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極楽浄土  作者: 船橋新太郎
第1章・夢
2/3

第1章・2幕 輪廻転生

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・置田 蓮麻呂 (おきたれんまろ)

都の近衛兵主の地位に就く。剣術・体術に優れ、賊退治を生業にしており、賊に限らず害獣も討伐してきた。


■ ▢ ■ ▢

私は伊佐に導かれ、遙、天空よりこの極楽浄土に降り立った。


『進み、この山の神に謁見せよ。そう、神という存在、その真意を知るのだ。』


伊佐の声に、私は従い、山に入り始めた。

金属質の棒が立ち並び、彷徨うように動くものもあった。

頂上への道の前に、社があり、私は中へ入った。


「おや?君は意識として彷徨う者か?」

「彼方は?」

「私は大山主(おおやまぬし)。人々は生まれて滅ぶまで、私を神と称えた。」

大山主(おおやまぬし)。祖柄樫山の神話の主神。その伝説は多岐にわたり、神兵として邪神の討伐をさせたり、人を神へと導くともいわれてきた。穏やかな中性的、かつ大人の男性で、金色の布一枚を纏わせるのみ。

「ここは何処なのです?」

「意識の視覚で見る君の生きる世界だよ。」

「私は神に謁見しろと言われた。」

「君は選ばれたのだろう。人間の時代は君の時代から再び始まったばかり。君のDNAは最後の時までそれを伝えていくという事だろう。」

「何なんだ…DNA?わからない…私は頭がおかしくなったのか?」

「君がこの人間という存在を、歴史を、終わりまで見たとき、君は君の役目を知ることになる。」

「わけがわからない。」

「君は暫くその記憶と意識を保ち、輪廻転生を繰り返す。数多の時代を越え、あらゆる記憶と意識を保ち、かつその時代に順応する。それが輪廻転生、DNAというデータから任意に必要な情報を引き継ぐといってもいい。」

白い靄が私を包むと気を失ってしまった。


ー和都歴1124年 12月1日


私は死に、何度生まれたのだろう。

早送りの様に私は子孫のそのまた子孫…繰り返し追体験をする。意識として子孫を体験した。そして記憶と時代の流れも理解できた。

何時の時代も欲望にまみれるケダモノたち。

私が生きていた時代から1000年以上経つこの時代は、すっかりお金に支配された時代になっていた。

いや、私の追体験の見立てが間違いなければ、人間はお金によって支配・統制されていた。

お金が集まる場所も最初から決まっていた。

細かく、刹那に生きていた1人1人の記憶ではこうは分からないだろう。


そして、システムという形が構築されていくこの社会。

数百年前の人情で人を信頼し合った、いや、信用するしかない時代とは違う。

防衛システムを理解し、近所の人間すら信用できないこの時代。

私は文明として発展したこの人類を、今、決して幸せになったとは思えない。

少なくとも数百年前の彼らと喜怒哀楽を共にした頃、彼らもきっとそう感じるだろう。


「置田!」

「え?ああ。」

「もうすぐ定時だ。今夜こそ付き合えよ。」

「ああ…」


私は必要もないのに働いている。

魚を釣り、米を作る。必要なことに時間を当てるんではない。

定められた時間を、そう私の人生の一部を切り売り、お金と交換し、はじめて生きることを許される。

この時代にそんな不気味さを感じていた。


『どうかね?輪廻転生を幾らか繰り返せば、人間の業も理解できたかと思うがね。』

「大山主様?これは苦行であります。人々が幸せに暮らしているのが不気味です。」

『彼らは死ぬ度にDNAを次の意識体に引き継げば、記憶は白紙になる。イニシャライズと言ってね。伊佐と伊那がそう設定したらしい。』

「人間は伊佐と伊那が創生したと?」

『そうだ。私は神として人間から崇められるが、君もここまで生きて、地球にあらゆる神が存在したことも分かるだろう。その一人にすぎない。』

「ここまで輪廻転生して、人間の未来がどんどん1本化していくのは理解しています。しかし、神とは一体何でしょう?人々は神からも離れ、心はお金ばかりになっていく。」

『そうでしょう。それで良いのです。何故なら神とはー』


蓮麻呂が聞いた、驚くべき大山主の言葉、それは…

次回2025/5/2(金) 18:00~「第1章・3幕 神の条件」を配信予定です。

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