4話 入学式
学校に入った僕は駐在員さんの言葉に従い寮に向かうことにした。校内には一定の間隔で夜行樹が植えられている。夜行樹は3メートル程の大きさの樹木で、夜になるとぼんやりと光る事からその名前が付けられた。これだけ植えられていれば、夜は奇麗だろうな。
そう思いつつ寮の場所を先程貰ったブレスレットのナビゲーション機能で確認する。15分程歩くと人の姿もまばらになり、病院のような白塗りの大きな建物が見えてきた。
「あれが寮か」
「そうよ!この寮はついこの間完成したばかりなの!」
「じゃあ僕達が初めて使う事になるのか。ラッキーだな」
アルターが声だけで教えてくれる。他にも、この寮の食堂の場所や料理のメニューまで知っていると言うのだから空恐ろしい。アルター曰く「調べればすぐに分かる事よ」と言うが……。
少し寮の周りを散策しよう。アルターの解説を聞き流しながら寮の周りを歩いていく。寮の周りは植物園のようになっていて、様々な植物が植えられていた。沢山あるのでどの花かは分からないがとても良い香りがしている。夜行樹のようによく見かける植物もあれば僕が見たことが無いような植物もあって幻想的だ。
「……嫌だよっ!」
突然、植物園の奥の方から嫌がっているような声が聞こえてきた。なんだろう?見に行ってみよう。音を立てないように声のした方に向かうと、そこには上級生のような2人組に絡まれている男の子がいる。僕と同じ新入生だろうか。
「なぁ、俺達喉渇いてるんだよ。何か奢ってくれよ〜」
「そうそう、俺達友達だろぉ?」
背が高く筋肉質な体付きをしている男がそう言うと、もう一人の男も続けて言う。どう見ても友達にはみえないな。
『どうするの?助けてあげるの?』
アルターに聞かれて少し迷うが、ここで出て行っても僕に出来る事は無さそうだし見なかった事にしよう。喧嘩は好きじゃないんだ。
「……わかったよ」
「お!話分かるじゃん〜」
そうこうしてる内に、3人は近くにあった自動販売機で飲み物を買ってしまった。この寮は、1年生用の寮だから、2人の上級生は下級生にたかる為にきたのだろう。悪質だ。何かしてあげたいとは思うけど、僕にはそこまでの勇気がなかった。
「戻ろう」
『そう。貴方がそれでいいなら構わないわ』
その後、僕は寮に入るまでの間ずっとさっきの出来事を考え続けていた。
○○○
寮の1階は広々とした食堂やラウンジ、運動施設になっていて、2階から上が居住スペースになっているそうだ。2階から上は女子と男子で完全に分かれているようだ。1階を軽く見て回り、男子用の重力制御型のエレベーターに乗って自分に割り当てられた部屋に向かう。女子は女子用のエレベーターがあり、建物の左側に部屋があるそうだ。僕の部屋は5階の2765号室らしい。
「2765っと……ここか」
2765号室エレベーターから5分程歩いた所にあった。僕が部屋に入ろうとした時、ちょうど隣の部屋から人が出てきた。
「あ、初めまして。今日から隣の部屋に住むアレイスター・アルクです」
「あぁ、宜しく!俺はトーマス・カーグ。同じ新入生なんだしタメ語でいいよ」
トーマスは黒髪で品のある顔立ちをしていて、僕より少し背が低い。僕が175cmだから、どちらかと言えばトーマスも背が高い部類に入るのだろう。
「分かった。これからよろしく……で良いのかな?」
「そうそう!仲良くいこうよ!じゃ、俺出掛けてくるから」
トーマスがエレベーターの方に向かうのを見送り、僕は自分の部屋に入る。部屋は僕が予想していた以上に広かった。トイレやお風呂が別れているだけでなく、部屋も3部屋ある。しかもキッチン付きだ。家具はタンス、テレビ、ベットと最低限の物だけ備え付けられている。
「もっと色々持って来れば良かったな」
予想外の広さに思わず独り言が漏れる。取り敢えず、前もって送っていた荷物の荷解きをしよう。
○○○
次の日、疲れていたのか僕は昼頃に目を覚ました。テレビを付ける。
『あら、おそよう』
「おはよ」
「――では、次のニュースです。エルロイ・ダルカ議員の死亡事故について連邦政府は、共和星連の関与が疑われると強く抗議しました。これを受けて共和星連議会は、事実無根の言いがかりでまことに遺憾である、との声明を出しました。これにより両政府の関係はさらに悪化すると思われます――」
物騒だな。着替えを終えてブレスレットを付けると、学校から新入生宛にメールが届いていた。明日の朝9時に第1講堂に集合して入学式をするそうだ。少し緊張してきた。取り敢えず今日は買い物に行こう。食堂はあるけど、部屋にも少し食べ物や飲み物はおいておきたい。
街を見物しながら買い物をして、少し学校内を見回った。かなり歩いたから疲れた。明日の入学式に備えて今日はもう寝よう。
○○○
『アルク、起きなさい!あさよ!』
「う~ん、朝?」
僕はアルターに起こされて、服を着替える。おっと、今日は学校から支給されてる紺色の服を着て行かないといけないんだった。服を着て食堂で朝食を食べる。食堂には同じ紺色の服を着ている人もいれば部屋着のまま食べに来ている人もいた。服を汚したくないのだろう。
メニューは沢山あるけど緊張しているせいか余りお腹が減っていないので、合成食料を選んだ。これ1つでかなりの栄養が入っているので体にはいいし、長方形で食べやすいのですぐに食べ終えることが出来た。少し早いがこのまま第1講堂に行ってしまおう。
この学校内はとてつもなく広いので学校内だけを巡る磁気浮上式鉄道が存在する。僕は寮の近くの駅から列車に乗って第1講堂に行くと、ヒューマノイド型のロボットに誘導されて席につく。暫くすると僕と同じ制服を来た新入生が続々と集まってきた。お隣さんのトーマスや、同じ階で見掛けた人達が近くの席にいる事から、寮の階毎に分けられているのだろう。
「アルク、カルド・レラって知ってる?」
式が始まるまでの暇を持て余していると、トーマスが話しかけて来た。
「いや?知らないな。有名な人なの?」
「去年の銀河美少女選手権の優勝者なんだけどさ。―――うちの学校の新入生らしいんだ!」
トーマスが嬉しそうに言う。
「へぇ、そうなんだ」
「銀河美少女選手権の優勝者だぜ?会ってみたいなぁ」
僕は正直あまり興味が無かった。見てみたいと言う気持ちも無い訳では無かったが、見れたらラッキー程度にしか思わなった。
「お、式が始まるな。」
トーマスと話しているといつの間にか時間になったようだ。校長先生と思われる人がひな壇に登る。……校長と言うものは長話しをしなければいけない決まりでもあるのだろうか。かれこれ1時間程の校長先生のお言葉を聞き、各授業の先生の紹介などを終えて解散となった。
「やあ、アルク。入学おめでとう!少しいいかい?」
一旦寮に戻ろうと第1講堂を出ると声を掛けられた。
「あ、ライドさん!ありがうございます!どうかしたんですか?」
「ちょっと話したい事があってね。この後大丈夫かな?」
特に予定も無かったので了承する。ライドさんに付いて行く途中で、テンションの高いトーマスに声を掛けられた。何でもクラスみんなで入学祝いをするのだとか。ちなみにクラスは男女混合なので、女子もいる。少し行きたい気持ちもあったけど、僕はライドさんの方を優先した。
○○○
僕とライドさんはジャスミンと言う喫茶店の個室に来ていた。アルターが前に有名だと言っていた所だ。
「今日は入学祝いに奢ろう!好きな物を選んでいいよ」
『アルク!あのケーキにしなさい!絶対美味しいわよ!』
アルターが凄い勢いでチーズケーキを勧めてくる。僕はライドさんの言葉に甘えて、アルターの勧めるチーズケーキを頼んだ。
「それで、何のお話ですか?」
ケーキを食べ終え一息ついてから切り出す。アルターが選んだチーズケーキは程よく甘くとても美味しかった。
「君に特殊徴兵制度を適用する事が決まったんだ」
「特殊徴兵制度?僕にですか?」
何年か前にニュースになっているのを見たことがある。確か、軍に有益な人物を軍に入隊させる為の制度だったはずだ。給料が物凄く高い為、徴兵された人はむしろ喜ぶ程だとか。
「議論の結果、あの巨大戦艦の機能を最大限に生かす為にはやはり君に乗って貰った方がいいと言う結論に至ったんだ。一応、特殊徴兵制度は議会に申し立てをすれば取り下げさせる事も出来なくは無い。だけど君の場合だとそれも難しいかもしれない。どうする?申し立てしてみるかい?」
「学校はどうなるんですか?」
せっかく入学したのに初日に退学とかになったら笑えない。それに父さんと母さんが進学を勧めてくれて入った訳だし。
「あぁ、それなら大丈夫!毎日学校が終わったら共和星連の研究施設に来てもらえればいいから。これがその書類だ」
そう言ってライドさんが数枚の紙を取り出す。今時紙を使うなんて珍しいと思い聞いてみると紙のほうが秘匿性が高いそうだ。書類に目を通す。
「給料が500万W……!?こんなに貰えるんですか?」
「あぁ、それでも特殊徴兵制度で入った人達の中では1番低い金額だけどね。それと君が軍に入る事は出来る限り秘密にして欲しいんだ。敵に感づかれるかも知れないからね」
給料の高さにびっくりした。まだ15歳なのにこんなに貰ってしまっていいのだろうか?
「それが君の価値ってことさ。君には妹だって居るのだし貰えるものは貰っておくべきだと思うよ」
今は中学生のアイナだって高校に進学するだろうし、これからの事を考えると確かにお金は欲しい。叔母さんは心配しなくていいって言ってくれてるけど、迷惑はかけたくない。あまり入隊したく無いけどしょうがないかな。
そうして僕は学校の入学と共に軍にも入隊する事を決めた。
お金の単位について
1W≒1円と考えてもらえればと思います。




