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現代日本に颯爽と現れた奇跡の辻ヒーラー、思いもよらぬ事態に陥る

作者: 兵衛門
掲載日:2026/06/18

先日投稿した「現代日本に颯爽と現れた奇跡の辻ヒーラー、雑に何かを取り除く」の続きとなります。

 おじさんを”治し”たことで、私は多分調子に乗っていたんだと思う。

 お礼を言われてしまって辻ヒーラーとしては負けちゃったことで、ムキにでもなっていたのかも知れなかった。

 あれからちょいちょい”辻ヒール”をしてしまっていたのだ。

 おじさんがくれた柏屋(かしわや)薄皮饅頭(うすかわまんじゅう)が美味しかったことに味を占めたわけではない。

 私はこしあん派だったので、おじさんを見直したけど、辻ヒールはお礼を言われたらダメなのだ。

 おじさん、いい趣味してんじゃんよ。


 辻ヒールとは小学生の頃に遊んだMMORPGで回復職の人が、見ず知らずの人に回復や強化を無言で行い、名も告げずに去っていく、超カッコいい行為を言う。

 だから私もそれに(なら)った。

 さりげなく”治せ”るように声を小さくしていき、今では声を発することなく(痛いの痛いの飛んでけ)と念じるだけでおまじないを使うことが出来るようになった。


 Case,1

 通学に使っている駅にある売店で、私は時々休み時間に友人たちと食べるお菓子やジュースを買う事がある。

 その売店ではいつも年配のお姉さん……多分50代とかなんじゃないかな。

 そのくらいの人がいて、買い物してる内に毎朝挨拶するくらいの仲になっていた。

 私はいつも売店のお姉さんと呼んでいたのだけれど、ある朝お姉さんが何やら辛そうな表情をしていたので尋ねると毎朝の新聞や雑誌を並べている時に腰を痛めたのだという。

 売店のお姉さんはふくよかな肝っ玉ママ風だったので、妙に強そうなのだけれど、滑り腰? というような事を言っていた。

 聞いた事ないけど、ぎっくり腰とは違うみたい。

 

 「大変ですねぇ」


 「心配してくれてありがとうねぇ。あ、ほら電車もうすぐ来るみたいよ。今日も行ってらっしゃい」


 「行ってきます、お姉さんもお大事に!」


 そう言って滑り込んできた電車のドアが閉まる直前、お姉さんに小さく手を振りながら”治し”た。

 電車が動き始める。

 売店のお姉さんは何か気が付いたのか、不思議そうに自分の身体を見下ろし、体を捩じったりしていた。

 流れる景色と共に、お姉さんはすぐに見えなくなった。

 してやったり。

 なんか腰痛以外にもいろいろ取り除いてしまった気もするけど。



 Case,2

 私のおまじないは練習と試行錯誤を繰り返したおかげで、痛みだけでなく、不調や病気なんかも取り除いて”治す”ことが出来るようになっていた。

 今日は休日なので友人の早川せりすと遊ぶために、電車で移動中だった。

 途中の駅で黄色い帽子をかぶってリュックを背負った小学生の集団が乗り込んできた。

 遠足か何かだろうか。

 人というのは集団になると不思議と騒ぎ始めてしまうのだけど、私の近くに座っていた女の子たちは固まって静かにしていた。

 やがて小さく「大丈夫?」「先生呼んでくる?」という声が聞こえたので、見ると一人白い顔でぐったりしている子が囲まれている。

 乗り物酔いだろうか?

 せっかくのイベントなのに、乗り物弱いと辛いんだよねぇ。

 私も乗り物は弱い方だったから、ほんの少しだけわかるよ。

 こっそり視線と掌をぐったりしている子に向けて”治し”ておいた。

 女の子はみるみる血色が良くなっていき、「え、あれ?」と顔を上げた。


 「なんだろ、急に吐き気とか無くなった。なにこれ?」


 「あ、酔い止め効いたんじゃない?」


 「えぇ、酔い止めってこんな急に効くっけ?」


 ふふーん。元気になって良かったね。

 女の子たちは懸念が無くなったからか元気に騒ぎ始め、引率の先生に注意されていた。

 むしろ先生の方が大変そうだったので、電車を降りる際に先生も”治し”ておいた。

 先生ってスゴイ大変な仕事だってよく聞くし、病気じゃなくても疲労が取れると良いですね?



 Case,3

 普段降りない駅で友人のせりすと落ち合うと、人がいっぱいの町に向かう。

 今日はせりすと一緒にマ○ケンコラボカフェで散財して、それぞれ自分の推しグッズを買ったり文房具を眺め倒したりしていた。

 令和でもブロマイドってあるんだ。

 私はマツ○ンに興味はないけど、さすが大御所のグッズ展開は頭がおかしいレベルだ。

 私の推しは公式の供給が殆ど無いので、羨ましい限りである。

 

 そうして遊んでいて駅ビルから外に出ようとすると、いつの間にか豪雨になっていた。


 「うわ、あたし傘持ってきてないや。せりす傘持ってる?」


 「お天気ニュースでは一日曇りだったから持ってきてない」


 「買うかー」


 「休憩がてら雨宿りというのは?」


 「席あるといいね」


 二人で溜息交じりに戻ると、カフェはどこも満席、ファストフードも満席で、階段に座り込んでファストフードを広げる人までいる始末だ。

 お高いレストランなら席はありそうだったけれど、学生にそんなお金がある訳もなく、ドラッグストアで適当な傘を二つ買った。

 外の降りは相変わらず強く、傘があっても濡れてしまうほど。

 空いているお店を探して移動していると、この土砂降りの中、びしょ濡れで移動する車椅子の男性とすれ違った。電動ではない、古いタイプの車椅子の車輪をふうふう言いながら回している。

 いったん通り過ぎそうになったが、とてもじゃないが見ていられなかった。

 ”治したい欲”が暴れ出したわけじゃない。

 周りにはある程度人がいるのに、誰も助けてあげないのが、見過ごせなかったのだ。


 「ごめんせりす、ちょっと先行ってて!」


 私は車椅子の男性の後ろから傘を差し、「良ければ押しましょうか? 行先はどこですか?」と話しかける。

 するとかなり驚かれたけれど、男性は「すみませんありがとうございます。もうすぐそこなんで大丈夫です」と笑った。

 もうここまで濡れているのに今更傘を差したからと何か良くなるわけではない。

 それでも私は放っておくことが出来なかった。

 目的地は私達がいた駅ビルで、そこを指差す手は少し怪我もしているようだった。


 「そんな手で車椅子を動かしてたんですか? やっぱり押しますね」


 彼に傘を預けて私が車椅子を押そうとすると横から傘が差し出された。


 「なぁに一人で徳を積もうとしてんのよあんたは。あたしにも一枚噛ませなさい」


 せりすはそう言ってにへっと笑った。

 やだカッコいい……。


 本当にすぐ駅ビルに着いてしまったけれど、車椅子の男性は凄くお礼を言ってくれた。


 「車椅子生活になってそれほど経ってるわけじゃないけれど、傘を差した上に押してくれる人というのは初めてだよ、ありがとう。僕にかまったせいで濡れちゃったね」


 「あんまり助けになったかわかんないですけど、ほっとけなかったので。せりすも付き合わせちゃってごめんね」


 「なに、『上様(うえさま)』なら困った人を見過ごすような真似はしないからね。倣っただけさ」


 濡れた金髪を掻き上げながらドヤ顔を晒すせりすは、ちょっと輝いていたが、車椅子の男性は「上様……?」とよく分かってなさそうだった。

 (雨の日は大変そうだなぁ……)

 そう思うとつい、別れ際にさりげなく”治し”てしまった。

 さっきお礼を言われたのは辻ヒール前、つまり辻ヒールに対してではないので、ノーカンだ。

 この辻ヒールは私の勝利だ。



 ◇◇◇◇◇



 車椅子生活になってもう結構経つ。

 出かけていた先で急な雨に降られるのは、たまにある事だ。ただ、今回は移動中で傘の用意も無かった。

 慣れてきていたこともあって、普段同行してくれる妻には休んでくれと言って今日は一人だった。

 どこかで雨宿りしようにも、バリアフリーが進んだ今でも、車椅子では入りづらい店は意外と多い。

 結局店員さんの手を煩わせてしまうと良心が痛むのだ。

 どうしようか考える間に雨脚は強くなり、すっかりびしょ濡れになってしまった。これではもう雨宿りもくそも無い。

 下着も靴下も洩れなくびしょ濡れで、車椅子の座面は水たまりのようだ。

 下半身不随で足の感覚が殆ど無いから、靴の中一杯の水の感覚が解らないのはひょっとしたら不幸中の幸いかも知れなかった。

 急な雨で通りに人はまばら。車椅子が動いていても邪魔にはなるまい。

 土砂降りの中で赤信号に捕まると、なんだか自分がみじめに感じてしまっていけない。

 信号が変わったところで車輪を動かそうとして、雨で手が滑ってしまった。

 ここで指と手首を痛めたのは、身体の痛み以上に心が痛い。しかしこんな雨の中で立ち尽くしていても始まらない。車椅子だから立ってねぇけど。

 息を切らせながら車椅子を押していると、後ろからスッと傘が差し出され、「良ければ押しましょうか? 行先はどこですか?」と声を掛けられた。

 若い女の子だった。

 もうすぐ駅ビルに着くので、丁重にお断りをしたのだが、手の負傷を見破られて傘を握らされてしまった。

 彼女には連れがいたらしく黒マスクに金髪の、ちょっと怖そうなギャルと一緒に僕を駅ビルに送ってくれた。

 話してみれば、良い子達で若い子でもこんな良い子達がいるんだなぁと胸が熱くなる。

 今までも色んな人に助けて貰ってきた車椅子生活だったが、自分が濡れるのも構わずに助けてくれる人というのは初めてだったかもしれない。

 気分が上向きになったところで、気が付いた。

 足が、濡れている。

 靴の中の水が体温を奪っていくのが感じられる。

 足に、感覚があった。

 (?! 足が……足に感覚がある?!! ……うご、く。動くぞ、何故?! あの女の子が何かしたのか? いやそんなはずはない、彼女は僕の足どころか、身体に触れもしなかった)


 夜、妻に心配されながらも自分の足で立ち上がろうとしてみた。

 僕の足は以前のように、とはいかないが、確かに動き。

 筋力の低下によって身体を支え切れずに転倒してしまった。


 「あなた、大丈夫?!」


 「は、ははは。見たかい? 今僕の足は確かに動いただろう?」


 妻の目にも僕の目にも涙が浮かんでいた。

 無様に転んだからというわけじゃない。

 もう動かないだろうと言われていた足が、意思に従って動いた奇跡。

 足が動いたことで心が動かされて出た涙だった。


 僕と妻は僕の足が動く動画と脈絡のない奇跡の報告をSNSにあげた。



 ◇◇◇◇◇


 あるSNSの投稿。

 「今日の遠足で生徒が体調不良だというから様子を見に行ったら元気に騒いでいて、『元気じゃねぇか』ってがっくりしつつ注意してたら、急に体が軽くなって頭がすっきりした。当該生徒は「急に酔い止めが効いたみたいで、反動で騒いでしまった」と謝って来た。埼京線での出来事」

 

 「言われて気が付いたけど、腱鞘炎の痛みが消えてる。まるで身体がリセットされたみたい」

 

 「何度もごめん、髪が荒れてたのに、今日は櫛がスッと通るようになった。埼京線の出来事からなんだと思うけど、他に似たような体験した人いる?」


 「特定されるぞ、もうちょっとぼかせ」

 

 「ついさっき面白い投稿があったのでリンク貼っておくね。関係あるかはわからんけど夢のある話で俺は好き」


 リンク先には動かなかった足が急に動くようになったという車椅子の男性からの投稿があった。

 この車椅子の男性はレスに対して、池袋の出来事だったと語っている。

 彼は足が動くようになる直前に、二人組の若い女性に助けて貰ったエピソードを語り、かなりネットの関心を引いた。


 数日もするとこれらの投稿は引用されまくり、薄皮饅頭おじさんというハンドルネームの投稿が話題に上ってきた。

 薄皮饅頭おじさんによると、埼京線車内で転倒した際に彼は高校生の男女二人組に助けられており、目的の駅に着いたところで、五十肩で上がらなかった腕が自由自在に動かせるようになっていた、長年苦しんだ足底筋膜炎もそれから痛まない、水虫がなぜか快癒、失われた髪の毛は現状維持だったと語った。

 これに対してネットではまとめスレ【埼京線】病気を治す女子高生がいるらしい【池袋】がたてられ盛り上がった。

 しまむら君のアスキーアートがいくつも貼られ、新しいものもいくつかできたという。

 薄皮饅頭おじさんは痛みが消えた事で、睡眠の質が上がり、今は副業を始めたという。

 決して上手ではないが味のあるイラストを描く仕事を始めたとのことで、ネット民のおもちゃにされながらも意外に受けているようだ。



 ◇◇◇◇◇



 灼熱の夏休みが終わり、まだ残暑厳しい十一月。

 この時期に半袖じゃないとおかしいみたいな気候を恨む。”治せ”ないかなコレ……。

 前の席に座るせりすがスマホの画面を私に見せてきた。


 「いぶき、これ面白いよ」

 

 「埼京線の怪異? 私怖いのヤなんだけど」


 「怪異が全部怖いわけじゃないからダイジョブだよ」


 ちょっと引き気味にショート動画を見ると、車椅子の男性が二人組の女の子に助けられて、その後から半身不随が治ったという不思議な話だった。


 「今関連リンク送ったから、家で見てみー。これあたし心当たりあんだよねー」


 ?

 送られたリンクはネット掲示板のまとめサイトのものだった。

 【埼京線】病気を治す女子高生がいるらしい【池袋】

 むぅ。なるほどこれはひょっとして、私話題になってる疑惑?

 そこにせりすがにんまりした笑顔で言った。


 「あたしらも結構池袋行くじゃん。車椅子の人に手を貸したのっていぶきと一緒の時しかないんだけどさぁ。これいぶきなんじゃないの?」


 ぎくーっ。


 「いやいやいや、人を怪異呼ばわりは流石に酷いと思う所存?!」


 「まぁいぶきが怪我や病気を治してるとは言わんけどさー。聞いたようなエピソードがあるんだよねぇ。転んだおっさんを助けて薄皮饅頭を貰っちゃうとかさぁ。こしあん美味しかったよね」


 「美味しかったよねーあたし大塚まで買いに行っちゃったもんって、似たような話が無理矢理くっつけられてるんじゃないのこれぇ?」


 そこに隣のクラスの神谷君がやって来た。

 あれからなんやかんやあって、結局神谷君とはなんか友達になってしまっている。

 せりすだけでなく、クラスの他の女子も絡んでくることになって、私の交友関係は神谷君のおかげで急に広がった。


 「早川さんは早瀬さんに何を見せてんの? ショート動画? 俺も見ていい?」


 「あー、これは神谷君にも見て貰おう。関連リンクそっちにも送るねー」


 「早川さんあたしにも教えてー」


 結局クラスの半数くらいでおんなじショート動画とまとめサイトを眺めるという、変な事になってしまった。


 神谷君は私とせりすに顔を寄せて、「なぁ、これ。こないだのおじさんの話にそっくりじゃねぇ? 薄皮饅頭って言ってるし。髪の毛は現状維持って言ってるし」と、こそこそ言い出した。

 他の人も「ねぇなんかこの倒れたところを助けて貰って薄皮饅頭を贈ったって話ってさ」とか言い始める始末。

 ヤバいこのままだと私が怪異みたいになっちゃうと思ってたら、神谷君が変な方に話を持って行ってしまった。


 「こんなそっくりな話があるなんてすげえ偶然もあるもんだなぁ!」


 「つまりいぶきは怪異だったってオチじゃないのコレ?!」


 「早瀬が怪異なわけないだろ常識的に考えて。それは夢見すぎだって」


 ありがとう神谷君、私鈍感系主人公って頭おかしいと思ってたけど、見直したわ。

 そして私はしばらく埼京線での辻ヒールを控えようと思った。

 少し人の目を逸らすために、遠くで辻ヒールしてこようかな……。


ノリと勢いだけで書いたので、おかしなところがあるかも知れませぬ。ご容赦を。

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