戦いが終わって
最深部は崩壊しつつあり、激戦が伺えた。
しかし、ドラゴンも騎士も居ない。
「どういう事だ?」
「これ、ドラゴンは多分倒されてるわ。ほら。」
と、スイが水晶を見せてくる。
「逃げたとはいえ、戦闘に入ってたから、経験値が入っているの。だから、ドラゴンは倒された。」
「じゃあ、あの騎士はドラゴンを一人で倒せるほど強いって事か……?」
「そうだな。あの騎士の力は見た目からも凄いことが分かる。あれが本物の騎士か。セトとは大違いだ。」
と、ジンも呟く。
「何はともあれ、クエストクリアだな。」
と、他のパーティーの人たちに声をかけられる。
「今日は祝杯をあげよう。ギルド集合だ!」
と、みんな帰り始める。
しかし、俺は何か騎士の手がかりを探していた。
「何を探しているの?」
「いや、あの騎士、なぜか知り合いのような気がするんだ。だから何か騎士につながる遺留品が無いかなって。」
と、あたりを探す。
しかし、何も見つからない。
「残念だけど、俺達も引き返そう。」
「そうだな。」
出口へ向かう。
「いてっ!」
何かに足を引っ掛けた。
「なんだこれ?」
くすんでいるが、水晶のようだ。
「それ、ワープ水晶じゃない!」
「なにそれ?」
「ワープ水晶は近くの街に帰れる優れものなのよ。ワープ魔法と違って、場所の指定ができないけど、何回も使えて便利なの。」
「へぇ。」
こりゃ便利なもの拾った。騎士が落としたのだろうか?
「早速使ってみましょ?」
「おう。…………どう使うんだこれ?」
「魔力を込めるの!」
と、スイが水晶に魔力を込める。
「行くよ、ワープ。」
俺達は光の粒になり、洞窟から抜ける。
気がつくと、ランガーフューリングの入り口に立っていた。
「では、夏の大攻勢クエストクリア報酬を、皆さんお受け取りください。」
と、各々が報酬を受け取る。
みんなかなりもらっているらしい。かく言う俺も、随分と懐が暖かくなった。
「リョウ様のパーティーは、最も貢献度が高かったので、帝都に招待されております。」
「帝都に招待?」
「ええ。功績のある冒険者は帝都での食事会に招かれるのです。おめでとうございます。」
と、招待状を受け取る。
帝都かぁ……。
「さぁ!打ち上げだ!」
と、もうみんな食べ始めている。
俺は招待状をカバンに閉まって、その群れに入っていった。
宴会も程々で解散し、俺達は宿屋(なぜか二人とも俺がとってる宿屋に居座っている)に帰ってきた。
俺は、招待状を手に取る。
帝都に集まる冒険者はきっとすごい冒険者ばかりだ。なら、あの騎士もいるかも知れない。
なぜだか、あの騎士の事が頭から離れない。
一体何者なんだろう?
「おーい。どうしたの?」
「あ、ごめん。考え事してた。」
「それ、招待状でしょ?やっぱり、王都に行く?」
「帝都か、いいねぇ。」
「なぁ、帝都ってどんな所なんだ?」
「帝都はね、この国の首都なの。ランガーフューリングなんて比じゃないほどの大都会でね、皇帝が住んでるのよ。」
と、目をキラキラさせながら話す。
「そりゃいいな。ぜひ行こうじゃないか。」
「賛成!じゃあ三人で行こうね。」
「こりゃ、楽しくなりそうだ。」
俺達は帝都へ行く事にした。
せっかく招かれたのに、行かない選択肢は無い。
それに、あの騎士も居たら、ぜひ話をしたい。
楽しみになってきたなぁ。
ワクワクはするが、体の疲労は隠しようがない。
俺は稼いだお金で少々湯船を大きくした風呂の支度をしていた。
これなら、足を伸ばせる。
前よりも火力は必要だが、ファイアがある今なら、全く問題無い。
「ファイア!」と、薪に火をつける。
息を吹きながら、お湯を沸かす。
周りの囲いを少しどかす。これで夜景が見える。
山の中の不便な宿屋だが、景色はいい。人も居ない。
「おーい、風呂できたぞ。」
真っ先に反応するのはスイだ。
「あ、私入りたい!」
「じゃあお先にどうぞ。」
「えーっ!洗ってくれないの?」
「悪いが今日は一人で入れ。ちょっと今日は一人でゆっくりしたい気分なんだ。」
「ぶー。分かったよ。」
と、渋々風呂へ向う。
部屋は俺とジンだけになった。
「そういえば、今回のレイドクエストでどれくらいレベル上がった?」
あ、そういえばかなり上がったはずだ。水晶を確認する。
「基礎レベル10に、魔法使いレベルも10だ。」
「なら、転職したほうがいいよ。」
「何がいいかな?」
「好みだな。僧侶、魔法使いがレベル10だから、賢者になるとか、前衛職もやって、なれる職業を増やすとか。」
「俺はどのジョブでもステータス下がらないらしいから、なんでもできるように前衛職やろうかな。」
「そりゃいい。パーティーの総合的な戦闘力も上がるだろうしね。」
「じゃあ、帝都行く前にジョブチェンジしないとなぁ。」
俺は水晶を仕舞う。
「おまたせ!お風呂どうぞ。」
と、スイが帰ってくる。帰ってくるのはいいが……。
「おい、下着姿で出てくるな。寝間着はどうした?」
「持ってくの忘れちゃったの。」
「はぁ。ジン、先に入っていいぞ。」
「分かった。」
ジンが風呂へ向う。
「ほら、着て。」
「はーい。ありがとう。」
スイがさっと寝間着を着る。
「髪の毛乾かそう。」
「うん、お願い。」
と、俺に背を向けて座る。この子はいつまで俺にやらせる気なんだろうか。
ヘアオイルをなじませながら乾燥させる。
このドライヤーはファイアをすごい弱く撃つと、熱風になるという物だ。日本にある物より不便だが、魔法でなんとかすればいいというゴリ押しは嫌いではない。
髪の毛を櫛で梳かす。割と時間がかかった。
「ほら、できたよ。」
いい匂いだ。このヘアオイルがいい匂いということもあるだろうが、彼女からも俺が安心する匂いがする。
もっとも、鼻は耳ほど良くはないので、匂いから何か特殊な事ができるわけでは無いが。
「ありがとう!」
「おう。」
ひと仕事終えて、俺はジンと交替して風呂に入る。
やっと、ゆっくりできる。
腰まで湯船に浸かり、息を吐く。
上半身に夜の風が当たって涼しい。
今日は色々あった。
死にかけて、謎の騎士に助けられて、そして、帝都へ行く事に。
こうも出来事がたくさん来ると退屈しなくていい。
前世の俺は退屈だった。
あの頃の俺はずっと病室にいて。
そして、そして、えーっと……。
あれ、おかしいな。
家族の記憶が一切無い。
前から、ここに来る前の記憶がなんとなく思い出せない時があったが、今になって、全く思い出せなくなった。
妙だな。前までは覚えていたはずだ。思い出そうとしなかっただけで。
だが、今は思い出そうとしても思い出せないらしい。
基本的な記憶は覚えているが、家族の記憶だけが欠落している。
父親と母親はかろうじて思い出せるも、他に兄弟がいたのかとか、全く覚えていない。
覚えていないということは、兄弟なんて居ない可能性もあるが、何故か違和感がある。
「まぁいいか……。もう俺は前世には戻れないし。」
良くはないが、考えても分からない事は諦める他ない。
風呂はちょうどいい温度になっていて、体を温めてくれる。
俺は記憶が無いことを考えるのはやめて、風呂の心地よさを感じていた。




