10 小さなお茶会
椿と接するようになりヴィルヘルムはようやく気付いた。
椿の精神面についてだ。
椿は、自分より遥かに長く生きているはずだった。
だが、その仕草には老成したところがなかった。
むしろ叱られることを恐れる子供のように、いつも相手の顔色をうかがっている。
クラウディオが以前話していたが、成長が止まってから、周囲の人と接触することがなくなったという。
父親も死んでしまい、椿は何百年もの間、人里離れた庵で過ごすことになっていた。
最低限の必要品は村から与えられるが、それは椿を化け物としてみなしての行為だ。
祟らないでくれというお供えであった。
長い時間の中、人と接することがなく、外見も変わることがない。
彼女の精神面が成熟することはなく、成長は止まっていた。
それを考えると、椿はまだ幼い少女とみなした方がいいだろう。
これからなるべく椿に接するようにしよう。
ヴィルヘルムは思った。
ここが、彼女にとって安心できるようにしたかった。
◆◆◆
オーブンから取り出した菓子の出来栄えを確認して、椿はほっとした。
一応形になっていた。
「うまくできたかな」
心配そうに呟く椿にヨーゼフはにこにことほほ笑んだ。
一枚取り出してヨーゼフはそれを口にした。
「どうでしょうか?」
椿はどきどきしながらヨーゼフの反応を待った。
「美味しいですよ。これならヴィルヘルム様も喜んでくださるでしょう」
椿はそれを言われ嬉しそうに笑った。
「えーっと……お茶の葉は」
急いでお茶の準備をしなければとポットとティーカップを用意する。
ヨーゼフから聞いたヴィルヘルムが好きな銘柄の茶葉に手を伸ばす。
一通りの動作を見ていたヨーゼフはにこにこと微笑んで頷いた。
問題はない。
お茶の準備は完了した。
「で、では……」
椿はキッチンを飛び出した。
ヨーゼフはそれをほほえましく思った。
「慌てては転んでしまいますよ」
ダイニングに入り、椿は急いでお茶の準備を整えた。
もう少ししたらヴィルヘルムの書斎に声をかけなければならない。
「わー、美味しそうなクッキー」
クラウディオはくんくんと薫るバニラの匂いを嗅ぎ、うっとりとしていた。
「早く食べようよ」
「ヴィル様が来るまで少々お待ちください」
それを聞きクラウディオは少年のように唇を尖らせた。
「ヴィルなんて仕事の方が好きみたいだから放っておこう」
「別に仕事好きなわけではない」
そう言いながらヴィルヘルムがダイニングにやってきた。
そして自分の椅子に腰をかける。
クラウディオは覗き込んで意地悪気に言った。
「お仕事はもう終わったのですかぁ?」
中途半端に椿の真似をしていて腹が立つ。
「終わるわけないだろう」
ヴィルヘルムはそう言いながら焼きあがった菓子に手を伸ばした。ひとつ口に含ませる。
「息抜きしなければ気が滅入るからな」
ヴィルヘルムは椿に笑いかけた。
椿は嬉しそうにほほ笑んだ。
のどかな平和なひとときがゆっくりと流れていくのを感じる。




