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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 14 ゴミが消えた日  作者: 石渡正佳
ファイル14 ゴミが消えた日
10/31

街宣車

 朝から市庁前が騒がしかった。右翼の街宣車十数台が集結して警備員と押し問答になり、機動隊が出動する事態となった。機動隊が交通違反で取り締まると警告したため街宣車は玄関前から移動したものの、諦めきれないように付近をぐるぐると巡回しながら街宣活動を続けていた。これはこれで仕事なのだろう。

 「東関浄技社はとんでもなくいい会社だ。岐阜県の古戦場に最終処分場を計画している。こんなに環境によい会社はない。鉄道の切符をリサイクルする研究もしているようだ。たいへん社会に貢献しているよい会社だ。社長の奥様は大金持ちで社長は奥様を大事にしているが愛人も二人いるようだ。愛人の一人は赤坂でフランス料理店を経営しているそうだ。もう一人は営業部の社員だそうだ」街宣活動のターゲットは東関浄技社だった。次々と怪情報を連呼していたが肝心なことは言わなかった。ほのめかして恐喝のネタにするのだろう。廃切符のネタもつかんでいるようだった。

 「どう、思う?」路上から街宣活動の様子を見物しながら仙道が伊刈に聞いた。

 「あの連中が今回のやらせの黒幕とは思えませんね。どっかで廃切符のネタを拾っただけじゃないでしょうか」

 「俺もそう思うよ」

 「立山社長はどうするでしょうね」

 「恐喝なんかにびびる玉かよ。びた一文出さないから街宣車出してきたんだろうからな」

 「街宣って頼んだらいくらかかるんですか」伊刈は奈津木警部補に尋ねた。

 「戦闘服を着た兵隊の日当は二万て聞いてます。車は十万くらいでしょうか」

 「それじゃ五台で百万はかけてるわけだ。けっこう本気ですね」

 その時街宣車から降りた人影が伊刈に向かってきた。戦闘服を着ていたので最初は気付かなかったが右翼の大藪だった。

 「大藪さんでもこんなことやるんですか」

 「頼まれればなんだってやるよ。それに東関浄技社ってのはとんでもない会社のようじゃないか」

 「そうでしょうか。いい会社だと思いますよ」

 「伊刈さんでも褒める会社があるとはね。だけど火のないところに煙は立たないですよ」

 「そんなことより支庁前で街宣してなんになるんですか。東関浄技社は県が許可している業者ですよ」

 「ああわかってるよ。これから県庁にも行くよ。ただここでやるにはそれなりのわけがあるんだよ」

 「わけってなんですか」

 「それは言えないよ」

 「切符のことどうしてご存知なんですか」

 「蛇の道は蛇だからね。切符が犬咬に来たのには意味があるんだよ。さあてそろそろ引き上げるとするかね」

 「はっきりしませんね。大藪さんらしくないですね」伊刈にそう言われて大藪は立ち止まった。

 「ビバリーヒルズって知ってるか」

 「ビバリーヒルズ・インターナショナルですか」

 「ああそうだ。来週あたり捕物があるそうじゃないか。楽しみにしてますよ」大藪は伊刈の隣に控えた奈津木を見てニヤリと笑うと街宣車に戻って行った。奈津木は何か知っているのか渋い顔で大藪を見送った。

 それから一時間ほどで市庁前の街宣活動は終わった。街宣車がスピーカーからお決まりの軍歌を流しながら引き上げていくのを見届けて機動隊も撤収した。

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