第1章・2幕 輪廻転生
今回の登場人物
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・置田 蓮麻呂 (おきたれんまろ)
都の近衛兵主の地位に就く。剣術・体術に優れ、賊退治を生業にしており、賊に限らず害獣も討伐してきた。
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私は伊佐に導かれ、遙、天空よりこの極楽浄土に降り立った。
『進み、この山の神に謁見せよ。そう、神という存在、その真意を知るのだ。』
伊佐の声に、私は従い、山に入り始めた。
金属質の棒が立ち並び、彷徨うように動くものもあった。
頂上への道の前に、社があり、私は中へ入った。
「おや?君は意識として彷徨う者か?」
「彼方は?」
「私は大山主。人々は生まれて滅ぶまで、私を神と称えた。」
大山主。祖柄樫山の神話の主神。その伝説は多岐にわたり、神兵として邪神の討伐をさせたり、人を神へと導くともいわれてきた。穏やかな中性的、かつ大人の男性で、金色の布一枚を纏わせるのみ。
「ここは何処なのです?」
「意識の視覚で見る君の生きる世界だよ。」
「私は神に謁見しろと言われた。」
「君は選ばれたのだろう。人間の時代は君の時代から再び始まったばかり。君のDNAは最後の時までそれを伝えていくという事だろう。」
「何なんだ…DNA?わからない…私は頭がおかしくなったのか?」
「君がこの人間という存在を、歴史を、終わりまで見たとき、君は君の役目を知ることになる。」
「わけがわからない。」
「君は暫くその記憶と意識を保ち、輪廻転生を繰り返す。数多の時代を越え、あらゆる記憶と意識を保ち、かつその時代に順応する。それが輪廻転生、DNAというデータから任意に必要な情報を引き継ぐといってもいい。」
白い靄が私を包むと気を失ってしまった。
ー和都歴1124年 12月1日
私は死に、何度生まれたのだろう。
早送りの様に私は子孫のそのまた子孫…繰り返し追体験をする。意識として子孫を体験した。そして記憶と時代の流れも理解できた。
何時の時代も欲望にまみれるケダモノたち。
私が生きていた時代から1000年以上経つこの時代は、すっかりお金に支配された時代になっていた。
いや、私の追体験の見立てが間違いなければ、人間はお金によって支配・統制されていた。
お金が集まる場所も最初から決まっていた。
細かく、刹那に生きていた1人1人の記憶ではこうは分からないだろう。
そして、システムという形が構築されていくこの社会。
数百年前の人情で人を信頼し合った、いや、信用するしかない時代とは違う。
防衛システムを理解し、近所の人間すら信用できないこの時代。
私は文明として発展したこの人類を、今、決して幸せになったとは思えない。
少なくとも数百年前の彼らと喜怒哀楽を共にした頃、彼らもきっとそう感じるだろう。
「置田!」
「え?ああ。」
「もうすぐ定時だ。今夜こそ付き合えよ。」
「ああ…」
私は必要もないのに働いている。
魚を釣り、米を作る。必要なことに時間を当てるんではない。
定められた時間を、そう私の人生の一部を切り売り、お金と交換し、はじめて生きることを許される。
この時代にそんな不気味さを感じていた。
『どうかね?輪廻転生を幾らか繰り返せば、人間の業も理解できたかと思うがね。』
「大山主様?これは苦行であります。人々が幸せに暮らしているのが不気味です。」
『彼らは死ぬ度にDNAを次の意識体に引き継げば、記憶は白紙になる。イニシャライズと言ってね。伊佐と伊那がそう設定したらしい。』
「人間は伊佐と伊那が創生したと?」
『そうだ。私は神として人間から崇められるが、君もここまで生きて、地球にあらゆる神が存在したことも分かるだろう。その一人にすぎない。』
「ここまで輪廻転生して、人間の未来がどんどん1本化していくのは理解しています。しかし、神とは一体何でしょう?人々は神からも離れ、心はお金ばかりになっていく。」
『そうでしょう。それで良いのです。何故なら神とはー』
蓮麻呂が聞いた、驚くべき大山主の言葉、それは…
次回2025/5/2(金) 18:00~「第1章・3幕 神の条件」を配信予定です。




