4.
さて、万能薬を作るといっても、そんなことがただの令嬢にできるのか、という疑問があると思う。
しかし、それができるのである。
べつに、たった今、万能薬を作ろうと決意したわけではない。
私が学生時代に、ある課題の宿題として提出したものが、学者や研究者の目に留まった。
それから私は、その分野での基礎研究のようなことをしている。
ような、というのは、あくまでも私は、ただのお手伝いみたいなものだからだ。
私に求められているのは、発想力だ。
その後の計算や実験などは、学者や研究者に任せている。
しかし、私のその発想力が、彼らからは求められているのだ。
そして実は、万能薬の開発は、既に目前に迫っている。
この前行った実験で、私の理論が実証された。
何度実験をしても、同じ結果になったので、どうやら確からしいということになった。
この結果をもとに、万能薬の開発は、最終段階に入った。
おそらく、もうすぐ完成するはずだ。
そして私は、ただナターシャに万能薬を飲ませるわけではない。
復讐には、手順がある。
目的は、彼女を世間から非難される存在にすることだ。
そうすれば、私は何の非難も受けることなく、屋敷から彼女を追い出すことができる。
そのために、私は屋敷で、あるものを探していた。
「あれ……、どこにいったのかしら? この辺にあるはずだと思ったのに……」
目的のものが、なかなか見つからない。
確か前に、この倉庫に仕舞ったはずなのに……。
あ、これって……、私が学生時代の写真だわ。
わぁ、なんて若いの……、今だったらこんなポーズ、恥ずかしくて取れないわぁ……。
あ、これは……、幼い頃、一番大事にしていたお人形だわ。
こんなところにあったのねぇ。
あぁ、懐かしいわねぇ……。
……いけないわ、思わず、目的を忘れてしまっていた。
私は今、倉庫で捜し物をしていたのだった。
うーん、どこにあるんだろう……。
この辺りにあるはずなんだけれど……。
私は、箱の中に仕舞っている物を全部出していった。
そして……。
「見つけたわ! やっぱりここにあった!」
私は目的のものを見つけた。
これが、私の復讐には必要なのである。
「あぁ……、探すことに夢中で、そのあとのことを考えていなかったわ……」
倉庫内は、散らかり放題だった。
これを今から片付けなければならないと思うと、気が遠くなりそうだった……。
*
(※ナターシャ視点)
私はアーノルドと共に、町に出かけていた。
私はほとんど動くことができないので、アーノルドが車椅子を押してくれている。
今日は森林公園に行って、そこで景色を眺めながら、サンドイッチを食べるつもりだった。
私の体を気遣って、彼はあまり遠くに行きたがらないけど、今回のデートでは、たまには遠くへ行きたいと私から申し出た。
アーノルドはレイチェルと婚約破棄したので、これで私たちは堂々とデートできる。
そのことが、私は嬉しかった。
しかし、一つだけ気になることがあった。
今日はなんだか、周りからの視線を感じる。
車椅子で目立つから、というわけではなさそうだ。
周りの人たちは、私を見ると、何かひそひそと話していた。
微かに聞こえた声は、「あの車椅子に座っている子が、ティベール家のお嬢さんが言っていた子よね……」というものだった。
ティベール家のお嬢さんとは、レイチェルのことである。
彼女が、私のことを何か言っていたの?
いったい、何を言っていたのかしら……。