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水島素良エッセイ集  作者: 水島素良


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歳を取る利点は「人の弱さを知れる」ことにある

 特に、自分の弱さを知ることができる。

 そして、人間の弱さを知らなければ、本当の意味で人間を、世の中を理解したことにはならない。


 若いということは、それだけで強者だ。健康で、頭もさえていて、運が良ければ両親にも守られている。

 おそらく、運悪く両親に守られず、あるいは病気や障害があって弱かった若者の方が、恵まれた若者より「人間の弱さ」をよく知ることになると思う。

 しかし大半の人は、若いうちはあまりに強すぎて、人間というものの弱さをよく理解していない。

 優等生は非行に走る子やひきこもりの子、ちょっとハンデのある弱い子を見て「なんであんなことするんだろ、バカじゃない?」と見下している。彼らは強すぎて、人間の弱さをわかっていない。つまり、自分たちの弱さもわかっていない。

 どんなに恵まれた優等生でも、社会に出れば壁にぶつかる。人と対立し、制度と対立する(特に女性は)。そこで、はじめて自分の弱さに気づく。自分の力ではどうにもできないことが世の中にはあるということにようやく思い至る。そこではじめて、『自分の弱さを通して』人間の弱さを知る。

 よく「病気になった人の気持ちは、時分が病にならないとわからない」と言うが、そういうことなのである。自分が病に倒れて初めて、世の中が体の弱い人に不寛容であることや、病気を抱えて生きている人がどんな不便をしているか、社会制度にいかに不備があるか気づく。まさに『自分の弱さを通して』世の中を、人間を知ることになるのである。

 残念ながら世の中には一部『強い優等生のまま大人になった人』というのがいて、そういう人はだいたい、ひどく残酷である。なぜか、人の弱さを理解しないから、思いやりも持てないのである。こういう『強すぎる優等生』は、一見何でも知っているように見えるが、実は一番大切なことを知らない。

『人間がいかに弱いか』

 と、

『弱さを通り越した先の、真の強さ』

 を理解していないので、結局、人間のことも、世の中のこともわかっていないのである。

 人生で痛手を負った人は、自分の弱さ、無力さと向き合わなければいけない。その中で、思いがけない人からの思いやりや、あるいは、もっと弱い人からの誹謗中傷や、社会の無理解、または、知らなかった支援制度など、さまざまなことを知る。

 そして、世の中には強者ばかりではなく、いろいろな人がいることに気づける。うっすらバカにしていた「よく遅刻する人」「窃盗で捕まった人」「ズルをする人」「ありえない失敗をする人」「精神病になった人」「非行少年」「ひきこもり中年」のことも、「もしかしたら自分も、立場が違えば同じ事をしていたかも……」とか、「世の中には、どうしようもなくそういう道に走ってしまう人がいるのだな」と気付いたりする。

 若くて、強すぎると、そういうことに気づけない。

 歳を取って、自分の弱さを知って、はじめて世の中の人間の弱さ、本質がわかってくるのである。


 若い人に、この感覚をわかってもらいたいとは思うが、わからないだろうなとも思う。

 人間の弱さは、経験がないとわからない。

 自分の弱さを知ることを避け続ける人もいる。

 そういう人は一生、成長しない。


 文章を書く人間として情けないけど、このことに関しては、

「大人になっていろいろ経験したら、わかるよ」

 としか言えないのである。


 歳を取るということは、自分の弱さを知ること。

 自分の弱さを知ることは、人間を知ること。

 人間がわからないと世の中もわからない。

 歳を取って老いていくことに利点があるとしたら、やはり、これだろう。


 『己の弱さを知り、それによって人間を深く知る』


 だから、若い人には長生きしてもらいたい。

 いろいろ失敗して、自分の弱さを知ってほしい。

 そしたら、見えなかった世界が、

 急に開けることがあるから。


 そして、もっと、

 失敗に寛容な世の中になってほしい。


 失敗したことのある人は、人間をよく知ってるから。



 読んでくれてありがとう。






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