いざ帝都へ
まだ二人が起きる前に、ギルドへ向う。
まだ早朝だからか、人はほとんどいない。
「悪いんだけど、ジョブチェンジできる?」
「Hey!もちろんよ。何になるの?」
「戦士だ。」
「あら、戦士?前衛職になるのね?」
「パーティーの戦力的にね。よろしく。」
こうして俺は戦士にジョブチェンジした。
何故朝早くジョブチェンジしたのかというと、帝都へ行くということで、荷物を片付ける必要があったからだ。
この世界は便利なもので、何でも収納できる魔法のかかった水晶があって、これに触れさせると何でもしまえるのだ。
これ、人が入ったらどうするんだろうとか、安全性はどうなんだとか疑問は尽きないが、便利なので、使わない手はない。
「準備できた?」
「おう。」
俺は水晶をカバンに詰め込む。
これで、かなり身軽になった。
宿はしばらく使わないが、前の収入でもう1年分貸し切ってるので、いらないのはここに残しておく。
「じゃあ、行こうか。」
「っても、どうやって行くんだ?」
「帝都へは馬で行くのよ。」
と、言いながら馬を数十頭借りる。
「こんなに必要か?」
「ありまえでしょ?途中で疲れた馬は返すのよ。これを繰り返すと、すぐに帝都に着くわ。」
と、馬に乗る。手綱で数頭を繋いで走り出す。
こりゃ、モンゴル軍みたいだな。
たしかにこの移動の速度はとんでもなく早く、帝都までは1週間程度で辿り浮く計算だった。
草原を馬で走るというのは初めてだが、意外と楽しいものだ。乗馬そのものが楽しいのはもちろんだが、この馬たちは森や山などの障害物は魔法で飛び越えるのだ。これのおかげでストレスが無い。
あっという間に初日の停泊予定の駅についた。
駅と言っても、電車があるわけではない。旅人向けの宿屋を駅と言って、国の端から帝都までの間に数百ヶ所も置かれている。これを駅伝制と呼び、隣国でも採用されて、とんでもない長距離の移動も可能にした。
宿屋では広々とした部屋に案内される。いつもよりも遥かに広い部屋だ。これを冒険者はただ同然で使えるのでありがたい。
とは言っても、3人とも同じ部屋なので、広い部屋も狭く感じる。まぁ、それはいつもと同じか。
俺は濡れタオルを用意して身体を拭いていた。風呂には入れないかもしれないが、キレイにしておきたい。
二人は不思議そうな目で見てくるが、気にせず全身を洗い終える。ついでに、着ていた服も洗剤を借りて洗う。そして、ウィンドを使って乾かす。
「魔法を変な使い方するね?」
「そうか?割と普通の使い方だと思ったんだけどな。せっかくの魔法なんだ。便利に使おうって思うのが普通なのかと。」
「うーん。魔法って戦いの手段だとしか考えてなかったな。」
そんなものか。
まぁ、いずれみんな魔法をこうやって使うようになるだろう。
次の日は山を超える。普通なら馬では無理だが、この世界では違う。軽々と空を駆け上がり、さっと山を超える。
そして、山の下の宿屋を取る。
3日目は川を越える。船もあるが、この馬たちはこの川すら飛び越える。
4日目、また平原に出る。ここらになると、地方都市があるので、都会に近づいている感じがする。
5日目、2つめの川を越える。この2つの川がこの国の生活の基盤になっていて、川の近くにはたくさんの都市があるらしい。やはり文明は水の近くで発生するようだ。
6日目の深夜、帝都へたどり着く。そろそろ日付が変わるので実質7日目である。
「さてと、招待状に宿も指定されてるから、そこに行くか。」
「へぇ。ちゃんとしてるのね。宿はこっちで探すのかと思ってたわ。」
「これは、皇帝のポケットマネーから出てて、公的に宿屋を支援できるんだ。これで、宿屋の業界の支持を得ている。宿屋の支持がないと駅伝制は維持できないからね。」
「詳しいな。」
「前のパーティーでね。1回だけ招待された事があるんだ。」
「そうか。じゃあ皇帝にもあった事が?」
「あぁ。」
皇帝かぁ。どんな人なんだろうか。
そんな事を考えながら宿屋につく。
随分とでかい宿だ。一人一部屋で、この階は俺達しか居ないようだ。
「でっかいな!」
「そうだろう?前もここだった。ここは飯が美味いし、設備もいい。ゆっくりしようぜ。」
その言葉通りのいい部屋だ。ベッドが大きい。
旅の疲れを癒やすため、さっとシャワーを浴びて横になる。
昼までは寝ていても良いだろう。食事会は明日かららしいし。
俺は昼まで惰眠をむさぼる。
「ふぁーぁ。」
昼まで寝るつもりが、今は朝らしい。
外が騒がしい。
「なんだよ。朝っぱらから。」
窓から外を見てみると、可愛らしいドレスを着た少女、いや少女というよりも、女性と言えるくらいの年齢だろうか?そんな年齢の女性が走っている。
その後ろに鎧を着込んだ兵士が追いかけている。
このまま進めば俺達の宿の前を通りそうだ。
適当に服を着て、宿の前に仁王立ちする。
「そこの方!姫様を止めて下され!」
と、兵士が話しかけてくる。
「よし。」
姫様と呼ばれていた女性の進路に立ちふさがる。
「どいてください!」
それを聞かないで捕まえる。
戦士にジョブチェンジした俺の力は遥かに向上している。人一人捕まえることなんて容易い事だ。
兵士たちが追いついた。
「ありがとうございました。」
と、一番先頭で走っていた年配の兵士が話しかけてくる。
俺は彼女を彼らに引き渡す。
「まったく。目を離すとすぐこれです。失礼いたしました。あなたは?」
「俺は冒険者のリョウだ。」
「あなたがオークロードを倒したリョウ様ですか!?」
「まぁ、一人で倒した訳ではないけど……。」
「これは失礼いたしました。」
「いや、困ったら助け合うのが人間さ。」
と、話していると、捕まえていた兵士が振りほどかれ姫様は人混みに紛れていってしまった。
「あぁ、しまった!」
「探しましょう。」
「すみません。捕まえたらここに連れてきてください。」
と、成り行きだが俺は姫様探しを手伝う事になった。
兵士たちは四方八方に散って探し始める。
俺も探しに行こう。
まずは高台に上がらないとな。
「ウィンド!」
屋根の上に登る。
「いた!」
街の外れにある森に、ポツンと座っている。
あんな素敵なドレス、一度見たら嫌でも忘れられそうにない。うまいこと隠れているつもりらしいが、上から丸見えだ。
急いでそこに向う。
「捕まえた。」
「ええっ!?」
俺は姫様の肩を捉える。これで逃さない。
「あ、あなたはさっき私を捕まえた……。」
「俺は冒険者のリョウです。さっき兵士の方々に頼まれて連れ戻しに来ました。」
「冒険者、それなら逃げ切れないのは当然ですね……。」
えらくおとなしいな。
「なぜ逃げ出したんですか?」
「この帝都に居るのが飽きたからです。こんな丁寧な言葉遣いも本当はしたくないのです。世界は広いんです。我が国以外にもいろいろな国があって、まだ知らない世界がある!なのに私はこの帝都しか知らない。私の世界は帝都だけなのです。」
「その気持ち、よく分かります。」
「え?」
「俺は昔、病気で数年間病室で過ごしていました。病室が、病院が俺の世界の全てでした。しかし、今は違う。今の俺の体ならどこまでも行ける。それがたまらなく楽しいのです。」
「あなたが羨ましい。私が持っていない物を持っていらっしゃる。」
「そうでしょうか?案外、あなたも俺と同じような物を持っているのかもしれません。身分がそれを許さないだけでね。さぁ、行きましょう。」
と、前を見る。
「おっと……。これはマズイな。」
囲まれた。魔物ではないが、これはなんだ?
「ヒャッハー!今日の獲物は大きいぞ!」
人攫いか!




