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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

食べ物の恨み

作者: 木野瀬水道

  ヒロシは黙ってうつむいたままだ。


 何故かって言うと、ママに叱られたからだ。


 「どうした、何があった」パパが部屋の奥から来て、僕に言った。


 「しりません、ヒロシにきけばいいでしょ」ママの剣幕だ。


 「何をした、ヒロシ」


 僕は俯いたまま答えない、喋らない。


 「黙っていちゃわからんぞ」


 沈黙が続く、


 「ヒロシッッ」


 パパが沈黙を破り怒り出した。


 「何があったんだ、話さなきゃ分かるものも分からんぞ」


 僕は涙をこらえながら、そこを逃げ出した、団地の分厚い鉄の玄関戸をおもいっきり蹴って。


 「ヒロシッ逃げるな!」「あなた待って」


 「ママ、これは…」「お仕置きよ、あなた追いかけるわよ」


 ママは私に果物ナイフを自分には刺身包丁を持っている。


 

 ガンガンとうるさい街の中を鬼の形相みたいな顔でヒロシを追いかけている。


 私は後ろからそれを見て怖くなった。いや実際に怖かった。


 ヒロシは走る、ひたすら走る商店街を抜け、団地の中央にある公園の滑り台下の空洞に逃げ込んだ。


 ゼイゼイ、ハーハー、と息が切れる、そんな息を殺して辺りを見る、ママやパパが追いかけてこないかを、


 「ヒロシィ~ヒロシちゃ~ん出ておいで」猫なで声でよびかける。


 機嫌が直ったのかとひょこっと顔を出した。


 「危ない!」パパが大きな声で僕に言った。その時僕の頭の上、髪の毛をかすりながら包丁?が飛んできた。


 「大丈夫か」パパが言う。


 「あなたぁ」ママがパパの方へ首をかしげながら振り向いた、とたんにママがパパに襲い掛かる。


 「何、してくれるんじゃ、このボケナスがっあ」


 「オラ、オラ、死にさらせこのダメ親父がぁー」


 信じられない光景がそこにはあった、ママがパパに馬乗りになり顔面を殴打しているのだ。


 「ヒロシ、に、逃げろぉ」パパの最後の言葉だった。


 それっきりパパは動かなくなった、生きているのか、死んでいるのか分からない。


 「またせたわねぇ、ヒロシッ、ぶち殺してやる、死ねやオンヅルゥゥウ」


 怖い、もはや言葉ではない何かを発しながらこちらへ向かってくる、僕は震える足を押さえながら走り出した。


 「逃がしゃしねーぞ、ヒーロシィー、ババルウウ」ママは滑り台に刺さっていた刺身包丁を抜くと走りながら追いかけてきた。


 子供と大人の差でだんだん追いつかれてきた。


 「チャストー」ママが包丁を振り回す、間一髪のところでかわし、公園を出て、人の多い方へ走る。


 背中に痛みを感じた、かわしたと思った包丁が背中をかすめていたようだ、痛みにこらえながら走った。


 ヒロシは思い返していた、何故ママがあんなに怒っているのかを、走りながら思い出したのは一つしかない、それは、ママが大切に取っておいた、高級プリンを食べてしまった事くらいだ。


 食べ物の恨みは恐ろしいと言うけれどこれほどとは、とその時。


 「みぃーつけた、このチビザルがぁー、死ねやー」いつのまにやら回り込まれてたらしい、ママが横の路地から出てきて、包丁で切り付けた。


 スッパーン、左手が肩から手の甲までサックリ切れた、血がプシュゥと飛び出す。


 僕はのけぞりながら、ママと逆手方向に走った、逃げた、そして雑居ビルに飛び込んだ。


 パトカーのサイレンが聞こえる、誰かが通報したのかもしれない、なにせ街の中を包丁を持った女が子供を追いかけているのだから。


 しばらく隠れていると、カツゥーン、カツゥーンと足音がする。


 ママのヒールの音だ、しばらく聞こえていたがやがてその音は聞こえなくなった。


 僕はホッとした、ママが出て行ったと思ったからだ、だがそれは間違いだった。


 ビュッと音が聞こえたと思ったら、生暖かい物が頬をつたった。血だった。


 理解するのが早いのと同時ぐらいに、ビュッと音がした、僕は前へ飛んだ、だが足に当たったみたいで左足が痛い。


 闇の中からぬぅーっとママが現れた。手にヒールを持って。


 「うぉぉぉぉぉー」ママに騙された、出て行ったと思わせたのは嘘、ヒールを手に持ち素足で近ずいていたんだ。僕は叫んでいた、怒りとも憎しみとも分からない感情に押されて叫んでいた。


 「さぁおねむの時間よ」ママは包丁を振りかざす。


 と、そこへ救いの手が現れた。


 「手を上げろ!警察だ」拳銃をママの方に向けている。


 「ゥッシャー」ママが奇声を放ち僕に襲い掛かってきた。


 パァーーン


 銃声が鳴り響いた。


 ママはうずくまっている。


 「大丈夫か?」


 僕は安心したのかそこで意識を失った。


 数時間たって僕は病院のベッドの上だ。


 目の前に心配そうに見ているパパがいる。


 「目が醒めたかい、ヒロシ」パパはなんとも優しそうな声で話しかけてきた。


 「んじゃ、そろそろ死にますか」


 パパは果物ナイフで僕を一突きにした、僕は薄れ逝く意識の中で高級プリンのことを思い出していた。


 そう、食べ終わって容器を捨てようと手に持ったとき容器の裏側に『パパ』と書いてあったのを思い出しながら。


 そして二度と起き上がることは無かった。



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