【30秒で読める怪談】高校時代の恋と呪い
香川県に住む山本直子さん(仮名)の話。
高校1年のときに、同級生の雄一さんと付き合い始めた直子さん。
もともと同じ小学校で、出会ったのは小学3年生のとき。
雄一さんは運動ができて、成績も良かったので、彼のことを好きな女子は多かったものの、直子さんはそれほどでもなかった。
でも、2学期の学級委員を決める選挙。
雄一さんと、もう1人の男子が立候補していた。
結果は、雄一さんが落選。
負けが確定したとき、雄一さんは最初ヘラヘラしていた。
しかし次の休み時間、教室を出ていったかと思うと、彼は校庭の隅へ走っていって号泣し始めた。
男子の友達が追いかけて、大粒の涙を流す彼の背中をなでていた。
その光景を、直子さんたち女子は教室の窓から見ていた。
直子さんが雄一さんのことを好きになったのは、この瞬間だったそう。
それから、ずっと好きだった。
2人とも、地元の小学校から地元の中学校へ進学。
中学時代は、特に接点はない。
ただ高校を選ぶ段になって、希望先を雄一さんと同じにした。
そして高校の入学式。
真新しい学ランを着た雄一さんに話しかけられ、同じ高校へ進学して本当に良かったと思った。
同じ中学出身は全部で十七人。
今がチャンスだと思った。
でもそう思っただけで、気持ちは心の深い場所に閉じこめていた。
付き合えたのは、偶然だ。
雄一さんが2人きりになろうとしているのはわかっていた。
彼が手をつないできた。
そのとき、直子さんはふりほどかなかった。
ただ、それだけ。
好きすぎて、頭がおかしくなるかと思った。
ある夏の日。
2人でお祭りに行った。
かき氷を買う列は長いし、死ぬほど暑かったが、汗をダラダラ流している雄一さんを見ていると、腹がよじれるほど笑った。
商店街のモールの天井から、色とりどりの短冊が垂れ下がっていた。
下から見上げると、すべてを忘れられるくらいきれいだった。
雄一さんも見上げていて、「天国っぽいね」と言った。
「うん」と返事して、なぜか泣きそうになった。
この先どうなるかわからなかったけれども、このまま進むことに決めた。
でも、その決断は間違っていた。
きっかけはほんの些細なこと。
雄一さんが学校で1人の女子と話していた。
廊下の隅で話しているのを見かけて、直子さんは思わず隠れた。
そんな自分が嫌になった。
モヤモヤしたくなかったので、思い切ってきいてみた。
あの子のことが好きなのか、と。
雄一さんは自信たっぷりに「そんなわけない。ただの友達だよ」と答えた。
このときは、それを信じた。
でも歯車が狂い出した。
今は、雄一さんが話しかけてくるだけでイライラした。
そうかといって、かまってくれないと爆発した。
彼氏であれば、すべてを受け入れるべきだと思った。
ある日こう言われた。
「もうついていけない。別れよう」
勇気を出して「別れたくない」と言った。
ムダだった。
雄一さんは、がんとして「別れる」の一点張りだった。
LINEはブロックされ、学校でも無視。
まだ別れたわけじゃない。
それだけが心の支えだった。
だけど、すぐ崩壊した。
あの女子と雄一さんが付き合い出したのを知ったから。
学年中の噂になっていた。
息ができなくなった。
そんなときにふと見たネットの情報。
ある神社に行けば、憎い人物に呪いをかけてくれる、という。
気分転換のつもりだった。
電車とバスを乗り継いで3時間。
住宅街にある、少し古びた神社で、「呪い」に関係がありそうな雰囲気はなかった。
でも神社の裏へ行って驚いた。
大きなクスノキが生えているのだが、その幹にたくさんの人形が釘で打ちつけられていた。
木の樹皮を覆いつくすくらいの数だった。
社務所で人形を購入。
10cmくらいの、のっぺらぼうの人形と、細長い紙、釘、金槌を渡された。
紙に人の名前を書いて、それを人形の背中にある裂け目に差しこむ。
そして神社裏のクスノキに釘で打ちつけるのだと、窓口の中年女性が教えてくれた。
「金槌は返してね」とも。
その場で、あの女子と雄一さんの名前を書いて、人形に差しこんだ。
神社裏の木に打ちつけた。
なぜかスッキリした。
2人の不幸を願ったわけじゃない。
忘れたかっただけ。
その後、あの女子にも雄一さんにも、不幸なことが起こったという話は聞かなかったので、ある意味で直子さんは安心した。
ただ、高校卒業と同時に2人は別れたらしい。
その情報を同級生から教えられても、特に感情が動かない状態にまで回復していた。
だから大学3年生のとき。
あの女子が交通事故で亡くなったと聞いて、心の底からびっくりした。
もう忘れかけていたのに……