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1冊目/辻村深月『冷たい校舎の時は止まる(上)』

 私が生まれて初めて辻村深月先生の作品に触れたのは、高校三年の夏休みだった。受験勉強のために開館時間に合わせて図書館に出かけ、昼ごはんを食べ、勉強を再開する。息抜きをしようと、館内の小説を物色して回ったことを覚えている。


 著者順に並んだ棚で、目についたタイトルのひとつが辻村深月先生作『スロウハイツの神様』だった。人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ――という秀逸なあらすじを見て心臓を鷲掴みにされ、勉強を後回しにして読み耽った。私は図書館のある地区の住民ではなかったので本の貸し出しが出来ず、続きを読むために連日図書館に通った。


 私の生涯の中でも、ベスト10に入るような感動を、私はこの夏休みに何度も味わうことになる。小説家になりたい、と思い始めたのもこの頃からだ。


 あの日のあの選択がなければ、私は今ここに同じような形で生きていることはなかったかもしれない。まったく違った観点から物を見て、まったく違ったやり方で今日まで生きてきたかもしれない。そういう意味で、辻村深月先生は私の神様だ。



 だから私が立てた三年計画の記念すべき1冊目には、辻村深月先生のデビュー作である『冷たい校舎の時は止まる(上)』を選んだ。まだ物語の半分しか読んでいないのに、極上の料理を食べたような満足感がある。8人の生徒が校舎の中に閉じ込められて、文化祭に自殺した人は誰なのかを探るミステリーなのだが、彼らの空気感がとても心地よい。閉鎖空間と聞くと、人間の醜さや殺伐とした雰囲気を想像してしまうが、本作の登場人物たちは一人ひとりが温かく優しい。真相を忘れたままでいいからずっと一緒にいてほしいと思うくらいに彼らは魅力的で、できた人たちである。けれど、その幸せがいつ壊れるわからない状況は、読んでいて歯がゆさが付き纏う。愛する人が実は死んでいるという前提は、私に全力で幸せに浸ることを許してくれないのだ。夢に浸るほど真実を知ったときの衝撃が重たくなる、諸刃の剣に似ている。混乱する彼らより、冷静でいなければならないのは私たち読者なのかもしれない。


 私は読むのが遅いため、今日はずっと小説を読んでいた。600ページほど読んだのに、まだ物語の中盤。すぐに下巻に着手するつもりだが、長い物語の結末がどうか優しいものでありますように。


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