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異世界で「あいどる・はーと」作りました。  作者: みっど
第六章 騎士国カイエル編
23/80

第二十三話 不夜城と海賊と魔獣と


 アナタはアイドルを『誰かに託した』ことがありますか? ……俺はある。


 カイエルの四天王大会後、俺達は一日かけてカイエル国の南にある『不夜城』へ向かっていた。


 本当はカイエル城のさらに東にある祠に、四支神の一柱『神楽』がいるはずなので、挨拶がてら行ってもよかったのだが、神魔の時みたいにまた『オレを殺してくれ』なんて言われたら面倒くさいので、今回はスルーで。



「ううぅぅ~もうちょっと時間があれば、勝てたかもしれないのにぃ……」

 ……いつもヘラヘラしているナナが残念そうに、よほど悔しかったんだな。


「まあ仕方ない。あっちのリーダーはほぼ無傷だったしな」

「マスター、本当に申し訳ありませんでした」


「アイカ……気にすることはない、だいたい計画通りだ」

「えっ……負けて船とか手に入らなかったのに?」

「大丈夫大丈夫、ま、万事俺に任せておきなさい!」


 そうそう、あの後俺たちはまたラムじ……じゃなかった、ラーマイン王に呼ばれて、再び謁見した。



 〇回想


「『異世界あいどる・はーと』の諸君、大変惜しかったのぉ、じゃが大会的には大いに盛り上がり、国政としては過去最高の大会となったぞい」


「お褒めにあずかり光栄ですラーマイン王」


「優勝は逃したので賞品などは与えることはできぬが、盛り上げてくれた功績を称え、色々便宜をはかろうと思っておる……とりあえずこの王宮へは、事前の承認なく出入りすることを認めよう」


「ありがとうございます」


「して、格闘家リリよ、大変素晴らしい戦いであった。

 蟷螂拳の達人で千騎士である、蟷螂騎士相手に獅子奮迅の活躍、見事であった」


「……ありがとうございます、王」

 あれ……? リリのやつ、なんか元気がないな。


「以前話した通り、ワシの『双林寺活殺拳』を会得するにふさわしい実力じゃった。どうじゃ、ワシとともに双林寺活殺拳、極めてみるかの?」


「……」

 どうしたんだリリのやつ? 真っ先に二つ返事すると思っていたのに……


「申し訳ありません王様、お断りいたします」

「ええーー」

 思わず俺が叫んでしまった。


「ボクは格闘家でありながら、蟷螂騎士選手との戦いでギブアップをしてしまいました。『格闘家は自分に限界を作るな』と言われていたのに……」


「リリ……」


「自分自身を超えられないボクに、双林寺活殺拳を修行させてもらう資格はありません」


 リリ、そこまで自分を追い込まなくても……

 暫し沈黙が王宮を包む……



「フッ……フォッフォッフォ、合格じゃ」

「えっ?」

「ワシに言われるままに弟子入りしていたら不合格にするつもりじゃった」


「え、でもボクは……」


「『限界を作るな』なんていうやつはワシから言わせればまだまだ……自分の限界を少しでも超えるために、日々精進する者こそが真の達人。

 そのためにはまず自分の限界を知ることこそが第一歩なのじゃ」


 ふむ、そういうものなのか……格闘家って深いなぁ。



「ワシは今まで、限界を超えて体を壊し、二度と戦えなくなったり、死んでしまった者たちをごまんと見てきた」


 ラーマイン王は立ち上がって後ろを向き、過去を回顧しているようだった。


「おぬしは自分の実力をしっかりと見極め、欲望にとらわれず理性で制した……ワシの双林寺活殺拳は、その『理性』が大事なのじゃ」


「理性……」


「『暴走させたチカラを、理性で制す』、これが活殺拳の極意。

 おぬしにはその基礎がすでにある」


「ボクは……信じていいのですか、王の言葉を。

 ボクは……目指していいんですか、双林寺活殺拳の会得を」


「モチロンじゃ、まあギガンティックマスター殿の了承が必要じゃがな」


「マスター……」


「……もちろんオーケーだよリリ。

 ラーマイン王、リリをアナタ様に預けます、よろしくお願いいたします」


「うむ、決まりじゃな」


「わあああー」


 リリは泣きながら喜んでいる……他のメンバー達もリリを応援している。

 リリとしばらく会えなくなるのは寂しいけど、これもリリの為だ。



「実はもう一人弟子がいてのぉ、おぬし達もよく知っている人物じゃ」

 ラーマイン王がそう言うと、後ろから見覚えのある顔が……


「お前、『裏林寺殺人拳の使い手、ジン』か?」

 ラーマイン王の横には、ファルセイン城でリリと死闘を繰り広げたあのジンが立っていた。


「久しぶりだなリリ……あれから私は自分を見つめ直し、ファルセインの騎士団を抜け修行の旅をしていたところ、ラーマイン王に拾われたのだ」


「そうだったのですか、ジンさん……」


「ラーマイン王は私にも『双林寺活殺拳』の素質があると言ってくれた……これからお互い修行に励もうぞ」


「わかりました、お願いしますジンさん」



 *****


「う~ん、成長したリリに会うのが楽しみだなー

 バッキバキのマッチョになってなきゃいいけど……」


「そういうことを言うから、あらぬ噂が立ったりするんですよ、もう」

 アイカはよく「熊みたい」と言われることを根に持っているようだ……



 カイエル四天王戦大会決勝で、散々好感度を下げた俺たち『異世界あいどる・はーと』はめでたく『ヒール』に認定された。


 ちなみに、『英雄』になることでのメリットは

  ①王宮に出入りすることができるようになる

  ②エンカウントがダウン

  ③英雄装備貰える

  ④お店の商品をおまけしてもらえる など


 そして『ヒール』になることのメリットは

  ①ヒール限定の四天王キャラがいる

  ②リザルトのお金が増量

  ③状態異常に少しかかりづらくなる

  ④闇市に出入りできるようになる


 この『闇市』に出入りできるというのが今回のキーポイント!

 カイエル城の南 丁度大陸の南東にある『不夜城』という町に、大陸最大の闇市があるらしい。

「おっ、見えてきたな……あれが『不夜城』か」



「あれれ、マスター誰もいませんけど……本当にここで合っているのですか?」

「ああ、間違いない。ここ『不夜城』は、亜人の『夜の民』が統括している街だからな」


 亜人・夜の民は基本昼間は寝ていて、夜に活動する種族。

 褐色の肌に銀色の瞳を持っているのが特徴で、みんな基本ギャンブル好きで、なぜかちょっとエロい。


「闇市は夜の民が活動する深夜に開催される、みんなはそれまで宿屋で休んでいてくれ。俺はアイカとちょっと野暮用を済ませてくる」

 俺はアイカを連れて、町の外れにある『色神しきがみ』の祠へ向かった。


 【色神しきがみ】……八方神の一柱で、大陸の南東を守護する神。

 その名の通り『色気』を司る女の神であり、色神が魅了の魔法を使用すれば男性なら百人同時、女性でも落とすことができると言われている。

 ……オンライン公式設定資料集より。


 ピンク色した祠の中に入ると、通路には艶めかしい音楽が流れ、ほのかにいい匂いがする……なぜかドキドキしてきた。


 通路の先の扉を開けると、そこには、ピンクの薄手の服を着た、セクシーで少し大きな女神が座って俺達を待っていた。

「あんたが南東を守護する八方神『色神しきがみ』か?」


「そうよ。アタシに会いによくここまで来たわね、ご褒美を上げようかしら」

 ……そう言う色神は俺の眼をじっと見つめ、まるで心を見透かされているような感覚に落ちる。


「え、えっと……俺は、その、アナタに聞きたいことがあって……」

「そうかいそうかい、まあ……イケメンではないけど、強いらしいね、アタシは強い男は好きさ。アタシに尽くせば、この世のものとは思えない快楽を与えてあげるよフフフ」


「いいえ、結構です」

 なぜかアイカがきっぱり断る。


「ほう……気の強い女だね、アタシはそういう女もいけるクチだよ」


「マスター、しっかりして下さい、他の八方神や現実世界の会社の事聞きに来たんですよね?」

「あ、ああ、そうだった、ありがとうアイカ」


「アンタ、ギガンティックマスターってやつかい……話は聞いているよ、あの『ジャッジメントドラゴン』の友人らしいね」

「そ、そうだけど……」

 急に色神の目つきが変わったような気がした。


「アタシはあのジャッジメントドラゴンが嫌いでね……あいつ、現実世界ではこのアタシよりモテやがって……」

 ん……? ジャッジメントドラゴンって、現実世界ではそんなに『イケおじ』なのか?


「あいつと友人のアンタに色々教えるのは気が進まないねぇ……」

「そう言わず……他の八方神のことや現実世界の会社のこととか気になるでしょ?」

「まあ、アタシはここから動けないから、気になるといえば気になるけど……」


 俺はとりあえず、ジャッジメントドラゴンの事や神魔の事を話した。


「なるほど、神魔ちゃんがそんなことになっているとは……ジャッジメントドラゴンも相変わらずか」

 気が進まなそうだったけど、いざ話すと前のめり……ちゃんと気にしているんだな。



「アタシから教えられることはほとんどないけど、とりあえず神魔の他の四支神、全員『支神の呪縛』から解放されているみたいだね」

「え、それって……」

「おそらく何者かが、アンタと同じように『神の名を冠するもの』を殺したんだろう」

「じゃあ俺と同じような奴があと三人いるってことか……」



「ちなみに、アタシの現実世界での職業は『広報』。このゲームの表面上のことは大体理解しているわ」


 ゲーム会社の【広報】……

 新しいゲームが開発されたら、そのゲームタイトルをどのように世に広めていくかを担当する部署。

 マーケティング力、コミュニケーション力、営業力が必要で、ゲームが持っている魅力やポテンシャルをしっかり理解している人物が担当になる。


「現実世界で広報をやっていた人間が、異世界で人を落とす色神になるって……これも『適材適所』っていうのかな?」


「あと、中央島に行くのなら、町長の夜の民『ヨヨ』ってやつに会っていくといい」

「夜の民のヨヨ……」


「そいつは数年前に中央島に航海に行ったと噂で聞いたことがある」

「ホントか! だとしたら凄い貴重な情報だ、ありがとう色神」


「フン、礼などいらん、用が済んだらとっとと戻るがいい」


 *****


 アイカと宿屋へ戻り、夜になるまで一休みしてからみんなで町を探索に。


「わあーー」

 そこは昼間とは全く別の顔をした町に変貌していた。

 ネオンが輝き、陽気な音楽があちこちで鳴っている。

 色んな種族の人間が、片言の言葉で商売をしていて、見たこともないいろんな商品が所狭しと並んでいる……


「こんなにたくさんの人、一体どこにいたんでしょうか……?」

 俺たちは道沿いに並んでいるマーケットと呼ばれる屋台を見ながら町を探索した。


「お、珍しい、『魔力石』が置いてあるぞ」

「魔力石……?」


 【魔力石】……パッと見ただの石ころに見えるが、魔力を込めることで様々な効果を持つ魔法の石。魔導連邦サザバードの特産品。

 ……オンライン公式設定資料集より


「この石に風の魔法を込めれば、風の魔力を宿した『風の魔力石』になるんだ」

「へー、不思議ですね……」

「この石をどうやって使うのかはわからないけど、特産地であるサザバードに行けばわかるかも……今後必要になるかもしれない、いくつか購入しておこう」



 少し先に行くと、テーブルにたくさんのカードを並べているお店が……

「ん、ここはカード類のお店か……」

「あーー、私の『タロットカード』が売られています!」

 横からヴァンパイアのミコトが並んでいるカードを見て叫んだ。


「お前のタロットカードって、普通に売られているタロットカードじゃなかったんだ?」

「はい、私が奴隷になる前から持っていたもので、正式名称は『魔界のタロットカード』といいます」


 ミコトは奴隷になる前の記憶がないらしく、気が付いたらこの魔界のタロットカードを持っていたという。

「奴隷になったときに一度カードは奪われて、そのあとマスターに助けられたときに取り返して貰ったのですが、すでに数枚紛失していまして……」


 その店にあったのは『ストレングス』と『運命の輪ホイールオブフォーチュン』のカードだった。

「二枚しかないけど、ミコトの記憶の手掛かりになるかもしれないし、丁度いいからここで購入しよう」

「ありがとうございますマスター」


「ちなみにあと何のカードが足りないんだ?」

「えっとあとは……『世界』『正義』『愚者』『恋人』『死神』『隠者』『審判』の七枚です」

 なんか聞いたことがあるワードが二つほど出たな……


「まだそんなにあるのか」

「はい……私占いが趣味なんですけど、さすがにこれだけ足りないと占いもできなくて」

 へー占いが趣味なのか、今度占ってもらおう。



「マスター、あの釣り竿って……」

 糸の先に魚がついている釣り竿……見るからに変なアイテムだ。

「ああ、間違いない、あれは『魚座ピスケスのゾディアックビースト』だ」

 こんな貴重なものまで普通に売っているとは……恐るべし闇市。


「どんな能力があるのかわからないけど、購入して自宅で調べてみよう」

「闇市って凄いんですね……大陸中から見たこともないものが集まってるって感じです」

「普通の商店街なんかではまずお目にかかれないものばかり、闇市に来て正解だったようだな」



 現実世界のモノも結構置いてある。


「これ現実世界の『懐中電灯』だな、ひょっとしたら俺が持ってきたものかもしれない」

「マスター、でもこれスイッチを入れてもつきませんよ、壊れたものを売るなんてひどいですね」


「ハハハ、違う違う、これは壊れたんじゃなくて電池が切れただけさ」

「デンチ……?」


 俺はオルタナティブドアを出していったん自宅に戻り、乾電池を持って戻ってきた。

「これを入れれば……ほらついた」

「わ、ホントだ!」


 というかここの連中、懐中電灯の電池の事とか知らないんだな。

 今みたいに電池切れや充電切れの商品を買って、また売れば一儲けできるかも……


 他にも現実世界らしきものがいくつも置いてあった。

「これは安全ヘルメットだな」

「おお? 防弾チョッキまである!」

「これは……おもちゃの剣?」

 子供のころ俺も買ってもらったことがある、刺すとバネの力で剣先が引っ込むおもちゃの剣だ、懐かしい。

「こんなものまで売っているなんて、さすがは『大陸一の闇市』、不夜城だな」


 ちなみにカイエルの通貨は『カイン』と『エル』。

 100エルで1カインとなる……まあ『ドル』と『セント』みたいなものかな。

 ファルセインの通貨『セイン』は、10セインで1カインくらいの価値になっている。



「マスター、マスターの読み通り、『停船権』売っていましたー」

「お、あったか、今行く」


 没落した貴族たちが、最初に処分するのはおそらく娯楽品。

 船や馬車などの贅沢品は真っ先に売りに出すはず。

 船を売ってしまえば、『停船権』も要らなくなる、当然闇市に出回ると踏んだんだが……当たりのようだな。


「マスターあっちには船も売ってますよ。

 一応結構大きめの船なんかもここには売っているようですが……」


「いや、船はいい。実はもう購入してある」


 そう、実は現実世界にて、俺の人生史上、暫定一位の最高額の買い物……それは『クルーザー』。

 高級外車が二台も買えるほどのお値段だった……


 昭和の大スターのトレンドでもあったクルーザーを、この俺が購入する日がこようとは……

 メーカーに頼んで部品別にバラバラにしてもらっていたクルーザーは、すでにこっちの世界に搬入済み。あとは組み立ててカイエルの港に停泊させるだけなんだけど……


 鉄工所勤務の親父に、アーク溶接や焼付塗装の技術も学び、ここにきて俺の組み立て・解体の能力はすでに職人の域に。

 クルーザーも半日もあれば完成するだろう。


 現実世界のクルーザーなら、異世界のどの船よりも頑丈だし、スピードも倍以上でる。もちろんこの日のために現実世界の『船舶免許』も取得済み。



「う~ん、大漁大漁」

 俺達はみんな両手にいっぱいの購入品を抱え、とりあえずいったん宿屋へ戻った。

 そのままオルタナティブドアで現実世界へ行き、購入品を整理する。


「よし、大体の用事は済んだけど、あともう一つ、会っておきたい人がいる」

「夜の民のヨヨですね、マスター」

 そう、アイカの言う通り、夜の民のヨヨに会って中央島へ行った時の話を聞いてみようと思っていた。


 俺はメンバー数名を連れて、また不夜城へ。

 中心街の一番きらびやかな建物へと入っていく。


 その奥には、これまたほとんど『バニーガール』みたいな恰好をした夜の民が、数名のイケメンとともに座っていた。

「いらっしゃい、ギガンティックマスター」

「もう俺を知っているのか、情報通だな」


「カイエル四天王戦大会であれだけ好感度を下げた試合をしたんだ、この町の連中はみんなアンタを知っているよ」

「……それは素直に喜んでいいんだろうか?」

「モチロン、じゃないとこの町には入れないからね」

 確かに……


 その時、取り巻きのイケメンの一人が、こっちに向かって歩いてきた。

「クンクン……クンクン」

「?」

 イケメンはオウカの前で匂いをかいでいる……?

「な、なんでしょうか?」


「……オレの嫌いな匂いがする」

「えっ、そんな、ちゃんとお風呂入ってきましたよ私」

 メンバーの中で一番の綺麗好きなオウカが、泣きそうな顔で答えている。


 俺はイケメンの手を掴んでオウカから少し離し、睨みつけた。

「うちのメンバーに失礼なことを言うのはやめてもらおうか」

 イケメンも俺を睨みつけてきた。


「やめなレイザ!」

 ヨヨにそう言われ、俺の腕を振りほどき、ヨヨのもとに戻るイケメン……レイザって名前なのか。

「うちのレイザが失礼したね……あとでキツク言っておくから勘弁してくれ」


「わかった、それよりもアンタに聞きたいことがあって来た」

「なんだい? お詫びに何でも教えてあげるよ」


「昔、中央島へ航海したことがあったそうだな、その時の話を聞きたい」

「あ~、確かに四年前、仲間とともに中央島へ行ったことがある」


 俺たちは用意された椅子に座り、ヨヨの話を聞く。


「あの時は町のトレジャーハンターとギャンブルをしてねぇ、アタシのほうがこっぴどく負けちまったのさ」

 やっぱりギャンブルからか……本当に好きなんだな。


「掛け金を払えなかったアタシは、金の代わりにこの体を差し出すって言ったら、俺たちの冒険についてこいって言ってねぇ」

「ギャンブルに体や命を賭けるなよ……」

 俺は呆れて言葉を失う……


「そのままそいつらと中央島まで宝探しに行ったってわけさ」


「で、中央島には行けたのか?」

「あの頃は今と違って海に魔獣はいなかったから、中央島の近くまでは順調に行くことができたわ。だいたい……二日間くらいだったねぇ」


「ふむふむ、それで?」

「でも中央島の周りにはなぜかたくさんの大渦があって、全く近づけなかったわ。

 でも業を煮やしたトレジャーハンター達がそのまま突っ込んで、船はバラバラに……」


「よく生きて帰れたなアンタ」


「気が付いたらアタシは砂浜に打ち上げられていた……中央島の砂浜にね」

「マジか⁉ アンタ中央島に上陸できたんだな」


「アタシの後ろにはフードを被った老人のような人が立っていて……どうやらその老人がアタシを助けてくれたみたいだった」

「老人……?」


「その老人が言っていたわ、『この島は絶えず隆起している、おぬしがこの砂浜にこれたのは奇跡に近い』って」

 隆起……? 今でも島が大きくなっているってことか?


「それからその老人は不思議なドアを出現させたわ」

 そう言ってヨヨは持っていたグラスのお酒をグイっと飲みほした。


「生きて戻りたくば、目をつぶってこのドアをくぐれ」

「そういわれて、アタシがそのドアを通ると、その先は『不夜城』だった……あの老人とはそれっきり、不思議な体験だったわ」

 間違いなくそのドアは『オルタナティブドア』だ……その老人ってのは転移者ってことか。


「本当に不思議だな……そもそもその老人はどうやって中央島に上陸したんだ?」

「わからない……今もその老人がいるかどうかもね」


 問題は二つ……島の周りの大渦と、隆起だな。


 *****


 次の日、半日かけてクルーザーを完成させた俺は、メンバーを乗せて試運転することに。


「よーし野郎ども、出航だーーーー!」


「マスター、今この船には野郎はマスター一人だけですよ」


「こういうのはノリが大事なんだよ」


 先日購入した停船権の港から、クルーザーを発進! よーし順調順調。

 バランスよし、スピードよし、操縦桿も計器類も問題ない。


「よーし、このクルーザーに乗っているときは俺のことは『キャプテン』と呼ぶように」


「マスター、前方より未確認の船を発見しましたー!」

「だからキャプテンって呼べって言ってるだろ……双眼鏡を貸してくれ、どれどれ……」


 俺達のクルーザーの前方より、木製のボロッちい船が近づいてくるのが見える。

 黒い旗にドクロのマーク、これは……!

「海賊船だーー!」


 このクルーザーなら、あんなボロッちい海賊船なんか簡単に振り切ることができるけど、ここはあえて海賊たちに捕まってみようと思う。


 海賊船はこのクルーザーに横付けをして、梯子をかけて乗船してきた。


「ひーーはーーー、このオレ達に捕まるとは運がなかったな!

 命が惜しかったら金目の物を置いてとっとと海に飛び込みな!」


 ……これが異世界の海賊か、ちょっとイメージよりひ弱そうだな。

 アナライズしてみよう……

「名前ポッチョ」「男性」「レベル4」「基本属性 炎」

「HP35」「MP15」「腕力20」「脚力10」「防御力15」「機動力15」「魔力10」「癒力5」「運40」「視力2.0」


 弱っ! 一般人レベルじゃん……よく今まで無事だったな。


「なんだ貴様そのオレ達を見下した態度は……命はいらねぇようだな!」


「……ふむふむ、なるほど、お前たち元漁師なのか」


「なっ?」


「……ふむふむ、今まではこうして脅かせばだいたい言うことを聞いてくれたから、特に問題はなかったと……」


「な、なんだお前?」


「なーんだ、なんちゃって海賊か」


「なんちゃってって言うな!」


「ところでお前たち、俺たちがあの『カイエル四天王戦大会』で、宮廷五獣士たちと決勝を戦った、『異世界あいどる・はーと』だって知ってて襲ってきたんだろうな?」


「えっ? ……えーっと、マジで?」


「マジで」



 俺たちは海賊たちをとっ捕まえて、縄でぐるぐる巻きにしてやった。


「さてと、どうして元漁師たちが海賊なんかやってるのか聞かせてもらおうか」


「フン! だーれがお前なんかに話すか! 殺せ殺せ!」


「まいったな……」


「マスター、戦闘がないのなら、もうメタモルフォーゼかけた方がいいですか?」

 海賊と戦闘になると思って、人魚のアオイやケンタウロスのモモは、メタモルフォーゼを解除していた。


「マ、マーメイド様!」

 突然海賊たちが物凄い驚いた顔で叫びだす。


「ああー、こんなところで伝説のマーメイド様にお会いできるとは……」

 マーメイド様? ……人魚のアオイもわからないらしい。


「マーメイド様とはいったいなんでしょう?」

 アオイが海賊たちに聞いてみる。


「マーメイド様とは、船乗りならば一度は会ってみたいと思う、伝説や神話に登場する海の守り神のこと。マーメイド様に会った者は、その後の航海の安全と大漁を約束されたようなものなのです」


「アオイ、そんなスゲー奴だったのか」

「いえいえ、私はそんな……たぶん大昔にそのようなことがあり、伝説として語り継がれているのでしょう……私とは関係ありません」


 でもあの海賊たちの眼……完全にハートになっていて、まるで魅了の魔法にかかっているようだ。

 そうだ、俺じゃだめでも、アオイなら……

 俺はアオイにコソコソ耳打ちをした。


「コホン……みなさん、どうして元漁師のアナタたちが海賊なんてやっているのか、教えてくれませんか?」


「よろこんで!」

 海賊たちのこの変わりよう……


 海賊たちの話はこうだ……最近現れた海の魔獣のせいで、魔物たちも活性化し、全く魚が釣れなくなってしまった。

 カイエルの王政にも相談したが、いつどこに現れるかわからない海の魔獣に、全く対応できていないらしい。


「……それで食べるものにも困り、生活のためやむなく海賊を?」


「へい」


「それにしても、何の罪もない人たちを脅して金品を奪うというのは……」


「いえマーメイド様、おいらたちは今まで一人としてケガさせたことはねぇし、まして殺したこともねぇ。金品も強欲と噂の貴族からしか奪ってねぇです」


「う~ん、まあひっ迫していたってこともあるし、情状酌量の余地はあるかもなー」


「でも、このまま解放というわけには……」

 アオイの言うとおりだ、このままじゃまた海賊行為を繰り返すだろう。


「とりあえずカイエル城に戻って王政に相談だな、お前たち、縄をほどいてやる」

 海賊たちの縄をほどいた、アオイがいれば暴れる者もいないだろう。


「俺のクルーザーにお前たちの船を繋いで、そのまま連行する、お前たちは自分の船でおとなしくしていろ、いいな」

「ああ? 誰がてめーの言うことなんか……」

「アオイ」

「みなさん、マスターの言うとおりにしてください」

「はい! 喜んで!」



 その時、急に波が高くなり、クルーザーが激しく揺れだした。

 見張りのランが大声で叫ぶ!

「マスター! 四時の方向から何か巨大なモノが迫ってきています!」


 俺も四時の方角を見る……もう肉眼で確認できる、十メートルはあろうかという巨体、あれはモンスターだ!

「う、海の魔獣だー! なんでこんな大陸の近くに?」

 海賊たちも慌てている、確かに海の魔獣の目撃はもっと離れた海域だったはず……


「ピュイィィィィ!」

ドカーーン!

「うわぁ!」

 海の魔獣がでかい触手でクルーザーを掴んできたー!


「おそらくこの場所にたくさんの魔力が集まっていたので、つられてこの海域まで移動してきたのでしょう」

 アオイが説明してくれた……それって俺たちをエサとして見てるってこと?


 海の魔獣はそのままクルーザーを揺らした!

「うわああー」

 ドボン!

 俺を含め、数名のメンバーが海に落とされた。

「マスター!」

「くっ、俺は大丈夫だ、他のメンバーを救助してくれ!」


 海中から海のモンスターを確認……

「やっぱり、海のお約束モンスター、『クラーケン』か!」


 【クラーケン】……ノルウェーに伝わる伝説の海の怪物。

 その姿は巨大なタコともイカとも言われ、人間の船を襲い、船ごと海中に引きずり込む。

 いろんなゲームで登場し、代表的な海のボスモンスターとしてその地位を確立している。


 人魚のアオイが俺の横まで泳いできた、手話で会話できる。

「マスター、海の中での戦闘なら私に任せてください」

「マジか、あいつ相当強そうだぞ?」



 アオイVSクラーケン


 クラーケンが様子見で、俺とアオイの周りをグルグル回っている。

「あの巨体でなんてスピードだ!」


「ピュイーー!」

 クラーケンの前に魔法陣が展開、『水』『水』『水』

「水属性ハイアナグラム『アクアウォール』だ!」


「くっ、

 水の精霊に我が願い届け給え その青き壁 通り抜ける事能わず 大いなる水圧よ 敵を圧し潰せ

 水属性ハイアナグラム『アクアウォール』!」


 クラーケンとアオイのアクアウォールが衝突!

 ズズーン!

「きゃああー!」

 クラーケンとアオイの両方にダメージ!

 あの野郎、海中で威力が上がっているアオイと同等の威力のハイアナグラムを……


 クラーケンはそのままアオイに突撃してきた!

 クラーケンの十本足での連続攻撃!

 ドカッドカッドカッ!

「くぅっ」

 アオイは対打撃結界で何とか凌ぐ。

 こいつ、魔法だけじゃなくて物理もいけるのか。



 クラーケンの前に魔法陣が展開、『水』『水』『水』『水』

「Σ§ΠДЖфΔΞ~¥&%$ ピィィィーーー!」


 なっ……四重星の魔法陣? こいつクアトログラムまで使えるのか?

 まずい! これは水のクアトログラム『オーシャンウェイブ』だ!

 ドバババババーーー!

 海中の水が物凄いうねりをともなって、アオイに襲い掛かってくる!

「アオイーーーー!」


 もう駄目だと思ったその時、一隻の船がアオイの盾になるように割り込んできた!

「野郎ども! マーメイド様をお守りしろー!」

「おおーーーーー!!」

 ドカーーーン!


「!!」

 船はクラーケンのオーシャンウェイブをまともに食らってバラバラに破壊された。

 海賊のやつら……アオイのために自ら盾に?

 でも、次食らったらもう終わりだ。



「ピュイーーーー」

「キャアーーー!」

 クラーケンはスミを吐き、アオイの視界を奪った!

「大丈夫かアオイーーー」

 くっ、こいつアオイの視界を奪って、確実に仕留める気か……意外に頭脳派だな。



 俺は念話でアオイに話しかける。

「アオイ危ない、お前は下がれ」

「大丈夫です、目が見えなくても海が教えてくれます」


 アオイのやつ、こんな状況なのに落ち着いている……目が見えなくなったことで集中力が飛躍的に向上しているのか?

「海は私たちの味方です、海を守るため、アナタには決して負けません!

 アドバンスドアーツ『なぎ』!」

 パアアーーー……


 なんだ、海中が急に静かになった?

 あれ? アオイの体が透けて見える……? いや、海と一体になっているのか?



 クラーケンの前に魔法陣が展開、『水』『水』『水』『水』

「Σ§ΠДЖфΔΞ~¥&%$ ピィィィーーー!」


 やばい! クラーケンのオーシャンウェイブが来る!


「『対魔力結界』展開!」

 アオイが巨大な対魔力結界を展開した!


 キュウゥゥーーーーン!


 ええー⁉ クラーケンのオーシャンウェイブが、アオイの結界に吸収されていく……

 吸収したオーシャンウェイブに、自分の魔力を上乗せしている……これは⁉


「海で暴れ、海を汚すアナタに、海は怒っています……私も『激おこぷんぷん丸』ですっ!!」

 えっ、ここでまさかのギャル語?


 アオイの前に魔法陣が展開、『水』『水』『水』『風』

「海神よ 我に力を貸し給え 深淵をのぞくとき 深淵もまたこちらを見ている 水流よ 全てを飲み込む穴となれ 大渦属性クアトログラム、『メイルシュトロム』」!」


 オーシャンウェイブの魔力を上乗せしたクアトログラム……これは⁉

 俺は海中にいるメンバー達に手話で知らせた。

「まずい! 巻き込まれる、みんな下がれ!」


 クラーケンを中心に巨大な大渦が発生、抵抗などできるはずもなく、クラーケンは大渦に巻き込まれていった……

「ギュピピピイイィィィーー……」



 さすがのクラーケンも動けず沈黙……アオイの勝利だ!

「やったーーーー!」



 ☆今回の成果

  アオイ 『メイルシュトロム』習得


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