長田雄樹
”彼”の名は、長田雄樹という。29歳で、都内の某自治体に奉職する地方公務員である。
雄樹は大学卒業と同時に入庁し、まちづくりの総合計画を担う部署に配属されて今年で7年目になる。現在は、若手ながら課の最古参として部下、同僚はもちろん、上司からも頼りにされている。
「100年後の輝くまち」という市の長期計画を策定するプロジェクトチームの事務局を務め、各部署との調整の末、先日無事に市長レクを終えた。プレゼンの内容は市長にも高く評価され、恵比寿顔の上司からまとまった休暇を取るよう褒美を下された。
市長レクに向けて連日残業続きだったこともあり、雄樹はこの提案を喜んで受け入れた。休暇に入ると、しばらく手をつけられなかったオンラインゲームに没頭した。その作品では、ジョブ選択システムが採用されており、どのジョブを選択しても明らかな不利になることはないバランスの取れた仕様だが、上級ジョブにクラスチェンジするには途方もないやり込みが必要となる。雄樹は足かけ5年プレイを重ね、ようやく戦士の最上級ジョブである聖龍騎士に辿り着いた。プレーヤー間でも、雄樹の知名度はそれなりのものだった。
休暇3日目、雄樹は他のプレーヤーとともに、難敵を討伐するミッションに参加していた。討伐対象のライフゲージに終わりが見えてきたとき、雄樹はとどめに聖龍騎士の最上位スキルを発動した。その瞬間、PCのディスプレイが発光し、次の瞬間見知らぬ場所に移動していたのだった。