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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 14 ゴミが消えた日  作者: 石渡正佳
ファイル14 ゴミが消えた日
29/31

埠頭の放談

 一原港にスクラップ船がゆっくりと入港してくる様子をJHKのカメラマンが構えたハイビジョンカメラが捕らえた。入港してきたのはハッピー公益社がチャーターしたバルク船(バラ積み船)だった。内航船の中古を輸出したもののようだが、中国船籍になったので船名も中国風に変えられていた。公共埠頭にはスクラップを満載にしたトレーラーが三台とハイデッキのクレーン車が待機していた。埠頭にヤードがないハッピー公益社は、これからピストン輸送でストックした非鉄スクラップを船に積み込もうというのだ。埠頭は一週間借りていたのでトラブルさえなければ時間的には余裕があった。

 「やっと来たね」王寺が言った。

 「それじゃインタビュー始めさせてください。船がついて積み込みが始まるまでは雑談でかまいません」本郷が王寺にマイクを向けた。

 荷主のハッピー公益社の辻間は埠頭に接岸した船の撮影をすることは承諾したが、自社のヤードの撮影とインタビューは固辞した。それで代役として王寺がインタビューに応じることになったのだ。船が入港してくるシーンを背景にしてはどうかと提案したのは伊刈だった。

 「こうやってゴミが全部中国に行ってしまったら日本はきれいになってしまいますね」

 「冗談じゃねえよ。昔は捨ててたゴミが今は資源なんだよ。俺も今はゴミの売り買いでしのいでるんだ。捨てるばっかりだった時代とは様変わりだね。だけどほんとは資源は中国に売ったらだめなんだよ。日本で大事にリサイクルしていかないとな。俺もね、しのいでいくためにしょうがないから中国に売ってるけどね、今にきっと買ってくれなくなるし、売らなければよかったと後悔する日が来るよ。そん時になって慌てたってもう遅いけどねえ」いかにもアウトローの風貌の王寺の口から意外な正論が聞けたので本郷はうれしそうだった。

 「でも今はみんながこぞってゴミを中国に出しているんですよね」

 「そらあ日本じゃゴミなのに中国人なら買ってくれるんだから売る方も買う方も儲かって儲かってしょうがねえだろう。だけどいつまで続くもんじゃないよ。とにかくよ、ゴミがもうねえんだよ。あらゆるゴミが消えてんだ。だから俺なんかもうすぐに仕事がなくなっちまうよ。いいゴミはみいんな大手がおさえてっからな。廃車、プラ、空き缶、家電、紙、日本から売れるゴミはみんななくなっちまうよ。だけどねえ、中国でゴミが資源だっていうなら日本でだって資源じゃねえか。日本で使う方法を見つけるのが筋だわな。だから俺もリサイクル工場をこさえようかと思ってんだ。日本でリサイクルできるものなら中国に出すことはないからね」

 「輸出を規制せずに放任してはだめだってことですね」

 「規制はちゃあんとあるよ。だけど抜け道ばっかだからなあ。バーゼルだかなんだか知らないが、あんなのだあれも使ってねえだろう。日本はもっとちゃんと後先を考えねえとさ、ゴミがなくなるだけじゃねえよ、日本がなくなっちゃうよ」

 「どうすればいいんですか。やっぱり国内のリサイクルをもっと充実させたほうがいいってことですか」

 「ゴミもでえじだけどよ、これから一番でえじなのは農業だよ。それと林業と漁業だわ」

 「それとゴミと関係ありますか」

 「おおありだわ。農業をでえじにしねえからよ、環境をでえじにしねえ国になったんだわ。今あるもんをでえじに使っていけばいいんだよ。日本だけじゃねえんだよ。どの国もおなじだわな」元ヤクザから聞くのは妙な心境だったが王寺の意見は正論だった。

 「漁業だってよ、農業とおんなじだよ。魚を獲ったらよ、育てねえといけねえよ。漁礁を沈めればいいんだよ。それで獲っただけは育つようになるからな」

 「それは栽培漁業のことですね」

 「なんて言うかは知らないけど日本だけのことじゃないよ。南方の海とかにもっと漁礁を沈めないとダメだな。それから魚介の加工工場も向こうにこさえてやらないとな。生で冷凍して持ってくるより、その方がずっといいんだわ」

 インタビューが進む間に、テレビカメラはトレーラーが港湾道路を走行するシーン、沖合いの航路から輸出船が埠頭にゆっくりと近付いてくるシーン、ハイデッキのクレーンを使ってスクラップが船積みされるシーンを映像に納めた。現場ならではの生々しい映像だった。しかし、船を背景にした王寺のコメントは意外な方向に進んでいた。

 「この船は中古船みたいですが」本郷は脱線しかけていたインタビューを軌道修正した。

 「ああそうだな。これは日本の内航船の中古だな。船名を直した跡があるだろう。中国はこういう古い船が多いんだよ。これで日本海を渡るのは冬だとしんどいな」

 「中国のどこへ行くんですか」

 「これは大連だろう」

 「大連でどうなるんですか」

 「手ばらしするんだよ。モーターとかをばらして銅線一本一本に分けるんだ。いい金になんだろうな」

 「これでいくらくらいになりますか」

 「船一杯でこっちからは二千五百万てとこじゃないか。中国でいいものだけ選れば五千万になんだろうな。どんどん値が上がってっから、来年は二倍か三倍になんだろうよ」

 「そんなになるんだったら日本でもできませんか」

 「分けたくても人手がねえだろう。日本じゃムリだわ。だから捨てないようにすればいいんだよ。こんなふうに潰しちゃう前にやりようがあんだよ。なあそうだろう、伊刈さんよ」王寺はまだビデオカメラが回っているのに、いきなり伊刈に振ってきた。カメラマンも反射的にカメラを伊刈にパンした。

 「まだカメラが回ってますよ」伊刈は苦笑しながら手を顔にかざした。伊刈は番組には出演しない約束になっていた。

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