ようこそ魔法の帝国へ
僕が生まれた時代と世界は大航海時代の17世紀。
魔法がここ30年くらいで復活してきたというのに産業革命の真っ只中。
日本の歴史も微妙に……いや、大幅に変わっていて、織田信長が死なずに公武合体を成し遂げ、強力な中央集権国家を創り上げていた事。
結局織田信長は公武合体後に脳溢血で死んじゃってるけど、嫡男の信忠を秀吉やウチのご先祖が活躍して織田家を支え続けたらしい。
で、朝鮮半島への出兵なんてものは無かったものの、それ以前に欧米列強との戦が始まり、一時はイスパニアのテルシオが九州に上陸!! なんて危機にも見舞われつつ、台風による混乱に乗じて撃退し、反撃を繰り返す事で東南アジアにまで進出している。
その過程で英国やタイ王国等との同盟を結び、清朝時代にはさらにオランダ(東インド会社)とも結んで上海(三国の共同統治)と厦門周辺(香港は英国、マカオはオランダ)の割譲と海禁政策を開港に強制。
東西から徐々に削られつつあるスペイン帝国は乾坤一擲の英国本土侵攻作戦に失敗し、フィリピンでの攻勢まで叩き潰され、中米共和国の独立で新大陸への足がかりを完全に失い、東南アジアの拠点も陥落寸前。
一方の大日本帝国は中国やインドにタイ、その他東南アジアに細々と残る弱小諸国との交易や、オーストラリアや南北アメリカの植民地経営も順調で、産業革命に合わせて更なる発展を目指している。
で、僕の生まれた七将家というのがあるわけだ。
織田、豊臣、天海(僕の実家だ)、時津(誰だ?)、島津、竹之内(誰だよ?!)、伊達。(最初は織田、豊臣、前田、毛利、島津、天海、伊達だったらしいが、その後に入れ替わっている)
因みに時津と竹之内と言うのはスペインとの戦いで功績をあげた海賊集団の頭目だったらしい。
で、問題の天海である。
この世界に小田原評定という言葉は無い。
何故なら織田家の信州出兵の頃には、関八州を制圧した天海家によって滅ぼされていたからだ。
なんで信長が生きてるのかって?
本能寺の変?
この時の当主である天海虎正ってのが、本能寺の変で死にかけた信長を救出しちゃってるんだよ。
このご先祖様って絶対に僕と同じ転生者だったと思う。
歴史にその名前が登場して以来、房総半島全域を瞬く間に支配下に置くと、あらゆる機会を捉えて勢力を拡大し、伊達や上杉、北条と縁戚となり、謀略をもって小田原城を落とす、早くから海賊衆との協力関係を構築し、堺はもちろん、東北や九州との交易にも力を注ぐ、農業改革を行い、都市と街道を整備し、神懸かり的な技術開発によって水力や風力の利用を始め、初期的な蒸気機関の利用まで始めていたらしい。
神がかりって言うか、完全に転生とか憑依系のチート主人公の所為だよね?
っていうか家のご先祖様だけどさ?
戦国時代で熱気球を利用した着弾観測に総合的な火力支援。装甲の利用と織田家を凌ぐ火力戦と電撃戦。
もうね、ここは一体どんな火葬戦記の世界かと?
挙句に魔法ってなにさ?
初めて見た時は思わず笑い出しちゃったよ。
どんな手品かと思ったら本当に魔法なんだもんね。
もちろん迷信が迷信じゃなかったからこそインカ帝国は生き残ってるし、アフリカにも東南アジアにも小さな国が山ほど残ってるわけで、日本もまた陰陽大国、魔法大国として一目も二目も置かれている。
鬼だの狐狸だの天狗だのが居るのはちょっと怖いけど。
ともかく、日本と英国、洋の東西から始まった産業革命は、石炭じゃなくて魔法を熱源にして発展してます。
日本も蒸気機関を造って使用してるけど、細かい部分は式神使ってるらしい。
そんな感じでスチームパンクな富岡製糸は式神がわんさかいる陰陽工場になってたりする。
女工哀史なんて影も形もありません。
どうやって人口増加に対応してるかって?
植民地に決まってるでしょ?
もうオーストラリアや南北アメリカの人口って日系が三割だからね?
統一とかもう無理なんじゃないかって気がするよ。
ただ現地の住民は大事にされてる。
古代の呪術ってマジでヤバイんだって。
捨て身で呪われたら新興の魔法なんて絶対敵わないらしい。
その点は日本も同様だけどね?
平安時代の天才陰陽師が天皇の血脈と日本の地脈を結びつけた挙句、太古の神々や怨霊を鎮める呪術の鍵にしちまったんだと。要するに皇室の血脈がそのまま怨霊だの荒神だの邪神だのなんだのと言った存在の封印になっているって事。
当然、皇室の血脈が途絶えるとその全てが復活して日本は、いや、世界は終焉を迎える事になる。誰だよこんなふざけた真似をした奴!!
って、五芒星の家紋を使ってて妖狐の血を引くっていう平安時代の超有名陰陽師だったんだが……。
まぁ、そんなこんなはまた何れ、というわけで僕はこの世界で生きてゆく。
ナイセイチートだとか世界征服なんて望みません。
ただ、少しだけ、世界をこの目で見たいと思う。
……見れたらいいなぁ……。