第5話 魔法使いの集落へ①
特別講師...もとい魔導士フィスとの戦いの翌日、レアルは早朝ごろから白樺の門に眠たげな顔を浮かべながらもたれ掛かっていた。空はまだ暗く、とてもではないが一般人が出歩くような時間ではない。 眼前から芝生を踏み分けるような音がする。
フィス「やあ、おはよう。」
目の前から、昨日とは打って変わってそこら辺の農家みたいな恰好をした金髪の男が現れる。
レアル「あ...おはようございます」
レアルはあくびをしながら答える。
フィス「おはよう、とりあえず先生には許可とったから、こっから僕の拠点まで向かうよ。」
レアル「あ....住み込みなんですか....?」
フィス「それはないかな。手続きとかが面倒くさいし。君も自分の家持ってるだろうし。」
レアル「了解です...」
レアル「というかどうやって行くんですか...?」
フィス「安心して、この世界はよくあるファンタジーな世界だから(適当)」
レアル「へえ...ということは魔法で行くんですか?」
フィス「うん、転移」
フィスがそう唱えると、目の前に銀色の魔法陣が現れる。
フィス「ここを通ったら、僕の拠点のある場所に着くよ。」
レアル「....罠じゃないですよね....?」
レアルが寝ぼけながらもそう尋ねる。
フィス「......早くないかい?気づくの。」
レアル「あ、本当だったんだ.....」
フィス「.....もしかして、カマ掛けただけ?」
レアル「あ....なんとなくです。」
フィス「..........はあ...これまた厄介な弟子だことで....」
フィスが呆れながらぼやく。
フィス「んじゃまあ、ちゃんと拠点の方に向かおうか。」
フィス「登録」
今度こそ、正しく拠点へとつながる銀色の魔法陣が現れた。
フィスが先行してなかへ歩き出す。
レアルが、そのあとを進む。
魔法陣を潜り抜けると、そこは樫の木の生い茂った森だった。
しかし、不思議と虫などの気配を感じず、あたりは静寂に包まれている。
踝ほどの高さの草をかき分けながら、森の奥へと2人は歩き始める。
レアル「なんか変な雰囲気ですね。」
フィス「まあ、ここは魔力の少ない動植物からしたら結構有害な場所だし、
魔法使いでもなきゃなかなか住もうとはしないからね。」
レアル「へえ...というかここ、どこなんですか?」
フィス「さあ?僕も知らないんだよ。」
レアル「え?」
フィス「昔師匠に連れてきてもらったきりで、場所は教えてもらえなかった。
というかここの人たちみんなそんな感じじゃない?」
レアル「ほかにも誰かいるんですか?」
フィス「さっき言ったでしょ?魔法使いでもなきゃ住まないって。」
レアル「てことは、魔法使いの人たちが住んでるんですね。」
フィス「そうそう。まあ一部例外中の例外みたいなやつもいるけど。」
レアル「例外?」
フィス「まあ、その人と会ったらその時話すよ。
と、そろそろ目的地へ着いたようだ。」
フィスがそう言ったころ、森の奥から光が差し込んできていた。
どうやら、広場のような場所があるらしい。
入ってきた光が眩い。まだ時刻的にはそんなに早くもないというのに。
もしかすれば、ここは自分たちの住む場所とはそこそこ時差のある場所なのかもしれない。
いや、あるいは...?
そんな思考を巡らせていると、広場にある集落に目が行く。
石造りの堅牢な家もあれば、木製で森と調和したかのような家もある。
???「フィス、ついに白昼堂々女に手を出したのかよ。」
集落の入り口の横で店番をしながら軽い口調で、赤髪で少し肌の焼けたフィスと同年代ほどの男が話す。
フィス「そういうお前は一生店って名前の自宅を警備してるだけだろ?」
???「毎日旅行してるお前の百倍はましだね。」
フィス「その旅行もいったん中断だけどな。
レアル、紹介しよう。彼が例外その1....もとい魔道具屋のレイスだ。」
レイス「よろしく頼む。あ、あとフィスのことあんま信用しない方がいいぞ?
あいつ部屋の片付けも碌にできないからな?」
レアル「え...?師匠、それほんとうですk....」
フィスが食い気味に割り込む。
フィス「あ、彼の発言はほぼ100%戯言だから、気にしないように。」
レアル「は、はい...」
レイス「は?そういうおまえだtt...」
フィス「強制無言」
レイス「んん~!むごごごごご!」
フィス「これが、強制無言で、対象をしばらく口留めできる。
実戦でも地味ーに役に立ったりしなかったりするから、覚えといたほうがいいよ。」
レイス「はあ...はあ...なーにが実践で役に立つだよ。今時魔法は無詠唱ばっかだろうが。」
フィスは完全に無視しながら続ける。
フィス「さて、そういえば君は黒魔術...って今言うのかな。」
レアル「あんまり言いませんね。基本は攻撃・補助魔法で割り切られてます。」
フィス「だよねー。やっぱりジェネレーションギャップを感じる。」
レイス「お前がただただ古いんだよ。」
フィス「もう一回黙るかい?」
レイス「はいはい、さっさと続けろよ。」
フィス「んでまあ、話を戻して、レアルは攻撃魔力・補助魔力のどちらが高いんだい?
まあ、昨日のあれ見る感じ、攻撃魔力なんだろうけど。」
レアル「そうですね、私補助魔法割と嫌いですし。」
レイス「こりゃまたなかなか変わり玉だな。今の学生なんて補助の方が大事って言われてるだ ろうに。」
レアル「いやー、せっかくの魔法だってのに、いかんせん補助って地味じゃないですか。
結局のところ、反射や回復だけで相手は倒せないし。」
フィス「それに関しては完全に同意だよ。
まあ、一応念のために....」
フィスがレイスの方を見る。
レイス「25%くらいは負けてやるよ。ほれ。」
レイスが、フィスに向かって2本の杖のようなものを投げつける。
フィスは両手で一本ずつ回収する。
一つは黒い黒曜の木で作られており、もう一本は、白木で作られている。
フィス「これを握ってくれ。それぞれの魔力に反応して、それに応じた具合に輝くんだ。」
レアル「はあ....分かりました。」
レアルが杖を握る。すると、黒い杖は激しく光り輝く。その光の影響で、もう一本の杖の光り具合がよく見えない。
フィス「まあ、圧倒的に攻撃魔力が強いことは分かったよ。んで、多分だけど補助も0ではな いだろうね。多分だけど。」
フィスがそう言うと、レイスが返す。
レイス「そんな適当でいいのかよ。」
フィス「まあ、今はいいんじゃないかな?
さて、レアル。あいつのせいで結構時間を食っちゃったけど。
とりあえず僕の拠点に招待しよう。」
レイス「ゴミ屋敷じゃないといいな。」
フィスとレアルは集落の中を闊歩し始めた。