表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

4

 そんな悪魔への対策としてシトラル教育機関に入学させられたリアが入学式から約半月も経った日の様子を見てみよう。

 今のリアは入学式の時と同じぐらいに身だしなみが崩れている。

 加えてリアは独りぼっちだ。私も独りぼっちではあるけど私はゲームの通りに他人と関わることを避けているだけだ。

 私は意図的だがリアがそうなっている理由は単に見た目である。リアにシュメラの名をつけた勢力に世話係を付ける様に私自ら声をかけたのだが残念ながらリアのもとに派遣されることはなかった。

 私は分身を通じてリアの情報を仕入れていて、本当に酷そうな場合は私が介入することにしているが今のところギリギリ踏みとどまっている。

 ただゲームの通りに進むのであれば彼女には専属の使用人が付けられるはずだ。

 これはゲームの時とは違いシュメラの名をつけた勢力がリアの状態を正確に把握できていないということなのだろう。

 私にとってこの違いは、良いことではある……かもしれない。わからない。バタフライエフェクト、という言葉があるぐらいだから。

 この勢力は基本的に私の目的を妨害しないもの……であると考えられる。どちらに転ぶかもわからない。

 そしてシュメラの名前をリアに付けた勢力というのはマレント王国の国王本人である。

 マレント国王の側近であるギュトラス侯爵などはリアに貴族の名を与えることに反対していたがマレント国王がそれを無視して強引にリアにシュメラと言う名前を与えた。

 ギュトラス公爵が反対したのはリアが未だに光属性魔法を扱うことが出来ていないからだろう。

 まともな攻撃魔法の一つでも使えれば誰からも反対はされなかっただろうが今のリアは魔法が使えない。魔力回路が未発達なことが原因だ。

 教育機関での授業では基本的に魔法に関するものしか行われていない。最初から最後まで、魔法に特化している。

 その他の知識に関して言えばそれぞれの家が子供に教えている場合の方が多いし、そういった知識の習得にはそこまでの時間はかからない。

 しかし魔法は、違う。人によって魔法の使い方には癖が出るし何より人に教えるというのは難しいし魔法の奥は深すぎる。

 教えることのできる時間と期間が限られているのだから魔法を教えられる期間はすべて魔法に費やすべきなのだ。

 シトラル教育機関では日本の学園と同じように定期的に試験を課されることになる。頻度は月に一度でそれは一年生も例外ではない。

 シトラル教育機関での試験はとても厳しく場合によっては死者も出る。

 死者が出るほど厳しい試験が設置されているのは単純にシトラル教育機関という場所だからというのもあるが一年生の一度目の試験でも厳しい試験が設置されているのは調子に乗る生徒の気を引き締めさせる目的があるのではないかと私は考えている。

 立場の高い貴族の子供は調子に乗っていてる場合があり、実際クラスを観察していると調子に乗っている生徒が何人かいることが確認できている。

 教育機関側としては安全対策を万全にしているつもりだろうが調子に乗った愚か者たちは自分が特別だと勘違いし自分の実力が他人よりも秀でていると、思い込む。

 そのせいで、シトラル教育機関では年に何回かは一年生の中から死人が出てしまうのだ。

 当然ながら私達も死人が出る可能性もある試験を受けるのだが、その試験内容は幻覚の森でのサバイバルとなった。

 サバイバルと言っても食料品も安全な簡易テントも支給されるし安全な水を生み出す魔道具だって支給される。試験の内容自体はキャンピング施設に宿泊することと大して変わらない。

 それだけでは簡単すぎるがこの試験での一番問題となるのがサバイバルを行う場所だ。試験会場である幻覚の森はその中にいるだけで幻覚を見るようになってしまうのだ。

 この教育機関に来るまでにゲームで関わる場所の調査は済んでいて、当然ながら試験会場である幻覚の森の事前調査は済んでいる。

 幻覚を見る原因は蝶のような魔物、モフォバがまき散らす鱗粉にある。ただモフォバがまき散らす鱗粉は二種類あり幻覚作用のある鱗粉と人体に致命的な毒性が含まれている鱗粉がある。

 そのためモフォバの生息地に立ち入るのは本来なら自殺行為だ。

 しかしモフォバが住み着いた森に自生している木々の花粉が偶然にもモフォバの鱗粉に含まれる毒を中和した。

 その結果モフォバの住み着いた森では幻覚作用のある鱗粉だけが効果を表す様になった。

 ただ幻覚作用のある鱗粉だけでも十分に脅威であることに変わりはない。

 幻覚の森はシトラル教育機関のあるマレント王国の王都からそこまで距離が離れておらず本来なら追い払われるか、討伐されていなければならない。

 しかしモフォバの討伐は困難を極める。

 モフォバは集団で行動しながらも臆病であり一体討伐されれば警戒を強め集団の数が半数近く減ればモフォバは住処を変えるために幻覚の森を飛び立ってしまう。

 移動の際にモフォバは対空を専門としている魔法使いの魔法でさえ届かないぐらい上空を飛ぶ。

 そして上空には毒性のある鱗粉を中和する花粉など存在しない。そのため幻覚作用がある鱗粉と毒のある鱗粉をまき散らしながら移動するがそれを止めることが出来ない。

 モフォバが原因で国が陥落したこともあり、毒性の鱗粉がどうにかなるのであれば下手に刺激するべきではないとしてモフォバは討伐されることも追い払われることもな幻覚の森は立ち入りを禁止されるだけになった。

 ただこの幻覚の森はその名前も立ち入りを禁止される理由も基本的には公開されていない。

 名前と理由を知っている貴族家もあるのかもしれないけど、少なくとも幻覚の森で試験を受けるシトラル教育機関の生徒たちは幻覚の森が立ち入りを禁止されている理由もその名前も知らないはずだ。

 そのため幻覚の森への立ち入りが禁止されている理由とその名前は他人に教えを請わなければ知ることが出来ない。

 だが自分が特別だと勘違いし自分の実力が他人よりも秀でていると思い込んでいる愚か者たちは他人に教えを乞うことなどしないだろう。

 事前準備なしで幻覚の森に立ち入れば悲惨な目に合うのは間違いなく否応なしに何が悪かったのかを考えさせられることになるだろう。

 そのためこの幻覚の森は調子に乗った貴族の子供に現実を見せるのに適しているのだ。

 そして今日その試験内容が私のクラス担任から正式に発表される。

 これらの事前情報は教員事務所、日本でいう職員室に忍び込んで確認したことなので間違いない。

「それでは今から試験内容を発表します。一度しかお話しませんので聞き逃しのないように。試験内容ですがカクロメル大森林の立ち入り禁止領域でのサバイバルです。一週間分の食料品や安全な簡易テントは教育機関から配布されます。配布される簡易テントには安全な飲み水を作り出す機能もあります。必要なものがあるかもしれない、と個人で判断したのなら情報収集や事前準備を忘れないように。また、試験の際にはすべての持ち物を検閲します。それに加えてカクロメル大森林の立ち入り禁止領域では魔物個体名モフォバへの攻撃を禁止とします。こちら側で戦闘が起こらないように調整しますがもし遭遇した場合は戦闘を行わないように。戦闘を避けることが出来ない場合はどこかにいる監督役の教員に避けられぬ戦闘が起きたことを知らせために信号魔法を使用してください」

「すみません、一つ質問してもよろしいでしょうか」

 声を上げたのはバトボット・カラメテロである。バトボットは陰湿な性格をしていて調子に乗っている人物の一人である。

「この中には誰にでも使える無属性魔法の信号魔法すら扱えない無能がいるようですが、どうするのですか?」

「知りません」

 陰湿に、それもリアにわかりやすく視線を向けリアへの侮辱を隠すことのないバトボットだったがクラス担任であるハーライト教員から帰ってきたのは抑揚のない淡々とした声だった。

「そんなくだらない質問をして、どうしたのですか? ああ、シュメラさんのことを心配しているのですねバトボット。そんなに心配なら魔法を使えないシュメラさんに魔法を教えてあげてはいかかです?」

 縮こまるリアとは別に言い返されたことに腹が立ったのかバトボットは強気に言い返す。

「まさか! そんなことするわけがないでしょう! 魔法を使えないばかりか金で名を買った愚か者に知識を与えるなど! 私は単にシトラル教育機関の面汚しに対して教育機関側がどのような処罰を下すのかと、そう聞いたのです」

 光属性の魔法使いであるリアに家名を付けたのはマレント国王本人ではあるのだが公には知られていない。

 それにあまりにも身だしなみが整っていないリアに対して複数人が尋問した時にリアは自分が元々平民だったことを口にしてしまった。

 そのためマレント国王から名前が与えられたなどと知る由もない有象無象はシュメラを金で買った名だと勘違いしている。

「ではあなたが彼女の存在に触れてしまったせいでシトラル教育機関は彼女をいない存在として扱うことが困難になったことを理由にバトボット、あなたに処罰を下しましょう。今後シトラル教育機関に立ち入ることを禁止します、出ていきなさい」

 事務的に、機械音声ではないかと私が勘違いしてしまうぐらいに淡々とした声がバトボットに処罰を下す。

 この一連の流れで一番かわいそうなのはバトボットではなくリアであることを忘れてはいけない。リアは縮こまり震えてしまっている。自分が存在していることで他人に重い処罰が課されているという事実はリアのことを追い詰めている。

「なっ!! 横暴だ!」

「出ていきなさい」

 立ち上がり怒りをあらわにするバトボットに対して冷静沈着で容赦のないハーライト教員は風属性魔法を使用することでバトボットを拘束する。

「うっ……ふざけるな! この行為はカラメテロ家に――」

 ハーライト教員はバトボットの四肢を強烈な風魔法で封じるだけでなく高速で回転する空気の渦が形成している。

 もしバトボットが下手に藻掻き続ければ回転する空気の渦に巻き込まれてしまい四肢が捥げてしまうだろう。

 当然ながらハーライト教員が使った魔法は殺傷能力の高い危険な魔法だ。

 こんな場所を凄惨な血みどろ現場へと変えるのを防ぐために私は水属性魔法を使うことでバトボットの口と鼻を塞いだ。

「――――――――――っ!!」

 気道を塞がれて呼吸できないバトボットは必死に藻掻くが風魔法の拘束が緩むことはない。

 私が魔法を行使し始めたタイミングでハーライト教員の使う魔法から殺傷性は取り除かれているため、これによりバトボットの腕が捥げる可能性はない。

「――……――…………――……………………」

 やがて、息が切れてバトボットは意識を失った。

 抵抗がなくなったことを確認してから私は魔法を解除する。ほとんど同じタイミングで風魔法も解除された。

 一応、呼吸を止めたのは私なのでバトボットが深刻な状況に陥っていないかを確認しておこう。

 ……心臓は動いているみたいだ。なら問題ない。

「ソルテットさん、助かりました。教師が生徒に手を出すのは問題になる可能性がありますから。バトボットはそこらに放置しておいてください」

「良いのですか?」

「ええ……最悪死んだっておとがめなしになるでしょうから……先ほどのは脅しですが場合によっては本当に退学となることもあるので気を付けてくださいね」

 気絶したバトボットを嗤う生徒がいるがハーライト教員はそれを気にも留めずに話を続ける。

「ほかに何か聞きたいことがある人は?」

 ハーライト教員はぐるっと教室を見渡したが誰も声をあげなかったので特に質問が無いと判断してバトボットを引きづって教室から出ていった。

 シトラル教育機関で行われる定期試験の内容が発表されたのは授業が始まる前の事。その日はそのまま、いつも通りに授業が進行していった。

 けれどリアは今日一日ずっと肩身が狭そうだった。いつも狭そうではあるが今日は特にだった。可哀そうに。

 定期試験の内容は試験開始から二週間前に発表されたのだが発表されてから一週間たってもリアの生活は変わっていなかった。

 いまだに魔力回路も未発達で魔法を一切扱うことが出来ずに独りぼっちでいる、そんな状態だ。これはさすがにまずい。

 今回の試験でリアは魔法を使えなければならないし私は一週間後に行われる試験が終わった時に悪役令嬢となるはずだ。

 しかし悪役令嬢となるためにはリアが特定の人物と一緒に試験を受けなければならないのだがその特定の人物とリアの間に接点は一切ない。

 最悪一週間もあればどうにかなると考えていたから今まで手を出さなかったけどその期限は過ぎ去ってしまった。

「リア・シュメラ。少しよろしいですか」

「え……あ、はい……」

 もうすでに周りからはいない存在として扱われているリアに私は声をかけた。

「今日、あなたのお部屋にうかがっても?」

「…………え!?」

 数秒置いて私の言葉を理解したらしいリアは大きなリアクションをとった。久しぶりに話しかけられたと思ったらいきなり部屋に行っていいか、なんて聞かれたら驚くのも無理はない。

「どうですか? 今更ですが、色々と貴方に教えておくべきかと思いまして。私が頼んだ世話係の侍女も派遣されなかったようですしね」

「…………お願いしてもいいですか?」

「ええ。では今日の午後六時ごろに、この教室で待ち合せませんか?」

「…………わ、わかりました」

 震える声で、リアは答えた。もしかして教室を指定したことが原因で集団リンチに会うと勘違いさせてしまっただろうか? まあすぐにその疑惑も解消できることだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ