平凡な私が追跡してみた
南野詠美、16歳、女子高生。
最近伸ばし始めた黒髪がうっとうしいと感じているごく普通の女子高生である。
そんな普通な私は、現在ある人物を追跡していた。
国重光浩という同じクラスの、非常に運動神経のいい男子である。
私は彼には秘密がある様な気がするのだ。
私の様な平凡ではない、何か“特別”な秘密が!
「でも皆そんな物はないって言って笑って私の話なんて聞いてくれないのよね」
だがあの宙返りといい走る速度といい、彼には常人にはない秘密がある様な気がする。
そんなわけで今日も私は巻かれないように追跡を開始した。
今の所、『裏野ハイツ』というアパートでほとんど見失ってしまっているが、今日こそは彼の正体を見破るのだ!
そんな理由で、今日も夏休みだというのに熱い中彼を追いかけてきたがここでまた見失ってしまう。
普通のアパートの様に見えるが、何時までも人が入らない空き室の部屋など、不気味な噂があるらしいが。
「心霊現象を信じていない私に、死角はない!」
という事で、何時ものように普通に追いかけてきたのだ。
だがまたしても見失ってしまう。
ここのアパートの誰かに会っているのだろうか?
「でもドアを開けた音が全然しないのよね。やはり音も立てずにドアを開けているのか……でも中に人がいるのだったら、中の人が出迎えそうな気がする。鍵もしまっていそうだし。そうなると空き室で鍵がかかっていないとか?」
それはそれで何か知らない人が密会しているような場所になっていそうな気がする。
私がそう思っているとそこで、2階からおばあさんが一人出てきて下りてきた。
優しそうな雰囲気のおばあさんで、私を見ると頬笑み、
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「どなたかを訪ねていらしたのですか?」
「え、えっとさっき同級生がこのアパートに向かっているのを見かけまして」
「それはこの子かしら」
そう言って老婆が差し出してきたのは古いボロボロの写真だ。
そこには子供が一人うつっているが、成長したとしても光浩のようにはならない気がする。
なので私は、
「違う人です」
「あらそうなの……うーん、そうねぇ。あー、もしかしたなら、【202】号室に行ってみるといいかもしれないわね」
「【202】号室、ですか?」
「ええ、うちの隣の部屋ですよ。鍵は空いているので、声をかけて入れば問題ないと思うわ」
「……いいのですか? 知らない人が住みつくのでは」
「大丈夫よ。……皆すぐに怖がって出てきてしまうし」
「え?」
私は不思議に思ってそう呟いてしまうが、それ以上このおばあさんは何も話す気はないようだった。
そして教えてもらったおばあさんにお礼を言ってその部屋に向かい、こんこんと二回たたいて、
「おじゃましまーす……やっぱり誰もいないみたい」
中を覗いてみるも、ネズミすらもいないような静けさだ。
とりあえず土足で上がるのも何なので、靴を脱いで座敷に上がる。
もしやこれって不法侵入になるのだろうかと私の頭にふとよぎるが、好奇心には勝てなかった。
がらんとしたリビングと洋室は玄関からも幾らか見える。
けれど洋室はそのリビングとの境目にガラス戸があり、その周辺がすりガラスのせいかよく見えない。
つまりもしもそこに隠れていたら、私からは見えないのだ。
どうしようかと迷って、見知らぬ人物が隠れていても嫌なのでリビングに入った所で私は、
「光浩君、いますか?」
「なんだ?」
「ふわっ!」
私の小さい問いかけに、私のすぐ横の壁がぺらりとめくれてそこから、同級生の光浩君が現れたのだった。