10
二日目の朝、見張りをしていたエミルに起こされてバトルトやガルド、リアが起床。
少し薄暗いが阿保三人が周辺の安全を確保することを優先したため、日が昇り切る前に活動を開始することにしたみたいだ。
全員そろって携帯食料を口に含み、やはりリアを一人拠点に残して周辺の魔物の掃討を開始するために阿保三人が装備を点検を行っていた時に、それは訪れた。
「……誰だ!」
エメやバトルトよりも一足先に装備の点検を終わらせたガルドが、大きな声を張り上げて武器を抜く。
「……エメル」
「わかっています…………え?」
無抜けな声を出すエメルに、バトルトが視線を向ける。ガルドは変わらず武器を抜いたまま、油断なく構えている。
「どうしたんだ?」
バトルトは真剣な表情で、エメルに問いかけるがエメルはなんの返事もしない。変わらずガルドは武器を構えたままだ。
「出てこい!」
声を張り上げて、一点を見つめるガルドは真剣そのものだ。
「……魔法では何も探知できません」
しかし、エメルが告げる言葉はガルドとは正反対だった。エメルは、ガルドが自分たちでは気づくことが出来ないどこかに潜む脅威に気づいたと考え、探知魔法を使ったが探知魔法には魔物などの脅威は探知できなかったのだろう。
それもそのはず、エメルの探知魔法が及ぶ範囲内に魔物は存在せずガルドは幻覚を見ているに過ぎないのだから。
ガルドは幻覚の森がもたらす幻覚を本格的に見始めたのだろう。何も見えない、何も存在しないにも関わらず何かがいると感じ始める状態になってしまうとモフォバの幻覚作用のある鱗粉を無効化するためのポーションあるいは専用の解毒魔法を使わない限り症状が改善することはない。
「ガルド、エメルの魔法では何も検知できなかった。お前の気のせいなんじゃないか?」
「……そんなはずない、いる、いるんだ……近くに、俺たちを狙っている」
「エメル、悪いがもう一度確認してくれないか?」
「わかりました…………やっぱり、何もいません……」
「そうか……ガルド、落ち着くんだ。俺たちに危害を加えようとするものはない」
「馬鹿言ってんじゃねえぞ! わかんねぇのか!? 近くに、やばい奴がいるんだ!!」
バトルトたちは落ち着くように言うが、存在していない何かを見ていることに気づけないガルドからすれば魔法では何も探知できなかったという言葉を信じることはできない。
なにせ、幻覚を見ているガルドは存在しない何かに命を狙われていると感じているのだから。
「お前たちが気づかなくとも俺は気づいてるんだ! リア、逃げるぞ!」
ガルドは、魔法では何も探知できなかったというエメルとそれを真に受けるバトルトの説得を諦めてリアの安全を確保しようとリアの手を強引に引いて存在しない何かから逃げ出した。
「ガルド! ああ、もう! 追いかけますよ!」
「一体なんだってんだよ!」
一人で逃げるのならまだしもリアを連れて逃げ出してしまったガルドを看過することはできないエメルとバトルトは悪態をつきながらも、ガルドを追いかけ始めた。
「が、ガルド様! お、落ち着いて! ほかのお二人を一度合流を……!」
「そんな流暢なこと言ってられねえ! 足を止めれば、殺される!」
存在しない何かに追いかけられていると感じているガルドは、足を止めることなく走り続ける。
「うぐっ……あっ……きゃ……」
強引に手を引き走り続けているガルドは魔法で身体強化を行っているため、リアも身体強化を行いガルドのスピードに追い付こうとするが今のリアではガルドに追い付くことが出来ず引きずられるようにして移動している。
そのせいでいろんな場所にぶつかりリアは小さな悲鳴を上げる。
普段のガルドならリアを気遣うかもしれないが存在しない何かに追いかけられ、追い付かれると殺されると思っているガルドにそんな余裕はない。
「ガルド! 待つんだ!」
「ガルド!」
その後ろ、少し離れた場所にガルドを追いかけるバトルトとエメルの姿があるがガルドの方が早いので一向に距離が縮まらないばかりかどんどん離れていってしまっている。
しかし、ガルドの前にモフォバが二体が現れる。
モフォバ二体を苦戦することなく討伐するガルドだが、モフォバを相手取っている間にバトルトとエメルが追い付いてしまう。
「ガルド! 一体どういう……」
「……………なんだ、あれ……」
しかし、ここでバトルトとエメルにもガルドと同様の症状が出てしまう。これで阿保三人は存在しない何かから逃げ続けることになるだろう。
この際に、全員が同じような幻覚を見ているとは限らないのだが結局は存在しない何かに狙われていると感じることに違いないため、阿保三人の間で存在しない何かの認識は大して違いない。そのため逃げる方向がバラバラになることはない。
「くそっ! 追い付かれる!」
ガルドはまたリアの手を強引にとり存在しない何かから逃げ出す。バトルトとエメルもガルドと同じように走り出すが、先ほどとは違いガルドを追いかけるのではくガルドと一緒に存在しない何かから逃げ出そうとしている。
「み、皆さん!? 一体どうされたのですか!?」
この中でただ一人、まだ幻覚を見ていないリアの混乱は深まるばかりだ。
「ガルドの言うとおりだった! 何かが、何かが追いかけてきている!」
「リア! 今は僕たちについてきてください!」
逃げる。阿保三人はリアの状態なんて一切気にせずに逃げる。
「うっ!!」
魔物との戦闘を最小限に控え魔物を倒さずに移動しているせいでリアに魔物の攻撃が直撃しても、気にしない。
「とまって、止まってください!」
引きずられながら森の中を移動し大根のように体がすり下ろされるのが怖くて走ることをやめられないが、魔物の攻撃によってできた傷がひどく痛むリアは涙目で停止を要求するが阿保三人はリアの言葉に聞く耳を持たない。
リアの呼吸は乱れ、限界が訪れても恐怖から足を止めることが出来ない。
「お、お願いします……止まって……お願い……やめて……」
傷が増え続けて血は止まらないし、頑張って自分を傷つけるものから身を守ろうとしても、そもそもリアには防御手段がないしもしあったとしても身体強化をして走ることにことに精一杯で何もできないだろう。
最終的に、リアがどうなるか? そんなの決まっている。体力が底をつき走ることが出来なくなったリアは倒れるが強引に手を引かれて森の中を引きずり回されることになるのだ。
阿保三人は止まらない……いや、止まれない。存在しない何かが、自分の命を狙ってどこまでも追いかけてくるのだから。
止まった場合、殺されると感じているのだから阿保三人は体力が限界を迎えるまで、止まれないだろう。
「と……ま……て」
その間、リアはずっと引きずられ続けるのだろう。
まともに準備が出来なかったせいで防具等を身に着けることも出来なかったリアはシトラル教育機関の制服しか着用していない。
制服の耐久性は高くないため引きずられ続けた制服はどんどん擦り切れていってしまう。またそれに合わせてリアの体のいたるところに擦り傷ができる。
当然のごとく、阿保三人はリアの状態を気にせずに逃げ続けているためリアの制服は擦り切れて殆どなくなってしまい、ほぼ全裸の状態になっても気づかないし止まらない。
「……ぁ……ぅ……あぁ…………」
リアが瀕死の状態にあっても、気づかない、止まらない。このままだと、リアは間違いなく死んでしまうだろう。しかし、そうはならない。
「ぐ、うぅ……は、あ……はぁ……」
死に瀕したリアは死にたくない、という思いからか単純な防衛本能からか光属性の魔法を使用できるようになるのだ。つかるようになる魔法は回復魔法である。
これは歴史的な瞬間だし、私なら全力で褒めてあげるのだが阿保三人は気づかないし止まらない。つまり、傷が治ったそばから体には傷が付き続けるのだ。
「と、とまって……」
懇願するリアの声に阿保三人は気づくことはなく、リアは引きずられたまま移動を続ける。回復魔法は治癒魔法よりも強力な回復力を持つが、傷が付き続けるのだから傷が完治することはない。
そして、ここで阿保三人のそれなりに高いスペックが問題となってくる。
走り続けているのだから疲れは溜まるしいつか体力の限界が訪れるのだが、体力の限界が明日のお昼まで訪れることがないのだ。
これはゲーム知識だが試験が始まってからここまでは少なくともゲームの通りの展開なので間違いない。
ゲームをしていた時の私はこの時から阿保三人を本格的に嫌うようになったと思う。ゲームでは痛覚も存在していたので一日と少しの間引きずられ続ける痛さはわかっている。
わかっているからこそ、リアには体感してほしくなかったのだがこれもゲームの展開通りに進めるためには仕方がないことなのだ。
阿保三人とリアの進行方向もゲーム通りなのでこのままいけば阿保三人の体力の限界が訪れるタイミングで森の中でキャンプを楽しんでいる私の結界に引っかかるだろう。
そして私は、結界に引っかかったものが何なのかを確認しに行きリア達を見つけることになる。
周辺が暗くなり、明るくなった。試験三日目だがリア達は止まることなく移動を続けている。
「……………………………………」
リアはもう声を上げることを諦めて定期的に回復魔法を使うことに専念している。今のリアは痛みに耐えるだけで止まって、と懇願することはもうない。
聞くに堪えない阿保三人は、魔物がきた! 俺がやる! 僕がやる! 止まるな! などと叫び続けている。
それからも阿保三人はリアを引きずりながら移動をし続けるが、太陽が一番高い位置にある時間帯が近ずくにつれて、その歩みは遅くなる。
そして、リアが立ち上がることが出来るぐらいに阿保三人の歩みが遅くなるころ、幻覚の森でキャンプを楽しむ私が展開していた結界魔法に引っかかり大きな警報音が鳴る。
「な、なん……だ……!?」
息も絶え絶えなバトルトが周囲を見渡すのと同時に全体の歩みが止まる。ほぼ全裸のリアは体を隠すようにしてうずくまる。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
そして返事する余裕もないエメルと、やはり体力は底をついているが武器を握りしめ戦闘態勢に入るガルド達と警報を聞いて様子を見に来た私の分身体が、出会うのだった。
「あなた達、一体何を……まさか……」
ここまで、ゲームの通りに現実が進んだ。恐らくこの試験が終わるまで私が筋道から離れなければこの試験はゲームの通りに進むだろう。なのでしばらくの間、私の言動はゲームの中のライラ・ソルテットと同じになるだろう。
「ち、近づく、な!」
ライラ・ソルテットを正確に認識できているわけではなさそうだが、何者かが近づいてきていることに気づいたガルドが声を荒げる。
「落ち着いてください。私はライラ・ソルテット、あなた達と同じこの森の中で試験を受けているシトラル教育機関の生徒です。さっきの音は、私が展開した三十センチ以上の物が通過すると警報を鳴らす結界魔法なんです。それに、警報音は三十センチ以上の物が通過した回数と同じ回数なるように設定されています。警報音が四回であったことを覚えてますか?」
「……確かに、四回だった……」
「でしょう? つまり、結界を通過した三十センチ以上の物は四つ、あなた達の人数と同じです。なので、この結界を通過したのは貴方達、四人だけ。つまり、あなたたち以外に三十センチ以上あるものが結界を通過していないということです。あなたたちは何かから逃げてきたのでしょう? ですがそれがこの結界を通過すればわかるはずです。なので、今のところ、ここは安全地帯です……わかりますか?」
「……あ、ああ……」
バトルトは、憔悴しきっているがそれでもまだ人の話を理解する脳みそが残っていたようだ。リアの言葉もちゃんと聞いてあげればいいのに。
「ここは結界の端っこです。ここにいると、三十センチ以上の物が結界を通過したとしてもまともな対応が出来ません。この結界の中心点に向かいませんか?」
この時のライラ・ソルテットは阿保三人がどういう状態にあるのかを見抜いていたのだろう。そうでなければこんなにも的確な言葉は出てこないだろうから。
「……そう、しよう……」
身の安全と休息を欲する体を無視することが出来ない阿保三人は説得に応じたが、いまだにリアはうずくまったまま、何の反応も見せない。
「シュメラさん、大丈夫ですか?」
「リアに、近づくな!!」
私は、今着ている制服を脱ぎながらリアに近づくがガルドに拒絶されてしまった。
「では、これをシュメラさんに着せてあげてください。いつまでそんな恰好でいさせるつもりなのですか?」
私がこういうことで阿保三人はリアの状態に目を向ける。リアは回復魔法を行使することで体から傷はなくなっているが回復魔法では衣服まで回復させることはないので、今もほぼ裸同然の格好をしている。
「り、りあ!?」
お前がやったんだろ、と悪態をつきたくなるがぐっと我慢だ。さらに、阿保三人はリアの体を隠してあげることもなくリアの裸体をまじまじと見つめ始めた。
確かに今のリアは男なら凝視してもおかしくない格好だが、ここにいるのがライラ・ソルテットでなく私なら直近の記憶が頭から飛んでいくまで殴り続けただろう。
動こうとしない阿保三人を無視して私は自分の服をリアに掛けて素肌を隠してあげる。それでは少し足りない気がしたので渡した衣服に幻影魔法を使用し、リアの素肌が見えないようにした。
「もう、大丈夫ですよ。体は私の魔法で隠れていますから」
リアの耳元で優しくささやくと、ゆっくりと顔を上げ始めたリアは幻影魔法により体が隠れていることを確認してから立ち上がった。
「先ほどの私の話は聞こえていましたか?」
リアは、俯いたまま頷いて見せる。
「では、付いて来てください」
リアがもう一度頷くいたのを確認して私は歩きだした。
少し歩いて、私がキャンプしていた場所にたどり着く。
この時にライラ・ソルテットがとった行動は、モフォバの幻覚作用のある鱗粉を一時的に無効化するポーションを渡すことだった。
「このポーションはこの森にいるモフォバという魔物が振りまく幻覚作用のある鱗粉を一時的に無効化するポーションです。これを服用すれば今も感じている何かに狙われているような感覚もなくなるはずです」
私はそう言って少々強引に、阿保三人とリアにポーションを手渡す。
「……もうすぐ、専用の解毒魔法を作れるはず……だから、大丈夫……」
ライラ・ソルテットは現時点でモフォバの幻覚作用のある鱗粉を無効化する解毒魔法を使うことが出来ない。
これもゲームの通りではあるが、リア達には聞こえていない。今まさにポーションを飲まなかった結果が目の前に提示されているにも関わらず手持ちのポーションをすべて渡すライラは一体どう思っていたのだろうか?
専用の解毒魔法を使うことが出来る状態ならまだしも、現時点のライラ・ソルテットには使えないのだ。かなりの勇気が必要だったのではないだろうか?
「……それと、シュメラさんに私の着替えで良ければ譲りますが、どうしますか? 替えの衣服を持ってきていて今手持ちにあるのなら、それで構わないのですが……」
「…………欲しい、です……」
定期試験に向けての準備する時間がなく着替えすら持ち込めていないリアだ。昨日まで着ていた制服以外に衣服はない。
「では、こちらに」
私は阿保三人の目が届かない場所にリアを連れて行こうとするが、そこに待ったがかかる。
「駄目だ……そんなことはさせないぞ……」
声が大きいわけではないが、明らかに怒気が漏れ出ているバトルトの声を聴いてまだポーションすら飲んでおらずいまだに幻覚にとらわれている人物の反感を買うのは身の危険があると判断した私は着替えを持ってくることを改めて提案し、許可が下りたのでカバンの中からいくつかの着替えを取り出してリアに手渡す。
「着替えは、どこでするつもりですか?」
さすがに、阿保三人が見ている場所で着替えさせる訳にはいかず私は阿保三人に確認する。
「……ここから少し離れたところで、リアには着替えてもらう。俺たちが、護衛に付く……その時に、ポーションも飲んでくる。着いてくるなよ」
「わかりました」
反対して下手に刺激するのは得策ではないと判断した私はバトルトの提案を許可した。
バトルトたちは私に何も言うことなくリアを守るようにして私の目の届かない場所に移動し始める。リアが、バトルトたちに触れられるのを嫌がっていることには気づかずに。
阿保三人は私の目が届かない場所まで移動すると、樹木に隠れて着替えるようリアに指示。リアは黙ったまま頷き、着替えをもって樹木のそばに近づこうとしたがその前に、エメルが邪魔だろうからと半場強引にポーションを回収。
裸のままでいたくないという気持ちが勝ったリアは特に抵抗しなかった。ポーションを奪われたリアは阿保三人から体を隠せる場所に移動して、着替えを始めた。
それから少しして、リアの着替えが終わり阿保三人にその姿を見せた……が、そこでリアは信じられない光景を目にすることになる。
「リア……着替え終わったばかりで申し訳ないが、この試験管の口を舐めてほしいんだ」
リアに差し出されたのは、中身のない空っぽの試験管だった。
「……あ……え?」
困惑するリアに、追い打ちをかけるようにバトルトは言う。
「念のために確認したが、あいつが渡してきたポーションに識別番号のようなものはなかった……一応、リアが受け取ったものは俺の物と取り換えておいたから試験管の口部分に毒が塗ってあった、なんてことが起こる可能性は低いはずだ……」
「な、な、ん……で?」
リアの困惑した声を聴いたにも関わらずどういう訳かバトルトはリアが感極まっていると、勘違いして優しい笑みをリアに向ける。
「約束しただろう? 俺たちがリアを守ると。そもそも、幻覚作用のある鱗粉が舞う様な危険な森の中を俺たちが試験を受ける会場に選ぶわけがない。あいつのつく嘘はあまりにも雑すぎる。すぐに、嘘だとわかった。恐らくポーションの中に入っていたのは……何か、危険なものに違いない」
自信満々にバトルトは言う。リアはバトルトの言ったことを理解できていないのか、放心してなんの反応も見せない。
「危険なものを飲ませられかけているとわかっても、今の僕たちには休息が必要です……僕たちが騙されずポーションを飲んでいないとなると、彼女は僕たちに襲い掛かってくる可能性があります。なので、飲んだ振りをしようとしているんです。ポーションを飲んだのに試験管に口をつけた後がないのは不自然でしょう? なので、試験管の口部分を舐めておいてほしいのです」
「はっ……あいつは、とんだ馬鹿だぜ……俺たちを侮った結果、簡単に出し抜かれ利用されるとは……哀れな奴だ」
阿保三人から飛び出してくるのは私をけなす言葉ばかり。本当に馬鹿で哀れで愚かなのはこいつら阿保三人である。こんなの付きまとわれているリアが可哀そうでならない。リアの服が破けた理由とか、考えなかったのだろうか?
自分たちの症状を言い当ててみせたにも関わらず、それを認めようとせず自分の尺度と価値観だけで物事を図り自分たちは賢いと思い込む阿保三人はどこまで阿保になれば気が済むのだろうか?
「う、うぅぅぅ……」
阿保三人の言葉に放心していたリアは、唐突に泣き出してしまう。嗚咽とともに目から大きな涙をポロポロと、流す。
「リア、大丈夫だ。俺たちが付いている」
「その通りだ」
「リア、怖いものなんて僕たちのそばにいる限りありはしません」
リアが泣き出した理由を都合のいいように解釈した阿保三人と、いろんな感情がぐちゃぐちゃになって訳も分からず泣き出してしまうリアの間には心情的に大きな溝ができていた。
リアはきっと、絶望や恐怖、痛みやライラ・ソルテットの優しさや気遣いをむげにしてしまったことへの申し訳なさだとか止めることが出来なかった後悔だとか、そういうものも感じてしまっているのだろう。リアは、とても優しい子だから。
阿保三人は、リアが泣き止むまでそばに寄り添っていた。だがリアは、阿保三人に触れられるのを嫌がるばかりか拒絶していたが阿保三人は気づかない。
結局、泣き続ける限り阿保三人から逃げることが出来ないと泣きながらも悟ったリアが、どうにか涙を引っ込めるという選択肢をとることになった。




