第4話 特別講師との激突②
短いけど序章はこれで終わりです。
いやー、思いのほか時間がかかった。
「補助魔法の特別講師」というのは伊達じゃないらしい。
鎧兵造兵は、素人はおろか、
それなりに腕の立つ魔導士でもあまり使用しない呪文だ。
それを他の呪文と併用しているということは、彼の中にそれだけの魔力があるということだ。
...レアルは笑っていた。しかしそれは、恐怖によるものなどではない。
自身の持て余す魔力をぶつけられるような相手と、ようやく出会えたのだ。
フィス「やっぱり君は、この学園の枠には収まりきっていないようだ。」
フィスもまた、それなりの魔法を発動したにもかかわらず、悠々と笑っていた。
レアル「今度は、私から行かせてもらいますね!」
レアルが元気よく言う。そして、
レアル「地殻砲撃!」
彼女の右隣の地面から、静かに直径3m程の岩石球が出現し、勢いよくフィスに向かって転がり始める。
フィス「甘いね。それじゃあさっきの子と変わらないよ!移動奪取!」
やはりともいうべきか、その呪文がフィスの口から発せられた途端、巨大な岩石球は、動きをぴたりと止めた。
しかし、そこから一呼吸おいて、岩が再びフィスの方へと転がり始める。
フィス「!?...まさか呪文でもう一度岩を押したのか?」
巨大な岩に隠れているせいで、その発動者であるレアルの姿は見えない。
フィス「なら、その岩ごと崩させてもらうとするよ」
予想外な出来事が起きたというのに、彼はあまりにも落ち着いている。
フィス「光鏡壁!」
巨大なアクリル板のようなものが、岩石球を砕き、あたり一面に砂埃が舞い散る。
端から見ていた魔法学校の講師とスタッドには何が起こったのかの理解が追い付かない。
フィス「風切」
彼の落ち着いた口調から数コンマ遅れて、砂埃を切り裂くようにして風の刃が宙を舞った。そして、砂埃が晴れると、そこには2人の姿...いや、フィスの姿しかない。
スタッド「え...?レアルはどこに...」
フィス「...透明化か?」
フィスはあたりを索敵するが、先ほどのような透明化の気配はない。
フィス「このあたりにいない..?まさか!」
フィスが上を向くと、そこには金髪をなびかせながら、頭から勢いよく落ちてくるれるの姿があった。
フィス「魔力切れを起こして、物理攻撃にでたか!....だが、移動奪取
の前には無力だ!」
レアルの落下する勢いがなくなる。そして、地面にたたきつけられる。
フィス「なかなか恐ろしいことを....まさか岩でこっちの視界を奪ってから飛び上がるとは...」
フィスがレアルに目を向けると、それはフェードアウトし始めた。
フィス「...ん?」
背後から巨大な火炎球が飛んでくる。
フィス「超過冷却!」
火炎球が、巨大な黒曜石の塊となってその場に落ちる、そして数秒かけて、それはフェードアウトしていく。」
その奥には、その場にへたりこんだレアルの姿があった。
レアル「負けた...」
彼女はその発言と裏腹に笑顔だ。
フィス「...いや、僕の負けだな、これは....」
フィス「補助魔法しか使う気がなかったのに、まさか攻撃魔法を発動させられるとは...」
フィスは依然悠々と立っているが、どこか悔し気な表情が見て取れる。
レアル「あの...」
フィス「どうしたんだい?」
レアル「あなたって、攻撃魔法も使えるんですか?」
この世界において、攻撃魔法・補助魔法の両方を極める者は少ない。
フィス「まあ...仮にもそれで食っているからね。」
レアル「...弟子にしていただけません?」
フィス「....あいにくだけど、弟子は取っていないんだ。」
レアル「そこを是非!」
フィス「君は強さ的には申し分ないけどさ...多分後悔するよ?色んな意味で。」
レアル「多分大丈夫です!」
フィス「というか、そこの講師の人と親友は大丈夫なのかい?」
レアル「あ」
レアルとフィスが2人のいた方を見る。そこには、尻餅をつき、おびえている講師と、ベンチに寝転がりながらも、笑顔のスタッドがいた。
スタッド「頑張ってきたらいいじゃん。そもそもあんたそこらへんの先生の数倍強かったし。」
講師「あ...あんな化け物じみた強さなら、ここは不釣り合いなのかもしれないな...」
レアル「...大丈夫っぽいです。」
フィス「分かった。とりあえずまた明日にでも案内するよ。今日はさっさと帰って、ゆっくりと休んでくれ。職員室にもいかずに済みそうだしね。」
レアル「そう...させて...もらい...」
レアルはその場に倒れた。
フィス「まあ...ここまでやって倒れなかったら、本当の化け物だしね」
フィス「とりあえずこの子はどうしようか...」
スタッド「あ、私が家まで運びます。」
フィス「じゃあ、頼むよ。」
フィス「あ、あと、この子に伝えておいてもらっていいかな。」
スタッド「はい?」
フィス「この学校の校門で待ってるって。よく考えたら場所伝えてなかったしね。」
スタッド「分かりました。」
フィス「んじゃあ、僕は帰るとするよ。さすがに結構疲れたからね。」
そう言い残して、彼は門に向かって歩き始めた。
門を抜け、校庭からは姿が見えなくなった程のところで
フィス「意外と面白い奴が残ってるもんだな。
あ.....明日までに部屋片づけておかないと」