青の中の色
俺は、その日猛烈に暇だった。
3時間連続の講義。内容も非常に退屈な物だった。
それは俺の友人たちも同じだったようで、それぞれが欠伸をしたり携帯をいじったりしている。
俺たちの座席は教室の一番後ろだった。
講義が終わったら、すぐに外に出られるようにだ。
単に携帯やDSで遊ぶ時に、先生の目に触れない為でもあった。
俺は暇な時、人間観察をする。
余りにも暇な時な。
その日も、俺は前方の席に座る人を観察していた。
目に入ったのは地味な女の子だった。
ほとんど黒に近い茶髪の子で、彼女は1人で講義を受けていた。
机の上に置かれたままの鞄はブランドものではなく、渋谷で安売りされているようなものだった。
そして何らかの動物のキャラクターがぶら下がっている。
何だろう、ポ〇モンかな。
俺金銀までしか知らねーんだよなぁ。
印象としては、地味な子というか。
ふと、頭の中にあまりよくない暇つぶしが浮かぶ。
その日はなんとなくそれを口に出してしまった。
余り深く考えて行った言葉じゃないが。
「……んー」
「どうしたよ唸って。便秘か?」
「いや、あの子のパンツ何色かなぁと思って」
普通こんな事を言ったらドン引きだろうか。
いや、男同士なら案外アリな会話だったりする。
男って基本馬鹿だからな。
そして馬鹿な友人は、それに真剣に乗って来た。
名前をヒデと言う。
「どの子よ」
「そこの、今ペンをくるくる回してる」
俺の発言に、ヒデの更に隣に座っていたノリも乗って来た。
そして真剣に悩む。
「うーん、白いブラウスに青いスカートか」
「ああいう地味な子に限って派手なのだったりするんだよな」
「いーや、白いおパンティに決まってらぁ」
口々に好き勝手に言う俺ら。
一個前に座っていた女子が半笑いだったが無視をする。
俺が思考を巡らせていると、ヒデがある提案をしてきた。
男同士の会話特有の馬鹿なものだ。
「なぁ、賭けをしないか?」
「何をだ?」
「パンツの色をだよ。勝ったら負けた2人が昼飯を奢るって方向で」
「いいぜ、俺白ぉ!」
「ブレないなお前は」
賭けと言ってもなぁ。
どうやって確認するんだか。
「俺は赤ー! 派手に決まってらぁ!」
「うーむ」
ヒデは赤、ノリは白か。
2人合わせれば縁起がいいな。
俺はどうしよう。
黄緑……かなぁ。
その間に少女は机に突っ伏した。
この授業退屈だもんな。
期末テスト無い奴だから真剣に聞いても仕方ないし。
……いや、待て。
あそこに見えるのは……。
「俺はピンクだ。貰ったぜこの勝負」
「ほほう、その根拠は? 俺ら2人の真ん中取ったのか?」
「ばっかちげーよ。あの背中見てみろ」
「背中? ……ハッ」
そう、白い服を着る彼女の背中には薄っすらとブラの紐が透けていた。
ブラの色はピンク。
視力2.0の俺が間違える訳がない。
そして大抵ブラとパンツの色は合わせるもの。
つまりパンツはピンクという事だ!
俺の勝利は揺るがない!
「……で、これどうやって確かめるんだ?」
「そりゃおめーが聞いて来いよ」
「何でだよ」
「言いだしっぺの法則というのがあってだな」
「やめだやめだ。本人にパンツ見せて下さいとか言えるわけねーだろ」
「んだよ」
「じゃあお前聞いて来いよ」
「やだね」
まぁ、こうなるとは思ってたけどな。
ちょっとは暇を潰せて良かった。
いい感じに終わる時間になったし。
キーンコーンというチャイムと共に立ち上がる。
教科書は持って来てないから手ぶらだ。
ペンだけは胸ポケットに入れてあるけどな。
ふと、さっきの女の子を目で追う。
彼女はそそくさと道具をまとめて立ち上がり、こちらに振り向いた。
……あれ? あの顔どっかで……。
「あぁ!」
「どうしたよ」
「思い出した! あいつ知り合いだわ。ちょっと話しかけてくる」
そうだ、思い出した。小学校の時にクラスメイトだった奴だ。
名前は確かリキだったっけ。
男っぽい名前だからとよくネタにしたものだ。
「おーい、リキー!」
「へ? あぁっ!」
リキも俺の事を思い出したようだ。
懐かしいなぁ。何度か遊びに行ったり、俺の家に来たりした間柄だ。
ス〇ブラでよく対戦したものだ。
それから、俺はリキと少しだけ話を交わした。
男っぽい性格はあの頃のままだった。
いや、もしかしたら俺と話した事でリキも当時の感覚になったのかもしれない。
その間、後ろからプレッシャーを感じた。
パンツの色を聞けというのだろう。
うーん、リキなら軽く教えてくれるんじゃないだろうか。
「なぁ、リキ」
「何?」
「罰ゲームなんだけどさ、女の子にパンツの色聞けって言われてるんだよ」
「はぁ?」
「ほらあいつらに」
振り向くリキ。
そこにはニヤニヤと笑うノリとヒデ。
納得してくれたらしい。
「……知りたい?」
「まぁ……」
「分かった。ちょっとこっち来て」
俺は人目に付かない場所に引っ張られた。
リキはそっと俺の頭を掴むと、地面の方に押しながらスカートをたくし上げた。
「え? いいのか?」
「……」
恥ずかしがりながら顔を背けるリキ。
パンツを見てもいいという事なのか。
口で言ってくれればいいだけだったのに。
まぁこれは役得だ。ありがたく見させて貰おう。
俺はワクワクしながらスカートの中を覗きこんだ。
そして、その中を確かに見た。
リキはその瞬間、走り出してどこかへ逃げていった。
「おい、どうだった?」
「どうだったって?」
「パンツの色だろ。聞いたんだろ?」
「あぁ、正解は無かったよ」
「なーんだ。で、正解は?」
「だから正解は無かったんだって」
「???」
正解は無かった。
正解の対象そのものが無かった。
大雑把な性格なので、暑い日は脱げるものは全て脱いでいたらしい。
何て奴だ。
この勝負、最初から正解者はいなかったんだ。
だが、俺は間違いなく勝者になっていた。
宜しければ、他の連載や短編もご覧になって行ってください