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 それから色々とあり私がこの世界に来た日から五年の月日がたった。ちょうど五年だ。つまり今日は私の誕生日だ。

「……薬にはつけなくてもよさそうだな」

 これは記念すべき私の誕生日に抜き打ちの模擬試験をして私がしっかりと勉強できているかを確認したランロクの言葉である。

 最初はわからなかったがランロクが言う薬とは私が今も使用している特殊魔力操作を強制的に引き起こす薬の事だった。自分で勝手に調合して使用したことがあるがかなりの反動が身体を襲う。その反動は強く覚せい剤の使用後と同等レベルの症状が出る。

 日本にいた時の私は覚せい剤を使用したことはないが薬の反動でもうろうとしながらも症状を記録し、薬の反動が抜けきった後に症状を確認すると覚せい剤を使用した時と同じ症状が私の体に出ていた。

 自分の意思でコントロールし特殊魔力操作を行うのと強制的に特殊魔力操作を引き起こすのでは訳が違うのだと、その時にわかった。また薬を使えば扱いが困難を極める特殊魔力操作をいとも簡単に引き起こせるという事実にかなり戦慄した。

「……お前があと五年、私を失望させることが無ければ名を与える。それまでに私を失望させるようなことをすればお前はあの女と同じ目に合わせることを忘れるな」

「はい、お父様」

 あの女、というのは私を生んだ女性のことである。彼女は私が四歳の誕生日に簡単な薬の調合に失敗した、ということにされてランロクからの拷問を受けることになりつい先ほど私が試験を開始する少し前に私の前で殺された。

 だがあの女は薬の調合に成功していた。なので単に私が生まれたから必要なくなって処分することにしたというだけなのだろう。そして処分するついでにランロクという人間が私よりも強大で強いのだと刷り込むつもりだったのだろう。だが残念なことに現時点で私はこのランロクという男を一撃で殺すことができるぐらいには魔法の腕を上げている。

 ランロクが信じられなかった、というのもそうだが私には彼女のことも信じられなかった。だから生れたその日から自衛のために私は力をつけ始めた。特殊魔力操作と修復魔法を乱用し生まれてから一年の間は一睡もしなかった。

 その甲斐もあって私が一歳になるころには自分の分身を作る魔法を使用できるまでに魔力回路が強化された。

 分身魔法が使えるようになった私は自分の分身を残し屋敷を飛び出した。

 それから本体は一度だってソルテット家に戻っていない。かなり精巧な分身なので私は一つの脳みそで二つの体を制御しているのと何ら変わらない負荷がかかるのだがそこは特殊魔力操作でしのいだ。

 最初こそ脳みそを焼くような感覚が消えなかったけど一年もすればその感覚にも慣れてしまった。

 屋敷から離れ親元を去った私はそれから冒険者としてダンジョンに潜り自身の強化を図った。

 冒険者として活動し始めたのは一歳のころだが自分を大人に見せるように浮遊魔法や幻影魔法のほかに結界魔法を使った。

 結界魔法を使って冒険者登録に必要な書類への記入を行おうと考えていたが文字を書くのは困難を極めた。しかし冒険者の中には文字をかけない人も多いのが功を奏して問題なく冒険者登録を済ませることが出来た。

 日本にいた時の私の姿を幻影魔法で映し出すこともできたが一度顔を見せるとずっとその顔を使わないといけなくなるので幻影魔法で映し出したのは大きなローブだった。その後もずっとそうやって幻影魔法を使い続けるのも悪くはない選択肢だったが私が冒険者登録した冒険者ギルドに在中する元Sランク冒険者であるギルド支部長の強さが未知数なので警戒されがちな幻影魔法はあまり使用しない方がいいだろうと判断した。

 そのため私がこの世界に来て初めて冒険者としてダンジョンに潜って初めて得た報酬で購入した記念すべき品物はどこにでもあるような安っぽいローブとなってしまった。

 ランロクを殺せるのに殺さず逃げ出すという選択肢をなぜ私がとったかというと、ランロクがいなければ私の目標が達成しにくくなってしまうからだ。

 そして自己強化を続ける私がこの世界に来てから今日でちょうど十年の歳月がたった。

 昨日はダンジョン内でかなり激しい戦闘を繰り広げたせいで疲労困憊状態に陥っている。動くことすら億劫だ。

 本体はダンジョン二百階層の階段に腰を下ろして休んでいる最中ではあるがソルテット家にいる分身の制御は今も続けている。

 それに加えて警戒を緩めた次の瞬間にはダンジョンの魔物に殺されてしまう可能性があるため身も心も休まらない。

 出来ればさっさとダンジョンを攻略しヒロインの様子を見に行きたかったのだがヘルトアブルト大迷宮は七年もかけないと踏破出来ないほど広大だった。分身魔法を使い二体目の分身を使ってヒロインの様子を見に行くことも考えたのだが本体を含めて三人分の体を一つの脳みそで制御しようとすると負荷が掛かりすぎてしまうのでヒロインの様子を見に行くことを断念した。

 その代わりにダンジョンを踏破した私は異常なまでの強さを手に入れた。ただ予想外の爆弾を抱えることになってしまった。

 私はその爆弾のことをデーモンコアと呼んでいる。これはダンジョン内で遭遇した二体の強力な悪魔を倒した後に置き土産として残されたものだ。

 この二体の悪魔はかなり弱体化していたがダンジョンマスター戦と同じぐらいに苦戦した。

 発見当時、二体の悪魔は百五十三階層を更地にし見渡しの良くなったダンジョン内で発生する魔物を倒し力を蓄えていた。

 一体が近距離特化型でもう一体が魔法特化型。脳みそに掛かる負荷を無視して分身を作り二対二に持ち込まなければ私が負けていただろう。

 総合的な実力で言うと私二人分が何とか悪魔二体に勝っていたが技術的な面では私がボロ負けてしていた。

 でも最終的に勝ちを拾ったのは私。それに本来の力を発揮した悪魔二体より強いだろうダンジョンマスターに勝利出来ている。だからあの悪魔の本来の強さなんて気にしていない。

 しかし、倒された悪魔はどういうわけか臨界状態に達している魔石のようなものを残した。

 一体ずつ倒していれば対処法を考慮する時間があったのかもしれないが討伐のタイミングは二体同時だった。またどちらか一方の悪魔が臨界状態に達している魔石のようなものを残さずに消滅する、と言うこともなかった。

 加えて臨界状態に達している魔石のようなものは融合し私を消し炭にできる威力の爆発を起こそうとしていた。

 僅かに逡巡した私は意を決してそれを体内に埋め込んだ。右手と左手の平にめり込ませて右腕と左腕の魔力回路を断ち切った。

 物理的にも魔力的も距離があれば融合しないだろうと考えての行動は事態を好転させた。

 二つの魔石のようなものは私の体内に吸収され融合することなく断ち切った魔力回路をつなぐ役割を果たすことになった。

 この魔石のようなものには核がありその核が融合しなければなんの問題がないことが判明したものの核が融合してしまうと私は体内から爆散してしまう。

 ゆえに私はこれをデーモンコアと呼んでいるのだが体内に吸収されたデーモンコアは思いもよらないものを私に授けてくれた。

 まず最初に体内にあるデーモンコアの魔力保有力が極めて高い性質を利用し一つを臨界寸前まで魔力をためて予備魔力として保存しもう一つには一切魔力をためず魔力を吸い出さなければならない状況に陥った場合に保有魔力がいっぱいで吸えないという状況を防ぐための予備タンクとした。

 さらにこのデーモンコアには悪魔の記憶が宿っており悪魔の持っていた知識や技術を我が物とすることが出来た。

 私はデーモンコアを言うリスクを抱えることにはなったがリスクに見合う強さが手に入ったと思っている。

 何が起きても対処できるように、ヒロインのことを守ることが出来るように強さを欲してダンジョンに潜りはしたのだがやりすぎた感は否めない。

 まあ、いい。今の私なら裏ボスになる運命から逃れられなかったとしてもデーモンコアを使うことでヒロインが倒せるぐらいの実力になるまで自分を弱体化させることも可能だろうから。

 ちなみに、ランロクに失望されることがなかった私の分身はライラ、となずけられた。そのため、私はこちらの世界で私がゲームをしていた時と同じようにライラ・ソルテット、となった。

 さらなる知識と力を蓄えているとあっという間に六年の歳月がたった。十二になった時に私はランロクにシトラル教育機関に入学することを命じられた。このシトラル教育機関に入学することは私の目標に大きく関わってくる。この教育機関に入学するにはランロクの立場を利用するのが一番簡単なのでランロクを殺すことはできなかったというわけだ。

 現段階で私はシトラル教育機関に入学することが決まっているためランロクは殺しても構わないが、あまりにもゲームから外れた道筋をたどると私の目的を達成しにくくなるかもしれないしランロクを殺す意味が私にはない。

 そもそも私は便宜上わかりやすいように、今私が居るこの世界と混同しない様にゲーム、としているがあれはゲームなどではなかった。最も適切な表現をするのならあれはこの世界の行く先を私に体験させるのと同時に私がこの世界に適応するためのレクリエーション、になる。

 私は日本で仕事を辞めて家に引きこもるようになってから中古で買ったネットサーフィンぐらいしかできないようなマウスキーボードモニター付きのデスクトップ型パソコン(三万円台)を購入した。

 だがいつのまにかそのパソコンに見慣れないゲームアイコンがインストールされていた。

 おかしいとは思いつつゲームアイコンをクリックし起動すればパソコンの電源を落としてもゲームの起動を遮ることが出来ないという異常事態が発生した。

 さらにはゲームを起動させていると全身の感覚がゲーム内に入り込み匂いから痛覚からこの世界に来てから常に感じている魔力もゲームを起動している間は感じることが出来ていた。

 ゲームでは残念ながらストーリーに深く干渉することはできなかったが今回は違う。私は私の願うようにこの世界の流れを変えてみせる。

 あまりにもリアルだったせいで最初から警戒していたがプレイしていたゲームは一度死ねばそれで終わり。リスタートもセーブもないという一般的なゲームと比べれば私のプレイしていたゲームの難易度は鬼畜と言って差し支えない。

 そしてこのゲームの結末は、酷いものだった。

 ゲームで私はラスボスも裏ボスも倒すことに成功したがラスボスはまだしも裏ボスであるライラ・ソルテットが敵対した理由が分からなかった。

 その理由を調べようとしている間にヒロインは何の前兆もなく閃光に包まれて死亡してしまった。

 今までは事前準備する時間があったり敵を調べて対策する時間があったがそれが一切できなかった。

いきなりゲームを落とされた、そんな理不尽さを強く感じた。ゲーム内で私は様々な情報を得ていたにも関わらずその現象について私が分かることは何もなかった。

 この世界で私が達成したいことはただ一つ。ヒロインの生存を確立させることである。

 ヒロインの生存を確立させるために私は必死になって自己強化に励んだ。ヒロインの事を絶対的な力で守護するためだ。

 それに私を殺すことでヒロインが強化されるよう調整し、あえて弱体化した私がヒロインに殺されることでヒロインの事を守ることが出来るかもしれない。

 ヒロインを生かすために一番避けなければならない展開はゲームとは違うタイミングでヒロインを殺した閃光が発生してヒロインが死んでしまう展開だ。

 そのため私はできるだけゲームでプレイした通りのストーリーをできるだけ再現しようと考えている。完全再現は不可能……というか私は再現したくない。

 だからできる限り、なのだ。


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