最終話 魔法を愛するすべての人へ
アナタはアイドルと一緒に『世界を救ったこと』がありますか? ……俺はある。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
俺とバグが戦った跡は、まだ地鳴りが鳴り止まない……
『アルティメットフレア』の跡は、大地がえぐれて巨大なクレーターとなり、数百メートル先にある海岸線にまで届き、ここまで海水が流れ込んできている。
『アークパイロ』並みの熱量で周りの岩盤も蒸発し、巨大な白煙が、まるで入道雲のように空に立ち昇る。
「ぶはあぁーー!」
瓦礫の山の中から、ドラゴニックキングが出てきた。
周りを見渡し、まるで『他の惑星』にでも来たかのような光景を見て、叫ぶ。
「なんでオレたちは……生きているんだ?」
離れた場所の瓦礫の山から出てきた、サモンロードが説明する。
「『異世界あいどる・はーと』のメンバー達が、全員で『防御結界』を張ってくれたのと、ギガンティックマスターが、技をうまく集束してくれたし、威力も前方に集中してくれたおかげで、周りの被害は最小限に抑えられたんだと思う」
コズミッククイーンは、埋まっている自分の四天王たちを探している。
「カケル! ヨシキ! リュウセイ、どこ、返事をして⁉」
「ク、クイーン……僕たちは、ここだ……」
返事があった、大丈夫みたいだ。
チビ竜に戻った神魔も、パタパタと飛び回りながら、俺を探してくれている。
「お、おーい、助けてくれー……」
「あ、ギガっちはあそこだ! みんな、掘り出してやってくれギャウ!」
「はい!」
メンバー達に掘り出してもらう俺……
「た、助かった、このまま生き埋めになるかと思った……」
『アルティメットフレア』で、すべての魔力と力を消費してしまった俺は、瓦礫の一つも持ち上げられないほど疲弊してしまっていた。
「あんな凄いやつを倒したってのに、なんとも情けないギャウな……」
「面目ない……」
「まったくだ、なんとも情けない結果になった……」
この声は、まさか……バグ⁉
声のした方を見ると、元の人間の姿をしたバグが、岩盤に横たわっていた……
「そうか、お前、真・バグアルティメットの体が消滅する直前に、転魂術で元の体に戻ったのか」
だが、その元の体も、少しずつ崩壊していっている……
「このまま放っておけば、私は間もなく死ぬだろう……
だが後悔はない、生き死にの戦いには敗れたが、私の目的はこの世界とお前を絶望で満たすこと……それが叶えば、私の望みは成就される」
そう言って、バグは懐から『正義のカード』を取り出す。
ボウッ!
「ギャウ! バグ、お前……」
『正義のカード』が、燃えて消滅してしまった!
「どうだ、お前が一番欲しかったもの、『正義のカード』は消滅した。
最初から、お前たちには絶望しかなかったのだ……
結局、最後は絶望で終わる……」
「そ、そんな……」
神魔やメンバー達は、ガックリとうな垂れる……
その時、十三人衆で唯一生き残っていたメルフィスが、俺たちの前に姿を現す。
「メルフィス……」
「メルフィス、お前まだ生きていたギャウか……」
警戒し、戦闘態勢をとる神魔……
メルフィスは、そのまま俺の目の前まで歩いてきて、その場で跪く。
「ギガンティックマスター、ようやく、アナタのご恩に報いることができます」
「ギャウ⁉」
その場にいる全員が、メルフィスの言葉にビックリ!
メルフィスは、懐から一枚のカードを取り出す……
「バカな⁉ それは今消滅したばかりの、『正義のカード』……⁉」
あのバグが驚愕している。
「申し訳ありません、バグ様……
バグ技の『複製』で、作らせてもらいました」
「そんなバカな、伝説の魔王のタロットカードの一枚だぞ、そんな簡単に……」
「この世界に存在するものは、全て数字の羅列でしかない。どんなに凄い伝説級のアイテムであろうと、その数値をコピーさえすれば、同じものができる……
これはレイブンのセリフでしたね」
バグは、信じられないといった表情をみせる。
「くっ……私を裏切ったのか⁉ バグ化していたのに⁉」
「ワタクシは『並列思考』持ち……
深層心理では、ずっと違うことを考えていました」
「『並列思考』だと……
確かに、メルフィスのプログラムの中には、真っ黒な空間があった。
あの空間に、黒い文字でプログラムを書かれたら……あれが『深層心理』?」
メルフィスは、俺に『正義のカード』を手渡す。
「メルフィス、お前、最初からバグに従っているふりをしていたんだな……
でも、お前が前に言った通り、魔界はそんなに変わっていない……それでよかったのか?」
メルフィスは、首を横に振る。
「いいえギガンティックマスター、魔界は変わりました。
以前のような暗い雰囲気は消え、階級による『使い魔制度』もなくなり、皆希望に満ち溢れています……
これから先時間をかければ、きっと秩序ある素晴らしい世界に生まれ変わるでしょう……アナタのおかげです」
「メルフィス……」
「この裏切り者め!」
バグが手をかざすと、光の球がメルフィスを包み込み、メルフィスの体が少しずつ消滅していく……
「メルフィス!」
「ギガンティックマスター、一つだけお願いがあります」
「なんだ?」
「もし生まれ変わったら、来世ではワタクシを、アナタの部下にして下さいませんか?」
俺は少し考える……
「断る」
「えっ」
「部下じゃなくて、同じ『仲間』としてなら受け入れる……どうだ?」
メルフィスは、光の中、微笑む。
「はい……ありがとうございます……」
パアアアァァァ……
微笑んだまま、メルフィスは光の中で消滅した……
「メルフィス、ありがとう……」
それを見ていたバグが、笑い出す。
「フフ、フフハハハ……
残念だが、それでも少し遅かったようだな」
「どういう意味ギャウ?」
神魔が問う。
「この世界の崩壊は、すでに七割を超えている……
私がいるこの『劇薬の洞窟』と、世界の中心である『中央島』とその内海周辺を残し、ほとんどが崩壊している……
大陸にいた王族や貴族たちも、船や飛行魔獣で避難しているようだが、それも時間の問題。ほとんどの国民たちや生物たちは死滅した……
ここまで崩壊してしまったらもう、『正義のカード』であっても、元に戻すことはできない!」
「なんだって……? そ、そんな……」
神魔やメンバー達の顔が、絶望に染まる……
ここまでやってきたのに、すべてが無駄に終わってしまうかもしれない……
全員絶句し、静寂が辺りを包む……
俺は『正義のカード』を持ちながら、ヴァンパイアのミコトの方を見て、頷く。
すると、ミコトも俺の方を見て、頷く。
当然俺も絶望していると思っていたバグが、俺を見て叫ぶ。
「なぜだ、なぜお前は絶望しない、ギガンティックマスター!」
「俺は絶望はしない、そう言ったはずだ、バグ」
俺が合図すると、ミコトは持っていたすべての『魔界のタロットカード』を掲げる。
俺も『正義のカード』を頭上に掲げると、カードはひとりでに空中に浮かんだ。
その場にいる全員の頭の中に、声が響く。
(私は『正義のカード』……正義の行いに対して、力をお貸しすることができます)
「頭の中に、直接声が響く……これは『正義のカード』の声ギャウ……?」
(ですが、すでにこの世界は七割以上が崩壊し、私の力を以てしても、全てを元に戻すことはできません……)
「やっぱり……」
「どうすればいいギャウ⁉」
俺は『正義のカード』に語りかける……
「『正義のカード』よ、俺の願いはただ一つだ」
(はい……)
「俺の願いは、『正義のカード』を含む、すべての魔界のタロットカードを融合して、一枚のカードを作ること」
「なに……ッ⁉」
自分の予想とは違う願いに、戸惑いを見せるバグ。
「その新しいカードの名は……『創生』!」
「『創生』……?」
「そのカードの能力は、崩壊した世界を元に戻す、『創生の力』」
「なんだと⁉」
(いいでしょう、私の能力は、正義の行いをするものに力を貸すこと、アナタの望みを叶えましょう……)
パアアァァァ……
『正義のカード』がそう言うと、ミコトの持っていたすべての魔界のタロットカードが浮かび、空中で回りだす……
シュウウゥゥゥン……
カアァッ!
突然、眩しく光ったかと思うと、二十二枚あったカードは一枚のカードになり、そのまま俺の手に降りてきた。
「これが、『創生のカード』……」
カードには、大陸の上で、巨大な女神が祈りを捧げている絵が描かれていた。
「『創生のカード』よ、俺の呼びかけに答え、崩壊したこの世界を元に戻してくれ!」
ヒイイィィィン……
パアアアァァァ……
……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
この大陸すべてが揺れたような地響きがしばらく続いた……
そばにいた『ゆうザイくん』から、神魔のドッペルゲンガーの声が聞こえてきた。
「みんな、今『ギルギル』をドローンで見渡して確認した、大陸はすべて元に戻っているぞ!」
「やったーーーーーーっ!」
「うおおおおおーーーーっ!」
どうやら、うまくいったようだな……
「ハハ、ハハハハハ……」
もうすでに、体のほとんどが消滅しているバグが、笑っている……
「ここまでとは、まったく恐れ入った……
私の『絶望』をすべて跳ね除けた、『希望』の魔導士……
この『世界』が、お前を転移者として召喚したのも、わかる気がする……」
「バグ……」
バグの体は消滅し、あとは首だけが残っている……
「やってみよ……この私を倒したのだ、必ずこの世界を『希望』にあふれる、世界に……」
シュウゥゥ……
バグは、笑いながら消滅した……
俺は、バグがいた場所を見つめながら呟く……
「あいつが、バグが、『愛を知るもの』だったから勝てたような、そんな気がする……」
神魔も、俺の肩に降りてきて呟く……
「ギャウ、オレもそう思う。
あいつが、愛を知らない、悪逆非道なやつだったら、オレ達はとっくに殺されていただろうな」
◆バグの精神世界
真っ暗な空間に、白髪のバグが横たわっている。
そのすぐそばに、黒髪のもう一人のバグが立っていて、白髪のバグを見つめている……
黒髪のバグが、静かに口を開く。
「どうだった? ギガンティックマスターさんは?」
「フッ……強かったよ、あいつは一度も『絶望』しなかった、完敗だ……」
黒髪のバグが、少し微笑む。
白髪のバグが、上体を起こし、黒髪のバグの方を見る。
「情けないが、この世界が無事で、少しほっとしている自分もいる……
私は、ギガンティックマスターに、自分を止めてほしかったのかもしれない……」
「わかるよ、オレはお前でもあるからな」
「私は、本気でこの世界を『初期化』しようとした……
そして新しい、平和な世界を作り、フリージアや父さんも復活させるつもりだった」
「ああ」
「今もそうするのが正解だと思っている……私は、間違っていたのか?」
「わからない……でも、言っていることはわかる。
オレも、声に出さなかっただけで、同じことを考えていたことはある」
「そうだな、私はお前でもあるからな」
「でも、お前は知っているはずだ、『愛』を」
「『愛』……?」
「ギガンティックマスターさんは、決して絶望しなかった、それは『愛』を知っているから」
「『愛』を、知るもの……」
「そしてギガンティックマスターさんの周りにも、『愛』を知っている人がたくさんいた」
「それが、私の敗因か……?」
「いいや、お前はオレでもある、お前も知っているはずだ、『愛』を。
そして、お前にも『愛』はある」
「私にも、『愛』が……フリージア……」
「さあ、一緒に行こう、フリージアのもとへ……」
黒髪のバグが、白髪のバグの手を取ると、白髪のバグは吸い込まれるようにして黒髪のバグと一つになる……
真っ暗だった空間は、一瞬で光あふれる空へと変わる。
そしてそのまま、バグは空を飛ぶ……
空には、両手を広げ、微笑んでいるフリージアが待っていた。
「おかえり、バグ」
「ただいま、フリージア……」
二人は抱き合いながら、空に消えていく……
〇俺side
俺は空を見上げる。
「バグ、フリージアには会えたか……?
フリージア、バグは返した、約束は守ったぜ……」
俺はふと我に返り、周りを見渡す。
ほとんどの人たちは、瓦礫から抜け出し、無事だったようだ。
頭から瓦礫に突っ込んで、足だけ出ていたナナ以外の人たちは、だけど……
メンバー全員で、ナナの足を引っ張り、助け出す。
「せぇーのっ!」
スポンッ!
ナナを無事救出!
「いやー、三途の川の向こうで、ニビルさんが手を振っていたんですぅ! 危なかったぁー……」
「アホか! ニビルはもともと死んでねぇよ!」
(※ニビルは、カイエル海上保安局に拾われて、助かっていたみたい)
これで全員の無事が確認できた。
俺は立ち上がり、服についていた埃を落とし、みんなに叫ぶ。
「よし、じゃあ帰るか!」
「はい!」
「おう!」
「ギャウ!」
俺たちは、それぞれ帰路についた……
*****
バグとの戦いから二日後、カイエルの新国王となったガーマイン王から、『即位式』の招待状が届いた。
同封された手紙には、『即位式』は名目で、先の戦いの『祝賀会』がメインだと書いてあった。
俺たちは、『即位式』に参加するため、カイエル城へ赴く。
カイエル城へ到着すると、すでに先の戦いのときにいた人たちが、みんな揃っていた。
俺はまず最初に、ヴァロン皇帝に挨拶に行く。
「ギガンティックマスター殿、あれからまだ二日しか経っていないのだな……しばらくぶりに会ったような気がするぞ」
「俺もです、ヴァロン皇帝」
他にも、屠りしものたちや、七長老、各国の貴族やファルセインの前王の姿も確認できる。
ファルセインの前王が、ガーマイン王に言葉をかける。
「新しきカイエルの王よ、お招き感謝する」
「いえ、お忙しいところを、ようこそいらしてくれました、クライン前王」
俺はファルセインの前王のところへ行き、メギード王の話をする。
「クライン前王、メギード王のこと、大変残念だった……」
「ギガンティックマスター殿、アナタが気に病むことはない……
あやつは、我が息子は、ファルセイン国民であるネネ殿をかばって死んだと聞いておる。
王として、一人の男として、立派な最後だったと聞き及んでいる」
「ああ、最高の誇りを持った、立派な王だったよ」
カイエルの新王、ガーマイン王が、ファルセインの前王に尋ねる。
「しかし、いかがなさるのですか前王、前王にはメギード王の他に世継ぎはおらず、親戚もほとんどいないと聞いていますが……」
俺も気になっていた、ファルセインの次の王の話か……
「ファルセイン前王、この場合、やはりアナタがまた即位するものなのか?」
デリケートな話ではあったが、我慢できず、俺は聞いてしまった。
「いや、ワシはもうすでに引退した身、戻ることは考えてはおらん。
じゃが、このまま王を空位のままにしておけば、また前のように王政が破綻してしまう可能性はある。ワシも困ってはいたのじゃ……」
こういう『国の存亡』に関わるような案件には、あまり口を挟まないほうがいいんだろうなぁ……
「うーん、すぐに、というわけにはいかないだろうけど……」
「なんじゃ、何か良い手があるのか? ギガンティックマスター殿」
俺をファルセイン王政の指南役に抜擢したときのような、キラキラした目で俺を見るファルセイン前王……
「俺のいる現実世界では、王のいない国には、『大統領制』というのがあるんだ」
「『大統領制』……?」
【大統領制】……国の国家元首を、国民からの投票により、議会とは独立して選出する制度のことを指す。
代表的な国としてアメリカなどがあるが、他にもフランスの共和制や、ドイツの連邦共和制、大韓民国の民主共和国制なども存在する。
「国民の中から立候補者を募り、国民の投票によって国の長を決める制度なんだ。その者に、国の政権を任せることになる」
「それだと、任された者は、もうやりたい放題になってしまうのでは?」
そういう心配がでるのは、もっともだ。
「そのために、立法と行政を厳格に分離して、権力を分散するという点が重要になる」
「ふむ……なるほど」
「詳しいことは、うちのメンバーのネネが詳しいから、聞いてみるといい」
現実世界でも、そういう方面の勉強は得意分野だったネネなら、色んなアドバイスができるはずだ。
ひょっとすると、異世界初の『民主主義国家』が誕生するのも、そう遠い話ではないかもしれない。
ガーマイン新国王が、俺に近づいてきた。
「そろそろ、メインの催しを始めようと思うのだが……」
アクトの時と同じように、盛大な舞踏会を予定していたみたいだ。
「ガーマイン王、提案がある……今回はちょっと、趣向を変えてみないか?」
「えっ、それはどういう……?」
俺はマイクを持って、会場のメインステージの横へ。
「レディース&ジェントルマン、
歌って、踊って、戦えるアイドルはいかがですかーーーー?
今宵は我々、『異世界あいどる・はーと』のコンサートをお楽しみ下さい!」
スポットライトを備えた特設ステージに、『異世界あいどる・はーと』のメンバー達が揃う。
ザワザワザワ……
「なんだなんだ?」
「いったい何が始まるんだ?」
ジャジャーーーーンッ♪
俺たち『異世界あいどる・はーと』のコンサートが始まった!
アイカが、会場にいる客たちを煽る!
「みんなーーーーっ!
盛り上がる準備は、できているんだろうなーーーー、行くぞーーーーーーっ!!」
「う、うおおおおおーーーーっ!」
会場の人たちは、少し戸惑いながらも、ヒートアップしていく!
『異世界あいどる・はーと』ファンクラブ会長の、ファルセイン前王が、興奮気味に叫ぶ!
「これは! ……現実世界の『あいどる・はーと』の新曲、『アイドルの半分はアイでできている』ではないか⁉」
さすがは『異世界あいどる・はーと』ファンクラブ会長、よくご存じで。
メンバー全員が、動画を見ながら練習を重ねてきた、アイドル衣装も、振り付けも、本物とまったく同じ! 歌と踊りも完璧だ!
曲の前奏に合わせて、ファンクラブの会員たちが、『サイリウム』を持って、ヲタ芸を繰り広げる!
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイッ!」
まさかこんなところで、ヲタ芸を見ることができるとは、恐るべし『異世界あいどる・はーと』ファンクラブ会員……
【アイドルの半分は『アイ』でできている】
あなたの剣になりたい
傷ついた心を守るために
あなたの盾になりたい
どんな困難も超えていくから
あなたの翼になりたい
高く舞い上がる夢を運ぶよ
あなたの光になりたい
暗闇を照らす星のように
アイでできている私たち
あなたの笑顔を守るために
アイでできている私たち
いつもそばで支えたい
ミライへと続く道を
共に歩む仲間だから
あなたの夢を叶えるために
全力で輝き続ける
ステージ上で、スポットライトを浴びながら、一生懸命歌って踊るメンバーたち。
現実世界の『あいどる・はーと』と、まったく遜色がない。
ジャンッ♪
「わーーーーーーっ」
「初めて見たぞーーーー」
「素敵ーーーー!」
「アイカちゃーーーーん!」
「最高ーーーーーーッ!」
パチパチパチパチパチ……
会場は、鳴りやまない拍手が響く。
ファルセイン前王が、興奮冷めやらぬって感じで、熱く語る。
「いやー、最高じゃった! まさかDVDではなく、この世界で、直にこの曲を見ることができるとは思わんかった!」
後ろからヴァロン皇帝が近づいてきて、ファルセインの前王に話しかける。
「ファルセイン前王殿、今のが『あいどる』のコンサートというものなのですか? 余は俄然興味が湧いてきて……ファンクラブに入会するには、どうしたらよいので?」
おいおい、ヴァロン皇帝……アナタもか?
会場にいた貴族たちが、まるで聞いてほしいかのような大きい声で、ひそひそ話をしている。
「まったく、あのラーマインの逆賊め、あのバグとかいう世界の大敵に加担していたとは……」
「いやはや、ガーマイン王が討ち取って下さったからいいようなものの……」
それを聞いていた俺は、ガーマイン王に尋ねる。
「いいのか? ガーマイン王……」
ガーマイン王は、少し悲しい顔をしたまま、俯きながら話す。
「ああ、これは父上の提案なんだ。
父上が逆賊の王として、オレが討ち取ったということにすれば、その後オレが統制する王政は、盤石の物になるだろうからって……」
なるほど、あの人らしい……
ガーマイン王は、持っていたお酒のグラスを、グイっと飲み干す。
「だ、だから……せめて、お前たちだけは、立派だった父上の事を覚えておいてほしいんだ……勇猛果敢で、家族思いだった、父上のことを……ううぅ……」
「おいおい、ガーマイン王、もう一生泣かないんじゃなかったのか?」
ガーマイン王は、鼻水を流しながら、王の威厳のかけらもない顔をさらす。
「わ、わかっている、わかっているけど……ううぅ……ぐすっ、うぅぅ……」
まったく……
でもこういうやつが、のちに『名君』と呼ばれるようになるのだろう、きっと……
*****
〇現実世界 株式会社エイトインフィニット
シュイーン
会社内の特別室から、神居と神魔、そしてヒナタが出てきた。
「お疲れ、今日はもうこれで終了だ」
「今日はだいたい二パーセントぐらい除去できたかな? 次は来週だな」
「はい、ありがとうございます」
バグの死亡により、ヒナタの『支配』は無くなったが、『バグの因子』が消えたわけではないらしい。
今も、開発チームたちが、少しずつだけど『バグの因子』を取り除く作業を、定期的に行ってくれている。
たまたま来ていた、サモンロードとコズミッククイーン、ドラゴニックキングたちと、食堂で出会った。
「正直、うらやましいわ……
アナタの四天王のヒナタは無事で、私の四天王のリンは死んでしまった……
でも、私にはカケル、ヨシキ、リュウセイがいるわ。
悲しんでいたら、リンに怒られそうよ」
「そうだな……」
コズミッククイーン、強いな……
サモンロードやドラゴニックキングも、同じくらい悲しいはずだ。
きっと、俺に気を使って、黙っていてくれているんだろうな……
俺はこの、ヒナタが生きていてくれたっていう『奇跡』を、本当に大事にしなきゃいけない。
〇魔角族王 魔界
バグとの戦いから数日……
すべての力を取り戻した魔角族王の力は凄まじく、たったの三日で邪尾族王をあっという間に倒し、他の王族も屈服させ、魔界を統一してしまった。
名実ともに『魔界王』となった魔角族王は、鏡魔法『ミラーコネクト』を使い、魔界の『十王家』と会談する。
「魔界の十王家、『魔角族』、『邪尾族』、『吸血鬼族』、『外道族』、『修羅族』、『死神族』、『髑髏族』、『不浄族』、『滅竜族』、『害獣族』よ……
余が、この魔界を統一した『魔界王』である」
「ははーっ」
鏡の前で、十王家の王とその側近たちが頭を下げる。
「余は魔界統一を果たしたが、『魔界王』の称号に興味はない。
しかも余には、息子であったシャルド以外に世継ぎもおらぬ……
よって、今後の魔界改変にて、魔界を秩序ある世界に世直しすることができたあかつきには、『魔界王』の称号を、吸血鬼族の長、ミコトに譲ることとする」
「え? ……ええーーーーーーっ⁉」
一番驚いていたのは、鏡の前にいたミコトだった。
「これは決定事項だ、反論は許さぬ、異議があるのならば余に直接言え、よいな?」
「ははーーっ、『魔界王』様の、仰せのままに!」
『異世界あいどる・はーと』のメンバーのミコトが、魔界の王様になるのは、そう遠い日じゃないのかもしれない……
〇サモンロード 現実世界「清流会病院」
現実世界に戻ったあと、『屠りしもの』たちも、みんなそれぞれの生活に戻っていった。
サモンロードは、イチヒコと組んで、『難病治療』の開発チームを立ち上げた。
現実世界では到底治療不可能な病気やケガも、ギルギルの『魔法』や『アイテム』を利用することで、回復が見込める事がわかってきたらしい。
現在も、大変仕事が忙しいらしく、いつも飛び回っている。
サモンロードの妹さんも、『治験』として開発チームに加わり、さまざまな効果的な治療を受けていて、少しずつだけど、回復に向かっているみたいだ。
魔女のエスタと話していたサモンロードに、妹の瑠美ちゃんが話しかける。
「お兄ちゃんの秘密の場所、瑠美もいつか行ってみたいな」
サモンロードと、エスタの顔に、笑みが零れる。
「ああ、瑠美に見せたい場所が、たくさんあるよ……」
サモンロードのカバンの中には、白いパーカーと、いつも読んでいる本と一緒に、『キャルロッテのメモ帳』も入っていた……
〇コズミッククイーン 現実世界「鳥海商事」
コズミッククイーンは、勤めていた会社、『鳥海商事』に戻り、毎日忙しく働いているようだ。
今年も新入社員が入ってきて、忙しくなりそうって言ってたけど……
コズミッククイーンの机に、後輩社員が駆け寄ってくる。
「せんぱーーいっ! 助けて下さいーーーーっ」
「ど、どうしたの⁉」
「今年の新人たち、私たちの言うこと全然聞いてくれなくて……」
後輩社員はすでに半泣き状態……
(アナタたちが新人の時も、似たようなものだったんだけどね……)
コズミッククイーンは、少し思い出し笑い。
「キチンと叱っている?
キチンと叱ることは、その人のためでもあるのよ」
「でもでも、『パワハラ』だって言われたら、私たち何も言い返せなくて……」
「相手のことをちゃんと想って叱るのは『パワハラ』とは言わないのよ……いいわ、その新人研修、私が変わってあげる」
コズミッククイーンは、自分のノートパソコンを閉じて、立ち上がる。
「本当ですか! ありがとうございます、『バラのお局さま』……あっ」
「? ……『バラのお局さま』?」
「ごめんなさい……
いつも綺麗な『バラのブローチ』を胸につけているから、尊敬の念を込めて、みんなでそう呼んでいたんです」
コズミッククイーンの胸には、小さな『バラのブローチ』が光っている。
「そうだったの……フフ、これは私のお守りみたいなものなの……ありがとう」
コズミッククイーンは、胸の『バラのブローチ』に、そっと触れる。
〇ドラゴニックキング 現実世界「介護施設 しろつばき」
今回のギルギルのアップデートで、試験的に七十歳以上限定の『GUILTYorNOTGUILTY ONLINE ヴィンテージバージョン』が配信されることになった。
これは、認知症予防に、ゲームのギルギルが大変効果が高いと話題になったことによるものだ。
ご老人用に、操作を簡略化、特別な装備も用意されている。
今回ドラゴニックキングが勤める介護施設でも、試験的に先行導入された。
齢七十五歳のチーフプログラマー、『百骨王』も加わり、日々ログインしているらしい。
「あの魔導士、ワシが殺すっ!」
「あの盗賊、なかなか死なないんじゃ」
「おいおい、こういうところで、あんまり『殺す』とか『死ぬ』とかは……」
「お前が言うなゾイ」
百骨王が、茶化す。
「キング、タンクのアンタがタゲとらないでどうするんじゃ!」
「あーあ、ほら全滅じゃ……」
「ス、スマン……」
あのドラゴニックキングがタジタジだ……
後ろで見ていた『百骨王』が、ドラゴニックキングを指差し、笑っている。
「お前、ゲームの中でも、現実世界でも、ホント下手だゾイ」
「この、くっそババァ……」
チャリッ……
ドラゴニックキングの首には、『地母竜のウロコ』がはめられたペンダントが揺れている……
〇俺side
俺と『異世界あいどる・はーと』は、さらなる冒険の旅へ行くことにした。
今日は、その前の腹ごしらえと出発式を兼ねて、ファルセインの『やんやん亭』を貸し切りにしてパーティだ。
屠りしものの三パーティも参加している。
「まったく、キミ達も忙しいね、こんなにすぐまた冒険に出るなんて……」
「そうよ、この『ギルギル』を救った英雄なんだから、私ならもうちょっとチヤホヤされてからにするけど」
「ま、お前がいるとオレたちが目立たなくなるから、さっさと行っちまえ」
サモンロード、コズミッククイーン、ドラゴニックキング……相変わらずだな。
「ちなみにどこに行くんだい? レベル二千七百じゃ、この大陸じゃもうキミの相手になるモンスターはいないよね?」
サモンロードが、新メニューの『エッグベネディクト』を食べながら質問してきた。
「まあな……行先は『天獄の塔』から、『魔獄界』、そして『神天界』だ」
「ブッ……ゴホッゴホッ……」
三人とも吹きだした。
「あきれた……今度はこの世界の神々を相手にするつもり?」
コズミッククイーンが、新メニューの『チーズクリームパンケーキ』を食べながら話す。
「アイカの正体が、『愛と平和の女神アルフィオネア』だってことはわかったんだけど、それ以外のことはよくわからなくて……
メンバーのマフユによると、『魔獄界』と『神天界』に行けばわかるって言うんだ」
「ほう……だが、『魔獄界』に行くなら、わざわざ『天獄の塔』を通らなくても、オルタナティブドアで『魔界』から行く方が早いんじゃねぇのか?」
ドラゴニックキングが、新メニューの『バッテラ』を食べながら鋭い切り替えし!
「確かにオルタナティブドアを使えば一瞬なんだけど、それじゃ味気ないからさ……やっぱり『冒険』なんだから、いろいろ体験してみたいじゃん?」
俺は、新メニューの『かつ丼』を食べながら説明する。
「それにさ、俺は魔導士として、この世界の魔法を極めてみたい」
「この世界の魔法を?」
「ああ、人類最高の魔術『八芒星魔術』や、神々が使う『神言霊魔術』とか……
そして、他にもいろんな凄い魔法が、きっとあるに違いない!」
「もっとすごい魔法ねぇ……まあ、見てみたくはあるけど」
神魔がパタパタと飛んできて、俺たちのテーブルの真ん中に降りる。
「魔法だけじゃないギャウ、『魔獄界』には、『戦争と兵器の軍神アダル』を筆頭に、『最悪なる十悪神』と呼ばれる悪神が、
そして『神天界』には、『愛と平和の女神アルフィオネア』を筆頭に、『最愛なる四善神』と呼ばれる神がいるギャウ」
「ゴクリ……『最悪なる十悪神』に、『最愛なる四善神』か……」
もう名前を聞いただけでワクワクしてくる!
「よーし、俺がこの『ギルギル』の最終章も、しっかりクリアしてくるぜ!」
「はいはい」
「ま、期待はしていないけど」
「それより、この『バッテラ』、おかわりできるか?」
「お前らなぁ……」
三人とも、ノリが悪いんだよなー。
神魔が『タブレット』を持ちながら、興奮気味に話す。
「この『ギルギル最終章』は、間違いなく今までの章の中で一番長いストーリーとなるギャウ。
しかも相手は、このオレよりも高位の神々だ、レベル二千七百でも、そう簡単にはクリアはできないギャウ」
「マジか……」
「それに、まだこの『ギルギル』の最大の謎である、『なぜオレたちはこのゲームの世界に召喚されたのか?』が残っている。オレ達開発者でも、こんな芸当はできない」
現実世界の人間を、ゲームの世界に召喚できる存在か……
そんなことができる奴なんて、皆目見当もつかない。
なかなかに困難な道のりになりそうだ……
でも俺には、最高のメンバー『異世界あいどる・はーと』がいる!
「俺たちの力が、どこまで通用するのか楽しみだぜ、ワクワクしてきた!」
神魔が腕を組み、ウンウンと頷きながら、話の続きをする。
「しかも、『愛と平和の女神アルフィオネア』と、メンバーのアイカが関わっているとなると、一筋縄じゃいかないかもしれないギャウ。
そうなったときは、ギガっちの『魔法』と『奇跡』の力がまた必要になるギャウ!
頼むで、ホンマしかし!」
「お、おう……」
神魔、なぜ関西弁……?
「まあ、楽しんでおいでよ、僕たちも落ち着いたら加勢しに行くからさ」
「ま、私も自分の四天王をもっと鍛えたいし、手伝ってあげなくはないわ」
「どうしてもオレ様の力を借りたいのなら、時給二万円で考えてやってもいいぞ」
「あっそ、じゃあドラゴニックキングはいいや」
「なんだとテメー」
「ああ、やるかー?」
「やるわけねぇだろ! レベル二千七百のお前と!」
……なんだよドラゴニックキング、やっぱりノリが悪いなー。
*****
そして、俺たち『異世界あいどる・はーと』の冒険の準備が整い、出発の時となる。
「よーし、まずは『天獄の塔』である、『神の大樹ユグドラシル』まで、気球で乗り込むぞ!」
アイカが駆け寄ってきて、俺に耳打ちする。
「マスター、ドラゴニックキングさんも言ってましたが、ユグドラシルまでなら、別にオルタナティブドアでもいいような気がしますが……」
「バカだなー、冒険はもうここから始まっているんだ、そんなに簡単に行ったら、感動が薄れるだろう?」
「は、はぁ……」
軽く引いているアイカをよそに、俺たちは気球に乗り込む。
俺たちは、八人乗りの巨大な気球を四台作り、それぞれメンバーを四つに分けて、それに乗り込む。
シュゴ―……
『球皮』に熱風を送り込み、少しずつ気球が浮かんできた。
「ナーガのカオル、風向きのほうは頼むぞ」
「お任せください、マスター」
ナーガのカオルが風を吹かせ、俺たちの気球は、大空へ……
方角はこの大陸の中心、『中央島』!
「よーし、『異世界あいどる・はーと』、出発だーーーーっ!」
「おーーーーっ!」
「ギャウーーッ!」
俺たちの冒険は、まだまだ続くぜーーーーっ!
☆今回の成果
ファースト
アイカ(153)装備 星と天の御剣 無限剣閃
マフユ(149)装備 射手座のゾディアックビースト 邪眼
ナナ(139)装備 グレイシャルアーム グレイシャルレッグ
ヒナタ(141)装備 火の鳥将の杖 フェニックスローブ バグ化
セカンドシスターズ
ネネ(110)装備 命王の杖 窮鼠将のローブ
フウカ(137)装備 ラビットブーメラン 脱兎将の衣
トーコ(138)装備 ナマズエの本 ナマズエの衣
ケイ(36)装備 帽子 手袋 靴
ナイトメアウェイカーズ
リンカ(132)装備 エクスキューショナーズダガー 悟空将の鎧
ノノ(130)装備 鬼神帝の涙のペンダント
リリ(135)装備 閃帝の根 閃帝の衣
ヒビキ(128)装備 猪牙将の戦斧 猪牙将の鎧
オッドアイズ
シノ(120)装備 牡羊座のゾディアックビースト
ラン(127)装備 星槍『星おとし』 雷虎将の鎧
アカネ(135)装備 ケルベロスエンブレム ヒュドラエンブレム
ミキ(130)装備 新約神聖書アポカリプス 真説邪導書リネクロノミコン
イレギュラーズ
オウカ(122)装備 蛇使い座のゾディアックビースト 白蛇将のローブ
アオイ(120)装備 クラーケンエンブレム ウェットスーツ
エマ(118)装備 牡牛座のゾディアックビースト 牛頭将の鎧
フタバ(117)装備 億獣王の爪 億獣王の尻尾
ルイ(115)装備 閻魔王の弓 アンチマターメイル
ミコト(153)装備 ブラッディエッジ 大魔王のローブ
アキラ(120)装備 ナイトメアリング サキュバスローブ
モモ(114)装備 馬頭将の脚甲 馬頭将の衣
アンタッチャブルズ
アラクネのユイ(117)装備 蜘蛛神の糸 蜘蛛神の衣
スライムのヒフミ(110)装備 なし
ナーガのカオル(110)装備 天界の杖 神獣のローブ
セイレーンのカルラ(111)装備 音神のマイク ホーンの衣
イフリートのイオナ(100)装備 なし
トレントのマキ(140) 装備 神樹の杖 神樹の衣
メデューサのクレア(112)装備 蛇頭のウィッグ ネイルアート
この物語を、魔法を愛するすべての人に捧ぐ……
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アナタは、『アイドル』が好きですか?
日本独自の文化、と言われているアイドル。
アイドルは、歌って、踊るだけの存在ではありません。
タレントとしてバラエティで活躍したり、
ファッション誌や少年誌で、表紙を飾ったり、
ときには、ドラマや映画でお芝居をしたり、
その純粋さ、ひたむきさ、一生懸命さ、ときにあざとさ、ちょっとドジなところなども……私たちはそれを見て、ほっこりしたり、笑ったりします。
まるで、魔法のようではないですか?
アイドルとは、たくさんのいろんなことで、私たちを楽しませてくれる、素晴らしい存在です。
私たちに、愛や、希望や、癒し、笑顔、夢を与えてくれる存在……
「アイドルは見るだけの存在」
「アイドルには近づいてはいけない」
「アイドルは特別な存在」
「アイドルは尊いもの」
「私たち一般人は、アイドルと恋愛なんてできるわけない」
「私たち一般人が、アイドルと冒険なんてできるわけない」
そう思っていませんか?
でも、異世界ならそれが叶うかもしれません。
そう、なぜなら……
『誰かの、じゃない……これは、俺の物語』
……なのだから。
END
ご愛読ありがとうございました。
また次回作でお会いできることを楽しみにしています。




