溝にはまっていた小鬼
「鬼」というと、どんな姿を思い浮かべるだろうか?
雄々しい角、ぎょろりとした目、裂けんばかりの口からのぞく鋭利な牙、深紅の肌に、
虎柄のパンツ、そして黒光りする金棒ーーー。
大体の人がそんな鬼を思い浮かべるだろう。
だが、私が出くわした鬼は違った。
どんな鬼かって?
それは読み進めてもらったら、分かるよ。
暦上は秋だったけど、その年は残暑がきつかった日だったと思う。
鬼は、溝にはまっていた・・・。
***
その日、高2の私は山道を歩いていた。
え?
ハイキングでもしているのかって?
いや、ちがう。
あと、山道って言っても、ちゃんと舗装されてるよ。
ほら、あの山頂に赤い点が見えるでしょ?
あれが、私の家。
今は、下校中。
途中までスクールバスがある。
それは山の麓まで、乗せてくれるけど、山は自分で上らなければ家にたどり着けない。
学校の皆は、「大変だね」とか「面倒だね」なんて言うけど、大変でも面倒でもない。
それが、わたしの日常だからである。
というか、楽しい。
近くに、ゲーセンや映画館がなくても、遊ぶことが出来る。
好きな歌手の歌をハミングしながら、長々と続く山道を歩いていると、
1,5メートル先の溝に、なにか黄色いモノがはまっていた。
近づいてみて見ると、
「なんじゃこりゃ」
ちょうど、バスケットボールくらいの赤ん坊がはまっていた。
それも、鬼のような虎柄のパンツを履いているのである。
その赤ん坊は泣きもせず、じっと私のことを見つめていた。
こんなところに誰が棄てたんだろう?
可哀想に、と私は赤ん坊を抱き上げた。
すると、赤ん坊は私の制服をぎゅっと握った。
まるで、助けを乞うかのように。
私は、その仕草に愛なのか同情なのかはわからないけど、助けてあげたいと思った。
私は赤ん坊を抱き抱えたまま、家まで歩いた。
時々声をかけながら、背中をゆっくりたたきながら。
けど、赤ん坊はずっと無反応だった。
なにをされても、制服を小さい手で握ったまま。
赤ん坊の黒いまんまるな瞳は、ずっと遠く遥かを見つめていた。