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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 14 ゴミが消えた日  作者: 石渡正佳
ファイル14 ゴミが消えた日
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消えたベーラー

 伊刈はフェリー埠頭で見たベールが気になっていた。あれは確かにビバリーヒルズ・インターナショナルにあったベーラーで梱包されたものだ。だがベーラーは消えていた。あのベーラーはどこへ行ったのか。

 伊刈は再び有明のフェリーターミナルに向かい、パシフィック東京フェリーの尋山専務に再び面接した。

 尋山は伊刈の顔を見るなり、特報スペシャルの番組内容を話題にした。

 「あの番組の後は大変でしたよ。映っていたフェリーはおたくのだろうってずいぶん言われました。伊刈さんのおかげでかえって助かりました。コンプライアンスを強化して、あやしい荷はお断りしていましたからね。もちろんご指摘のビバリーヒルズもですよ。しかし北九州エコランドマークがああいう現場だとはわかりませんでした。なにしろ私どもは港から港までフェリーに乗せているだけして、最初に積んだ場所も最後に降ろした場所も見たことがないですからねえ」尋山もまた伊刈が番組制作に関与していたとは思いもしていないようだった。

 「実は今日お伺いしたのは、その番組のことなんです」

 「おやそうですか」

 「番組の取材日をテレビ局から教えてもらったのですが、その日に乗せた車両の中に犬咬市から出た産廃がなかったかと思いまして」伊刈はしらばっくれて尋ねた。

 「ちょっとお待ちください」

 尋山は取材日のマニフェストをそろえて戻ってきた。「この日のは八枚ありますね。犬咬市の業者はないようですよ」

 「ちょっと拝見させていただいてよろしいですか」

 「かまいませんよ」

 伊刈はざっとマニフェストをめくった。排出元の処分場は四社あったが、報道された一社を除いて見知った社名はなかった。

 「これコピーいただけますか」

 「どうぞ。ただあの調査をされる時には」

 「こちらで聞いたとは言いませんよ」

 「そうしていただけると助かります」

 伊刈はマニフェストの写しをもらうと、さっそく四社を調べることにした。そのいずれかにビバリーのベーラーがある可能性が高いと思った。

 伊刈がもっとも怪しいとにらんだのは五大陸商事だった。他の三社は廃棄物処理業の許可を持っていたが、五大陸商事はビバリーヒルズ・インターナショナルと同様に許可を有さず、廃プラスチック類を有価物として買い取って輸出している会社だった。伊刈は五大陸商事の本社がある市橋市に向かった。

 そこは都心からさほど離れていない住宅地と街工場が入り乱れた下町だった。敷地には案の定、見慣れた形状のベールが積み上げられていた。しかし路上からでは距離があり、ビバリーのベーラーで梱包されたとは断定できなかった。間近で見たいのはやまやまだったが、市橋市は管轄外であり、さすがに不用意に立ち入ることはできなかったので、その日はベールの所在だけ確かめて引き上げた。

 伊刈は如月社長の顧問だと名乗っていた行政書士の白金に連絡した。白金は自分から市庁にやってきた。

 「ビバリーヒルズ・インターナショナルにあったベーラーを売りましたね」伊刈は単刀直入に切り出した。

 「ああそのことね。確かに売りましたよ」

 「どこに売ったか教えていただくわけには行きませんか」

 「ちゃんとした会社に売りましたよ。偽装売買とかじゃないです」

 「五大陸商事じゃないですか」伊刈は鎌をかけた。

 「ほう」白金は感心したように伊刈を見直した。「そこまでわかってるんなら私に聞くまでもないじゃないですか」

 「どんな会社ですか」

 「社長は趙さんという中国人ですよ。ビバリーと違ってちゃんと廃プラを輸出してる会社だと聞いてますよ」

 「輸出先は中国ですか」

 「いいものは中国、だめなやつはミャンマーだそうです。聞いた話ですけどね」

 「ミャンマー?」

 「廃プラを麦藁火力発電所の補助燃料にするんだそうです。発電プラントも日本から持っていくし、港湾も道路も自前で作るし、大変な事業だけど、ミャンマー政府が協力的なんだそうです。大統領の倅が発電所の社長だからいくらでも金は出るとかでね」

 「ほんとですか。ミャンマーは軍政ですよ。カメラマンが銃撃される事件だってあったばかりじゃないですか」

 「確かにいつ政変があってもおかしくない国でしょうね」

 ミャンマーというのは嘘だろうと伊刈は直感した。そんなに簡単に輸出できるわけがない。フェリーに積まれて九州へ向かったのはミャンマーに輸出されるはずだった玉かもしれないと思った。

 伊刈の予感は的中した。ほどなくミャンマーで政変があり、大統領が更迭されたというニュースが伝わったのだ。伊刈はすぐに五大陸商事に行ってみた。すると看板の社名が大安商事に架け替えられたいた。社名を変更したのか、別の会社に買収されたのかはわからなかった。山積みされていたベールはそのままだが、中身が違っていた。梱包されていたのはペットボトルだった。ラベルもキャップもついたままの未然別品だが、中国には十分に売れるものだった。

 白金に電話しようとすると、タイミングよく白金のほうから伊刈の携帯に連絡してきた。 「伊刈さんが調べていた五大陸商事ですがね、社長が韓国にキャッシュを持ち出そうとして、税関で逮捕されたそうです。外為法違反でしょうかね。如月もやられちゃいましたよ」

 「やられたとは」

 「ベーラーの代金焦げちゃいましたよ」

 「大安商事という会社は」

 「ああそこはね伊刈さん、ほんとの大手だからね。五大陸商事みたいないい加減な会社じゃないですよ」

 「こないだは五大陸商事もちゃんとした会社だって言ってませんでしたか」

 「そりゃあビバリーと比較しての話ですよ」

 「大安商事はほんとの大手なんですか」

 「前は小さかったんだけどね、次々と潰れた処分場を買って大きくなったんですよ」

 「やっぱり中国人の会社ですか」

 「そりゃそうですよ」

 「社長を知ってたら紹介してもらえませんか」

 「ムリですよ。あたしらが付き合える会社じゃない。そんなわけだからビバリーのベーラーも今は大安のものってことですよ」白金は言いたいことだけ言うと電話を切った。

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