異世界転生!?
異世界転生チーレムというジャンルを最近知った
悪くない
つまんねー
最近この言葉をずっと口にしている
本当につまらない毎日だ。
学校へ行き、アホ顔の先生の授業を受け、友人と他愛もない話をし帰路する。
毎日毎日代わり映えのしない日常だ。
小学校から中学、高校とずっと続いているこの習慣はたぶんなれることはこの先も無いだろう
唯一の息抜きといえば小学校から始めた週に三回のキックボクシングだろう
最初はいじめっ子をボコボコにしたい一心で練習してきた。
そしてボコボコにした後も何気なく続けているのだ。
今では適度に息抜きになっているので、キックボクシングの時間は心のゆとりになっている。
話は変わるが、もしもゲームの世界にでも入れたら、さぞ楽しいだろう
レベルやスキルをカンストするまで上げ、最強の装備を揃え世界を救う。
心が躍る冒険というものを一度はしてみたいものだ。
そんな願いがあるからこそ、俺はこのつまらない日常に嫌気がさしているのかもしれない。
しかし本当はわかっている。
自分から何か変えようとする努力をしなければ、日常に変化がないことをわかっているにも関わらず、行動を起こさない俺は「つまんねー」と口にするしかないのだ。
学校からの帰り道、そんな分かりきった事を考えながら、歩いていく。
もう季節は六月を迎え、吹いてくる風もどこか熱を含み俺の体に汗をかかせる。
つまらない日常で唯一変わるのは季節だけか、なんて少し自虐してみる。
そんな史上最大にくだらない考えをしていると、我が家が見えてくる。
そこでふっと嫌な予感がする。
その嫌な予感とは、今日の宿題のプリントを忘れてしまったという予感だ。
悪い予感というのは当たってしまうもので、カバンの中をゴソゴソと探してみるが見当たらない。
痛恨のミスだ。
明日の朝早く行ってプリントをしようかなどと甘い考えをしてしまうが、現実的ではないので、諦める。
家を目前にして、踵を返し学校へ向かう。
一日授業で磨り減った精神力をこれ以上減らさないで欲しいものだ。
まあ、自業自得だけど…
一秒でも早くプリントを回収し、クーラーの効いた快適な部屋でゲームをするため、俺は走る。
キックボクシングをしているだけあって、体力には自信がある。
しかし、このムワッとした熱風と、精神力の磨り減った状態でいつものように走れる訳もなく、学校に着く頃には肩で息をしていた。
汗が洪水のように溢れ出てきて制服はもう水で濡らしたように濡れている。
学校にはまだ、部活動をしている人がいたので放課後といっても人は多い。
この暑い中、ご苦労様ですねっと心で思う。
もし口にして、誰かにでも聞かれたら、気まずいからね、っと誰に対する言い訳かわからない言い訳をする。
正面玄関を抜け、中庭を通り靴箱にたどり着く。
外靴から上履きに履き替え、教室へ向かう。
グラウンドには部活で人はいるが、校舎内はというと、うちの高校は文芸部が少ないので、ほとんど人はいない。
その結果、校舎内は静か過ぎるほど静かだ。
そして日が落ち始め、暗くなりかけているのと相まって、少々な不気味さを感じる。
これは少し非日常だなと思い、鼻をふふんと鳴らす。
少しの不気味さと、少しの非日常感を感じながら、歩いていると目的の自分の教室の前に着く。
そこで違和感に気がつく。
教室の中から人の気配がする。
よくわからないが、人の気配だ。
教室のドアに耳を付け中の音を聞く。
ゴソゴソという音と、今にも消え入りそうな小さい女の声がする。
このまま聞き耳を立てているわけにも行かず、意を決して教室のドアを開け中に踏み込む。
そこには俺の手に余る非日常が広がっていた。
日本で有数のブサイク、ブサ・杉子がクラスでイケメンのリコーダを「チュパチュパしてるねー」という謎の発言とともに一心不乱に舐め回している。
俺が教室に入ったことに気がつかないのか、意に介さないだけかは分からないがこちらを振り向く様子はない。
振り向こうが向くまいが、俺のすることは一つ。
自分の机から宿題のプリントを取り出しカバンに入れる。
これで目的は完遂した。
余計な争いは起こさないほうがいい。
そう思い、そっと教室のドアを閉め、そそくさと、靴箱まで走る。
この世には知るべきでないことがある。
そう思い、家まで帰った。
ようやく帰宅した頃には六時を回ろうとしていた。
帰りも、走って帰ってきたので制服は汗で大変なことになっている。
汗まみれの制服に気持ち悪さを感じ、光の速さで脱ぎ捨てる。
脱ぎ捨てた制服を洗濯かごに叩き込み、シャワーを浴びる。
シャワーで十分に体を洗い、出る。
さっぱりしていい気分だ。
夕飯を食べ、自室に戻る。
非日常を体験し、日常の大切さを知る。
それが今日よくわかった一日だった。
しかし俺の非日常はこれだけでは終わらない。
それは一通のメールだった。
村長と名乗る者からだ。
、
私の世界を助けて欲しい
今、世界は未曾有の危機に陥っている。
あなたは、私の世界の勇者にっていただきたい。
そう綴られていた。
これが本当なら、俺の望んでいた展開だろう。
しかし、世界はよくできているもので、いくら念じようともゲームの中の世界に入れたりする訳もなく、希望とは、儚く散っていくものである。
それに、俺は今日日常の大切さを知った。
タイミングが悪かったな、村長。
俺は、簡潔に「ムリ」とだけ返信する。
これでいい。
非日常を望みながら日常を生きていこう。
そう決意した五秒後メールの返信が来る。
そう言わずに(笑)
ほら、報酬あるよ?
こっちの世界へ来てごらんよ
楽しいよ〜
というわけで、30分後に転送開始するよ。
俺が返信したのに意味があったのか?
と疑問の残る内容だった。
報酬?
転送?
訳のわからない事だらけだが、とりあえず外行きの服に着替える。
頭ではバカバカしいと思っているが、さっきから胸が高鳴っているのだ。
勇者になって世界を救いたい
心躍る冒険がしたい
男なら誰しも一度は思うことだ
だから今にも消えてしまいそうな淡い期待を抱いてしまった俺は、とりあえず服を着替えたのだ。
気が付けば、カバンの中に絆創膏やらの、救急キッドを詰め込み、飲み物や食料を押入れていた。
そして、きっかり30分後にメールが来た。
準備はいいかい?
転送が始まるよ。
とだけ送られてきた。
次の瞬間、身体が光り出し、足から順に光の粒となって消えていく。
淡い期待は裏切られなかった。
もう腰まで消えている。
もう少しだ。
もう少しで俺の望んだ大冒険ができる
胸の高鳴りを抑え目を瞑る
都合の良すぎる展開に疑問も抱かず、1分もしないうちに、頭まで消えてしまった。
そして、人間一人消えてしまった部屋には、いつもの風景とカバンだけが残されていた。