夏の大攻勢
「ふぃーっ。疲れたな。」
「ほんと、でもパーティーはやっぱいいな。」
「ほら、早く!ご飯食べに行こうよ!もうお腹ペコペコだよ。」
俺達はまた適当なクエストをこなして、昼飯を食べにギルドへの帰路についていた。
なんというか、異世界にもだいぶ慣れた。
クエスト行って、ご飯食べて、クエスト行って、帰って寝る。前世(転生前?)ではあり得ない事だった。
しかし、人間とは慣れるものでこの環境を日常と認識できるくらいにはなっていた。
「にしても、街は平和だな。」
と、呟く。
「ははっ。それもしばらくしたらそうじゃなくなるよ。そろそろ夏の大攻勢の頃だからね。」
「そうね。そうなれば忙しくもなるけど、稼ぎ時ね。」
「夏の大攻勢?なんだそれ。」
「しらないの?夏の大攻勢は、夏に街へ魔物が攻めてくる事を言うのよ。なんでかはしらないけど。
流石に町中にまでは結界があるから入ってこれないけど、放っておけないから、冒険者は稼ぎ時なのよ。」
要するに、レイドクエストって事か。
これなら忙しくて疲れることはあっても、退屈することはなさそうだ。
それから3日ほど経って、いつものように酒場で食事をしていると、鐘がカンカン鳴り出した。
「なんだ?」
「これは大攻勢の開始の合図なのよ。そろそろ案内が来るわ。」
受付から、役員が何人も出てくる。
彼らは大声で話し始める。
「今年も始まりました、夏の大攻勢!第一波はオークの群れです!討伐をお願いします。」
ギルド内は一気に盛り上がる。そして、装備を整えみんな町の外へ向けて歩き始める。町人たちは道を囲って歓喜の声で送る。出征兵士の気分だ。これから死ぬかもしれない戦場に行くという点では同じかもしれない。
町の外にはオークが大挙して押し寄せてくる。
「MP使い切るなよ。」
「いつも言うよねそれ。このパーティーでは抑えてる方なんだけどな。」
「一応だ。」
「来るぞ!」
前衛職が突撃を始める。
それにアシストマジシャンが支援魔法をかける。
魔法職はタイミングを見て魔法を撃つ。
正直、乱戦状態だ。迂闊に魔法を撃てば味方に当たる。
「ファイア!ファイア!ほら、魔法撃ってよ。」
スイがどんどん魔法を撃つ。注意したそばからこれだ。
「ウィンド!」
俺は空高く飛ぶ。これで、手負いの奴を狙い撃ちできる。
「ファイア!」
炎を三日月型にして投げつける。
横薙ぎに撃つよりも、ダメージを大きくできるが、速射ができない。
高所を取ったことはかなり効いていて、味方のキルパクをしていった。まぁ、この世界は共同撃破は個人撃破と変わらない扱いなので、みんなキルパクされても怒らない。むしろ感謝される。
「よくやった!ひとりぼっちのくせに連携できるんだな。」
おい、それ褒めてないだろ。
ウィンドの効果が切れたので、下に降りる。
「ほら、アクセル。」
とスイがジンに補助魔法を掛けている。
「ありがとう。さぁて。」
槍を持ち直して走り出す。
アクセルの効果は速度上昇だ。ストップとは真逆の呪文だ。そのスピードで刺突するんだ。騎兵が自分で馬並みに早く走って刺突するのと同じだ。オークは一撃で倒れる。
「よし!」
「やるなぁ。なら、俺もジンに魔法をプレゼントしよう。」
と、ウィンドを三日月型に形成する。
「ほら、これに乗りな!」
と、地面すれすれにウィンドを放つ。これにジンが乗っかる。走るよりもずっと早い。しかも範囲ダメージもある優れものだ。
「こりゃいい!二人ともありがとう。」
と、大喜びで敵に突っ込んでいく。
「ねぇ!私にも頂戴?」
「言うと思ってね、ほら。」
と、俺とスイのぶんのウィンドを撃つ。
「やった!行くよ!」
「おう。俺達が一番数多く撃破してやるぞ!」
俺達がいきなり突出したので、他のパーティーはそれに釣られて前進する。これで攻守が交代してしまった。敗北を悟り、徐々にオークたちは引いていく。それを俺達は追撃した。
「逃さないよ!ファイア!」
「俺がウォーターで退路を塞ぐ。そこを攻撃だ!」
ウォーターを壁の様に形成する。
「行け!ウォーター!」
ウォーターは地中をくぐり、敵のど真ん中で壁を形成した。これで半分は逃げられない。
もう半分は洞窟に逃げ込んだらしい。
「ファイア!ファイア!ファイア!あ、MP切れた!」
「なら、そこで休んでな。ウィンド!」
「ふはははっ!俺の刺突を避けられるものか!」
と、俺達は慌てるオークを各個撃破していく。後ろから別パーティーも合流し、第一波の過半数を撃破したところで日付がかわった。一晩中戦っていたらしい。
「流石に疲れたな……。」
「こんだけやれば、明日は攻勢してこないでしょ?」
「いやはや。張り切っちゃったな。なんかキャラ変わってたし。」
俺達はMPも体力も使い果たしてやっとの思いで立っているという有様だった。
「お前らのパーティーすごいな!余り者と侮ってたぜ。」
「今後の攻勢でもよろしくな!」
と、他パーティーに回復をかけてもらって、ギルドへ帰投した。
「エースパーティーが帰ってきたぞ!」
俺達への歓迎はすごかった。
口々に賞賛の声が上がる。ギルドからは特別報酬が出たので、かなり資金的にも潤った。なにより、レベルがかなり上がった。俺は魔法レベル8になった。僧侶は1ヶ月ほどかかったのに、それの4分の1以下でここまで上がるとは驚きだ。
「ほら、食え食え!飲め飲め!」
と、酒場のマスターも無礼講と言わんばかりにたくさん料理と飲み物を出してくれて、みんなで馬鹿騒ぎした。それほど、過去にない大勝利だったらしい。
俺達は朝まで騒いで解散した。
宿屋に帰ってきたのは昼前だった。流れで何故か俺の宿屋にみんなで寝ていた。どうも、疲れてたらしい。
「ふぁぁぁ。朝、いや昼か。」
帰ってきてすぐ寝たので汗臭い。二人をそのままにして、ゆっくりと風呂へ向かう。
眠たい目をこすりながら、風呂を沸かす。
ファイアを覚えたので、手間はかなり減った。
「昼から風呂ってのも悪くねぇな。」
と、風呂に浸かる。
外の風が気持ちいい。外の風が入るのは本来は欠陥かもしれないが、意外な効果がある。
しかし、1ヶ月前は疎まれていた俺が昨日の一戦でここまでになれるとはね。
健康な体があれば、こんな事も出来るんだなぁ。
病室に篭りっきりの前世とは全然違う。
人生は楽しいな。何でもできる。この世界でなら、俺に制約はない。
ドォォォン!
ドアが一気に開け放たれる。
「なんだ!?」
「私も入る!」
スイが湯船めがけて突撃してくる。
「待て!樽が倒れる!」
なんとか彼女を受け止めて、樽を押さえつける。
これを作るのにえらく時間がかかったんだ、壊されてたまるか。
「もう、いきなり部屋から居なくなるからびっくりしたよ。」
「そうかい。それで、風呂に来たのか。」
「だって、君いつもお風呂入るじゃない。それこそ入らない日が無いくらい。」
「昔からの習慣なんだよ。」
「ここらの人はお風呂は3日に1回入る程度なのにね。君って不思議。どこから来たの?」
どこから来た、か。
異世界の日本という国だ、なんて言ってもわかるわけがない。
「島国だ。四方を海に囲まれ、水資源の豊富な素晴らしい国だった。」
「それなのに、ここに来たんだ。」
「事情があったのさ。」
二人で入る用ではないので、浴槽が狭い。しかたなく、俺は出て体を洗う。
「冒険者なのに丁寧に洗うね。」
「体か汚いと病気になるからね。」
「ふーん。」
あらかた洗い終えてお湯で流す。
「ほら、交代。お前も洗え。」
「えー。いいよ、面倒くさい。」
子供か!いや、子供だが、中身はもうちょっと歳を取ってるはずだろう。
「ほら、洗おう。」
「面倒くさいなぁ。洗ってよ。」
「じゃあこっちに来い。」
タオルを手渡して、椅子を譲る。
「はい。座ったよ。」
「動くなよ。」
と、髪の毛を洗う。男女で洗い方に違いがあるのかもしれんが、よく分からんので俺流に洗う。
懐かしいな。昔は逆だった。俺は洗われる側だったんだよな。
でも、何故か前世の記憶がうまく思い出せない。この記憶は家族との記憶だと思うが、いつ頃の記憶だったかな?
「綺麗な髪の毛だな。」
「そう?ありがと。」
「なおさらちゃんと洗ったほうがいい。」
「むー。ならいつも君が洗ってくれればいいのに。」
「勘弁してくれ。風呂のときくらい一人でゆっくりしたいんだよ。」
と、髪の毛を洗い終える。ショートヘアだから、あまり手間がかからないので、ありがたい。
アホみたいに魔法を至近距離で撃つからか、体には疲弊が見えた。
「ヒール。」
「あ、ありがとう。」
「無理すんなよ。これ、ヒールで間に合わないダメージになったら綺麗な肌が台無しだぞ。」
「ふふっ。優しいのね。」
「せっかくきれいなんだから、傷付けたら勿体ねぇからな。」
体を洗うときに、それに気をつけるのも、記憶にある。誰が俺の体を洗ってくれたのかは思い出せないが、それが不快ではなかったような、そんな前世の記憶がある。
なぜ前世の記憶が欠落しているのだろう?
こっちの世界に慣れてきたからだろうか?
よく分からないが、いずれ思い出せるかもしれない。
そういうのが、ゲームではよくある展開だ。
その、壮大な伏線の可能性がある。
なんて、くだらないこと考えてる場合ではないか……。 「はい、終わったよ。」
「ありがとう。」
また風呂に入る。
どこか、このやり取りに懐かしさを感じた俺だった。




