第1章・3幕 神の条件
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
・置田 蓮麻呂 (おきたれんまろ)
都の近衛兵主の地位に就く。剣術・体術に優れ、賊退治を生業にしており、賊に限らず害獣も討伐してきた。
・大山主 (おおやまぬし)
祖柄樫山の神話の主神。その伝説は多岐にわたり、神兵として邪神の討伐をさせたり、人を神へと導くともいわれてきた。穏やかな中性的、かつ大人の男性で、金色の布一枚を纏わせるのみ。
■ ▢ ■ ▢
ー和都歴1124年 12月1日
蓮麻呂は輪廻転生を繰り返し、人類の心が、信条から金銭に変わりゆく姿を知る。
それを輪廻転生の途中で、大山主に問う。
『そうでしょう。それで良いのです。何故なら神とは、この世のあらゆる金銭を掌握したもの1人が、その時から神となるのですから。』
「何ですって?」
大山主の言葉に驚愕する蓮麻呂。
『太古に人間に知恵を与えたという話を御存知でしょう。それは、鉄の作り方でも、稲作でも、火の起こし方でもありません。お金という支配なのですよ。』
「そんなものを?何故?」
『それが次の文明への❝進化❞の条件です。人が皆神になるまで、この輪廻転生は繰り返し、神の存在が世界に広がる頃、神が次の文明を築き、宇宙へ羽搏いていく。それにはまだまだ、この人類を早く神に進化させる為に、お金で競争させているのです。』
「し、信じられない…」
『ですから、あなた方、人間の1度の人生など、宇宙の瞬きにすら追い付かない、刹那の事。』
「だから、どうでもよい存在とでも?」
『それは違う。彼方もないですか?虫の一生、花の一生、それに共感していますか?雨が降り、可愛そうだと、家の中に入れているとでも?次元の違う者は所詮、ベクトルが違い、そこに平等も、酷い、優しいもないのです。』
「ふん、えらく冷酷に聞こえるよ。」
『彼方も更に未来を見たとき、人間の本性に直面します。太古は男が力で、女は会話で絆を保っていた。時が経つと、それに不平等と、負けることを考える人間が、知恵と言葉、法律で平等を唱えるようになる。それがこの時代。』
「ここまでくれば、もう俺には人間らしい人間とは思えないがね。元の世界に帰りたい。」
『ええ、意識とはいえ、追体験で心が壊れる者も居ますがね。』
「いつ帰してくれるんだ?」
『それは、人間が更なる平等と平和を求め、お金で解決することがどういう世界を築くのか、それを君は知った時、望めばいつでも帰してあげよう、蓮麻呂君。』
そういって大山主の声が消える。
創造の神、主神、大山主。その実体は以前の弱肉強食を生き抜いた最後の人類ということか。
だからといって、その1回の人生を終えて記憶を無くす人間に、神になろうと思う人なんていない。
結果的にその系譜の人間が、生き残り、神になるというのか?
私は再び輪廻転生を重ねる。
ー長い人生を何度も繰り返し、好きになった人とも死別し、何も残らない。
私は記憶を留めているが、これは言うなれば永遠に死ぬことのない、いや、終わりのないゲームだ。
生まれ変われど、また赤ちゃんから始め、認知力は俺の元来と変わらない。
20歳になれば、引き継いだ記憶は使えるが、それでは天才になれるわけでもない。
まさに、何度もやり直す❝ゲーム❞に過ぎない。
つらい…
私は、俺は、置田蓮麻呂。
都の帝に仕える近衛兵主。
祖柄樫山に遠征に行き、その任務を成す者なのだ。
繰り返す人生は過ぎ去り、また一つ始まっては過ぎ去っていく。
歴史も進み、私は未来を、人間の望む未来を見る事になる。
ー和都歴4031年 6月17日
そこは、何もなかった。
繰り返す人生で、私は予想していた。
過保護に暴力を反対し、弾圧し、人間は暴力、力を失ってしまった。
一部のスポーツが人間の限界を挑戦する名目で存在していたが、それも風化してしまった。
スポーツにお金が流れない以上、やる者は居ない。
人間はスポーツ選手という者にさえ、差別意識が向いたのだ。
お金でスポーツをやらせる。それが人を見下していると。
雇うという概念はもはやなく、お金持ちがロボットを使役し、日常を回していた。
そのロボットは、半分は負けていった貧民が、召使になる上での苦しみ無き為の選択として、自ら望んでロボットになった。
私は、まだロボットに成り切れていない貧民であろう人物へ近づいていく。
「あ、あの、すみません。」
「ハイ、ドナタでしょう?」
その表情に、私は唖然としたのだ。
作者都合により、次回投稿は見合わせます。
投稿が決まり次第、活動報告にてお知らせいたします。