5話
「……またか」
ラザンは疲れきった足取りで、荒れた道を歩き続けていた。
グリムハードを離れた後、ラザンは再び各地を巡り、町や村を助けることを続けていた。だが、どの場所でも待っていたのは、決して歓迎されることのない現実だった。
過去の冤罪、裏切り者の汚名がどこへ行っても尾を引いていた。
もう、どれほどの時間が経っただろう。ラザン自身もその時を測ることができない。
「また、受け入れられないのか」
深く息をつき、ラザンは目の前の村を見据える。
村の外れにある小さな酒場――ここに、ひとりの老人が待っているという情報を得たからだ。
噂によると、この老人は過去にラザンを知る者だという。
村に足を踏み入れたラザンは、慎重に周囲を観察しながら酒場へと向かった。
他の村人たちの視線は、やはり冷たく、警戒心に満ちていた。
酒場の扉を開けると、そこにいたのは……。
**
「よく来たな、ラザン」
見知った顔があった。
ラザンはその声を聞くと、表情を一瞬硬直させた。
目の前にいるのは、かつて“騎士団”で共に戦った仲間――アストリウスだった。
彼もまた、ラザンと同じく冤罪をかけられて追放された者のひとりだった。
「アストリウス……お前、ここにいたのか」
「お前が来ることは、わかってたよ」
アストリウスは少し笑みを浮かべて、酒杯を掲げる。
「お前のことを信じている者は、まだここにいるんだ」
ラザンはその言葉を信じることができなかった。
数々の裏切りと誤解に縛られてきた彼にとって、信頼という言葉は重すぎる。
「だが、もう一度言っておく。お前を信じている者がいる。だからこそ、ここに来たんだろ?」
アストリウスの言葉は、ラザンの心に刺さった。
信じてくれる者がいる――そんな言葉を聞くことができるのは、何年ぶりだろうか。
ラザンは思わず息を呑み、その場に立ち尽くした。
「アストリウス……」
「お前はまだ、戦ってるんだな」
ラザンは無言で頷いた。
「その通りだ。信じてくれる者のため、復興を続けてる」
「お前の戦いは、確かに無駄じゃない」
アストリウスは目を細め、しばらく黙っていた。そして、ぽつりと続ける。
「だが、復興の先にあるものがあるとしたら、それをお前はどうする?」
「それは――」
ラザンは少し言葉を詰まらせた。
復興の先に、何が待っているのか。それは、まだわからない。
だがひとつだけ確かなことがある。
「俺の戦いは、終わらない」
アストリウスは静かに頷いた。
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酒場での再会から数日後、ラザンはアストリウスと共に村の復興に向けて動き出した。
これまで一人で戦ってきたラザンには、仲間と共に何かを成し遂げることが久しぶりだった。
村の人々も、次第にラザンの誠実な姿勢を認め始めた。
ただの“追放された騎士”ではなく、復興のために尽力する者として、その目に映り始めたのだ。
「村を守るために、力を貸してほしい」
ラザンの頼みを、村人たちは今度は真剣に受け入れた。
アストリウスも加わり、村人たちと共に復興作業が進められる。
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そして、ついに村の復興がひと段落した時、ラザンは再びその足を向けるべき場所に向かう決心を固める。
「ありがとう、アストリウス。お前の信頼を、俺は必ず裏切らない」
アストリウスは微笑み、ラザンに言った。
「お前が戦い続ける限り、俺は応援し続けるよ」
ラザンはその言葉を胸に、再び旅立つ決意を固める。
信頼を回復したラザンは、これからも人々を助け、彼の名はまた新たな形で広まるだろう。
しかし、それは歴史に名を残すためではない。
ただ、目の前の人々を守るために、彼はその足を進めるだけだ。
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ラザンの足取りは、確実に前進していた。
彼が歩む道は、決して華々しいものではない。
だが、その一歩一歩が、確かに誰かの未来を照らすことを信じて――。