ユルの旅立ち #3
「すみません、一応念のため、というか用心のために、その長い棒と腰に差した⋯⋯それは剣? ラージナイフ? どうも中途半端な長さですね。ちょっと見せて頂けますか?」
申し訳なさげな声で詫びを入れる、金縁眼鏡の男。一見して腰が低く、無防備なように見えるが、ユルは男が数秒前に視界の隅で発した、付与の証である琥珀色の閃光を見逃していなかった。
「派手な眼鏡のお兄さん、僕はユルと言います。争う気はないですよ。そんな理由もないですしね。武器を預けてほしいなら、どうぞどうぞ」
ユルは背中のベルト鞘から深い青色のアダマンタイト製の棍を、次に肉厚で幅の広い、ダマスカス鉱製で短めの刃を持つ剣を腰のベルト鞘から外し、金縁眼鏡の男の前に置き、薄い笑みを浮かべ、1歩退がった。
「薄着のユル少年、ご理解ありがとうございます。ちなみに、あなたが持つ武器は初めて見る種類なのですが⋯⋯?」
面倒くさがりのユルは、見返りなしで武装解除をしたうえに相手のペースに乗って会話を続ける気はさらさらなかった。
「自分の紹介なしで、さっきから要請とか質問ばかりですね。失礼ですが⋯⋯お兄さん、初対面の印象が最悪だね、とか言われたことないですか?」
唐突な口撃に驚いたのか、金縁眼鏡の男は元から大きな目をさらに見開いた。
右にぬぼうと立つ僧のような格好をした巨漢の目をすくい上げるように見て、何かを促すように顎をくいっと上げる。
「いえ、私めはそのような印象を持ったことはございませ⋯⋯ん。ケロコンさま」
応えに窮して動揺したのか、不自然なところで躓いた巨漢を恨めしげな目で一瞥、ケロコンと呼ばれた金縁眼鏡の男は、ユルにも同じ目を向ける。
「んんっ、失敬。私はこのソロリを統治する管理隊の副長です。名前はケロコン。性別は見てのとおり男で、素直で誰からも好かれやすい性格です。端正な顔だちをしているので、女性に苦労はしていません。この眼鏡も素晴らしく似合うでしょう? あなたをここでお待たせしたのは、私が熟睡していてなかなか起きなかったからです」
口を尖らせながら焦ったようにまくし立てるケロコンへ、まるで汚物でも見るかのような冷たい瞳を向け、ユルは思う。
馬鹿っぽいな、あんまり関わりたくないと。
辟易ぎみのユルは、問には答えず。自分がこの県を訪ねた理由と、県令への面会を要請。
どこか所在なさげな様子で応えるケロコンによると、県の最高権力者たる県令は、広大な塩原に雨が降ったときにのみ見ることができる、天空の鏡と呼ばれる現象で有名な観光地、リュクスという県に出向いていて、明日の夕方を目処に戻るとのことだった。
リュクスは昔から塩に関する産業が盛んであり、様々な県から塩を求める商人が集まる県だったが、隣県であるソロリの県民だけはリュクスに入ることさえ許されていない。