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 ある年ある月ある日の深夜三時頃。一人の女性が安定しない足取りで夜道を歩んでいた。深夜三時はだれもが寝静まっているような時間だ。響き渡るのは女性の足音のみでありそのほかの物音は耳を澄ましたところで聞こえそうにもない。

 この時間帯になると通行量はゼロに近いため信号機のほとんどはレンズに光を灯してない。だがすべての信号機が消灯している訳ではなく一部の場所では日中と同じように信号機が光を放っていることもある。

 女性は、羽虫のように信号機の光に引き寄せられ横断歩道まで足を運んだ。

 女性は不意にスマートフォンの電源を入れて現在の時刻を確認した。

 時刻を確認した女性は大きなため息をつきスマホをポケットにしまうと、横断歩道を渡ろうとしたが歩行者用信号機は赤く光っていた。女性はその場で留まろうとしたもののたたらを踏む。そのせいで女性はわずかにではあるが横断歩道に身を乗り出してしまった。

 女性は慌てて点字ブロックがある場所まで引き返し、歩行者用信号機が青色になるまでおとなしく待っていた。

 歩行者用信号機が青色になった時に女性は横断歩道を渡り始める。女性はやはり安定しない足取りで横断歩道を渡るが横断歩道が赤色に代わるまでに女性は横断歩道を渡り切ることはできるだろう。

 不意に、酷い頭痛と激しい倦怠感に加えて立ち眩みが女性を襲った。その場にうずくまってしまいそうになるのを何とか耐えた女性は急いで横断歩道を渡り切ろうとした。いまだに歩行者用信号機は青色を保っているがいつ点滅し始めるか分からないからだ。

 急いで横断歩道を渡り切ろうとしている女性だが突然に自身の周辺が明るく照らされる。女性は反射的に光の発生源に目を向ける。女性の目に移ったのは大きなトラックだ。こんな時間帯に人が外を出歩くわけがないと高を括り信号を無視したトラックの運転手はブレーキペダルを踏むこともできないまま横断歩道を渡っている最中の女性にぶつかってしまった。

 トラックは法定速度を大幅に超える速度を出していた。トラックは時速にして約九十キロ近くのスピードで走行していた。重量のあるトラックに時速九十キロで突っ込まれた女性だったが、即死したわけではなかった。

 トラックにはねられた体は複数個所を骨折、また粉砕骨折も随所に確認され複雑骨折した骨のいくつかが皮膚を突き破っていた。さらにトラックドライバーは女性を引いた後、逃げ出してしまった。

 女性はスマホを使って助けを呼ぼうとしたもののスマホは事故の衝撃でポケットから放り出されていたばかりか当て逃げするトラックの下敷きになり破損していた。

 女性は声を上げて助けを求めたが時刻は深夜三時。誰もが寝静まっているような時間だった。

 複雑骨折などが原因でいたるところから出血していた女性は、結局助からなかった。

 翌日、ある家庭の誰かが仕事か何かで外出した際に地面に倒れている女性を見て警察に通報し、女性の死亡は確認された。

 警察は調査に取り掛かり僅か数時間で犯人を逮捕するに至った。その要因として調査には大勢の警察が参加したからだろう。

 原因は女性の死に方があまりにも惨く、凶悪な犯罪者の仕業ではないかと考えられたからだ。女性は、トラックと接触した地点から四百メートル近くトラックが逃げていった方向に移動していた。

 各所を骨折している女性が、どうやってそこまで移動したのか。最初は他殺だと考えられていたが女性を引いた人物からそんなことはしていないという証言の元、調査するとあることが分かった。

 女性は、折れた腕や足を使って地面を這いずってコンクリートの敷き詰められている地面を、四百メートルも移動していたのだ。

 また二十メートル移動した段階でコンクリートに触れていた顔がすり下ろされて出血し始めたがそこから女性は三百八十メートルの距離を地面に血痕を残しながら這いずって移動していた。

 最終的に、トラックの運転手は女性をひき逃げした罪で捕まり女性の顔が三分の一近くがすり下ろされてから力尽いて亡くなっていたのは女性の執念によるものだった……と、そう結論付けられ調査は終了した。



【あなたは、死後、この世界に転生することを許可しますか?】



 現状を整理しよう。

 今の私が、一体どうなっているのか。

 簡単に、あるいは重要なポイントだけを切り取ると私はトラックに引かれて直前までプレイしていたゲームの世界に転生した、と言うことになる。死ぬ直前に、死後この世界に転生することを許可しますか、と聞かれ私はYESと答えたので間違いない。

 そしておそらく生まれたばかりの赤ちゃんであると考えられる私は胸の大きな女性に抱かれている。

 赤ん坊である自分に目が見えてこうやって平然と思考できいる原因はおそらくゲームをプレイする中で培った魔力感知と特殊魔力操作だろう。魔力感知によって空間把握を、特殊魔力操作によって発達しきっていない脳みそでは行うことのできない思考を行えているのだろう。

 ついでに、今の私は魔力感知と特殊魔力操作以外にも、特殊魔力操作によってかかる負荷に耐えるために修復魔法を使用している。

 これが現状。どのタイミングから魔力操作が可能になったのか私の自意識はいつこの体に定着したのか、を考えると恐ろしくなってしまうがそこら辺の細かいことはいったん後回しに考えよう。

 そもそも私はこの女性に見覚えがない。ゲームの登場人物の顔は覚えているのだけれどこの女性には全く持って見覚えがない。

「生まれましたよ」

 暖かく豊満なその体から発せられた声だとは思えないぐらい感情のこもっていない声とともに私の体が傾けられる。

「……とりあえず、欠損部位はないな。ティス、問題があれば即刻処分する故、監視と報告を怠るな」

「わかっています」

 さらっと恐ろしい話をしているこの二人以外に誰も周りにないことからこの二人が私の両親ということになるだろう。それに会話の内容から考えると恐らくこの家はかなり地位の高い貴族家だ。

 ゲームの世界でも描写されていたがこの世界では私の世界でいうような障害児が生まれた場合、殺処分とすることがある。ただ私の知る限りでは生れた子供を処分するのは伯爵以上の位についている貴族家でしか起きていない。

 私としてはどこの誰に生まれようともこの世界に来た場合に何を目標とするのかをすでに決めてある。だから貴族の家に生まれたことは悪いことではない。

「最悪、薬に付ける。その時になって死なぬように少しずつ耐性をつけさせろ」

「わかりました」

 変わらず恐ろしい話だ。しかし……薬? いま薬といったか? 子供を薬に付けるというのはどういう意味なのだろうか? 薬と言えばで思いつくのはソルテット伯爵家だ。

 私は思い出せそうで思い出せない記憶を呼び起こすためにもほんの少し特殊魔力操作を強めて私が日本人として生きていた時の記憶を思い出す……まてよ、この男の顔は一度だけゲームで見たことある。

 この男はランロクだ。ランロク・ソルテットだ。すぐに思い出せなかったのはゲームで見た男の顔は血濡れて鼻をそがれて目ん玉もくり抜かれていたから。

 ランロクが父親ということは私の生まれは伯爵家。念のため、性別も確認。……女だ。日本人の時も女だったし、ソルテット家に生まれたことはなんの不満もない。何なら私が望んでいた家だ。

 薬の知識が簡単に得やすいしソルテット家の令嬢は美人だから。さらに言うとこのソルテット家の令嬢は私がプレイしていたゲームでは悪役令嬢という設定なのだ。

 私がゲームをプレイしていた理由として主人公が私の好みだからというのが一番ではある。けれど悪役令嬢にいじめられて苦痛に歪む顔が見たいと思ってゲームをプレイしていたのも間違いではない。

 これらを自らの手で実行できるというのだからソルテット家に生まれたことを感謝しなければならない。だが、それとは別に問題がある。

 私がプレイしていたゲームにも裏ボス、というのが存在していた。特定の条件を満たしていないと勝利の可能性が一切ないというかなりの強敵だったのだがその裏ボスは何らかの原因で主人公たちに敵対することになったソルテット家の令嬢……つまりは私なのだ。

 まあ……私としてはヒロインが幸福の中で生きていれば、それでいいのだ。ヒロインのために私の命が必要だと言うのなら、私は喜んで命を差し出すだろう。


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