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私とヒロインが出会うシトラル教育機関では各学年で意図的でもない限り接触できないような作りになっている。
学年ごとに寮が別れているばかりか学び舎から食堂から生活スペースから何から何まで学年ごとに完璧に切り離されている。別の学年がいる場所への侵入は禁じられているため上級生にも下級生にも出会うことはない。
そして教育機関内に入ることが出来る人物は限られている。
教育機関内に入ることが出来るのはシトラル教育機関の生徒とその親が遣わせるメイドだけ。加えてシトラル教育機関に入学出来るのは貴族の子息や息女だけだ。
ゆえに、シトラル教育機関内にみすぼらしい見た目をした人物はいない。だからこそ、私たちがこれから三年近く過ごすことになる一学年の敷地内にいる彼女の存在がひどく目立ってしまう。
ぼさぼさの髪に清潔とは言えないような服装。人が近くを通るたびにビクつく気弱な姿勢は異彩を放っている。
シトラル教育機関は私たちのような貴族が所属するランハレト王国が誇る最高峰の教育機関である。それはこの国にいるすべての貴族がこぞって自身の息子や娘を送り出すほどだ。
それは自分の子供の未来を考えてか、あるいは貴族的なつながりを求めてなのかは、分からないけど。
それはそうと、目の前に広がる現実に目を向けることにしよう。
ビクついている、この場所にふさわしくないような装いをしているこの人物こそが私がプレイしていたゲームのヒロイン、リアである。
彼女は平民だが特殊な立場であるがゆえにこの場所にいることが許されている。この教育機関では制服が支給されるため教育機関に入りさえすれば見た目は何とかなるだろうが、あのビクついた姿勢ではこれからが大変だろう。
「初めまして……お名前をうかがっても?」
だからこそ、私が話しかける必要がある。ゲームでもそうだった。私はランロクからシトラル教育機関に入学することを命じられた際に彼女がこの世界における唯一の光属性魔法の使い手であることを知らされている。
ただランロクがどのようにしてリアが光属性魔法の使い手であることを突き止めたのかが分からない。
ランロクの持つ情報網を把握しておきたいところではあるが、私にもできないことはある。
分身の一体はリアの護衛に付ける都合上、ランロクの情報網を調べるための分身を確保することはできない。緊急時に私はもう二体の分身を出せるがあくまでも緊急時で常時使用はさすがに負荷がかかりすぎる。
「は、はじめましゅて……リ、ア……です」
「リアさんですね。ですが、この場では家名まで名乗るほうがよろしいかと」
「え、あ……リア・シュメラです」
この『シュメラ』は急な後付けでしかない。
このシトラル教育機関に入学するためには原則として貴族家の者でないといけない。彼女が光属性の魔法を扱えるとしてもこの教育機関には貴族でないと入学できない。
そのためリアには後付けで家名が付けられたが残念ながらその身だしなみは貴族としてふさわしくない。
「私はライラ・ソルテットと言います。これからよろしくお願いしますね」
「は、はい……」
小さく、細々とリアは答える。
「ここに来るまでの間で何かありましたか? お体を清めるお手伝いをしましょうか?」
「え……あ、あの……お、お願いします……」
どうやら自分の身だしなみがこの場にあっていない、ということを自覚していたみたいだ。ここはゲームと同じ。
使用する魔法は水属性魔法である。魔法属性の中には火、水、土、風の四大基本属性と光、闇の極大属性と無の総合属性がある。
いま私が使う水属性魔法はもともと私が扱える属性ではあったが今の私はデーモンコアからもたらされた知識によりすべての属性の魔法が使えるようになっている。
いまリアに対して発動している魔法で行われるのは髪質の改善である。衣服は幻影魔法で何とかする予定だ。
シャンプー等の物は現在持ち合わせていないが軽く濡らした髪の毛を梳いて乾かすだけでも見た目はましになる。見た目だけだが。
彼女がシトラル教育機関の設備をちゃんと使い始めればすぐに貴族と言って差し支えない見た目になるだろう。
髪の毛に付着する水気を魔法で取り除き、服が脱がれるまで魔法が解けないよう幻影魔法をリアの服に掛ける。それから匂い等が気にならないように消臭魔法を掛ける。
「見た目はよくなりましたが……服装は先ほどのままです。衣服を脱いでしまえばその服は消えてしまいます。髪の毛も、少し梳かしただけです。私の方からあなたに世話係をつけるように、言っておきますね」
「え……ありがとうございます」
わかりやすく見た目が良くなり、自分がここにいる違和感が消えたのか先ほどよりも明らかにリアから緊張感が減少した。
服装こそひどかったがここに来るまでに最低限の教育を受けていたのか、敬語が使えている。
平民は、敬語すら使えない場合もある。リアが最低限の教育を受けられているのはゲームと同じだ。
「では」
「え、あの……」
リアは、私がさっさと離れていくのを見て戸惑った様子を見せている。
だがリアを護衛するためにノミのサイズまで小さくした私の分身を付着されることに成功したので今のリアに用はない。
立ち去っていく私を引き留めることもできない平民のリアがこの教育機関に入学することになったのには、リアの扱うことのできる魔法の属性と深く関係している。
この世界において、使用できる魔法の属性というのは大きな意味合いを持つ。四大基本属性の場合、使うことのできる属性は多ければ多いほどいい。
一般的な場合、一つ。優秀な場合二つ。きわめて優秀な場合は三つ。そして、異常と言えるほどの天才ならば四大基本属性をすべて扱うことが出来る。
無属性魔法は誰でも使用することが出来ると考えられている。今まで無属性魔法が使えないという人の話は聞かない。無属性魔法は総合属性ともいわれる。その理由として挙げられるのは大半の魔法は無属性魔法に類するからだ。
そして光と闇の極大属性。現在判明している人間に類する生物の中でこの極大属性の魔法を扱えるのはリアのみ、と言えば極大属性の特異性が分かるだろう。
極大属性は、総合属性以外の魔法に対して絶対的に優勢でありそれが覆ることはない。そして総合属性に攻撃魔法はないものだと考えられている。無属性魔法にも攻撃魔法はあるのだが如何せん難易度が高く人間は無属性魔法に攻撃魔法が存在していることを知らない。
つまり人間にとって極大属性に対抗できるのは極大属性だけと言うことだ。
ヘルトアブルト大迷宮で悪魔と戦った際に私が使えた属性の魔法は火と水。信じられないぐらいに苦戦を強いられたことを覚えている。
なぜなら属性の相性的に私が水または火で攻撃したとして十の威力を持つ攻撃が一の威力しか発揮しない攻撃になってしまうからだ。
そして極大属性の魔法を扱える者は人間以外にも存在する。
その中には人類にあだ名す存在も含まれているのだがその中でも真っ先に名前が挙げられるのは、悪魔。
これは闇属性の魔力で構築されている闇属性魔法を操るものであり人間の国は悪魔に襲われると下級に属すると考えれれる悪魔に対しても多大な犠牲を払わなければならなくなる。
マレント王国も例外ではない。だが、マレント王国にはリアと言う極大属性である光属性魔法を扱える人間がいる。悪魔への対策としてマレント王国最高峰の教育機関にリアを入学させる理由としては十分すぎるだろう。




