師匠の正体
突如現れた光浩君に私は悲鳴を上げそうになった。
「な、何をして」
「いや、こうやって壁と同化していただけだ。だがそんな俺をつけていると思ったが、やはりそうだったようだな」
「え? いや、だって光浩君、変だし」
「変? 俺が変だと?」
「そ、そうよ。他の人よりも走るのが速いし」
そこで光浩君は黙って私もじっと見てから頷き、
「どうやら、南野さんには特別な才能があるようだ。俺が妙だと認識していたようだし」
「どういう事?」
「まず初めに自己紹介からだ。俺は国重光浩、忍者だ」
「いやそれは知っているから……へ? 忍者?」
私は間の抜けた声で聞き返してしまう。
忍者というと昔の諜報をしている人達で、今風だと、明らかに物理的に不可能そうな壁を駆け上がるなどをする特撮のような人達の気がする。
なので私がそれを告げると、
「ふむ、そうだな。忍者のそういった技は“特撮”でしか不可能だと思われているようだな」
「……まるで本当は違うみたいに聞こえるのですが」
「そうだ。本当の忍者は……こうだ!」
光浩君が再び布を使うと同時に、完全に壁と一体化した。
その姿が完全に人一人消え去っているように見える。
一体何をどうやっているのかと思うと再び光浩君が姿を現し、
「こういった事が出来る、つまり……超能力が忍者には使えるのだ!」
「なん……だと」
「例えばこのように、壁を歩くこともできる」
驚く私の前で、光浩君が壁を歩いたり、高速で動いて分身しているように見せたりと技を披露する。
それを見て私がおおっと思っていると、
「という事だ。まさか南野さんがそれを見破る力を持っていたとは」
「……そうなの?」
「そうだ、忍びはよの中で気付かれずに存在する必要があるからな。だが気付いてもらえるのはやはり嬉しい」
「お、おう」
「自然に気付かれた物は、仕方がないからな! ちょっと凄い特技を見せても誰も、おおっと驚いてもくれないし」
「あ、そうなんですか」
「そうなんだ。俺は今、感動にうちふるえている」
そう言いだした光浩君に、そろそろわけの分からなくなっている私はとりあえず聞いてみた。
「どうしてここに?」
「実はこの場所に俺の師匠がいたのだ」
「師匠?」
「そう、空間転移、つまりテレポートが使える、坂川俊英という人物がここに住んでいるのだ」
「あれ、ここ、空き室……」
「違う、師匠の部屋だ。師匠はテレポートの能力で移動する為に、ここ近隣では人の気配がするのに中に人物がいないと思われていたが、実はとても難しいテレポート能力者だったのだ」
どうやら新たな忍者がここにいるらしい。
何だそれはと私が思っているとそこで、
「今日も師匠と待ち合わせをしているのだがなかなか遅いらしい。そういえばここがよく分かったな」
「おばあさんに教わったんです。ここの隣に住む」
「そうなのか? ふむ、とりあえず師匠が来るまでの間暇なので、見に行ってみようか。出来ればそのおばあさんにも会いたいし」
「なんで?」
「俺に気付いているという事は特殊能力者かもしれないじゃないか」
そんなに自分の存在に気付いた人間が欲しいのかと、私が新たな側面を発見している内に彼は外に向かってしまうので私は慌てて追いかけた。
そしてそのおばあさんの家の表札を見ると、
「坂川? 師匠と同じ名字だ」
「……もしかしてお孫さんとか? 古ぼけた写真を見せてきて、この子かって聞かれたし、私」
「では、師匠の祖母が……」
といった話をしていると、トントントンと階段を上がってくる音が聞こえてくる。
現れたのは先ほど遭遇したおばあさんだ。
彼女は私を見て、
「あら、さっきの……」
「先ほどはどうも。えっと……」
そこで、光浩君がそのおばあさんに、
「初めまして、国重光浩と申します」
「あらあらはじめまして。俊英、孫から聞いていますよ」
「師匠からお話を?」
「ええ。あの子も特殊能力持ちだったけれど、昔事故でね……あれ以来、ずっと隣の部屋にいついてしまって」
何やら奇妙な話を始めたおばあさん。
私は夏らしい何かを感じた。
そこで隣の部屋からにゅっと上半身をドアから透けてだした人物が一人。
「おばあちゃん、ネタばらしはもう少し後の予定だったんだ」
「あらあら御免なさいね」
おばあさんはころころと笑うがそこで光浩君が、
「ま、まさか師匠は、幽霊?」
「あー、うん、まあね。特殊能力があるからこうやって今も現世をさまよっているわけ……ではなくて」
「……何か事情があるのですか?」
「いや、そこの空き部屋って、何時は異世界に繋がっているんだが、そこに体を置き忘れてしまったというか体を捕らえられてしまったというか」
「「!?」」
「実は折を見て話そうと思っていたんだけれどね。それでテレポートを教える代わりに頼みがあるって言っただろう?」
それに光浩君が頷く。
けれど私はその後の展開を予想してしまった。つまり、
「体を取り戻して欲しい、ですか」
「そうだ! ……お願いできるかな?」
「もちろんです師匠!」
光浩君のノリは軽い。
というか師匠が幽霊だと分かってもいいのだろうかと思ったが、そもそもこの彼も謎の忍者だ。
うん、似た者同士だったねと私は思う。
ちょっとホラーな展開ではあったが、もういいやと思って私がその日の出来事を自分の中でなかった事にした次の日。
光浩君に、私には特殊な能力があると言って、強制的に異世界に連れていかれてしまったのはまた、別の話である。
ふと突発的にホラーもどきを書きたくなったのでこんな感じに




