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神器終極  作者: 英英一
1章 熱砂の秘宝を求めて
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リリア・アルフェラッツ②

「何故ですか!?父を助けたいのです!遺跡に行く事をお許しください!」

「……ダメだ」

「そんな……、ラシード様……」



アクラブの領主の館。その一室で初老の男と大柄な丈夫が向かい合う。



「ザノヴァン……、もうじき砂蜥蜴の産卵期。優秀な兵士であるお前を無闇に砂海へ行かせて失う訳にはいかない」



良き領主としてアクラブの街周辺を統治するラシード。そんな彼は眉を下げながら申し訳無さ気に言う。


ラシード言葉は自分を思ってのものである。

それを分かっているザノヴァンと呼ばれた青年はぐっと拳を握ると再び口を開く。



「私だって父を失う事が怖い!ラシード様に恩義を感じるのと同じく!私を受け入れてくれた家族にも大きな恩義を感じています!どうか……!どうか私が行く事をお許しください!」



室内を静寂が満たす。

そんな中部屋のドアがノックされた。



「失礼します。ラシード様、客人です」



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



オアシスの街アクラブ。


水のある場に人が集まり定住し始める。人が集まれば商売も盛んになる。


サンディアにおける人間の活動可能な場所は限られている。グラン王国のような街と街道の『点と線』ではなく、まさにオアシスとオアシスの『点と点』である。


この広い砂漠に住んでいる生物は多種多様であり、オアシスの街同士の交流は彼らが生きていく上で欠かせないものだ。



「砂蜥蜴の肉!それもかなり砂漠の中心に近いヤツだ!美味いぞ〜、1切れどうだ!?」

「ジュバのオアシスでしか採れない果物!今なら安いぜ!」

「見てよアレ!見た事無い物ばっかり!ああ!でもお金もあんまり残って無いし……」



今日もアクラブの街はキャラバンの行商人と住人で賑わっており、中にはこの国の者では無いような衣装の者もいる。


この活気溢れる街の中、リリア・アルフェラッツは不機嫌であった。


理由は前を歩くこの男。グレイのせいである。


アーク・イザールという人物は全ての者に分け隔てなく接するが、同時に誰の能力も信用していない。(尤も本人の能力が高いあまり、比べた際他人の力が信用できないという側面もあるだろうが)


これはリリアの主観的な勘違い等ではない。

事実アークは団員を任務に向かわせる時は慎重に慎重を期す事で有名だ。



『遺跡に潜っての神器の捜索か。グレイがやるなら大丈夫かな。君は危なくなったら自分の身を第1にね。何が起こるか分からないから』



グレイに対する信頼。彼の言葉はリリアのプライドを傷つけた。


(―こんな妙な平民が神器に選ばれた?それもアーク団長の知り合い?)


どんなものかと実際に共に行動してみればただ少し力が強い男というだけ。

リリアの周りの団員の中には魔力による身体強化で自分の何倍もの大きさの岩を軽々しく持ち上げる様な者も珍しくは無い。


もしかすると表には名前を出せない凄腕の魔法使いであったり、何かとてつもない異能を持っていたりするのだろうかと内心期待していたが拍子抜けだ。


同時に王国師団の中でも優秀と言われる程まで努力してきた自分が軽く見られているような気分であった。



「珍しいモンがいっぱいだなぁ。何処から見て回ろう」



当の本人は王命の任務であるというのにこんな事までのたまう始末。



「そんなヒマ無いわ。まずは領主に探索の許可を取るのが先よ。そんな事も分からない訳?」



呑気なことを言っているグレイにぴしゃりとリリアが言う。


これでは本当に監視だけが目的のお守りと変わらないではないか。


グレイを追い越しスタスタと早足で領主の館へ向かうリリア。



「なんだよアイツ……。何か怒らせるような事したかぁ……?」



そう呟きリリアの後を追うグレイであった。



♦♦♦♦♦♦♦♦♦



「なるほど、六分儀の遺跡を調査したいと」

「ええ、特に問題はありませんよね?」



ラシードの館の応接室にてリリアと領主であるラシードが向かい合う。

リリアは貴族然とした態度に戻っている。どうやら立場が出る場ではこのモードのようだ。

グレイは半眼でリリアの後ろに控えている。リリアの従者という設定だ。


世界に100と無い遺跡は未知を求める冒険者の目指す場所であると同時に非常に危険な領域でもある。


魔力が溜まる遺跡では強力な魔物が住み着く事や繁殖したりする事が多く管理する者が必要である。


王国の貴族であり王国第一師団という肩書きを持つリリアがこの旅の任務に着けられたのは、よりスムーズに遺跡をはじめとした立ち入りの難しい場所に行きやすくするためでもある。



「調査自体は問題無いが……今は時期がな……」



ラシードは言い淀む。



「時期……?」

「今は砂漠砂蜥蜴の産卵期。砂海の魔物が活発になっている。そんな中グランの貴族の方を行かせると言うのは……」

「蜥蜴ですか……?私達もここに来る途中見ましたが脅威とも呼べる程ではありませんでしたよ?」



あんな小さな蜥蜴の10匹や20匹、リリアにとっては脅威にすらならない。何をそこまで心配するのだろうか。口には出さないがもしや砂漠の戦士はそれほどまでに弱いのか。そんなことをリリアは思う。

そんな疑問にし対しラシードは口を開いた。



「砂海の魔物は中心に近づくにつれて大きく、そして強くなる。ここより北の魔物は砂海の生存競争に参加できなかった……所謂敗北した魔物。強さは比べものにはなりません」



一層真面目な様子で砂海の脅威を語るラシード。その眼には脅すような意思は見られない。単純にどれだけこの時期の砂海が厳しいものなのかを訴える。



「問題ありませんね。後ろの彼も()()みたいですし。……それに」



そう言いながらリリアは指を立てる。

―その瞬間部屋の温度が一気に下がった。


冷気が渦を巻きリリアの指に集まる。ラシード達が驚く中、冷気の勢いは更に増していく。

冷気の勢いが一層強くなった次の瞬間。


そこにあったのは薔薇。緻密に作られた氷の薔薇。光をキラキラと反射し美しく光るそれは幻のように美しい。


ラシードも星痕を持つ魔法使い。……だがここまで繊細な魔法を直に見るのは初めてだ。気が付くと冷たくなった部屋であるにも関わらずたらりと汗が流れるのを感じた。



「私は王国が誇りし十師団。それも今まで近衛を輩出してきた第一師団です。魔物如きでは脅威足りえません」



涼し気に放たれたその声は静かな部屋の中に良く響いた。


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