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10冊目/村上春樹『風の歌を聴け』

村上春樹の小説を最初に読んだ時、すらすらと読めることに驚いた。彼の書くジャンルが純文学なので文章や、物語のテーマに関して硬派なイメージがあったのだがそうではなかったのだ。また私は、彼の読者に対しては好きな音楽バンドを推すような熱を感じていた。ハルキストと自称するファンは、彼の名前を利用して自分が特別だと言っているように思えたし、あまり本を読まなさそうな人が彼の名前をあげる時は、その言葉の裏に浅い思惑があるように見えた。でもこれは、広く名前が知られる人がもつ有名税のようなもので、そういう現象なのかなと思っている。好きなものがあることが、自分のステータスになるというのもわかる。


 そんな印象を抱いていたのだが、作品をいくつか読む度に自分がいかに偏ったモノの見方をしていたかを知り、恥じた。村上春樹の描く世界は、魅力的で夢心地であり、文字通り浸かってしまう。文学や世界観が美しく、個性的な登場人物たち。お話作りが唸るほど上手くて、何度も手にとってしまう面白さがそこにはあった。


 久しぶりに再読しようかなと思い、今日は『風の歌を聴け』を手に取った。


『風の歌を聴け』は、村上春樹のデビュー作である。1970年、生まれ育った街に帰省した大学時代のひと夏の思い出を、青春期の終わりに振り返るという筋立て。ページ数が少ないので、短編映画を観るような心地で読めるのが、非常に良い。


 時間軸においてはこの時代特有の内容もあるが、空間軸においては舞台がアメリカだと言われても違和感がない。デビュー作から村上ワールド全開で、作中で繰り返し言及されるデレク・ハートフィールドという作家が存在しないことに驚いた。あとがきで著者がハートフィールドのお墓参りに行ったというのは、つまり嘘である。

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