遺伝が好ましくない、と」
「そうなの!」
パヴラは両手で顔を覆ってワッと泣き出した。
「だってこの体、どんどんどんどん大きくなるんだもん!今ならまだ良いよ!?だって成人女性だって考えると普通サイズだし!ちょっと童顔かなって程度の成人女性で通じるし!」
「まあ童顔な成人女性っていうか成長が早い少女なんですけれどね」
「でも!ここからずんずん大きくなっちゃう!ヤダ!」
「ヤなんですの?」
「だって!」
涙で濡れている顔をこちらに向け、パヴラは言う。
「だってアタシの家、踊り系の家なんだよ!?アタシだって踊ったり歌ったりが好きで、でも大きくなったら踊るだけで地震が起きるじゃない!」
「あー、まあ、確かに……」
「好きな時に踊れる今のままが良いけど、でも遺伝だから、このままじゃ踊れないくらいに大きくなっちゃうわ……!」
「あーあーあーもーホラこっち向いて」
「ん……」
グスグスと鼻を鳴らして泣くパヴラの顔をハンカチで拭いて綺麗にする。
「要するに、今のままで成長ストップするならともかく、コレ以上成長したら踊れなくてヤダって話ですのね?」
「ん」
「うーん……大きくなる条件、みたいなのがあったりするなら、ソレを避ければどうにか……」
「アタシの場合、食べるとその分大きくなるの」
「アッじゃあこの選択肢は無理ですわね」
食べると大きくなるなら食べるのを止めればいい、とは流石に言えない。
そうなるとただの断食であり、健康に悪いし最悪死ぬ。
生きるのに問題無い程度食べたとしても、食べた分だけ大きくなると考えると必要最低限の食事でも大きくはなるだろう。
「もーーーーーヤダ!家族は好きよ!?ソレは変わんないの!でもアタシが巨人になるのはイヤ!そしてもう大きくなり過ぎて、その状態で踊って、結果災害が起きて皆に踊るなって言われる夢を見るのもイヤ!」
「そんな夢見たんですの?」
「最近は昼寝の時にまで見るわ……」
パヴラは膝に顔を埋めてぐったりしながらそう言った。
どうやら相当この問題でメンタルを病んでいるらしい。
「んー……要するに巨人化って巨人からするとただの成長なんですのよね。でもソレを止めるとなると肉体時間の停止とかそういう……」
「ジョゼ、お願い、ナニか良い案をください……」
「お願いするならせめて顔上げなさいな」
顔を上げられないくらい落ち込んでいるのは視ればわかるが、ソレとコレは別問題だ。
・
とりあえず肉体の成長云々というコトで、マルクス魔法教師に聞くコトにした。
「……うん、良いよ?別に僕に聞きに来るのは良いけどさ、エメラルドは僕がどうやって成長止めたかとか知ってるハズだよね」
「おやそうなのですかマルクス?私がどれだけ非合法な手を使ってそのように世の乙女達が血みどろになってでも手に入れようとする不老をゲットしたのか聞いてもまったく教えてくれなかったというのに」
「エメラルドは自分で気付いたんだよ。あとお前のそういう余計な言葉のせいってのも大きいからな?」
正確にはバブルバブルの延命の為に生命力を分け与えていて、ソレをバブルバブルに伝える気が無いからこそ伝えていないのだろうが、言い訳にしては十二分に足る理由だった。
「……で、えーと?成長を止めたいんだっけ」
「コレ以上大きくなったら踊れなくなるかもしれませんから……」
「まあ確かに、大人サイズってだけで子供が通れる通路が通れなかったりするからな。ソレ以上のサイズになると考えると、多少どころじゃなく不便だったりもするだろうから……うん、気持ちはわからないでもない」
「マルクスにしては随分と親身に相談に乗っていますね。まるで教師のよう」
「教師なんだよ」
バブルバブルの発言に、温和な笑みを浮かべていたマルクス魔法教師表情は一瞬にして引き攣った怒り顔になった。
まあいつものコトなので自分もパヴラも慣れているが。
そんないつものコトだからか、マルクス魔法教師は深く溜め息を吐き、ソッコでさっきまでの温和な表情へと戻った。
「そうだな、丁度この間取り壊された廃墟から見つかったとある魔物がレナーテのトコに行ったんだ。石系だったから」
「ああ、ありましたね。魔物は専門外なんだがと教師陣による酒飲み会で愚痴っていました」
「生徒の前では教師同士の情報交換の場って言うように言われただろバブルバブル……」
今の言葉でより一層色々と漏れた気がするが、まあスルーで良いか。
「まあとりあえず、その魔物が確か永久性を与えるだかナンだからしくてな。とりあえず行ってみて話を聞いてくると良いんじゃないか?」
「確かに、そっちの方が良いかもしれませんわね。こちらの望みと一致しているかもしれませんし……重要な情報の提供、感謝いたしますわ」
「ありがとうございます!」
「いや、気にしなくて良いよ。二人共魔法の授業ちゃんと受けてるしな」
そう言って優しい笑みを浮かべたマルクス魔法教師が手を振ってくれたのにこちらも手を振り返しつつ、マルクス魔法教師の研究室を後にした。
・
レナーテ地学教師の研究室に到着し、レナーテ地学教師とドラゴンモールに事情を伝える。
「成る程……ソレでここに来たワケだ」
そう言ってレナーテ地学教師は笑った。
マスクをしているレナーテ地学教師だが、コウモリの口なので笑うと口の端がマスクから少しだけ覗く為、視なくてもわかる。
「確かにその条件であれば、ピッタリの魔物と言えるかもしれない」
レナーテ地学教師の肩に乗りながら、ドラゴンモールがそう言って頷いた。
「コレだ」
無言で棚から箱を取り出して、こっちに戻ってきたと思ったらそう言いながらレナーテ地学教師は箱の蓋を開けた。
中には、とても美しいダイヤ、の魔物が居た。
「……む、おや、外かい?暗いとやはり眠ってしまうね。しかしいきなり暗くして眠らせるというのはどうなんだい?
私は確かにこの性質だが、しかしだからこそ封印されていたのを解いて起こしたのは君達だ。ならば責任を取って退屈な封印生活から解放された私の話し相手を」
起きてソッコでペラペラ話し始めたダイヤの魔物は、うん?と表面をキラリと光らせた。
「おやコレは驚いた、若いお嬢さん方が増えているじゃないか!どうかなお嬢さん方、不滅であるこのダイヤと共に歓談でもしないかい?話す内容はナンでも良いんだ!私はただ、久しぶりの生者との交流を楽しみたいだけだからね」
「…………あの、ちょっとよろしくて?」
「ナニかな?」
「まさかとは思いますけれど、ほぼ伝説扱いのイモータルダイヤ、ですの?」
「ああその通り!私は不朽かつ不滅で美しい、イモータルダイヤさ!」
「わーお……」
コレはガチでガチな成長停止系魔物だ。
パヴラの要望には完全に一致しているが、しかしハードなレベルでの一致なのでちょっとどうだろうという気分。
言うなればお寿司食べたいと言った子に、超一流かつ目ん玉飛び出る値段のお寿司屋さん連れてくレベル。
回るお寿司はちょっとと思うが、ソレはソレとしてレベルが高すぎるのもまた困る。
「……えーと、ジョゼ?イモータルダイヤって」
「要するにまあ不滅というか……持ち主に永久性を与える魔物なんですの。言っちゃえば不老不死になれる代物の上にかなり美しいダイヤというコトで、大昔は貴族の女性達が取り合いになったそうですわ」
「私の美しさはヒトを惑わせてしまうからね!……アレな方向に」
「ええ、まあ、ハイ、確かにアレな方向というか……手に入れようとしたり手に入れたりすると大体血みどろ系のアレコレが発生するらしいんですのよね」
「らしいじゃなく、発生したのさ」
「本魔から肯定来ましたわ」
「ワー……」
パヴラは困ったような表情でそう零した。
「つまり、その魔物は不老不死を確実に得るコトが出来るけれど、確率的に破滅する可能性も高いってコトさ」
「私の封印を解いておいて酷い言い方じゃないか?」
「封印を解いたのは私じゃないし、私は不老不死に興味が無いからここに居られても困るんだ」
流石この学園の教師なだけあって、歯に衣を着せない。
「あ、あの!」
レナーテ地学教師の言葉に苦笑していたら、パヴラが手を挙げた。
「その、不老不死ってつまりは今の状態で成長を止めるコトが出来る、ってコトよね!?」
「まあそうだね」
「なら是非アタシの成長を止めて欲しいんだけど!」
自分のコンプレックス部分をどうにか出来る魔物が目の前に居るからか、パヴラがかなり必死だ。
「時間を止めても五十年くらいしたら同い年の子が老いていく姿に、そして置いて行かれるという現状に耐えられなくと思うから、あまりおススメはしないがね」
「ちょっと」
「ソレを私のパートナーに強制する気なのか貴様は」
イモータルダイヤの現在の持ち主であるレナーテ地学教師の額に青筋が浮いた。
そしてドラゴンモールも青筋こそ浮いていないものの、かなり不愉快そうにイライラしているのは視なくてもわかる。
まあ確かに今の発言はちょっとどうかと思うので青筋が浮くのも仕方がないとは思うが。
「不老不死なら他にも沢山学園に居るから時々会いに来れば寂しくないわ!ソレよりもナニよりも、アタシは大きくなり過ぎて、踊れなくなるコトが一番イヤなの!」
「ん?」
パヴラの心からの必死な叫びに、イモータルダイヤはヒト型だったら首を傾げていたであろう声を上げた。
「大きくなり過ぎる?老いるのがイヤなのでは無く?」
「ええ、彼女巨人系の混血ですので。ちなみに同級生ですわ」
「エッ」
説明時は箱の中で寝ていたからか、初めてその事実に気付いたらしいイモータルダイヤは驚いたような声を出した。
「……すまない、とりあえず一旦説明をしてくれるかな。ソレ次第では持ち主変更を考えよう」
「私はドラゴンモールと生きるつもりだから、不老不死なんて一も二もなく手放したいんだが」
とりあえずこの場に居る全員の為にも、自分は一からイモータルダイヤに説明をした。
・
コレはその後の話になるが、レナーテ地学教師が不老不死を欲していないコト、パヴラが成長したくないコト、そして再びの封印は勘弁というイモータルダイヤという感じだったので、イモータルダイヤは無事パヴラに譲渡された。
魔物を譲渡と言って良いのかはわからないが、ダイヤでもあるので譲渡で良いだろう、多分。
……ただ、まさか譲渡後にパヴラが想定外の行動に出るとは思いませんでしたわ。
「……ホント、普通宝石を体に埋め込みます?」
ヨイチ第二保険医に頼んだらしく、パヴラの胸の中央に埋め込まれたイモータルダイヤがキラリと輝いている。
イモータルダイヤが外を見たり出来るようにと制服の上を改造した為、胸の中央に埋め込まれているイモータルダイヤがよく見える。
「だってうっかりで無くしたくないじゃない」
「うっかりで無くすサイズですのソレ……?」
イモータルダイヤは十円玉サイズなので、結構大きいと思うのだが。
「ソレにイモータルダイヤって狙われるのよね?アタシ、知らない内に誰かに盗られたら嫌だもの」
「そりゃ誰だって盗人は嫌うモノですけれど」
「いや、盗人っていうか盗られるのがイヤって……まあ同じか」
はて、自分の言動はナニかおかしかっただろうか。
「だからまあ、こうして埋め込んじゃえばイモータルダイヤと離れ離れになるコトは無いし、アタシは大きくなるコトも無いし……コレがベストじゃない?」
「正直んなトコにイモータルダイヤ埋め込んで、しかもイモータルダイヤの為にってその部分露出させた服着てたら浅はかな愚か者共が狙いそうにしか見えませんから、とりあえず個人的には最悪手なんじゃと思いますわ」
「えー?イモータルダイヤは?」
「私はキチンと止めたハズだが?」
イモータルダイヤはハッキリとそう言った。
「私は望まれ求められるが、戦いの火種になったり親しいヒトに置いて行かれたりするからという理由で疎ましがられていたんだ。その結果が封印さ。
私はキミにそんな思いをさせたくないからこそ、止めたんだ。ただ持つだけならば成長したくなった時に手放せば良い。しかしこうして埋め込んだ以上、本気で私と永遠を生きるコトになってしまった」
「駄目なの?」
「パヴラが将来的に私を不快に思いかねないからね」
「でももうやっちゃったのは仕方ないし、アタシはこのまま踊るコトが出来るならソレで良いわ。アタシにとって重要なのはソコだけよ」
……また、変なトコで思い切りの良い……。
「……うん、そうか。不老不死を受け入れるコトが出来るのは思考回路がどこかオカシイ狂人でないと廃人になるのだが、キミは踊りに比重が傾き過ぎているタイプの狂人なのか」
「エ、失礼」
「いやわたくしもそう思いますわよ……?」
「踊り好きなら普通のハズよ?」
「普通はもっと普通ですわ」
「ハハハ!」
突然笑い出したイモータルダイヤに、二人で一瞬ビクッとなった。
いきなりどうしたのだろうか。
「ハハ、良いな!埋め込まれた時はやってしまったと無い手で無い頭を抱えるような気分だったが、狂人であるなら話は別だ!狂人に常識など関係ないからな!憂いが消えた!」
「ジョゼ、コレってアタシ凄く失礼なコト言われてるわよね?」
「残念ながら完全なる事実しか言ってませんわ」
パヴラにそう返しつつ、まあナンか悩んでいたらしいイモータルダイヤが吹っ切れたようで良かった良かった、と紅茶を飲んだ。
パヴラ
成人サイズまで成長してから巨人のように巨大化する、というタイプの巨人系魔物との混血なので既に見た目が童顔な成人。
踊り大好きな狂人なので、イモータルダイヤを胸元に埋め込む際はまったく躊躇いが無かった。
イモータルダイヤ
祝福の化身のような存在だが、人間の欲深さのせいで破滅を呼ぶ魔物状態になって封印されていた。
パヴラを止めこそしたものの、埋め込まれた結果常に熱を感じれるようになったのは正直嬉しい。