第9話 魔導テコンドー②
正午、日は一番高くに上っている。
広場にいるレアルの前から、頭髪を禿げさせ、髭を少しばかリ生やした男が歩いてくる。
男は広場の中央を挟んでレアルと対峙するが、男は拍子抜けした様子だった。
ライスケーク「なんだ、まさか女を使わせてくるとはな。」
レアル「悪かったわね、女で。最もあなたに負けるわけないけど。」
ライスケーク「そういうわけではない。俺は男女平等だ。」
レアル(?)
ライスケークは半笑いで言った。
ライスケーク「だから容赦なくやっちまうぞ?」
レアルとライスケークは構える。広場に一陣の風が吹く。
レアル「殻炎砲撃5連!」
レアルの後ろから炎を纏った岩石球が5つ連続して飛び出す。
ライスケーク「テコンドーに....」
レアル「!?」
ライスケーク「物理攻撃なんぞ、通用せぬわあ!!」
ライスケークは水属性を纏ったパンチで岩石球たちを粉々に砕いた。
レアル「はい!?」
岩石球が後ろに吹っ飛んでいくのをよそに、ライスケークは話す。
ライスケーク「今度はこっちの番だな。ところであんた、"テコンドーの滝"は知ってるかい?」
レアル「テコンドーの...滝?」
ライスケーク「それは冷えに冷え、身の煩悩すべてを凍り付かせ、吹き飛ばす。俺はその地で修業に修行を重ね、ついにこのテコンドーを会得した。そして見よ!これこそが....!」
ライスケーク「テコンドーの滝!!」
レアルの頭上から凄まじい勢いで滝が降ってくる。雨などではないし、比較にもならない。
そう、まごうことなき滝だった。
レアル「そんな魔法聞いてないって!!火炎砲撃!」
レアルは素早く自身の真上の水流を蒸発させた....いや、それができたのは一瞬だけだった。
すぐに滝が上から降ってくる。
レアル「このままじゃ押しつぶされる!冷凍!」
レアルは水が蒸発したことによりできた空洞の淵を凍らせ、その中に隠れた。
レアル「まずい...私は水や氷の魔法はそこまで使えないから、あんまり長いこと持続させられないし...
とりあえず登録で外に出なきゃまずい!というかテコンドー要素ないじゃん!」
レアル「登録!」
レアルの立っている床に魔法陣が現れる。そこを通り抜け、レアルは元居た場所から少し離れた、建物の陰に出た。
滝はもう既に収まっていた。しかし、あたり一面には霧が立ち込めており、視界がすこぶる悪い。
レアル「ただの水属性魔法だと侮ってたけど、魔力が高すぎる!」
ライスケーク「だが、この滝は俺のテコンドーにとっての第一段階でしかない。」
後ろからライスケークが現れる。
レアル「な!!」
レアルは思わず後ずさりしてしまう。
ライスケーク「....お前はテコンドーの冬を知っているか?」
レアル「今度はテコンドーの冬!?」
レアルはライスケークに対して距離を取りながら魔法を溜める。
レアル「地殻砲撃!」
レアルの横から岩石が飛んでいく。
ライスケーク「テコンドーに物理攻撃は通用しない!」
ライスケークは今度は素手のみで岩石球を割る。
ライスケーク「テコンドーの冬は、極寒だ。人々は凍え、草木も生えぬ。そして....」
レアル「極寒....」
ライスケーク「水も、水蒸気も凍り付く!!」
ライスケーク「テコンドーの冬!!!」
ライスケークを中心に、霧が急速に冷やされ、ダイヤモンドダストが巻き起こる。
レアル「どこからそんな魔力出てくるのよ!!」
レアル「火炎陣!」
レアルを中心に、円状に炎の壁が展開される。
レアル「火炎砲撃に比べて、魔力の消費が比較にならないぐらい多い...!」
ライスケーク「火炎魔法...テコンドーの滝をぶつけたいが、さすがに大技を打ちすぎた...」
ライスケークは小瓶を取り出す。
ライスケーク「馬鹿みたいに回復を交えたゾンビ戦法をしたくはないが、何をされるかわからん...!」
ライスケークは小瓶に入っていた魔力の聖水を飲み干した。
レアル「さすがにもう持たない...!」
火炎陣が解除される。レアルはまだ立っているが、この"テコンドーの冬"空間内ではいるだけで体力が削られてしまう。
ライスケーク「少々の怪我では済まないかもしれないが、この一撃で終わらせてやろう!テコンドーの....!」
レアル「何か...ほかに手段は....!」
レアル(地属性を混ぜた攻撃じゃ、砕かれて終わる!炎属性はそもそもこの空間じゃ威力が減衰するし、そもそもそこまでの魔力が残ってない...!)
レアル(そうだ!滝ごと登録であいつに送り付ければ...!いや、でも水属性の魔法を使うってことは吸収される可能性もある!できるのは....!)
ライスケーク「テコンドーの滝!!」
レアルの真上から、再び滝が降り注ぐ。
レアル「一か八か!冷凍!」
滝が一部だけ凍る。しかし、当然ながら物理法則よろしく上から落ちてくる。
レアル「そのまま重ね掛けで!登録!」
レアルの真上、そしてライスケークの真上に水色の氷の結晶のような魔法陣が生成される。
ライスケーク「ほう...だがテコンドーに物理攻撃は通用しない!」
ライスケークはテコンドーパンチで氷を叩き壊す。
しかし、そこから水がこぼれ始める。
ライスケーク「何!?テコンドーは魔法攻撃に弱い!!」
ライスケークはそのまま滝に押しつぶされる。
レアル「あ...炎以外の魔法攻撃が弱点だったのか...」
霧と滝がうっすらと消え始める。
フィスが奥から歩いてくる。
フィス「なんとかってとこだね。」
レアル「結構苦戦しました...水属性の強さが尋常じゃなかったですよ。」
ライスケークが立ち上がる。
レアル「まだやろうっての...!?」
ライスケーク「いや、今回は完全に俺の負けだ。あんた、名前は?」
レアル「レアル・スプリングだけど...」
ライスケーク「そうか...見習いにしてこの強さ...完全な魔導士としてまた会える日が来るのを、楽しみにさせてもらおう...!」
ライスケークは歩き出した。
レアル「なんだったんだ、あの人は....」
フィス「こっちが聞きたいよ。」
レアル「でも、結局あの人別に何もしてないですしね...」
師範が駆け寄ってくる。
師範「レアル殿!よくぞご無事でござった!」
レアル「結局あの人ってなんだったんですか?」
師範「さあ、某にもそれがさっぱりわからんのでござる。」
レアル「ますます謎が謎を呼ぶ...」
フィス「とりあえず、報告書だけ作るから、レアルは一旦僕の家にでも言って休んでてくれ。」
レアル「分かりました...登録....」
しかし、魔法陣は現れなかった。
フィス「あちゃー、完全に魔力を使い果たした感じか。」
レアル「苦手な氷魔法とか慣れない重ね掛けとかを連発しすぎたので、結構ばてましたかね...」
フィス「まあ、帰ってゆっくり休んでるといい。登録」
銀色の魔法陣が現れる。
レアル「お疲れさまでしたー...」
レアルはその中に入っていった。