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「リア……本当に申し訳なかった」

「もう治ったので、気にしないでください」

 そう言ってリアは、治療済みの腕をさする。リアが負った傷は綺麗に治癒されて傷跡も残っていないようだ。

「……リアは自分で自分の身を守らないのか?」

「おいガルド!」

「あ、すまん。誤解だ。俺が言いたいのはリアにも何らかの防御手段があるんじゃないのかっていう話だ」

 盾を準備する時間すら与えなかったガルドがリアのことを見つめる。

「リアは光属性魔法が使えるんだろ? 光属性魔法っていえば極大属性って言われるぐらいだから四大属性の魔法なら簡単に防御できそうだが……」

「これだから脳筋は……ガルド、リアの魔法適正は光属性と無属性だ。そして魔法を使うことで防御を行えるのは土属性の魔法だけだ。光属性魔法の中に防御系の魔法はない」

「ふうん……そういえばバトルト、お前リアに何か渡してなかったか?」

「ん? ああ、護身用に短剣を、な」

「そうなのか……」

「おしゃべりは其処までにして、少し移動しよう。戦闘音や魔物の血でほかの魔物を呼び寄せてしまうかもしれない」

「ああ、分かった。リア、何かあれば遠慮なくいってくれ」

「はい、お気遣いいただきありがとうございます」

 けなげに頷くリアを連れて阿保三人は移動を開始した。

「そういえば、どこにテントを立てる?」

「開けた場所を見つけそこを拠点として周辺の魔物を掃討して安全を確保しようと考えている」

「ま、最悪あたりの木を切り落としてしまえばいいか」

「薪を割るのと樹木を切り倒すのは違いますからね」

「わかってら」

 気楽な雰囲気を醸し出す阿呆三人と不安に満ちた顔で二の腕を握るリアの四人パーティーは拠点を見つけるために移動を開始した。

 それからしばらくの時間がたった。少しずつ日が落ち始め、森の中は段々と暗くなっていく。

 さすがにずっと外にいて椅子に座ってるのは不自然なので魔除けのお香が明日の朝まで続くことを確認してからテントを広げてまとめた荷物と一緒にテントに入ることにした。テントに入った私は携帯食料をかじった。水も飲んでおこう。私の体は食料も水も必要とはしていないけれど。

 テントは広く窮屈には感じない。ランタンを持ち込めば日が落ちてきたとしてもテントの中で読書が可能だろう。

 持ち込んだ書物だが内容は知っているのでわざわざ読む必要はない。そのため私はリアに着けている分身体に意識を向けることにした。

「よし、ここら辺で問題ないか……」

 リア達もあたりが真っ暗になってしまうまでにテントを立てる場所を決めることが出来たようだ。

「……俺はもう慣れたが、お前らはこの携帯食料で平気か?」

 テントを立てる前に補給を済まそうとしたのか自分用の携帯食料を取り出したガルドは、リア達に聞いた。

 私的には携帯食料は食べることのできる味だったのだが、普段から高級料理しか食べていない阿保三人にとって携帯食料はまずく感じてしまうかもしれない。

「この携帯食料しかないんだから、無理して食べるしかないだろ……」

「食事の心配よりもまずはテントを立てて周辺の安全を確認を優先するべきです」

「ま、それもそうだな」

 手際よくテントを立てる阿保三人を見習い少々戸惑いながらもテントを立てることが出来たリアだが、少し前からしきりに自分の背後に顔を向けている。

 幻覚を見始めたのだろう。幻覚を見始めるタイミングはそれぞれだがモフォバの幻覚作用のある鱗粉は確実にリアの体を蝕み始めている。

「リア。僕たちは周辺の魔物を倒してきますのでここで待っていください」

「わかりました」

 不安な様子を見せずに頷いたリアを置いて阿保三人は周辺の魔物の討伐に向かった。

 討伐された魔物の中には当然ながらモフォバもいた。そして残されたリアはバトルトからもらった短剣の柄を握り忙しなく周辺に視線を向け始めている。

 木の葉が擦れる音が、風の靡く音が、だんだんと暗くなっていく森が、ありあらゆるすべての物に対して猜疑心を抱き始めているのだろう。何かが、自分に対して襲い掛かってくるかもしれない、と。

 これぐらいの症状であればある程度信用できる他人がそばにいればだいぶ楽になるのだが、一人残されたリアのことを気に掛けることもできないぐらいに周辺の安全を確保するの手一杯な阿保三人はそばにいないためリアは不安に震えることしか出来なかった。

 一時間ほどたったころ阿保三人はリアのもとに帰ってくる。そこまでの時間が経ったわけでもないが森の中だということも相まってリアのトラウマを刺激しかねない暗さになりつつある。

「暗いな、エメル光を頼めるか?」

「任せてください」

 エメルはバトルトの要求に応えて四つのテントの中間あたりに火の玉を生み出す。火の玉に照らされることでテントの周辺が明るくなりリアのトラウマが刺激される心配もなくなる。

「それじゃ、ちゃっちゃと飯だけ食って明日に備えて寝ちまうか」

「寝るには少し早い気もしますが……見張りをすることを考えればいいかもしれませんね」

「そうだな。ああ、リア。君は見張りをしなくても大丈夫だ。見張りは僕たち三人でするから」

「い、いいんですか?」

「ああ、もちろん」

「ありがとうございます」

 阿保三人が帰ってくるまでずっと気が張っていたせいで疲れているリアはバトルトの提案を素直に受け入れた。

 どういう基準なのかはわからないが見張りの順番を阿保三人が決めた後、リア達は携帯食料を口に入れた。

 阿保三人は嫌そうに食べ進めているが、リアは少し物寂しさを感じさせるような表情をしていた。

「やっぱり、口には合わなかったか?」

 リアの表情をみて声をかけるバトルトだが、リアは少し考えてから首を横に振った。

「いえ……この携帯食料の味は気になりません。私はもともと平民だったのでこれぐらいの携帯食料も私からすれば美味しい、の部類に入るんです」

「そ、そうか……じゃあなんでそんな、寂しそうな顔を……?」

 リアはもう一口、携帯食料を口に含みかみ砕いて飲み込んでからバトルトの質問に答えた。

「……一週間前に私、ソルテット様に手料理を振舞っていただいたことがあるんですけど……その時のことを思い出してしまって……」

 リアは、ここ最近阿保三人に連れられて貴族の食事を味わってきたがここにきて平民だった時のような食事を口にした結果、リアがまだ平民として生活していた時のことを思い出したのだろう。違うだろうか? 違っていたとしてもリアに思い出してもらえるのは嫌な気がしない。

「……ソルテット……ライラ・ソルテットのことか……?」

「そうですけれど……どうかしましたか?」

 バトルトの戦慄した声を聴いて不思議そうにリアは尋ね返す。

「リア……悪いことは言わない。あんなのと関わるのはもうやめておいた方がいい」

「……え?」

「リア、ライラ・ソルテットの手料理を口にしてから何か体に不調が起きてはいませんか?」

「……そんなことは……」

「……慢性の物の可能性がありますね。試験が終わった後で何人かの近衛魔法団に頼んで精密検査を行いましょう」

「……え……そ、そんな必要は……」

「リア。もしライラ・ソルテットに話しかけられるようなことがあれば迷わず俺たちのもとに逃げてこい。ああ、身分的な差を気にする必要はない。ソルテットは伯爵家だが俺のガラル家は公爵家だ。エメルも公爵だしバトルトに至っては第一王子だからな」

「な、なんでですか? わ、私、その……私は……」

 リアは、何かを言おうとするがそれにかぶせるようにしてバトルトが続ける。

「いいか、リア。ソルテット家ではなんの罪もない平民をさらって人体実験を行っていると噂されているし爵位の低さを気にして功績を上げようと必死になっているとも言われている。平民であるにも関わらず光属性の魔法が使えるからと爵位に近しいものを与えられたリアのことを目の敵にしていてもおかしくなはないんだ」

「そ、そんな……」

 驚愕するリアには悪いが先ほどバトルトが言ったことはすべて事実だ。罪のない平民をさらっているのも人体実験をしているのも、爵位を上げよとしているのも、リアを目の敵にしているのも。

 しかしそれはライラ・ソルテットが、と言う訳ではなくてランロク・ソルテットが行っていることである。

 私を生んだ女性を含めソルテット家にまともな出自の人物はいない。

 私を生んだ女性はもともと平民だったがランロクにその美貌と実験体としての素質を見出され、さらわれてきた。

 当時、彼女は二十歳未満で実家暮らしだったそうだがランロクが何の通告もなしに彼女に家に押し入り両親と二つ歳が離れていた妹を拉致。ソルテット家に監禁したうえで私を生んだ女性以外に拷問を開始。

 最終的に、両親も妹も殺してくれと懇願させるまでに追い込みその命を私を生んだ女性に奪わせた。おまけに彼女はランロクに孕み袋として扱われただけでなく体をいじくりまわされた挙句に拷問されて用済みだと判断されて殺された。

 ソルテット家にも使用人はいるが全員が平民の死体だ。ゴーレムを作ればそれで済むにもかかわらずさらってきた平民を人体実験として使いつぶした結果死んでしまった平民の死体に魔法陣を刻み都合のいい操り人形として改造している。

 使用人にされるのは実験体の中でも見た目が良かった人物だけなのでソルテット家の中にいる使用人は全員が美人あるいは美少女だ。

 ではなぜ人体実験を行っているのか、と言うと爵位を上げるたの功績を積む礎とするためだ。そもそもソルテット家は特殊な立ち位置にある。

 ソルテット家の長女でしかない私がリアに侍女をつけるようにと国王に対して直談判ができるぐらいに。

 私がこの世界に来た時にも思ったことだが、このランハレト国において薬に関してほかの追随を許さないのがソルテット家であり薬が関与するところには必ずソルテット家があると言っても過言ではない。

 それは近衛兵に対して支給されるポーションを始めとして冒険者たちが購入するのもソルテット家のポーションであるほかに、麻酔や日本でいう危険ドラッグの類、鎮痛剤や下剤に睡眠薬の類にとどまらず爆薬も暗殺に使われるような毒物もソルテット家が作っている。

 今のライラ・ソルテットにはできないが現時点でランロク・ソルテットはこの国全域に猛毒を散布し国を乗っ取ることも滅ぼすこともできる。

 これらの事情からランロクは現段階で国営に関わっているのだが、他の貴族のように国に対して大きな利益をもたらしているわけでも大きな功績があるわけでもなければソルテット家が行っていることはソルテット家がしなければならないということもない。

 ゆえに伯爵家にとどまっているのだが、国営にソルテット家が関わっていることは機密事項であるためほかの貴族たちは知らない。

 ガルドは先ほど身分的な差が、と言っていたが残念ながら今のライラ・ソルテットはランロクの助手として第一王子よりも国に近しい場所にいるためリアが人体実験の材料として適しているからと私がリアのことを人体実験の材料としたとしてもバトルトには何もできない。

「あいつ……リアを洗脳でもしたのか?」

「……あり得る、な。料理に薬を混入させるなんて朝飯前だろうし……」

「……………………」

 俯き黙り込んでしまったリアを見た阿保三人はリアがショックを受けてしまった、と判断したのだろう。阿保三人の内のバトルトがリアの手を優しく包み込んだ。

「リア、大丈夫。俺たちがリアのことを絶対に守ってみせる。絶対に、だ。体内から検出されるだろう毒も、必ず取り除く。これは、第一王子であるバトルト・オビラ・ランハレトとしての誓いだ。それに、ガルドもエメルも、君のために尽力してくれる。ガルドとエメルの親は近衛兵の団長だ……俺達三人からの要請があれば動いてくれる……リアが望むのならライラ・ソルテットに報復行為を行う手伝いだってしてくれる……近衛兵は悔しいけど俺達よりもずっと強い。ライラ・ソルテットなんて敵じゃないし、ソルテット伯爵家ぐらいなら俺の一存で取り壊すことが出来る……だから、俺たちを頼ってくれ」

「……わかり、ました」

 リアはそう返事した後、少し疲れたと言ってテントの中で休み始めた。

 阿保三人はリアのことを心配しながらも、交代で見張りを行うことで安全を確保し二日目の朝を迎えたのだった。


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