1話 両親の死
それは僕が学舎惑星に出発する日のことだった。
僕が出発の準備をしていると家の通信機に連絡が入った。
アレイスター・アルベルト様、エリス様の親族宛で来ていて、差出人は共和星連軍となっている。アルベルトとエリスは父さんと母さんの名前だ。
星連軍からの連絡は時々来るのでそこまで珍しい事ではないけど、親族宛なのが気になったのでそのまま読み進めていく。
そこには両親を含めた7名の乗っていた星連軍の輸送船が民間の船と事故を起こして輸送船に乗っていた7名は全員死亡し、民間の船の方の乗組員も全員死亡したと書かれていた。
「嘘だ……」
僕は思わずそう呟いてしまう。余りに突然のことだったので、茫然とその場に立ち尽くす。どれぐらいそうしていただろうか。
玄関のチャイムが鳴ったので、沈んだ気持ちのまま仕方なく玄関に行くと隣に住むミランダ叔母さんが来ていた。親族宛だったので唯一の親戚であるミランダ叔母さんにも連絡が行ったのだろう。
「アルク、通信はみた?エリスとアルベルトが亡くなったって……」
「みたよ。アイナにはまだ言ってない……」
「そう……。じゃあアイナを呼んできて。私が話をするわ」
それからアイナを呼んで両親が亡くなった話をするとアイナは泣き出してしまった。ミランダ叔母さんはアイナをなだめながら色々な所に連絡をしている。
「星連軍の方にも確認の連絡をしてみたけど、事故は本当のようだわ」
「じゃ、じゃあアイナ達これからどうしたらいいの……?」
「お葬式をしてあげましょう。突然の事で気持ちの整理が追いついてないだろうから、気持ちを整理するためにもお葬式をしてちゃんと2人の事をお見送りしてあげるのよ」
「うん、わかった……」
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5日後、僕達3人はウプウアウトという星の軌道ステーションにいた。
この軌道ステーションは他の星から来たものを地上に降ろす前に検査して違法な荷物や疫病の検査等をするための所だ。大体空港と同じ様な役割をしている。検査の方が問題無ければ宇宙エレベーターでそのまま地上に降りる事が出来る。
僕達は全ての検査を終えて宇宙エレベーターに向かう途中で、体格のガッチリしている男達に呼び止められた。
「すみません、アレイスターさんのご遺族の方ですね?」
「えぇそうですが、どちら様ですか?」
叔母さんが不安げに聞く。
「やっぱり……!私はアルベルトの同僚のライド・アクトです。いえね、アルベルトからお子さんの事をよく聞かされていたのですぐに気付きましたよ!」
そう言って意味ありげに僕の方を見る。父さんは僕の写真でも見せたのだろうか?父さんと母さんの事を思うと少し悲しくなった。
「丁度よかった!もしよろしければ私達と葬儀場までご一緒しませんか?」
「そうですね、一緒にいきましょう。2人とも行くわよ」
僕とアイナはそれぞれ返事をして一緒に葬儀場まで行った。道中ではライドさん達が父さんと母さんの話を沢山してくれた。2人はよく出張で家を留守にしていたので、2人の以外な一面を知る事が出来た。
葬儀場は思っていたより静かで、周りに植えられた木葉の揺れる音が他の人のすすり泣く音を消している。僕達は受付で確認すると既に準備が出来ているそうなので、遺体の確認をした後火葬する事になった。
「私ガオ部屋マデゴ案内致シマス。」
案内役はアビスインダストリー社のヒューマノイドで、普通の男の顔をしていた。もし普通の道端ですれ違ったとしたらロボットという事に気付けないだろう。それほど仕草も形も人間にそっくりだ。ただ、声だけは合成音声だった。実際の人間の様な声に変えようと思えば出来はずだけど、これはわざと合成音声を使っているのだろう。
テニスコートほどの大きさの部屋に案内されて、中に入るとかなりの人が最後の見送りに来ていた。
「父さん……!母さん……!」
箱の中を覗いて僕とアイナと叔母さんの3人は息を飲む。箱の中に安置されていたのは人と呼べるようなものではなかった。父さんの頭は無く、目に見えて分かる部位は腕だけで他は肉片がその部位であっただろう場所に置かれている。母さんの方は頭が半分しかなく、胴が辛うじて原型をとどめているがボロボロだ。
「間違いなく母さんだ……。」
「うぅ、お母さん……」
アイナは泣き崩れ、叔母さんも必死に涙を堪えている。僕も気付いたら涙が頬を伝っていた。
ふと一緒に来たライドさんの方を見てみる。ライドさんは一瞬笑みを浮かべたが、取り繕う様に無表情になった。どうして笑ったんだろう?父さんに恨みでもあったのだろうか。でもそんな感じの悪い笑い方ではなかった気がする。
そうして葬儀はつつがなく行われた。
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「少しお時間よろしいですか?」
葬儀の後、僕達3人はライドさんに呼び止められた。この後特にすることもなかったのでライドさんについていくとカフェの個室に案内された。
「それで、何の御用ですか?」
ウエイトレスが注文したものをテーブルに置いて下がると、叔母さんが切り出した。ちなみに僕はケーキ、アイナは大きなパフェを頼んだ。叔母さんとライドさんはコーヒーだ。
「実は2人は暗殺された可能性があります。」
「暗殺……!?」
「ええ、まだ調査中なので可能性があるとしかお伝え出来ませんが。2人は極秘の任務に従事していたのでその関係かと思われます」
「その極秘の任務って家族にも教えて貰えないんですか……?」
僕は両親の死の真相を極秘任務の一言で片付けてしまうのは納得出来なかったので聞いてみる。
「普通なら一般人に教える事は出来ないんだけどね。でも今回は特別に許可をもらったんだ。現地まで来てもらう必要はあるけどね」
「現地ですか?それって危なくないですか?」
「2人がやっていたのは船舶の建造に関するものなので危険はありませんよ。御両親の仕事をみる最後の機会だから、僕としてはみてあげて欲しいと思っているんですが……」
父さんと母さんは僕達の前では一切仕事の話はしなかった。仕事の事を聞いても、はぐらかされるばかりで教えてはくれなかった。だから2人が何を成したのか知りたい。そう伝えるとライドさんは少し嬉しそうにしていた。
「本当に行くの……?それを知ったら貴方も命を狙われるかも知れないのよ……?」
「それは大丈夫ですよ。ここだけの話ですが、あの艦は年内にお披露目されるはずなので。公表されるまでは護衛も付けますしね。所でアイナちゃんはどうする?」
「行かない……」
「そっか、それは残念だな。でもアルクだけでも来てくれるならよかった。それじゃあすぐに出発しようか」