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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 14 ゴミが消えた日  作者: 石渡正佳
ファイル14 ゴミが消えた日
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廃切符

 犬咬市の山林には産廃の大規模な不法投棄現場場だけではなく、家庭ゴミの捨て場、農ビ(農業系ビニール)や廃野菜の穴、魚網の捨て場、廃車の置き場、地元解体業者専門の湿地改良地など市民のモラルが問われる違法な捨て場がいくつもあった。そんな穴の一つが炎上した。道路際の崖地でかねてから家庭ごみの不法投棄現場となっている場所だった。家庭ごみといっても過去から積もり積もった投棄量は千トン以上になっていた。もともとは農家が野菜くずを捨てていた穴だったが、それが次第に冷蔵庫や洗濯機などの粗大ゴミの捨て場へと発展した場所だった。

 家庭ごみの不法投棄は伊刈の担当ではないと思っていたが、消防から相談したいことがると直々の要請があったので出動した。火災の勢いは消防車の放水で鎮圧したものの崖の中腹がまだくすぶっていた。伊刈たちは崖地にかろうじて残っている里道を探しながらから沢筋に向かって降りていった。沢から見上げると道路まで有に三十メートルの高さがあった。

 「ご苦労様です」崖の一番下で伊刈たちを待っていた消防隊員の沼田が挨拶した。

 「珍しいゴミというのは」伊刈が尋ねた。

 「あれもそうです」沼田が崖の中腹にひっかかっている布製の袋を指差した。

 「中身が廃切符だっていうのはほんとですか」喜多が尋ねた。

 「これを見てください」沼田があらかじめ回収しておいた別の袋を示した。口ヒモを解いてみると中身は廃切符と廃定期だった。

 「確かにこれは珍しいですね。最近はどこの鉄道会社も廃切符のリサイクルに取り組んでいますからね」

 「そうだと思ってとっておいたんです。お役に立てそうですか」

 「もちろんです」不法投棄の担当から外された伊刈だがリサイクル偽装なら担当できた。

 「京常鉄道のですね」喜多が袋の中身を確かめながら言った。

 「上の袋も見てきます」夏川が伊刈に進言した。

 「大丈夫か」

 「任せておいてください。崩れると危ないですから崖下から離れていてください」

 「わかった。気をつけろよ」

 身軽な夏川は崖に生えた木を足場にしてするすると昇り、たちまち袋のある場所まで到達した。

 「どうだ」

 「やっぱこれも切符ですね。今そっちに投げますから」

 「もう降りて来いよ」

 「もう一つ同じ柄の袋がありますから」

 「欲張るなよ」

 「でも切符だけは全部回収しとかないとまずいですから」

 夏川が放り投げた袋の中身を喜多が確かめると、やっぱり廃切符と廃定期だった。沼田にも手伝ってもらって一時間ほど現場で捜索を続けると、廃切符の袋は全部で八つになった。一つが二十キロだったので全部で百六十キロだ。不法投棄としたら大した量ではなかったが物が物だけに大きなスキャンダルに発展する可能性もあった。一番心配なのはネタを右翼やメディアがかぎつけて騒ぎ出すことだった。

 「これは違いますね」喜多が最後の袋を開けたとたんに言った。他の三人が喜多の手元を覗き込んだ。

 「これはファッション雑誌の表紙です」

 「ちょっと見せて」伊刈も興味を示して袋の中身を手に取った。

 「表紙だけ外して集めてあるね。どういうことだろう」さすがの伊刈も初めて見る荷姿だった。

 「印刷工場のゴミですかね」夏川が言った。

 「いやいろんな雑誌が混ざってるし製本の針の穴があるから古雑誌の表紙だよ」伊刈が答えた。

 「表紙のコレクターとかですか」夏川が言った。

 「だったら棄てないだろう」

 「これどうしますか」喜多が言った。

 「同じ袋に入ってるってことは同じ業者が捨てたんだ。もしかしたら廃切符の流出元を特定する一番の証拠になるんじゃないか」

 「なるほど」喜多が掌を打った。

 「証拠を全部持ち帰ろう」

 車を崖下に回せなかったので沼田にも手伝ってもらって手作業で崖上の車まで袋を運び上げた。

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