もう一人の転生者
人攫いがいるなんてここの治安はどうなっているんだ?
ともかく、姫様の手を取って街へ向う。
「逃さんぞ!」
相手は人だ。やたらに殺せない分、難しい。
「走れるますか?」
「もちろん!」
高そうなハイヒールを脱いで、走る構えだ。
「お姫様にしておくには勿体無い人材だ」と呟く。
「行きますよ、ウィンド!」
風を起こして奴らをふっとばす。これで道ができた。
そこめがけて二人で走る。
その後ろに人攫いがついてくる。
「しつこいな!ウィンド!」
今度はウィンドに二人で乗る。前に人もいないし、轢き殺す事は無いだろう。
「は、速いわ、こんな事ができるなんて。」
「さぁ、捕まっててくださいよ。」
俺達は街の中心めがけてスピードを上げる。
騒ぎを起こしたので、兵士たちが気づいてこっちに来る。その先頭は先程の老兵士だ。
「姫様!」
「人攫いだ!なんとかしてくれ!」
と、ウィンドから飛び降りて姫様をキャッチする。
「皇帝の軍隊!なぜこんなところに!」
「貴様ら全員逮捕じゃ!」
兵士たちは人攫いを捕まえる。
何人か取り逃がしたようだが、大部分は逮捕に成功したらしい。
「全く、姫様はご自分の身分の重大さを理解しておられない。これでは困ります。」
「むう。」
「リョウ様。ご協力ありがとうございました。さぁ、姫様、戻りますよ。」
「はい……。」
少々可哀想ではあるが、仕方がない。
「ではまた、食事会の時に。失礼します。」
と、老兵士は最後まで丁寧に挨拶して去った。
俺も宿に戻るか。
「ねぇ、どこ行ってたの?」
と、スイに詰められる。
「人助けしてた。」
「ふーん。そうなの?」
と、疑い深い。なんで怒ってるんだ?
「スイが一番心配してたんだ。怒るのも無理はない。」
ジンは他人事のように言う。
「悪かったよ、勝手にいなくなって。今後は気をつけるからさ。」
「わかった。約束ね?」
と、小指を出してくる。
「おう。約束する。」
指切りをする。
一体どうしてこんなに彼女が怒っているのか分からないが、これで気が済むなら安いもんだ。
「で、そろそろ食事会が始まるが、行くか?」
たしかに、もう昼だ。
「行こう。」
俺達は正装に着替えてから会場へ向かう。
きれいな城だ。この城を中心に碁盤の目のように街が作られている。
「おや、あなたは。」
さっきの老兵士だ。
「いやはや、お待ちしておりました。そういえば、自己紹介がまだでしたな。私はバトゥと申します。」
と、お辞儀してくる。
「さぁ、中へどうぞ。」
城の中は外よりも綺麗だ。
机が並べられ、その頂点には二人の人がいた。
「あの方が皇帝です。」
「では、早速挨拶に行ってきます。」
バトゥに別れを告げて皇帝の元へ向かう。
「そうかしこまることはないよ、遼くん。」
「え?」
皇帝が帽子をとる。
「私だよ。覚えているかい?」
皇帝は見知った顔だった。忘れる訳がない。
「おじさん!」
「良かった。記憶が飛んでないようだね。」
皇帝は、俺の病室の隣の部屋のおじさんだった。
彼は俺が死ぬ1ヶ月前に亡くなった。
まさかこんなところで再会できるとは。
仲間を無視して話しかける。
「どうしてここに?」
「おじさんもね。転生したんだよ。しかも、皇帝としてね。君も何か転生したときに特典を貰わなかったかい?」
「え?貰ってないですよ。」
「じゃあ女神様が忘れてしまったのかもしれんなぁ。」
と、高笑いする。
「しかし、あの頃よりも健康な体だな。」
「ええ、あの頃よりもずっといい体です。」
二人で話すのは久しぶりだ。
病室で暇してた俺達はよく一緒に喋っていたんだ。
「ねぇ、私達を置いて話をすすめないでよ。」
「あぁ、すまんすまん。」
「すまんなぁ。おじさんは遼くんと知り合いなのだよ。それでつい、ね。」
「ええっ!?」
二人が驚く。まぁ、俺も驚いたんだから当然だ。
「おや、そこの君は……。」
「以前の食事会以来ですね、陛下。」
「ほう、遼くんとパーティーを組んでいるとはね。」
「ちょっと!私だけ置き去りじゃない!」
「君とははじめましてかな?よろしく。」
「よ、よろしくお願いします。皇帝陛下。」
「遼くん。ある程度したら私のところに来てくれ。久々に語り合おう。」
「はい。」
俺達はパーティーの席に戻る。
おじさんは優しい顔から、皇帝の威厳のある顔になった。
バトゥがその横に立ち、その後ろに姫様がいた。
「本日は食事会へ来ていただき感謝する。帝国中の最高の食事を集めた。存分に食べていってくれ!」
と、おじさん、もとい皇帝が挨拶をする。
テーブルにはたくさんの料理が並べられている。
その多くは中華料理らしい。
俺はそれらに舌鼓をうった。
みんな程よくなってきた段階で、おじさんのところへ行く。
「よく来てくれた。君の居場所を探すのに随分と苦労したよ。」
「ありがとうございます。しかし、なぜ俺がこの世界に居ると?」
「それは今は言えない。約束があるんだ。しかし、これが君にとっては不利益を被るものではない事は保証しよう。」
と、にこやかに話してくる。
言えない理由があるなら、無理に聞く事もないか。
「君、冒険者はいつまで続ける気かな?」
「まだやりたいことがわからないんです。だから、やりたい事が見つかるまでは冒険者を続けようと思います。」
「ふむ。せっかく手に入れた命、無駄にしないようによく考えなさい。」
たしかに、冒険者は命の危険がある。ならば、他の仕事をしたほうが安全だろう。でも……。
「でも、俺は意外と冒険者が気に入っているんです。」
「そうか。ならおじさんは止めないさ。頑張れよ。」
「ありがとうございます。」
と、話していると、横から姫様がやってくる。
「おや、テイ。どうした?」
「そちらのリョウ様に今朝のお礼をしなくてはと思いまして。」
「おや、そうだったのか。私からも感謝するよ。」
「いえいえ、当然の事です。」
「リョウ様。二人で話しませんか?」
と、誘ってくる。
「ええ。構いませんよ。」
「なら、後ろのバルコニーを使いたまえ。」
「あ、ちょっと待っててください。仲間に断ってくるので……。」
姫様がバルコニーに向かう。
「遼くん。悪いけど娘の話に付き合ってやってくれ。彼女も可哀想な子なんだ。王族でなければ冒険者になってるかもしれないような子なんだよ。」
「分かりました。」
「と言うことで話してくる。」
「いいじゃん。行ってきなよ。」
と、ジンが言ってくれる。
「そうね。王族だものね?」
スイも同意してくれる。ちょっと不機嫌みたいだが。
二人と別れてバルコニーへ向う。
「はぁ。リョウのバカ。」
「なんで拗ねてるんだい?」
「だって、帝都に来てからずっとリョウは王族と仲良くし過ぎよ。私達のことほったらかしじゃない。しかも、私に構ってくれないし……。」
「ふーん。それで妬いてるんだ?」
「うるさい。いいもん。帰ったら元に戻れるもん。」
「あいつが帰るって言えばな。なんか、あのまま王族になりそうな雰囲気あるぜ。」
スイが目を真っ赤にする。
「そ、そんな事許さない!」
「冗談だよ。まぁ、アレだったら今夜ちゃんと話しな。」
「そうね……。そうするわ。」
はぁ、と溜め息をつく。
付き合い自体は私とのほうが長いのに。
考えてみれば、私はリョウの宿に泊まってたから割と長く一緒にいたんだよね。それなのにこんなのって。
また、私捨てられるのかな……。
「おい。何考えてるか分からんでもないが、考えすぎだぞ。」
「ふん。あんたに何が分かるの?」
「俺も昔はパーティーメンバーと一人の女を取り合ったんだ。だが俺は負けた。でもその後もパーティーを続けられていた。だからよ、あいつがどんな選択をしようとも、俺達はパーティーのままだろうさ。」
「それ、私の疑問の答えになってないわ。」
「そうかもな。だが、最悪の事態にはならない。だからやりたい事をやったほうがいいぜ?」
「そうね……。独り身のジンとかいうあだ名のくせに、意外といいこと言うのね。」
「そのあだ名を出すんじゃねぇよ。」
二人はこの微妙な空気感を晴らすために料理を頬張る。
そんな事は知らないリョウであった。




