第七十二話 ディクショナリーエンジェル
アナタはアイドルに『コンボを発展』させられたことがありますか?……俺はある。
「大分やられちまったが、まだ主要メンバーは残っているぜぇ」
レイブンが、周りを見渡して話す。
ヴァロン近衛兵団の三人と、リン、館長、メギード、リュオンは戦闘不能にしたが、まだレイブン、メルフィス、シャルド、ヒナタにキャルロッテも残っている。
シャルドVSミコト
「一の獄・『魔眼』!」
シャルドが魔眼を使ってきた……ミコトの先の動きを読む気だ。
「一の獄・『魔眼』!」
おお、ミコトも六獄を使ってシャルドの先の動きを読んでる。
お互い、相手の攻撃の先読みをして、自分の攻撃を組み立てる……これが魔族同士の戦い方か。
「アドバンスドアーツ、『ブラッディファング』!」
ミコトが先に攻撃を仕掛ける、血を刃と化した斬撃を飛ばす!
「四の獄・『黒曜』!」
ガキィーンッ!
シャルドが黒曜でミコトの『ブラッディファング』を弾いた!
「ダークマタードラゴン融合、『ディザスタードラゴン』!」
ドガガガガガガガガーーーーッ
そのままシャルドの反撃、災厄竜による、状態異常付加攻撃!
「三の獄・『堕天』!」
バサァッ!
背中から翼を出し、ミコトは空中へ回避!
「凄い戦いだ……地上ではめったにお目にかかれないぞ」
でもお互い決定打に欠ける……さすがにシャルドに『七獄』の『エナジードレイン』を使うわけにはいかないし……
ミコトの前に巨大な魔法陣が展開……『闇』『闇』『闇』『闇』『闇』『闇』
「レーン・クォンタ・バイステル・アージ・キリア
ファイスエルテル・コード・アッジ・リストリビュー
闇よ 光より生まれ 混沌に帰するものよ
何モノにも染まらず 何よりも深く 何よりも暗く その力で 全てを混沌に帰せ……
闇属性ヘキサグラム、『ダークカタストロフ』!」
おお、闇属性のヘキサグラムか……
全てを破壊する、五つの巨大な闇の球体が、シャルドに向かって飛んでいく!
「五の獄・『幻夢』!」
シュインッ!
ズガガガガガガガガ―――ッ!
シャルドが『幻夢』で、NPCの戦士と入れ替わる……『ダークカタストロフ』を回避した。
お互い『六獄』を使える者同士、この戦いは長引きそうだな……
*****
ドラゴニックボードの外で、ナマズエとサモンロードたちが睨みあっている……
「ここはドラゴニックボードの外側……
ゲームの勝負とは無関係だ、お前たちを我がどうしようが、我の勝手というわけだが……」
「くっ……」
サモンロードは、『災厄属性魔法』を受けてヨロヨロだ……
「いい度胸しているじゃねぇか……オレたちと場外乱闘しようってのか?」
さっきまで俺の横にいたドラゴニックキングが、いつの間にかボードを降りてサモンロードとナマズエのところに……
「フッ、貴様も先ほどの我の『ポイズンブレス』で、ボロボロではないか……
いかに『屠りしもの』といえど、そんな状態の人間など何人束になってかかってきても、物の数ではないわ」
「ほう、じゃあ試してみるか……?」
ナマズエとドラゴニックキングが互いに睨みあう……
と思ったら、ナマズエがあっさり目線を外し、後ろの何もない空間を睨みつける。
「フッ、それで隠れているつもりか?」
えっ……?ナマズエのやつ、いったい誰と話しているんだ?
「もとよりこの状態で、アナタと戦おうとは思っていません……様子を伺っていました」
シュインッ!
ナマズエたちから少し離れた位置で、声の主が姿を現した……
「お前……トーコ!?」
自宅で一人ふさぎ込んでいたと思っていたトーコが、ナマズエの前に……!?
「影と温度だけは改善したようだな……だが気配がまるで消せておらぬ」
「気配だけはどうしても消せませんでした……私が達人の武闘家にでもなればできたのでしょうけど」
マジか、俺全然気づかなかったのに……
「性懲りもなく、また私と一戦交えて『研究成果』を手に入れるつもりか……
せっかく見逃してやったんだ、命を粗末にするのは感心しないな」
「命を粗末にするつもりはありません。
ずっとあなたを倒す方法を考えていました、透明になったケイちゃんを助けるために!」
トーコ、あれだけの力の差を見せつけられたのに……
俺は、現実世界の『インカム』を使って、トーコに話しかける。
「トーコ、あのナマズエはかなりの強敵だ……俺でも勝てるかどうかわからない、それでもやるのか?」
「大丈夫です、私には『ディクショナリーエンジェル』が付いていますから」
「『ディクショナリーエンジェル』……?」
なんだそれ?初めて聞いた……
「はい……『ディクショナリーエンジェル』とは、本好きの人たちの間で言い伝えられている『辞書の天使』、または『本の妖精』のことです。
本を使って調べ物などをしていると、答えを見つけるお手伝いをしてくれると言われています。
風で答えが乗っているページを捲ってくれたり、転んだ先に探していた本が見つかったり……それは『ディクショナリーエンジェル』のおかげなんです」
「そ、そうなのか……?」
「私は今までも、その『ディクショナリーエンジェル』のおかげで、いくつもの難題をクリアしてきました。
今回も『ディクショナリ―エンジェル』にヒントをもらっています」
トーコのあの真剣な目……
「わかったお前に任せる、全力で行ってこい……ただ、危なくなったら迷わず引くんだ、いいな!」
「わかりました、ありがとうございますマスター」
俺とトーコの話を聞いて、ドラゴニックキングはサモンロードを抱えて、少し離れる。
「アナタを倒す方法をいくつか考えてきました……
今度こそ、『透明人間の研究成果』を教えてもらいます!」
「フッ、我はそんなに気が長い方ではない……もう次はないぞ、命を賭けて来るがいい」
そう言ってナマズエは、異様な構えをとり、叫ぶ!
「アドバンスドアーツ、『インビジブルエフェクト』!」
スウゥゥ……
ナマズエが消えた……
もの凄く凝視したけど、やっぱり薬や魔法の類ではない……いったいどういう仕組みなんだ?
「さあ、どうするつもりだ……?
この後『屠りしもの』たちの相手もしなければならん、我は忙しいのだよ、フフフ……」
ナマズエの声が空に響く……ナマズエの野郎、余裕かましやがって。
「まずは『作戦その一』!」
トーコは懐から、現実世界の『サブマシンガン』のようなものを取り出し、構える。
「マスターの現実世界の最高アイテムその⑬、『ペイント弾』!」
「『ペイント弾』!?」
もう片方の手には、手のひらサイズのボールを持っている、たぶん『カラーボール』だ。
『ペイント弾』『カラーボール』……
『ペイント弾』は、エアソフトガンなどの弾丸に染料などを入れて、当たると色が付く弾。
主に遊びやスポーツなどで使用され、当たったかどうかの判別などに用いたりする。
『カラーボール』は、防犯用に開発されたもので、逃走する犯人などに当てて後から発見・検挙がしやすいようになっている。
色が付くと簡単には落ちない・蛍光塗料などで目立つ・匂い付きなど、様々な種類があり、犯人を識別するための重要な手掛かりとなる。
「なるほど、色を付けて識別できるようにする作戦か」
「はい!」
「面白い、やってみろ」
ナマズエの声……近くにいるはずだ。
ダダダダダダダ!
トーコがマシンガンを周りに撃ちまくる!
しかしナマズエに当たった気配ははない……
怪しい場所に『カラーボール』を投げるも、やはり反応はない……
「そんな、なんで……?」
「フフフ、残念だったな……
我の『完全透明化』は、物質に干渉できる『ON状態』と、干渉できぬ『OFF状態』に切り替えることが可能だ。
今の『OFF状態』の我には、どんな攻撃も当たることはない」
マジか、これじゃまるで『当たり判定バグ』と同じじゃないか……
「くっ……ならば、作戦その二です」
トーコはその場で集中する……
「アドバンスドアーツ、『グラビティフィールド』!」
ズウウゥゥゥン……
「『グラビティフィールド』だって!?バグ化する前のリュオンが使っていた、相手に重力の負荷をかける技か!?」
「そうです……私はまだ未熟なので、自分の周り十メートル、円状にしか展開することができませんが、ドクターナマズエが近くにいれば、確実に動きを抑えることができるはず……」
「無駄だ」
空にナマズエの声が響く……
「『重力』とは、自重に対しかかるもの……
我が『完全透明化』すると、自重は『ゼロ』になる、つまり我には『重力攻撃』はまったく意味をなさない」
物理攻撃だけじゃなく、重力攻撃まで無力化できるのか、なんて厄介な……
「くっ、これはできれば使いたくなかった……作戦その三です!」
トーコの前に魔法陣が展開……『風』『風』『闇』『闇』
「ガット・ゴット・ルーウェル・ソーマイン
絶対真空 極高真空 我が前に 原子・分子なき 無の空間を作りたもう
脆弱なる生物に 無慈悲な世界を 知らしめよ
真空属性クアトログラム、『バキューム』!」
キュウゥゥゥン……
「これは……?」
トーコの周りの空間を結界で囲み、空気を抜いている……のか?
「この『真空属性魔法』は、私の周りの限定空間の空気を抜き、真空にする魔法です。
万が一他の生物がいると巻き添えを食らってしまうので、使うのを躊躇っていましたが……この魔法なら、たとえ『完全透明化』でも耐えることはできないはずです」
ナマズエが人間である以上、呼吸は絶対に必要なはずだ。
さすがのナマズエも、この魔法なら……
一分、二分……
ナマズエの反応はない、倒したの、か……?
「フフフ……」
この声は……
「残念、効かぬな……」
「そんな、なぜ……?」
嘘だろ!?真空状態でも平気なんて、ナマズエは人間じゃないのか……?
「我は、毒の力で自分の肺臓を改造し、ほとんど酸素が必要のない体に作り変えた……我は、酸素の無いこの状態で、四日以上過ごすことができる」
「体を、作り変えた……?」
ナマズエ……もう人間の常識を超えている……こんなやつに本当に勝てるのか?
トーコがその場で膝をつく……
「私の作戦が、まったく通用しない……」
勝ち誇ったように、ナマズエの声が空に響く。
「フッ、どうやら万策尽きたようだな。
私はアナライズが使える、貴様の考えていることぐらいお見通しだ……
それに、貴様程度が思いつくようなことは、すでに対策は済んでいる」
「くっ……」
ナマズエ、こいつはやっぱり強敵だ。
俺でも勝てるかどうかわからない、トーコでは荷が重い……
俺はトーコをアナライズ。
(くっ……やっぱり私では、あの世界最高の錬金術師、ナマズエには勝てないの……?ケイちゃん……)
地面に手をつき、がっくりうな垂れるトーコ……
その時、トーコの右手が勝手に動き出し、ある方向を指さす……
「こ、これは?手が勝手に……?」
指さした方には、ジャッジメントドラゴンや色神、百骨王が立っている……
その後、右手は先ほどナマズエがいた方をさす。
「ど、どういうこと?ジャッジメントドラゴンさんや、色神さんがヒントってこと……?
ジャッジメントドラゴンさんや、色神さんは透明にはなれないのに……?」
トーコの頭の中は、『透明』、『八方神』、『実験』、『転魂』などの言葉が、グルグルと回っている……
その回っている言葉たちが、まるでジグソーパズルのように、一つの枠の中にぴったりと収まっていく。
「はっ!もしかして……」
トーコの目に『希望』が灯る……その眼差しは俺に向けられる!
「マスター、ジャッジメントドラゴンさんたちは、みんな『擬人化システム』によって今の体を取り戻したのですよね?」
「そうだ、悔しいがナマズエのドッペルゲンガーに聞いた方法でな」
「そうか、そういうことでしたか……」
トーコの目の『希望』は、『確信』に変わる……
「何かわかったのか、トーコ?」
「はい」
トーコは立ち上がり、どこにいるかはわからない、ナマズエに話しかける。
「アナタの『インビジブルエフェクト』の正体がわかりました」
「ほう……」
「『インビジブルエフェクト』の正体……それは『擬人化システム』だったんですね」
「『擬人化システム』……?一体どういうことだ、トーコ?」
俺にはさっぱりわけがわからない……
「つまりドクターナマズエは、『擬人化システム』で、『完全透明化』という体を作ったんです」
「『完全透明化』という体を……?」
でもそれだと、自分は消えることができないし、そもそも『擬人化システム』で体を作れば、魂がなくてモンスター化してしまう……
「魂はなくてもいいんです、なぜなら『転魂術』を使って自分がその体に入ればいいんですから」
『転魂術』……なるほどその手があったか。
ナマズエは転移者、『転魂術』を使えたとしてもおかしくはない……
「でも空になった自分の体はどうするんだ?どこにも見当たらないぞ」
「私の予想ですが、『亜空間』を開いて、そこに保存しているのかと。
『完全透明化』から戻った時も、その体は『亜空間』に保存しておけばいいのですから」
スゲーなトーコ、全ての辻褄が合う……果たして、ナマズエの反応は……?
「……貴様のような凡人に見破られるとは、少々心外だな」
うおっマジか!トーコが見破った!
「私一人では無理でした、
でも私には、『ディクショナリーエンジェル』が……いえ、ケイちゃんが助けてくれます!」
「なんだって?ケイちゃん……!?」
ケイちゃんって、ナマズエの実験で透明になって、今も行方不明のトーコの親友のこと?
「さっき『完全透明化』のヒントをくれたときに確信しました。
今までもずっと、私のそばにいて、私が難題にぶつかったとき、透明のケイちゃんが助けてくれていたんだね……」
「透明のケイちゃんが、ずっとトーコのそばにいて、サポートしてくれていたってこと……!?」
「私の『ディクショナリーエンジェル』は、ケイちゃんだった……
ありがとう、ケイちゃんのおかげでドクターナマズエの秘密を暴くことができたよ」
返事がないからわからない……でももしそうなら、きっと笑顔で頷いているはずだ。
少しの沈黙の後、空に声が響く。
「奇怪だな……ケイという女は、完全透明化のため、物質に触れることができない体になっていた……ヒントや助けることなどできぬはずだ」
そうだ、確かに以前ナマズエがそんなことを言っていた……
「きっと偶然に、透明化しても物質に触れる方法が載った本を見ることができたのではないでしょうか?
ケイちゃんを見つけるため私も調べていましたし、確かそれらしい本を目撃したことがあります」
トーコは、ケイちゃんを助けるためにずっと透明化のことを調べていた……
何度も挫けそうになったって言ってたけど、ずっと調べていたからこそ、この奇跡は起きたんだと思う。
「まあいい、透明化の秘密がわかったとはいえ、まだ我の『インビジブルエフェクト』が破れたわけではない。
そのケイという女も変に期待してしまうだろう、この辺で幕引きと行こうか……」
トーコの目が、自信に満ち溢れているように見える。
「いいえ、透明化の正体さえ掴めば、対処の方法はあります」
「なんだと……」
「それに、天才天才と言っていた割に、結局は『擬人化システム』を使用していたわけで……『擬人化システム』を作ったのはドクターナマズエのドッペルゲンガーさんのほうで、アナタは命令していただけですよね?」
「貴様……凡人の分際で、我を愚弄するか」
……明らかにトーコがナマズエを怒らせにかかっている、何かの作戦だな?
「もうよいわ、貴様のような凡人に関わると、我の格も下がってしまう。
貴様は何もできぬまま、一瞬でとどめを刺してやる……」
……見えないけど、きっと近くにいるはず、大丈夫なのかトーコ?
トーコは周りを警戒している……
「『グラビトン』!」
ドンッ!
空に声が響いたと思ったら、トーコが重力魔法に!?
シュインッ!
ナマズエが姿を現した!
「さようなら凡人、来世では錬金術師になるのは諦めるのだな」
ドスッ!
ナマズエは持っていたダガーで、トーコを背中から刺す!
「トーコ―――ッ!?」
スウゥゥ……
「なに!?『ファントムシフト』だと!?」
マジか!?トーコのやつ、いつの間に……
ズボォッ!
ナマズエが地面に沈んでいく!?
「こ、これは……『マッドゾーン』か!?あ、足がとられて……抜け出せん!?」
このコンボ、なんか見覚えが……
少し離れたところで、トーコが姿を現した……透明薬を使って消えていたのか。
「このコンボは私が考えたものではありません、以前マスターが使った、『攻撃してくるのがわかっている相手』に有効なコンボです。
凡人の作戦ではありません、あしからず」
「くそっ、舐めるなよ……天才である我がこれしきで……」
「そうはいきません!」
トーコの前に魔法陣が展開……『水』『水』『地』『地』
「キュン・ノーズ・ディ・キュア・ラード
土よ 水よ 混ざり 練り 変化したまえ
自由自在に形を成し 粘着し 捕縛し 捕えよ
粘土属性クアトログラム、『クレイゾーン』!」
これは、泥属性魔法『マッドゾーン』の上位版、『粘土属性魔法』……
『マッドゾーン』の泥の中から、粘土でできた巨大な腕が、ナマズエを押さえつける!
ドドドドドド……
「むおお、なん、だと……動けぬ……」
おお、『マッドゾーン』からの、クアトログラム『クレイゾーン』か……俺のコンボを発展させやがった!
「くっ、おのれ……これしきの魔法、『インビジブルエフェクト』で物質が干渉できない『OFF状態』になれば簡単に……」
「そうはいきません!」
ドボンッ!
トーコは、ナマズエの首までを、泥の中に沈めた!
「『クレイゾーン』は、私の意思でカチコチに固まらせることができます。
このまま泥の中に沈めたまま固めれば、さすがのアナタでも完全にとらえることができます……そうなる前に、降参して下さい!」
「降参?天才であるこの我が、たかが凡人の貴様なんぞに、降参だと!?舐めるでないわ―――――――っ!」
うおおぉぉ!?凄い魔力の奔流……ナマズエの周りの泥が弾け飛ぶ!
「こい!『究極体』!」
ズアアアァァァッ!
ナマズエは亜空間から、また別の体を召喚した!
「『転魂術』!」
パアァァ……
ナマズエの体から光る玉のようなものが出てきて、召喚した巨大な体に吸い込まれていった……
ジャキィィーン!
巨大な体の目が開き、動き出した!
「我が『擬人化システム』で作った、最高の身体だ!
まだ試作段階であったが、『八方神』や『四支神』を参考に作り上げた、現時点での最高傑作」
ナマズエが召喚したその体は、頭が三つ、腕が六本、体の半分が金属製、巨大な体躯……まるで阿修羅像みたいだ。
「最高のステータスに、モリブデン合金製の体、全ての魔法を操り、無限に再生し、しかも完全透明化もできる……
最高の頭脳である我と、最強の究極体が合わさり、全ての生命の頂点に立つ、神に等しき存在、それがこの『ナマズエ究極体』だ!ハーハハハ!」
嘘だろ……それはさすがに盛り過ぎだ。
「くっ……『クレイゾーン』、ドクターナマズエを抑えて!」
トーコが『クレイゾーン』で、ナマズエ究極体を抑え込もうとしている!
「無駄だ――――っ!」
ズアアアァァァッ!
ナマズエ究極体の背中から真っ黒な翼がはえ、『クレイゾーン』を吹き飛ばし、空中に制止した。
「キャーーーーッ!」
「危ない、トーコ!」
俺は、吹き飛ばされたトーコをキャッチ!
「とんでもないパワーだ、これは一筋縄ではいかないぞ……」
「フハハハ、『凡人』が『天才』に逆らうからそうなるのだ……さあ、『天罰』の時間だ」
俺はトーコを抱えながら、ナマズエに質問する。
「ナマズエ、お前の目的は『人間の進化』らしいな……ドッペルゲンガーのお前が言っていたぞ」
「ほう、我のドッペルゲンガーに会ったのか……
その通り、我の目的は『人間の進化』だ。
人類は進化しなくてはならない、このままでは地球の環境の変化や、不治の病、エネルギー問題などで、近い将来必ず窮地に陥るのは目に見えている」
そう、なのか……?
「だが、『人間の進化』なんて、いったいどうやってするつもりだ?」
「……『実験』だ」
「『実験』……?」
「『進化』とは、簡単に言えば、過酷な状況に対応するために『突然変異』したことをいう……」
昔授業で習った気がする……突然変異して環境に適応できたものが生き残り、子孫を増やしていく、それが『進化』。
「人間を過酷な状況に追い込むことで、突然変異を促すことができる……つまり我の手で、人間を進化させるのだ」
人間を進化させる……
言ってることは凄いけど、それって……
「何日も寝なければどうなるか?ギリギリの痛みを与え続けるとどうなるか?
いろんな病気にかかり続ける、毎日悪夢を見続ける……どういう状況になれば、どのような変化が起こるのか、実験する」
「おい、ふざけるな!そんなことしたら……」
「過酷な状況から突然変異したものを選別し、その者たちを増やしていく……
『進化』とは、『実験』から生むことができるのだ」
こいつ、狂ってる……?
前に暗殺組織ボスのコンドルに似てるって言ったけど……それ以上だ。
「そのための世界を作るというのが、お前の理想か?」
「その通り……
現実世界では、『人体実験』をしようとすると、「非人道的」だの、「倫理に反する」だのと言って誰もが全否定……
人類の未来を築く、素晴らしい所業だというのに、だ」
「じゃあお前は、このギルギルを『人体実験場』にするのが目的か!?」
「そうだ、まずはこの世界の人間を使って実験し、その後現実世界の人間も連れてきて同じ実験をするつもりだ」
「ふざけんなっ!この世界の人間だって、みんな生きているんだ、そんなこと許されるわけないだろう!」
「だから作り直し、『最適化』するのだよ、ギルギルを……
『人体実験』をしても、咎められることのない世界にな」
こいつ……
こいつをこのままにしておいたら、ギルギルだけじゃなく、現実世界まで酷いことになる。
「家畜だって同じではないか……?
自分たちの意思とは関係なく、生まされ、殺され、食される……
家畜たちだって、人間に食されるために生まれてきたわけではないのに。
なのに、それを理解し、感謝して食べているものがいったいどれだけいる?」
確かに、日本だけでも年間の食品廃棄量は、約六百万トン、世界全てなら二十五億トンにのぼる……
食べ物を感謝して食べている人は、きっと十人に一人もいないだろうな……
全員感謝して食べているなら、こんな廃棄量には絶対にならない。
「家畜は食するために殺してよくて、なぜ人間は進化のために殺すのはよくない?人間が生きていくという点では同じだ」
「ギャウギャウ、お前そんなこと考えていたのか、全く気付かなかった」
神魔が、俺の肩に乗ってナマズエに話す。
「まあ、誰かに話せば、間違いなく『狂信者』扱いされるからな。
だがずっと考えていたことだった……このギルギルに召喚されたとき、我は歓喜したよ」
くそっ、なんでこんなやつをギルギルに召喚したんだ……召喚したのは誰なんだよいったい?
「それに、この世界の人間は所詮プログラム……数字の羅列でしかない、そこに感情などはない」
「そんなことはない、この世界の人間だって生きている……
笑ったり、怒ったり、泣いたり、ときには悲しんだり、愛し合う。
みんな生きている、現実世界の人間と何も変わらない!」
「マスター……」
プログラムだろうが何だろうが、メンバーたちも、ギルギルで世話になった人たちも、みんな俺の仲間だ!
サモンロードやドラゴニックキング、コズミッククイーンも、俺の言葉に頷いている。
「貴様はこの世界に思い入れが強いせいで、そう思っているだけだ。
この世界は、神が我に与えた『楽園』……神も我に、神になれと言っているのだ、フフフハハハハ……」
「そんなわけあるかっ!自意識過剰にもほどがあるぜ」
「我は『人間の進化の父』となる……まさに、神に等しき存在。
それを邪魔するものは、全て『凡人』、『凡人』は全て実験材料だ……お前たちも全て、人間の『進化』の糧となれ!」
バアアアアァァァーーンッ!
「キャーーーーッ!」
もの凄い魔力の奔流……
まさに狂人的科学者。ダメだ、何とかしてこいつを倒さないと……
でもどうやって……?
「ナマズエ……醜いな」
「なに!?」
いつの間にか、バグがナマズエの後ろに立っている……
「フリーズ!」
ピタッ!
「な、なんだと……バグ、お前……」
「ナマズエ……お前は転移者だから、人間のときは私のバグ技は通用しなかったが、その体はこの世界のプログラムでできているのであろう?ならば私の『邪道流バグ技』が通用するはずだ」
バグが、ナマズエを止めた……?
「魂はプログラムではないから、喋ることはできるようだな」
「バグ、なぜ我を……?
我はお前に邪道十三人衆を与えた、他にも『作戦』や『知恵』を与えたではないか……我のこの『究極体』の力があれば、やつらを一掃することも容易い」
「言ったはずだ、倒すのが目的ではないと……あくまで世界とギガンティックマスターを『絶望』させることが目的だ」
バグが、恐ろしく冷たい目でナマズエに語りかけている……大声で威嚇するより、よっぽど威圧感がある。
「そ、そうであったな……わかった、お前の意を酌もう、束縛を解いてくれ」
「先ほどの会話で、気になる点があった……」
「気になる点……?」
「お前の目的は、ギルギルを『人体実験場』として『最適化』することだと言っていたな」
「そ、そうだが……?」
「それは私の『初期化』とは相容れぬ」
「な、なぜ!?
お前が新世界の王、我が新世界の神に……それでよいではないか!」
「新世界に『神』は二人必要ない。
私の世界は『最適化』ではなく、『初期化』だ……
今の世界のような、『理不尽』や『不条理』を一掃した、完全なる新しき世界」
バグのやつ、そんな世界を作ろうとしていたのか……
「ふざけるなっ!我がこの日のためにどれだけ準備をしてきたと思っているんだ!お前がやつらとここまで戦えたのも、我の力のおかげ……」
「お前は自分の理想の世界を作るために私を利用した……
私も、自分の理想の世界を作るため、お前を利用した、お互いさまというやつだな」
「……ッ」
ナマズエが絶句してしまった。
天才ゆえに、これ以上何を言っても状況はひっくり返らないと悟ってしまった……
以前俺が言った、『悪は、自分よりも巨大な悪に逆らうことができない』……
悪者の末路ってのは、いつも結局、あっけないものだ。
「お前に利用価値がなくなった……それだけだ」
「バグッ、バグッ……」
ナマズエの必死の抵抗……バグは静かに目を閉じ、その声が届くことはない。
「お前はもう必要ない……消えろ」
「ま、待てーーっ!」
ガカァッ!
一瞬、巨大な光の球が『ナマズエ究極体』を包んだかと思うと、元からそこには何も無かったかのように、ナマズエは消えていた……
「バグ、お前……」
俺たちはみんな、一斉にバグを見つめる。
それは『安堵』の感情だったり、『恐怖』の感情だったり、『悲しさ』だったり……いろんな感情が混ざっていた。
バグはゆっくりとこちらを向き、静かに歩いてきて、俺の前で止まった。
「ギガンティックマスターよ……やはりお前は『絶望』しないのだな」
「しねーよ、例え手足をもがれても、『絶望』なんてしてやらねぇ!」
恐ろしく冷たい目で俺を見ていたバグは、静かに目を閉じる。
「ではお前が絶望するまで、何度でも繰り返すとしよう、この『慟哭』を、この『惨劇』を……」
「何度でも?どういうことだ……?」
「簡単だ、元に戻して、もう一度やり直せばいい……」
「元に戻す?やり直すって……?」
「次はもっとうまくやろう……よりお前と世界を『絶望』で満たすために」
バグは目を閉じたまま、手を掲げ、小さな声で叫ぶ。
「邪道流バグ技……『リセット』」
プツンッ……
☆今回の成果
ミコト アドバンスドアーツ『ブラッディファング』
ヘキサグラム『ダークカタストロフ』
トーコ 『ペイント弾』『カラーボール』
『グラビティフィールド』
真空属性クアトログラム『バキューム』
粘土属性クアトログラム『クレイゾーン』
※次回は3/5 17:00投降予定です。




